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視察 03
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五人目の襲撃者が完全に沈黙したのを確認したアリスティードは、他に襲撃者がいないか、また、全員を撃退できたのかを確認する事にした。
倒れたまま動かないネージュの様子も気になるが、安全確保の方が先決だ。共倒れが一番恐ろしい。
アリスティードは、馬車の中にあったランタンに火を灯すと、襲撃者一人一人を確認していった。
結果的に、ネージュが撃った男だけまだ息があったので、銃でとどめを刺す。
放っておいても死にそうだったが、彼女に男の死を背負わせたくないと思ったのだ。
悪い噂のある人物だがネージュは女性だ。アリスティードの中の、騎士道精神のようなものが働いた。
残念ながら、御者と馬は既に事切れていた。
心の中で詫びながら、アリスティードは馬車に戻る。
そして、床にランタンを置いてネージュに近付いた。
明かりに照らし出された彼女の腹部を見て、アリスティードは息を呑んだ。
彼女のそこは、真っ赤に染まっていた。
「ネージュ、大丈夫か? ネージュ!」
アリスティードはネージュの頬に触れると呼びかけた。
だが、彼女の双眸は硬く閉ざされており、応答もなかった。
(――あの時か)
アリスティードを守ろうと男に飛びかかった時、銃弾が当たったのかもしれない。
まずは傷口を確認しなければ。
(クソッ……)
アリスティードは覚悟を決めて、懐から短剣を取り出すとネージュのドレスを切り裂いた。
女性の衣装は構造が複雑だ。
ドレスの下のコルセットに阻まれ、アリスティードは非常時だからと自分に言い訳しながら前紐を短剣で切った。
まろび出た白い膨らみに思わず目を逸ら――そうとしてできなかった。
腹部に古傷と思われる細い筋状の傷痕が何本もあったせいだ。
(これは……)
アリスティードは傷痕に意識を奪われ、つい食い入るように見てしまう。
だが、すぐにそれどころではないと我に返り、鮮血の源へと視線を移した。
(傷は左脇腹)
アリスティードは患部にポケットチーフを当てると、圧迫止血を試みた。その時である。
「ア……ティード、さま……」
声が聞こえた。
アリスティードはネージュの顔に視線を移す。
その表情は痛みのせいか苦しげだった。
ネージュは、視線をアリスティードの手元に移動させ、大きく目を見開いた。
「やっ……、っ、!」
胸が丸出しになっているのが恥ずかしかったのだろうか。
ネージュは身動ぎしようとし、顔を歪めた。
「……っ、すまない。傷口を確認しようと思って」
アリスティードは右手で彼女の脇腹を圧迫しながら、手近にあったブランケットをネージュの体にかけてやった。
そして、寒さへの配慮も欠けていた自分を恥じる。
「ごらんに、なりましたよね……?」
「だからそれは治療の為で! やましい気持ちはこれっぽっちも……」
「そちらではなくて、傷痕です……」
「…………」
アリスティードは黙り込んだ。
そして、間を開けてから恐る恐る尋ねる。
「それをやったのはマルセルか?」
「違います!」
強い語調でネージュは否定した。
しかしそれが傷に障ったのか、彼女は盛大に顔を顰める。
「ダニエルさまです……わたしは、あの方から折檻を……」
アリスティードはその告白に大き目を見開いた。
「昔の話です……。それよりも、アリスティードさま、お怪我は……?」
「こちらはかすり傷だ。あんたの方がずっと酷い」
答えると、彼女はふっと微笑んだ。
「良かった……」
「良くない。なんで俺を守ろうとしたんだ……」
「マルセルさまのお血筋だからです」
ネージュの答えにアリスティードは目を丸くする。
「どうか、はやく町へ……」
囁くように告げると、ネージュはそのまま眠るように意識を失った。
倒れたまま動かないネージュの様子も気になるが、安全確保の方が先決だ。共倒れが一番恐ろしい。
アリスティードは、馬車の中にあったランタンに火を灯すと、襲撃者一人一人を確認していった。
結果的に、ネージュが撃った男だけまだ息があったので、銃でとどめを刺す。
放っておいても死にそうだったが、彼女に男の死を背負わせたくないと思ったのだ。
悪い噂のある人物だがネージュは女性だ。アリスティードの中の、騎士道精神のようなものが働いた。
残念ながら、御者と馬は既に事切れていた。
心の中で詫びながら、アリスティードは馬車に戻る。
そして、床にランタンを置いてネージュに近付いた。
明かりに照らし出された彼女の腹部を見て、アリスティードは息を呑んだ。
彼女のそこは、真っ赤に染まっていた。
「ネージュ、大丈夫か? ネージュ!」
アリスティードはネージュの頬に触れると呼びかけた。
だが、彼女の双眸は硬く閉ざされており、応答もなかった。
(――あの時か)
アリスティードを守ろうと男に飛びかかった時、銃弾が当たったのかもしれない。
まずは傷口を確認しなければ。
(クソッ……)
アリスティードは覚悟を決めて、懐から短剣を取り出すとネージュのドレスを切り裂いた。
女性の衣装は構造が複雑だ。
ドレスの下のコルセットに阻まれ、アリスティードは非常時だからと自分に言い訳しながら前紐を短剣で切った。
まろび出た白い膨らみに思わず目を逸ら――そうとしてできなかった。
腹部に古傷と思われる細い筋状の傷痕が何本もあったせいだ。
(これは……)
アリスティードは傷痕に意識を奪われ、つい食い入るように見てしまう。
だが、すぐにそれどころではないと我に返り、鮮血の源へと視線を移した。
(傷は左脇腹)
アリスティードは患部にポケットチーフを当てると、圧迫止血を試みた。その時である。
「ア……ティード、さま……」
声が聞こえた。
アリスティードはネージュの顔に視線を移す。
その表情は痛みのせいか苦しげだった。
ネージュは、視線をアリスティードの手元に移動させ、大きく目を見開いた。
「やっ……、っ、!」
胸が丸出しになっているのが恥ずかしかったのだろうか。
ネージュは身動ぎしようとし、顔を歪めた。
「……っ、すまない。傷口を確認しようと思って」
アリスティードは右手で彼女の脇腹を圧迫しながら、手近にあったブランケットをネージュの体にかけてやった。
そして、寒さへの配慮も欠けていた自分を恥じる。
「ごらんに、なりましたよね……?」
「だからそれは治療の為で! やましい気持ちはこれっぽっちも……」
「そちらではなくて、傷痕です……」
「…………」
アリスティードは黙り込んだ。
そして、間を開けてから恐る恐る尋ねる。
「それをやったのはマルセルか?」
「違います!」
強い語調でネージュは否定した。
しかしそれが傷に障ったのか、彼女は盛大に顔を顰める。
「ダニエルさまです……わたしは、あの方から折檻を……」
アリスティードはその告白に大き目を見開いた。
「昔の話です……。それよりも、アリスティードさま、お怪我は……?」
「こちらはかすり傷だ。あんたの方がずっと酷い」
答えると、彼女はふっと微笑んだ。
「良かった……」
「良くない。なんで俺を守ろうとしたんだ……」
「マルセルさまのお血筋だからです」
ネージュの答えにアリスティードは目を丸くする。
「どうか、はやく町へ……」
囁くように告げると、ネージュはそのまま眠るように意識を失った。
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