意地悪王子様に逆襲を

吉川一巳

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12 殿下の真実

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「どういう、事ですか……?」
 私から身を離し、乱れた服を直すアーサー様に、私は呆然としたまま質問した。
「どうって、そのままの意味だけど?」
 にっこりと笑うアーサー様はとても上機嫌だ。
「昔からエヴァンジェリン殿の名前を出すと、メルはとても可愛い顔をするからね。必死に隠そうとはしてたけど」
「可愛い顔!?」
「嫉妬して怒った顔。そのエメラルドのような緑の瞳がどろどろとして、凄く可愛かったよ」
 そんな顔が可愛い訳がない。一体何を言い出すのだ、アーサー様は。
「エヴァンジェリン殿の名を出していたぶるのは面白かったんだけど、いつか爆発して、とんでもない事を仕出かされたら困ると思ってね。君の周りには、念のため私の息のかかった人間を配置しておいたんだ」
「ノエリアも……ロイド先生も……?」
「後は君の友人のサラ嬢もだね」
「まさか、マイアも……?」
「マイア嬢は違うよ。彼女はとても親友思いで真っ直ぐな女性だからね。私がどうこうする必要性がそもそもない。行動も予測しやすいしね」
 囁きに愕然とした。殿下のお言葉の全てを信じてもいいのか、私には判断が付かない。
「元々メルは活発だったからね、流石に追い詰めすぎて刺されたりしたらたまらないなと思って、ノエリアを通じて君を監視してたんだけど。睡眠薬で何かしようとしてたから、ここは一応様子見かなと思って。あ、一応薬はすり替えておいたよ。王族に薬を盛るなんて、露見したらさすがに庇いきれないからね」
「な……な……」
 つまり、殿下は初めから寝た振りをなさっていて、私の痴女行為をあえて好きにさせていたと……!
「信じられません!」
 私は思わずぺちん、と殿下の頬を張っていた。
 ああっ、やってしまった。腹が立ったとはいえ、王族に手を上げるなんて。
「あえて叩かせてあげたけど気は済んだ? ああ、全然痛くなかったから気にしなくていいよ。子猫に引っ掛かれたようなものだ」
 アーサー様の言い草に、私は怒りでぶるぶると震えた。
「幻滅した? これがの本性なんだけど」
 今、アーサー様、俺って言った?!
「スクールに行くと悪い言葉も覚えるよ。上流階級アッパー・クラスの子弟ばかりとはいえ、色んな奴がいるから」
 そう言って、アーサー様はふわりと笑った。
「俺はメルが好きだよ。婚約者に選んだのは、扱いやすそうだったからだけど、ずっと一緒に過ごすうちに、メルの事が好きになっていった」
「うそ……」
「嘘じゃない。俺は好きでもない女の子に毎週会う時間を取ったりしない。贈り物だって、わざわざ自分で選んだりしない」
 アーサー様は私の耳元で甘く囁いてきた。
 毎週のお菓子にお花、一対になるよう贈られたドレス、そして、ガラスペン。
 今まで頂いたものの数々が頭の中に浮かぶ。
 ガラスペンは、私が粉々に砕いてしまったけど……
「今までの積み重ねがあるから、信じられないのもわかるよ。ごめん。俺の気持ちに全く気付かないメルで遊ぶのが楽しすぎて、正直やりすぎた」
 そう言ってアーサー様は頭を下げた。
「いけません、将来王になる者が、軽々しく頭を下げては……」
「じゃあ、許してくれる?」
「許す許さないの前に、どうして今、そんな種明かしのような事を……?」
「もうすぐ結婚だからね。そろそろ本当の俺を見せて、受け入れて貰ってもいい頃かなって。純潔も奪った事だし、もうメルは俺から逃げられないよ」
 アーサー様の青い瞳に、どこか昏い光が宿っている。口元は笑っているのに目は笑っていない。
 そして、逃がさないぞとばかりに私の手をぎゅっと握った。
 ぞくぞくした。

 弄ばれていた事は許せない、と思うのに。
「嬉しい、です」
 好きだと言ってくれた。私のことを。
 どこか病んだようなこの眼差しも、素敵。
「生涯私だけだと誓ってくださいますか? ならば許して差し上げます」
「誓うよ。メルだけだ」
「エヴァンジェリン様のこともお抱きにならない?」
「彼女が女官に上がるのは事実だけど、それは契約したからだ」
「契約?」
「彼女の本来の希望は修道院に入り、亡くなられた前ノーランド侯爵のために祈ることなんだ。でも未亡人となって戻ることになった実家、ハーシェス伯爵家が裕福だったのは五年前まで。今の内実は火の車でね。ご当主が投資に失敗したそうだ。このまま伯爵家にいたら、どこぞの金持ちに後妻として売られるって話だったから、俺から契約を持ちかけた」
「それは、どのような……」
「未亡人を一旦王宮にあげるのは王家の慣例で覆せない。だから、その役目を引き受けてもらう代わりに、聖クララ修道院への手引きをする、っていう契約だ。元々、俺は彼女を抱くつもりなんてなかった」
 聖クララ修道院は、王都の北の端にある女子修道院で、暴力や意にそまぬ結婚を強いられた女性を受け入れる、最後の砦と言われている場所だ。
 その分戒律も厳しいが、駆け込んだ女性を必ず守ってくれると言われている。
「それならば、教えてくだされば良かったのに」
「教えたらつまらないじゃないか」
 絶句――である。

 なんて酷い方なんだろう。
(アーサー様にとっての私は……)
 おもちゃ、なんだわ。

 アーサー様の手が、私の頬に添えられた。
「俺の事なんて嫌いになった?」
 尋ねられ、私が出した答えは――

「いいえ」

 答えると同時に、アーサー様の整った顔が私に近付いてきて――
 唇が、重なった。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

ななし
2022.06.15 ななし

おもちゃは飽きられたら捨てられちゃうね申し訳ないけどとてもじゃないけど好きになれない相手役でした
好きだって言葉も口だけって感じで
愛情も感じられないし捨てられる未来しか想像出来ないお話は初めてかも(笑)

2022.06.15 吉川一巳

このお話のヒーローはサイコパス野郎なので好き嫌いがわかれるお話になると思います。

ご意見ありがとうございます。

解除
にゃあん
2021.03.14 にゃあん

それくらい強かでないと、人の上に立つ事は出来ないのでしょうが、手のひらの上で踊らされた感じですね。
その後の2人がとても気になります。少しだけ覗いてみたいです。
読ませていただきありがとうございました😊

2021.03.15 吉川一巳

こちらこそお読み頂きありがとうございました。
ちょっと今ムーンライトノベルズという別投稿サイトの方でコンテスト用の作品を執筆しているので、時間が取れないのですが、そちらが落ち着いたら、男性視点や殿下と繋がっていた女友達のサラのお話を追加するやもしれません。

感想を書いていただきありがとうございました。

解除

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