【R-18】逃げた転生ヒロインは辺境伯に溺愛される

吉川一巳

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01.ここってエロゲの世界では……?

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 カーテン越しに感じる太陽の光に目覚めた私は、ぼんやりと見知らぬ天井を眺めていた。

 ――ここ、どこだろう。
 白い天井に白い壁紙。置かれている家具はクラシカルな白い家具で、フリルとレースに溢れた可愛らしいお部屋だ。
 こんな部屋、知らない。全体的に白とベージュでまとめられ、所々差し色に水色が使われた甘いお部屋。天井からぶら下がるキラキラとしたシャンデリアも、間接照明としてベッドの傍に置かれているすずらんのランプも、何もかも私には全く見覚えのないものだ。
 お姫様の部屋みたい。

 私は状況を把握するため、ベッドから体を起こそうとして、酷い頭痛に見舞われた。
 頭を抑え、俯いた拍子に、胸元でさらりと揺れた金色の髪に私はぎょっと目を見開いた。
 金髪!? 私こんな色に染めた覚えない。
 それもかなり白っぽい金髪――白金髪プラチナ・ブロンドと言うやつだ。
 日本人がこの色にしようと思ったら、何回もブリーチしてから色を入れなきゃいけないはずだ。

 髪を摘んでもう一つ、私は気付いた。
 視界に映る自分の手が、やけに白く小さい事に。

 この手、まるで子供みたい。
 頭はまだズキズキ痛んでいたけど、私はベッドから起き上がると、ふらつきながらも室内にあった鏡台へと向かった。

 そして、鏡に映った自分の姿を見て――

 反射的に大きな悲鳴を上げていた。

「お嬢様!?」

 悲鳴を聞きつけてか、ロング丈のエプロンドレスを身につけた若い女性が室内に飛び込んできた。
 メイドさんだ。それも、秋葉原にいる方じゃなくて、近代のヨーロッパを扱ったドラマや映画に出てくるような、ガチな感じの。
 彼女はメアリー。私付きの召使いだ。

 ――私付きの召使い?
 何でそんなこと知ってるの?

 私の名前はレスリー・ルース。ルース男爵家の一人娘。
 ……いいえ、私の名前は中村樹里。今年大学に入学したばかりの女子大生。

 二つの相反する記憶がせめぎあい、頭の中でスパークする。
 二つの人格の記憶と感情が入り交じり――

 情報量の負荷に脳が悲鳴をあげた。
 目の前がぐるぐる回る。

「お嬢様っ!」
 駆け寄ってくるメアリーの気配がした。
 彼女の腕に抱きとめられたのがわかった。
 そして、その感触を最後に私の視界は暗転した。



 それから私は高熱を出した。
 恐らく知恵熱の様なものだ。
 そう思ったのは、熱が引いた時、頭の中で中村樹里とレスリー・ルースという二つの人間の記憶が綺麗に整頓されていたからである。

 私はかつて、中村樹里という名前の日本人の大学生だった。
 大学に入学したばかりで、楽しい学生生活に期待を膨らませていた矢先、病魔に倒れた。
 最初は原因不明のお腹の張りから始まった。

 便秘なのかなと思い、内科にかかり、お薬を処方してもらうが、お腹の張りは改善するどころか酷くなっていく一方で、改めて内科で調べてもらうも異常なし。
 首を傾げている間に私のお腹は妊婦かってくらい大きく膨らんだ。

 両親にもお兄ちゃんにも、まさか妊娠? って疑われたけど、残念ながらそんな心当たりは一切なかった。
 高校まで女子校で、彼氏なんか出来たことないのにどうやって妊娠するって言うんだ。
 だけど、かかりつけの内科の先生に紹介されたのは産婦人科だった。
 内科的には何の異常もないから、婦人科系の病気を疑ってくださいって言われてね。

 その先生の見立てはドンピシャだった。

 産婦人科で調べてもらったところ、末期の卵巣がんだと言われた。
 お腹の膨らみは、がんの影響で溜まった腹水だと。

 そして、肝臓にも転移が見られると告知され、余命宣告を受けた。

 どうして私が。
 目の前が真っ暗になった。
 厳しい受験戦争をようやく終えて、名門と言われる大学に必死こいて入学して、人生これから、バイトにサークルに合コンに、大学デビューして女子大生エンジョイしようと思ってたのに。

 そして辛く苦しい闘病生活が始まった。
 自分の最期のことは覚えていないけど、今レスリー・ルースとしての人生を生きているということは、恐らく中村樹里は死んだのだ。
 そして、恐らく生まれ変わった。この白金髪プラチナ・ブロンドと青い瞳の男爵令嬢に。

 レスリー・ルースは現在八歳。お人形さんのように非常に整った容貌の持ち主である。

 鏡を見て、あまりの自分の美少女ぶりに驚いた。
 寒色系の色彩のせいか、ちょっと冷たい印象を与えるけど、レスリーという女の子は将来美人になること間違いなしの、美幼女だったのだから。

 でもこの顔、何か見覚えあるんだよなぁ……。
 私は鏡台に向かってしげしげと自分の顔を観察した。
 レスリー・ルース……レスリー・ルース……。
 この名前にも、なんだか聞き覚えがある。

「あっ、お嬢様! いけませんよ。あんなにお熱が出てたんですからベッドでもう少し寝てないと」

 いけない。メアリーに見つかっちゃった。
 私はびくりと身を含ませると、すごすごとベッドに戻った。

「ベッドから出るのはお医者様に診てもらって、許可が出てからですよ。頭の怪我は怖いですからねぇ。全く、旦那様もどうかしてますよ。こんなお綺麗なお嬢様を軍人にしようだなんて」

 その言葉に思い出した。私が目覚めた時の頭痛の原因。
 お父様と剣の稽古をしていて、木剣の一撃を避けそこねて脳天に食らったんだった。

 我がルース家は武の家柄。子女はすべからく騎士となり、王家に仕えるのが役目だ。
 女として生まれた私も騎士となり、王族の女性に仕えるのだと、物心ついた時から何度となく言われてきた。

 女騎士レスリー・ルース!?

 その言葉に、引っかかる記憶があった。



「あーレスリーたん可愛い。尊い。これぞまさにくっ殺界の至宝! はー、しかし下衆な山賊共に輪姦されるのは頂けん! 何故未遂救出ルートが無いのだ!」

 樹里の兄、暁人の非常に気持ち悪いセリフが脳裏に浮かんだ。

 我が兄暁人は、外面はインテリ風エリートサラリーマンなのに、中身はエロゲとフィギュアをこよなく愛する二次元大好きキモオタ野郎だった。
 その気になれば、普通に彼女が出来たであろう容姿なのに……三次元より二次元をこよなく愛し、現実の女より二次元嫁を豪語していた残念な兄だ。
 高校時代は普通に彼女がいたはずなのだが……何かトラウマになる事でもあったんじゃないかと思うんだよね。そんな二次元への傾倒ぶりだった。

 そうだ。思い出した!
 お兄ちゃんが一時期ハマっていた男性向けエロゲの登場人物に、レスリー・ルースの名前があった。

 タイトルは、確か、『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』
 うええ、タイトルからしてろくでもない。

 舞台はフレイア王国、主人公はこの国の皇太子。
 この皇太子には、プレイヤーが任意の名前を付けれるが、デフォルトの名前はアスランだったはずだ。

 このアスランという主人公は、男性向けエロゲの主人公だけあるというか、皇太子という立場と権力を使って、様々な女を食い散らかしハーレムを築くというなかなかのゲス野郎だった。またその食い散らかし方がえげつない。
 ファンタジー世界だからエロ魔法が存在し、謎の触手草やらスライムやらが登場し、それはもう色んな手段でヒロイン達を犯していくのである。

 攻略対象は確か王道お嬢様の婚約者、メイドポジの王宮女官、くっ殺系女騎士、妹ポジションの修道女、そして寝取り枠の辺境伯夫人の五人だったはずだ。
 
 そう、そしてそのくっ殺系女騎士の名前がレスリー・ルースだ。確か。
 愚兄の一推しキャラで、まだ元気だった頃の私(当時高校生)に、物凄く熱く語って気持ち悪かったから覚えてる。

 なんという事だろう。国の名前も皇太子の名前も一致してる。
 ついでにレスリーの容姿も。

 レスリー・ルースは白金髪プラチナ・ブロンドに青い瞳のツンデレ系女騎士だ。
 冷たい人形めいた容貌から、『アイスドール』の異名を持ち、皇太子の母である王妃陛下の護衛騎士を務めていた。
 
 そんなレスリールートの十八禁シーンは、王妃陛下と一緒に賊に攫われる所から始まる。
 そして、王妃陛下共々山賊共に輪姦されている所をアスランが救出し、お清めセックスから寵姫に迎えるという結末になるのだそうだ。
 ちなみに王妃陛下はこの事件をきっかけに精神を病み、離宮で療養生活を送ることになる。

 そこに至るまでの細かいシナリオは知らないが、エロシーンに関しては愚兄がドン引きなくらい熱く語ってたので覚えている。

 私は今の自分、レスリー・ルースの容姿を改めて思い浮かべた。
 あ、この子このまま育ったら、間違いなくあの女騎士になるわ……。
 くだんのエロゲだが、男性向けエロゲによくある、やたらとでかい目の萌え絵ではなく、大人びた綺麗な絵だった事を思い出す。



 最悪だ。何でよりによって男性向けエロゲの世界なんだ。
 そこは普通、複数のイケメンから溺愛されて誰を選ぶか選り取りみどりの女性向けゲームじゃないのか。
 汚らしいおっさん共に「くっ……殺せ」なんて言いながら輪姦されるのも、ハーレム王子の愛人も断固拒否なんですが!

「……様、聞いておられますか、お嬢様!」
 メアリーの怒りの声に、はっと私は現実に戻ってきた。
「ご、ごめんなさい、聞いてなかったわ、何かしら、メアリー」
「もう、お昼からお医者様が来られますから、それまではベッドで横になっててくださいって申し上げました。読書くらいならなさってても構いませんから。起き上がるのはダメですよ!」
 メアリーはそうまくし立てると、ぷりぷりと怒りながら部屋を出ていった。

 どうしよう。このままお父様の思惑通り騎士になったらくっ殺ルートに入ってしまうかもしれない。
 そんなの嫌だ。どうにかして逃れなければ。
 一人になった私は、青ざめながら今後の方針について頭を必死に巡らせた。
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