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23.エピローグ 2 ※

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 夫婦の寝室は、実は邸を改装して、新たに作ってもらっていたりする。
 リディア様が使ってた場所は嫌だろうっていうネイト様の配慮だ。肉体関係の無かった契約結婚だったって言うし、そんなに気を使わなくても、って思うんだけど、式がリディア様とのものよりも質素になってしまったから、ここだけはどうしても譲れないとネイト様に押し切られてしまった。

 真新しい寝室は、私の意見を取り入れてくれて、白とベージュをベースに、ウォルナット製のダークブラウンの家具を入れてもらい、落ち着いた雰囲気にしてもらった。
 そこかしこに私が作った刺繍の作品を飾ってくれてて嬉しくなる。

 今までチェルシー様が入れていたネイト様の持ち物への刺繍、今日からは私が担当するんだって思うと、急に夫婦になったんだという実感が湧いてきた。

 寝室には、二つのドアが付いていて、それぞれネイト様と私の私室に繋がっている。
 喧嘩したり、月のものの時とかは、自分のお部屋で眠れるようにもなっているのだ。



 結婚式は、花嫁は夕方前には引き上げて、初夜の為の準備をする。
 私付きになった侍女達に、これでもかと言うほどに磨き上げられて、着せられたのはスケスケのネグリジェみたいな夜着だった。
 前にリボンが付いていて、それを解くだけで簡単に肌蹴てしまう構造になってるんだけど、これを用意したのは一体誰なんだろう。
 ネイト様だったらムッツリ確定だ。そうだったとしても好きだけど。

 六月、意図したわけではないけど、ジューンブライドになったんだなぁと妙な感慨を覚えてしまう。
 日本だと梅雨の時期で顰蹙ものの六月の結婚式だけど、ヨーロッパに似て、涼しく乾燥した気候のこちらではこのくらいの時期は結婚式のシーズンだ。
 特にこの辺境伯領は北にあるから、真夏でも朝晩はたまに暖炉が必要なくらい冷え込む事がある。
 だから、私は夜着の上にガウンを羽織って、ベッドに潜り込んで緊張しながらネイト様を待っていた。

 この辺りの風習では、結婚式では新郎は親戚からひたすらお酒を飲まされる。
 寒い地域って体を温めるために蒸留酒を飲むから、先天的にアルコールに強い人が多い。
 だけど、べろんべろんに酔っ払って酔い潰れて初夜が台無し、なんて話も聞くから、ちょっと心配だ。

 待機の間の暇つぶしに本を持ち込んだけど、緊張して頭に全然入ってこない。
 既に経験済みなんだけど、初夜だって思うとやっぱり特別だから、さっきから心臓の鼓動が煩くて仕方なかった。



 がたりとネイト様側の部屋の方から音がした。
 びくりと身を竦ませつつそちらを見ると、寝室に入ってくるネイト様の姿があった。

 ネイト様は真っ直ぐベッドの方にやって来た。
「かなり待ったよね? 眠くない?」
 優しく囁かれると、石鹸に混じってアルコールの匂いがした。
 ネイト様の頬はいつもより赤く染まっている。
「ネイト様こそ大丈夫ですか? 酔ってますよね?」
「平気。元々強い方だし、飲む振りでやり過ごしたりもしたから」
 ネイト様がベッドの中に入ってきた。
「あの、明かりを……」
「付けっぱなしじゃ駄目? 久々だし、もう一度ちゃんとレスリーを見たい」
「恥ずかしいから駄目です」
 初体験は昼間で、既に全部見られてしまっているんだけど、それとこれとは別だ。
 私はネイト様を無視して、ベッドサイドのランプを消した。
 ランプの燃料はランプ用に開発された植物性のオイルだ。つまみを捻れば消えるようになっている。

「しょうがないなぁ。まあ、これはこれでエロいからいいけど」
 暗闇になった室内には窓から月の光が差し込んでくる。お互いの表情も輪郭も結構見えて、今からするのだ、と考えると、淫靡な雰囲気が出てきた。
 ネイト様が覆いかぶさってきて、唇が重ねられた。

 やっぱりお酒の匂いがする。でも、嫌いじゃない。
 私はネイト様の口付けに身を委ね、こちらからも舌を絡ませて答えた。
 くちゅくちゅという水音に紛れ、するりと胸元のリボンが解かれた気配がした。
 胸が空気にさらされ、ひんやりとした冷気が肌を撫でたかと思ったら、暖かい熱に包まれた。
 ネイト様の手の平だ。優しく揉まれて、口腔内を貪られて、私の気持ちは少しずつ高まってきた。
 唇が解放される。お互いの唾液が糸を引くのがいやらしい。
 ネイト様はふわりと嬉しそうに微笑むと、唇を私の耳たぶへと移動させた。
 優しく食まれ、くすぐったくて私は首をすくめる。

「そこ、駄目です。くすぐったい」
「そうなの?」
「やっ、喋んないで!」
 吐息がかかると肌が粟立った。

「ごめん、じゃあ次はこっち」
 鳥肌に気付いたのか、ネイト様の唇が首筋に移動した。首から鎖骨へ、そして胸元へ。
 赤いキスマークを残しながらどんどん顔が下りてくる。

 それと同時に、胸を弄る手も悪戯なものになっていった。
「あの、ネイト様」
「何?」
「今日も魔法って、使うんでしょうか……?」
「ああ、こないだ使った治癒と感度を上げる魔法? 痛んだり、あまり気持ちよくなれそうに無かったら使うつもりだったけど、どうして? 嫌?」
「あ、えっと……それだけなら、いいんです」
「それだけって?」
「う……」
「この可愛い頭で何を考えてるのかな? 教えて?」
 言いよどむと、ネイト様はいい笑顔で私の頭を撫でてきた。
 言いにくいけど、確認はしておかなくっちゃ。
 ゲームで主人公の皇太子が女の子を弄ぶ為に使ってたエロ魔法、あんなの使われちゃ体がいくつあっても足りないもの。
「あの……魔法で触手植物を操ったり、体を液状化させたり、いやらしい事をするスライムを作ったり、です……」
 思い切って言うと、ネイト様は呆気に取られた後、真顔になった。
「レスリー、そんな変な知識、どこで手に入れたの?」
 前世のエロゲですとはとても言えない。
「あの……魔法が使えるって聞いたから、そういう魔法もあるかもなって思いついて……」
「へえ、レスリーって思ったよりいやらしい女の子だったんだ。生憎、俺の魔力はそんなに強くないから、使えるのは初級の治癒と探知系、肉体操作系の魔法だけなんだ」
「そ、そうなんですか?」
 よかった。しかしネイト様は安心する私に、いい笑顔で告げてくる。
「でもね、お望みとあらば、そういう魔道具があるから取り寄せてあげるね」
「い、いりません! 結構です!」
「遠慮しなくていいんだよ。今日のところは魔道具はないから、俺の使える魔法でレスリーを思いっきり気持ちよくしてあげようね」
 気になるあまり、余計な事を言ってしまった。
「や、やです! 魔法なしで、きょ、今日はネイト様を魔法なしで感じたいです!」
 感度を上げる魔法、あれは駄目だ。断固阻止しなければ。
 必死に訴えるとネイト様はすっと目を細めたかと思うと、獰猛な笑みを浮かべた。
「今日のところはそういう事にしておいてあげる。初夜だからね。さあ、続きをしようか。魔法なんて無くても気持ちよくなってもらえるよう頑張るからね」
 とても嫌な予感がする言い方に、私は身を震わせた。
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