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17.変化
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レスリーの態度に変化が訪れたのは、リディア嬢が帰った後、気分転換に領都へ行かないかと誘ってみた後だった。
母上が、教会あての荷物を色々と押し付けてきたのは、馬車で行け、と暗に言いたかったんだろうが、俺は無理矢理愛馬のプリシラに荷物を積み込んで、レスリーと二人乗りで行く事にした。
従者のアレンには生温い目で見られたが、レスリー成分が不足しているんだから仕方がない。
奴の協力もあって、俺は母上の目を盗んで、レスリーを二人乗りで連れ出すことに成功した。
運動能力に不安のあるレスリーは前だ。これは決して俺に下心があるからでは無い。前の方が乗り心地がいいし、安定するからだ。
手綱を握ってレスリーに密着すると、ふわりと甘い花のような匂いがした。
「どうしたの? ガチガチになってるけど、もしかして怖い?」
馬の背の高さのせいか、固まっているレスリーに声をかけてみる。
「違います! ネイト様が近いから!」
返ってきた答えに俺は目を見張った。
「もしかして俺の事意識してる? 可愛いなぁ。心配しなくても、俺にとってレスリーは妹だよ。やましい気持ちなんて無いから安心して」
今は、まだ。
リディア嬢と婚約を交わしたばかりの今、この気持ちを彼女に悟られる訳にはいかない。
だけど、自分で自分の発言に傷付いた。
雑談をしながら移動し、教会の前でレスリーとは一旦別れた。
本当は野暮用が終わってからは、マーケットでも案内しようと思っていたのだが、母上の横槍が入った以上、ここを訪れるしか無かった。
俺の野暮用は、領都を治める代官との面会だ。
最近不景気なせいか、食い詰めた流れ者が町の近くにある炭鉱に、職を求めてやってくるため、町の治安が悪くなっている。
そこで、私設兵団から人を出して貰えないかとの依頼があり、その調整の為に訪れたのだ。
近年の製鉄業の発展と共に炭鉱の需要は伸びている。綿織物が入ってきた時、うちが致命的な打撃を負わなかったのは、実はこの炭鉱の力が大きかったので、コークス製鉄の発明者様々である。
しかし炭鉱の労働は、実入りはいいが危険も多いため、常に人手不足だ。
だから流れ者でも歓迎はされるのだが、それで町の治安が極度に悪化しては本末転倒である。
元々、父上と内容を詰めていたので、話し合いはそう時間をかける事なく終わった。
「そう言えば若様、セルンフォード伯爵家のご令嬢と婚約されたとか。おめでとうございます」
帰り際、代官に祝福され、複雑な気持ちになりながらも、俺はレスリーを待たせている教会へと向かった。
教会併設の孤児院で、子供達に囲まれるレスリーは天使だった。
女の子達に人形扱いされたらしく、細い三つ編みをさらに大きな三つ編みにした、すごい髪型になっていたけど。
レスリーの白金色の髪は、絹糸のように綺麗だからな。子供達が触りたくなる気持ちはわかる。俺もチャンスがあれば触りたい。
なお、帰り際、その機会は意外に早く訪れたので、子供達はいい仕事をしてくれたと言わざるを得ない。
三つ編みの型がついて、細かいウェーブになったレスリーも可愛かった。
レスリーは女の子と、俺は男の子と遊んで、そろそろ教会を出て帰ろうとしたその時、余所者らしいごろつきに絡まれた。
エルドリッジ辺境伯家の城下町とも言える領都で、俺の顔を知らないなんて間違いなく余所者だ。
手も服も炭で真っ黒に汚れているところを見ると、恐らくは炭鉱夫だ。
それにしてもまだ日が高いのに既に酔っているとは。念の為につけていた影の護衛が飛び出してこようとしていたが、俺はそれを制して自分でごろつきを制圧した。レスリーを邪な目で見られて頭に来たのだ。
騎士のはしくれとして、ただのごろつき相手に遅れを取るなんてありえない。
しかし、レスリーの前でいい格好をしようとしたのがいけなかったのか、その日を境にレスリーの態度はよそよそしくなった。
馬の二人乗りにかこつけて密着したのが良くなかったのだろうか。それとも、ごろつきを制圧した姿に引かれた? やはり自分でどうにかしようとするんじゃなく、影に任せるべきだったかもしれない。
「そんなにうだうだしてたらキノコが生えますよ。ちょっと気分転換に外でも行ってきたらどうですか? 執務の邪魔です」
アレンは従者のくせに容赦ない。
こいつはうちの家令の息子で、いずれその後を継がせる予定の男だから、仕事はできるのだが、もう少し主人に対する思いやりがあってもいいと思う。
しかし、部屋にこもっているとどうしても鬱々してくるので、俺は勧めに従って散歩に行く事にした。
執務室から玄関口に向かう廊下の途中で、向かいから歩いてくる、白金髪に俺は目を細めた。
こんな髪色の人間は館にはレスリーしかいない。
裁縫箱を持っているから、今から母上のところに向かうのだろう。
「あ……ネイト様。お仕事中では?」
「うん。そうなんだけど集中出来なくてね。ちょっと外の空気でも吸いに行こうかと」
「そうなんですか。いつもお疲れ様です。休憩したらまたお仕事頑張ってくださいね」
ぺこりと素っ気なく一礼すると、レスリーはすれ違って去っていった。
やっぱり今日もよそよそしい。
俺は振り返ると、レスリーの後ろ姿を見つめる。
しかし、廊下の曲がり角を曲がる直前、レスリーがこちらを振り返った。
(ん……?)
俺がレスリーを見ていたのに気付くと、驚きの表情を浮かべ、ささっと曲がり角の向こうに行ってしまう。
(今の……)
それは、最初に疑問を抱いた瞬間だった。
その日から、俺はレスリーの様子を、より注意深く観察するようになった。
俺はすぐに気付いた。
一見すると素っ気なく見えて、その実、俺に対して何やら物言いたげな視線を向けていることに。
そして、目が合ってしまうと、その途端にぱっとそらされる。
「…………」
これはまさか、もしかして……。
その疑惑が確信に変わったのは、季節が移り変わり、冬、再びリディア嬢がこちらを訪れた時だった。
俺とリディア嬢が二人揃っているのを見つめるレスリーの眼差しに、切ないものが混じっているのに俺は気付いた。
レスリーは、やはり、俺の事を――
憎からず想ってくれている。
その事に気付いた時、俺の心に湧き上がってきたのは、昏い愉悦だった。
兄としか思われてないんじゃないか。
そう思っていた、好きな女の子から、恋愛感情を含んだ視線を向けられて、舞い上がらない男はいないと思う。
綺麗で可愛いレスリー。俺の唯一。
もっともっと、彼女の視線を俺に向けたい。
自分の中にこんなに薄汚い独占欲があるとは思わなかった。
特に俺とリディア嬢の結婚式で、切なそうな、寂しそうな視線を押し隠し、必死に祝福しようとする姿は脳裏に焼き付いている。
そしてその結婚を機に、父が辺境伯を退いた為、俺は家督を譲り受け、新たな当主となった。
馬狂いの父上は、虎視眈々と引退の機会を伺っていたし、何年も前からそう宣言されていたので代替わりの手続きはスムーズに終わったと思う。
式のためにリディア嬢がこちらに来た日から、両親とレスリーは、館と同じ敷地内にある別邸へと移り住んだ。
流石に新婚で部屋をわける訳にはいかない。
俺とリディア嬢に用意されたのは、主寝室の両側にお互いの私室へのドアがついた夫婦の寝室だった。
初夜の夜、入浴を終え、主寝室に向かうとベッドでリディア嬢が本を読んで待っていた。
しかし身につけている夜着は、どう見ても普段使いのもので、新婚の妻らしい色気はない。
「あら、おいでになりましたの。来られないかもとも思ったんですが」
俺に気付くとリディア嬢は本から顔を上げた。
「一応確認しておこうと思って。初夜は必要? その、未経験の状態じゃ、皇太子殿下の所には行けないだろ?」
かと言って、抱けと言われても困るのだが。
リディア嬢には悪いが、破瓜が必要なら適当な男か性具を宛てがう事になる。
「結構です。私は既に生娘ではございませんので」
リディア嬢の発言に、俺は大きく目を見開いた。
想い人がいた、ということなのだろうか。
「それとも夫婦になった以上義務を果たせと仰られますか?」
「いや、俺はレスリー以外を抱くつもりは無い」
好戦的になったリディア嬢の眼差しに、俺はぶんぶんと首を振った。
「腹が立ちますわね。両想いじゃないですか、あなた達」
「えっ?」
「レスリー嬢の顔を見ればわかります。ネイト様もお気付きなのでは? その上で優越感に浸っていらっしゃる。嫌な人。いつか彼女にバレて嫌われてしまえばいいんだわ」
なんて察しのいい人なんだろう。
「共に眠るつもりがないならお帰りください。こちらの侍女は事情を承知しておりますのでご安心を。少なくとも私の方から初夜が無かったことは露見しませんわ」
リディア嬢についているのは、リディア嬢が実家から連れてきた腹心の侍女達だ。
「俺の従者も事情は承知している。それでは失礼するよ、リディア嬢」
「リディアとお呼びください。契約とはいえあなたの妻になったのですから」
「そうだね。気を付けるよ。お休み、リディア」
呼び捨てにすると、リディアは満足気に頷いた。
俺達は相談の結果、一週間後から少しずつ距離を取っていくことにした。
周りには不仲だと思わせておかないと、母上達から距離が取れないとリディアが主張したからである。
また、不仲説が使用人経由で別邸に伝わったようで、レスリーから向けられる気遣わしげな視線が快感だった。
直接の接触は妻帯した以上出来なくなった分、レスリーの眼差しは俺の心を慰めてくれた。
リディアが事を起こすのは冬、年越しの王宮の夜会の前後と決まった。それ以外の時期に、辺境伯が領地を離れる事は滅多にないからだ。
全てが終わり、リディアとの婚姻関係を清算するまで、俺はまともにレスリーに会えない事になる。
一刻も早く冬が来てくれ、と思いながら、俺はその日が来るのをひたすら待ち続けた。
母上が、教会あての荷物を色々と押し付けてきたのは、馬車で行け、と暗に言いたかったんだろうが、俺は無理矢理愛馬のプリシラに荷物を積み込んで、レスリーと二人乗りで行く事にした。
従者のアレンには生温い目で見られたが、レスリー成分が不足しているんだから仕方がない。
奴の協力もあって、俺は母上の目を盗んで、レスリーを二人乗りで連れ出すことに成功した。
運動能力に不安のあるレスリーは前だ。これは決して俺に下心があるからでは無い。前の方が乗り心地がいいし、安定するからだ。
手綱を握ってレスリーに密着すると、ふわりと甘い花のような匂いがした。
「どうしたの? ガチガチになってるけど、もしかして怖い?」
馬の背の高さのせいか、固まっているレスリーに声をかけてみる。
「違います! ネイト様が近いから!」
返ってきた答えに俺は目を見張った。
「もしかして俺の事意識してる? 可愛いなぁ。心配しなくても、俺にとってレスリーは妹だよ。やましい気持ちなんて無いから安心して」
今は、まだ。
リディア嬢と婚約を交わしたばかりの今、この気持ちを彼女に悟られる訳にはいかない。
だけど、自分で自分の発言に傷付いた。
雑談をしながら移動し、教会の前でレスリーとは一旦別れた。
本当は野暮用が終わってからは、マーケットでも案内しようと思っていたのだが、母上の横槍が入った以上、ここを訪れるしか無かった。
俺の野暮用は、領都を治める代官との面会だ。
最近不景気なせいか、食い詰めた流れ者が町の近くにある炭鉱に、職を求めてやってくるため、町の治安が悪くなっている。
そこで、私設兵団から人を出して貰えないかとの依頼があり、その調整の為に訪れたのだ。
近年の製鉄業の発展と共に炭鉱の需要は伸びている。綿織物が入ってきた時、うちが致命的な打撃を負わなかったのは、実はこの炭鉱の力が大きかったので、コークス製鉄の発明者様々である。
しかし炭鉱の労働は、実入りはいいが危険も多いため、常に人手不足だ。
だから流れ者でも歓迎はされるのだが、それで町の治安が極度に悪化しては本末転倒である。
元々、父上と内容を詰めていたので、話し合いはそう時間をかける事なく終わった。
「そう言えば若様、セルンフォード伯爵家のご令嬢と婚約されたとか。おめでとうございます」
帰り際、代官に祝福され、複雑な気持ちになりながらも、俺はレスリーを待たせている教会へと向かった。
教会併設の孤児院で、子供達に囲まれるレスリーは天使だった。
女の子達に人形扱いされたらしく、細い三つ編みをさらに大きな三つ編みにした、すごい髪型になっていたけど。
レスリーの白金色の髪は、絹糸のように綺麗だからな。子供達が触りたくなる気持ちはわかる。俺もチャンスがあれば触りたい。
なお、帰り際、その機会は意外に早く訪れたので、子供達はいい仕事をしてくれたと言わざるを得ない。
三つ編みの型がついて、細かいウェーブになったレスリーも可愛かった。
レスリーは女の子と、俺は男の子と遊んで、そろそろ教会を出て帰ろうとしたその時、余所者らしいごろつきに絡まれた。
エルドリッジ辺境伯家の城下町とも言える領都で、俺の顔を知らないなんて間違いなく余所者だ。
手も服も炭で真っ黒に汚れているところを見ると、恐らくは炭鉱夫だ。
それにしてもまだ日が高いのに既に酔っているとは。念の為につけていた影の護衛が飛び出してこようとしていたが、俺はそれを制して自分でごろつきを制圧した。レスリーを邪な目で見られて頭に来たのだ。
騎士のはしくれとして、ただのごろつき相手に遅れを取るなんてありえない。
しかし、レスリーの前でいい格好をしようとしたのがいけなかったのか、その日を境にレスリーの態度はよそよそしくなった。
馬の二人乗りにかこつけて密着したのが良くなかったのだろうか。それとも、ごろつきを制圧した姿に引かれた? やはり自分でどうにかしようとするんじゃなく、影に任せるべきだったかもしれない。
「そんなにうだうだしてたらキノコが生えますよ。ちょっと気分転換に外でも行ってきたらどうですか? 執務の邪魔です」
アレンは従者のくせに容赦ない。
こいつはうちの家令の息子で、いずれその後を継がせる予定の男だから、仕事はできるのだが、もう少し主人に対する思いやりがあってもいいと思う。
しかし、部屋にこもっているとどうしても鬱々してくるので、俺は勧めに従って散歩に行く事にした。
執務室から玄関口に向かう廊下の途中で、向かいから歩いてくる、白金髪に俺は目を細めた。
こんな髪色の人間は館にはレスリーしかいない。
裁縫箱を持っているから、今から母上のところに向かうのだろう。
「あ……ネイト様。お仕事中では?」
「うん。そうなんだけど集中出来なくてね。ちょっと外の空気でも吸いに行こうかと」
「そうなんですか。いつもお疲れ様です。休憩したらまたお仕事頑張ってくださいね」
ぺこりと素っ気なく一礼すると、レスリーはすれ違って去っていった。
やっぱり今日もよそよそしい。
俺は振り返ると、レスリーの後ろ姿を見つめる。
しかし、廊下の曲がり角を曲がる直前、レスリーがこちらを振り返った。
(ん……?)
俺がレスリーを見ていたのに気付くと、驚きの表情を浮かべ、ささっと曲がり角の向こうに行ってしまう。
(今の……)
それは、最初に疑問を抱いた瞬間だった。
その日から、俺はレスリーの様子を、より注意深く観察するようになった。
俺はすぐに気付いた。
一見すると素っ気なく見えて、その実、俺に対して何やら物言いたげな視線を向けていることに。
そして、目が合ってしまうと、その途端にぱっとそらされる。
「…………」
これはまさか、もしかして……。
その疑惑が確信に変わったのは、季節が移り変わり、冬、再びリディア嬢がこちらを訪れた時だった。
俺とリディア嬢が二人揃っているのを見つめるレスリーの眼差しに、切ないものが混じっているのに俺は気付いた。
レスリーは、やはり、俺の事を――
憎からず想ってくれている。
その事に気付いた時、俺の心に湧き上がってきたのは、昏い愉悦だった。
兄としか思われてないんじゃないか。
そう思っていた、好きな女の子から、恋愛感情を含んだ視線を向けられて、舞い上がらない男はいないと思う。
綺麗で可愛いレスリー。俺の唯一。
もっともっと、彼女の視線を俺に向けたい。
自分の中にこんなに薄汚い独占欲があるとは思わなかった。
特に俺とリディア嬢の結婚式で、切なそうな、寂しそうな視線を押し隠し、必死に祝福しようとする姿は脳裏に焼き付いている。
そしてその結婚を機に、父が辺境伯を退いた為、俺は家督を譲り受け、新たな当主となった。
馬狂いの父上は、虎視眈々と引退の機会を伺っていたし、何年も前からそう宣言されていたので代替わりの手続きはスムーズに終わったと思う。
式のためにリディア嬢がこちらに来た日から、両親とレスリーは、館と同じ敷地内にある別邸へと移り住んだ。
流石に新婚で部屋をわける訳にはいかない。
俺とリディア嬢に用意されたのは、主寝室の両側にお互いの私室へのドアがついた夫婦の寝室だった。
初夜の夜、入浴を終え、主寝室に向かうとベッドでリディア嬢が本を読んで待っていた。
しかし身につけている夜着は、どう見ても普段使いのもので、新婚の妻らしい色気はない。
「あら、おいでになりましたの。来られないかもとも思ったんですが」
俺に気付くとリディア嬢は本から顔を上げた。
「一応確認しておこうと思って。初夜は必要? その、未経験の状態じゃ、皇太子殿下の所には行けないだろ?」
かと言って、抱けと言われても困るのだが。
リディア嬢には悪いが、破瓜が必要なら適当な男か性具を宛てがう事になる。
「結構です。私は既に生娘ではございませんので」
リディア嬢の発言に、俺は大きく目を見開いた。
想い人がいた、ということなのだろうか。
「それとも夫婦になった以上義務を果たせと仰られますか?」
「いや、俺はレスリー以外を抱くつもりは無い」
好戦的になったリディア嬢の眼差しに、俺はぶんぶんと首を振った。
「腹が立ちますわね。両想いじゃないですか、あなた達」
「えっ?」
「レスリー嬢の顔を見ればわかります。ネイト様もお気付きなのでは? その上で優越感に浸っていらっしゃる。嫌な人。いつか彼女にバレて嫌われてしまえばいいんだわ」
なんて察しのいい人なんだろう。
「共に眠るつもりがないならお帰りください。こちらの侍女は事情を承知しておりますのでご安心を。少なくとも私の方から初夜が無かったことは露見しませんわ」
リディア嬢についているのは、リディア嬢が実家から連れてきた腹心の侍女達だ。
「俺の従者も事情は承知している。それでは失礼するよ、リディア嬢」
「リディアとお呼びください。契約とはいえあなたの妻になったのですから」
「そうだね。気を付けるよ。お休み、リディア」
呼び捨てにすると、リディアは満足気に頷いた。
俺達は相談の結果、一週間後から少しずつ距離を取っていくことにした。
周りには不仲だと思わせておかないと、母上達から距離が取れないとリディアが主張したからである。
また、不仲説が使用人経由で別邸に伝わったようで、レスリーから向けられる気遣わしげな視線が快感だった。
直接の接触は妻帯した以上出来なくなった分、レスリーの眼差しは俺の心を慰めてくれた。
リディアが事を起こすのは冬、年越しの王宮の夜会の前後と決まった。それ以外の時期に、辺境伯が領地を離れる事は滅多にないからだ。
全てが終わり、リディアとの婚姻関係を清算するまで、俺はまともにレスリーに会えない事になる。
一刻も早く冬が来てくれ、と思いながら、俺はその日が来るのをひたすら待ち続けた。
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