【R18】氷の悪女の契約結婚~愛さない宣言されましたが、すぐに出て行って差し上げますのでご安心下さい

吉川一巳

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初めての夜 01 ※

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『上書き、してください……』

 そう言われた瞬間、アリスティードのなけなしの理性は飛んだ。
 好意を持っている女性に誘われたのだ。体は疲れ果てていたが、そんな事どうでも良くなる。

「本当にいいんですか?」

 アリスティードの質問に、ネージュは小さく頷いた。

「……ベッドに行きましょうか」

 ためらいながらも誘うと、素直に付いてくる。

「あの、明かりは消して頂けますか……? あまり綺麗な体ではないので……」

 そうだった。彼女の体には傷痕がある。
 それも含めて全て見たいという気持ちと、彼女の意見を尊重しなければと思う気持ちがせめぎ合う。

「わかりました」

 承諾したのは、ネージュには抗えないからだ。
 酷い態度を取った負い目が、いや、それだけではなく、彼女が欲しくて仕方ないから、アリスティードは犬のように従順に従うしかない。

 室内を照らす明かりへと向かうと、背後から衣擦れの音が聞こえてきた。

 アリスティードは緊張しながらランプを消した。
 女性を抱くのは初めてではないのに、その時よりもずっと心臓の鼓動がうるさいのは、心の底から自分のものにしたいと思った女性に触れるのが初めてだからに違いない。

 室内は暗くなったが、カーテン越しに月明かりが差し込んでくるので、真の暗闇ではない。
 自身も着衣を剥ぎ取りながらベッドに向かうと、ほんのわずかな光に照らされて、ネージュの白い裸身が見えた。

 銀色の髪が微かな月明かりに煌めき、白い体にまとわりついている姿は艶めかしく美しい。
 恥ずかしいのか両腕で隠されている胸元からは、豊かな谷間が見えている。

 アリスティードはベッドに上がり込み、ネージュに近付くと、胸を隠す手のうちの左手に触れ、やんわりと引き離すとその指先に口付けた。

 恭しく、騎士の誓いのように。
 すると、ネージュの体がわずかに弛緩するのが伝わってくる。

 彼女の左手の薬指には、結婚式で交換した指輪がはまっていた。
 そこにもアリスティードは唇を落とした。

「こんな事、俺からお願いできた立場ではないんですが……」

 アリスティードは前置きをしてからねだる。

「結婚式の時の、誓いの口付けをやり直しても構いませんか……?」
「……はい」

 少し間はあったが承諾してくれたので、アリスティードは安堵した。
 そして改めてネージュに向き直り、ゆっくりと顔を近付ける。

 初めて重なった唇は、甘く柔らかかった。

 誓いの口付けのやり直しだから触れるだけにとどめ、アリスティードは一旦身を離す。

 そして、もう一度。
 今度は舌を、薄く開いた唇の間から侵入させた。

 ネージュの体がピクリと反応する。だが、抵抗は無い。
 受け入れてくれた事に安堵し、アリスティードはより深くネージュの唇を貪る。

 そして、彼女の体にゆっくりと体重をかけ、丁寧にベッドに横たえた。

「あの……」

 唇を解放すると、ネージュは小さく囁いてきた。

「私、信じてもらえるかはわからないんですが、初めてで……」
「何となくそうかと思ってました。できるだけ優しくします」

 悪女という先入観を排除して観察していれば、貞淑な女性だということはわかる。
 疑っていた訳では無いが、彼女自身から、初めてだと教えてくれたのは嬉しかった。

「隠さないで下さい」

 そう告げるながら胸を覆う手に触れると、ネージュは一切の抵抗なくアリスティードに従った。
 白く豊かな膨らみがまろび出る。
 あらわになったネージュの体は、触れるのが憚られるほどに綺麗だった。

 夜目にも微かな傷痕が腹部にあるのが許せない。
 しかしその一方で、それさえも魅力的に見えて、アリスティードは自分がおかしくなったのかと思った。

「痕が見えますよね……思ったより明るいから……」

 ネージュは不安そうにつぶやくと、腹部の傷痕を隠そうとした。

「見えるけど、綺麗です」
「えっ……」
「この傷を付けた奴の事は許せないし、痛々しいとも思いますけど、だからといってネージュの価値が下がるとは俺は思っていません。この傷痕も含めて綺麗だと思います」

 アリスティードはそれが嘘ではないと示すため、腹部の傷痕に触れながら口付けを落とした。
 すると、ネージュの手がアリスティードの髪に触れた。

 驚いて顔を上げると謝られた。

「ごめんなさい、嬉しくて、つい……」
「嫌だった訳じゃないです。ネージュからも俺に触れて頂けませんか?」

 アリスティードはネージュの手を取ると、自分の頬に持っていった。

 おず、と躊躇いがちに、ネージュの手が頬から首へと回される。
 アリスティードは再びネージュの唇にキスを落とした。

 今度は、唇だけでなく、頬に、首に、順に口付けを落としていく。

 そして、指の形がくっきりと残っていたと記憶している左の腕へ。

「他にあの男に触れられたのはどこですか?」

「後ろから抱かれて、首に唇が……それが気持ち悪くて……」

 その発言を聞いた瞬間、カッと頭に血が昇った。



   ◆ ◆ ◆



「上書きします」

 そう囁いたかと思ったら、アリスティードはネージュの体を反転させ、背後から強く抱き締めてきた。
 かと思うと、彼は髪を掻き分け、うなじに指先を滑らせる。

「この辺りですか?」
「はい」

 頷くと口付けられた。
 ちゅ、という微かな音が聞こえてくる。

 やっぱり不思議だ。ナゼールと違ってアリスティードなら全然嫌ではない。
 むしろ、一回り以上大きな体にすっぽりと包み込まれると安心する。

「んっ……」

 お腹に回されていた手が胸に触れ、ネージュは小さく呻いた。

「あの、そこは触られては……」
「そうですか。それは良かった」

 戸惑うネージュをよそに、アリスティードは胸の膨らみへの愛撫を始めた。

「っ……」

 いただきを指が掠める度に、体が反応するのが恥ずかしい。

 やがて、不埒な片手が、胸からお腹へ、更に下腹部へと下りてきた。

 そして、誰にも見せた事のない場所に到達する。

「……濡れてますね」

 小さな囁きにかあっと頭に血が昇った。
 淫らな女なのだと指摘された気がする。

「あっ……!」

 だけどそんな羞恥はすぐに吹き飛んだ。
 指先が敏感な場所を掠め、頭が真っ白になったせいだ。

 背後でアリスティードが楽しげに笑んだ気配がした。
 かと思うと、指でそこを押し込んでくる。

 性器の外側に、胸の頂以上に敏感な部分があるなんて知らなかった。

「あの、恥ずかしいです……」
「しっかり慣らさないと痛むと思います」

 アリスティードは一旦身を離すと、ネージュを仰向けにして膝の裏に手を入れ、足を広げるように促してきた。

 初めては痛いと聞く。彼と体を重ねると決めた以上、そこをさらけ出す必要があるのもわかる。だけど凄く恥ずかしい。

 ネージュはたまりかねて顔を手で覆い隠した。

「変じゃないですか……?」
「綺麗です」

 アリスティードは囁くと、あろうことか、そこに顔を埋めてきたのでネージュは悲鳴を上げた。

「やっ! ひゃん!」

 指で暴かれた弱点に唇が落ちたかと思ったら、舌で嬲られ、ネージュは身を捩った。

「ダメです! そんな所、汚い……」

 不浄の場所を舐めるなんて信じられなくて、ネージュはアリスティードに抗議する。

「汚くないです。綺麗です」

 囁くと、アリスティードは指で襞をかき分け、性器の入り口をなぞった。

「今から少しずつ広げていきます。痛かったら教えて下さい」

 前置きをしてから、つぷ……と指が差し入れられた。

(あ……)

 挿入はいって、きた。

 アリスティードの指が。
 自分でも触れた事の無い場所に。

 痛みはなかったが異物感があった。
 何より、そこでアリスティードと繋がるのかと思ったらドキドキする。

「大丈夫ですか?」
「はい」

 頷くと、緩やかな抜き差しが始まった。
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