【R18】氷の悪女の契約結婚~愛さない宣言されましたが、すぐに出て行って差し上げますのでご安心下さい

吉川一巳

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視察 03

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 五人目の襲撃者が完全に沈黙したのを確認したアリスティードは、他に襲撃者がいないか、また、全員を撃退できたのかを確認する事にした。

 倒れたまま動かないネージュの様子も気になるが、安全確保の方が先決だ。共倒れが一番恐ろしい。

 アリスティードは、馬車の中にあったランタンに火を灯すと、襲撃者一人一人を確認していった。

 結果的に、ネージュが撃った男だけまだ息があったので、銃でとどめを刺す。

 放っておいても死にそうだったが、彼女に男の死を背負わせたくないと思ったのだ。
 悪い噂のある人物だがネージュは女性だ。アリスティードの中の、騎士道精神のようなものが働いた。

 残念ながら、御者と馬は既に事切れていた。
 心の中で詫びながら、アリスティードは馬車に戻る。
 そして、床にランタンを置いてネージュに近付いた。

 明かりに照らし出された彼女の腹部を見て、アリスティードは息を呑んだ。
 彼女のそこは、真っ赤に染まっていた。

「ネージュ、大丈夫か? ネージュ!」

 アリスティードはネージュの頬に触れると呼びかけた。
 だが、彼女の双眸は硬く閉ざされており、応答もなかった。

(――あの時か)

 アリスティードを守ろうと男に飛びかかった時、銃弾が当たったのかもしれない。

 まずは傷口を確認しなければ。

(クソッ……)

 アリスティードは覚悟を決めて、懐から短剣を取り出すとネージュのドレスを切り裂いた。



 女性の衣装は構造が複雑だ。
 ドレスの下のコルセットに阻まれ、アリスティードは非常時だからと自分に言い訳しながら前紐を短剣で切った。

 まろび出た白い膨らみに思わず目を逸ら――そうとしてできなかった。
 腹部に古傷と思われる細い筋状の傷痕が何本もあったせいだ。

(これは……)

 アリスティードは傷痕に意識を奪われ、つい食い入るように見てしまう。
 だが、すぐにそれどころではないと我に返り、鮮血の源へと視線を移した。

(傷は左脇腹)

 アリスティードは患部にポケットチーフを当てると、圧迫止血を試みた。その時である。

「ア……ティード、さま……」

 声が聞こえた。
 アリスティードはネージュの顔に視線を移す。
 その表情は痛みのせいか苦しげだった。

 ネージュは、視線をアリスティードの手元に移動させ、大きく目を見開いた。

「やっ……、っ、!」

 胸が丸出しになっているのが恥ずかしかったのだろうか。
 ネージュは身動ぎしようとし、顔を歪めた。

「……っ、すまない。傷口を確認しようと思って」

 アリスティードは右手で彼女の脇腹を圧迫しながら、手近にあったブランケットをネージュの体にかけてやった。
 そして、寒さへの配慮も欠けていた自分を恥じる。

「ごらんに、なりましたよね……?」

「だからそれは治療の為で! やましい気持ちはこれっぽっちも……」

「そちらではなくて、傷痕です……」

「…………」

 アリスティードは黙り込んだ。
 そして、間を開けてから恐る恐る尋ねる。

「それをやったのはマルセルか?」
「違います!」

 強い語調でネージュは否定した。
 しかしそれが傷に障ったのか、彼女は盛大に顔を顰める。

「ダニエルさまです……わたしは、あの方から折檻を……」

 アリスティードはその告白に大き目を見開いた。

「昔の話です……。それよりも、アリスティードさま、お怪我は……?」

「こちらはかすり傷だ。あんたの方がずっと酷い」

 答えると、彼女はふっと微笑んだ。

「良かった……」

「良くない。なんで俺を守ろうとしたんだ……」

「マルセルさまのお血筋だからです」

 ネージュの答えにアリスティードは目を丸くする。

「どうか、はやく町へ……」

 囁くように告げると、ネージュはそのまま眠るように意識を失った。
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