上 下
34 / 73

33話 冒険者登録3

しおりを挟む

「おいおい、何俺達のこと置いて行こうとしてんの?」

こちらに向かってくる3人の若い男。年齢は俺と同じかそれよりも下だろう。髪は派手で、これからダンジョンに潜る為の服装とは思えないほど、軽装な格好をしていた。この男達の言葉から、集合時間に遅れた最後の受験者だろう。

「あ?なんだお前ら」

冒険者の男は、若い男達に向かって圧をかける。

「なんだじゃねーんだよ、おっさん」

「俺たちにそんな口聞いて良いのか?」

「お前らなんて所詮底辺にいる奴らだろ?」

冒険者の圧を受けても、若い男達は特に気にした様子もない。

(こいつら実力はあるのか?圧には屈してないみたいだが、それとも圧に気づかないほど、実力がないのか?)

正直、若い男達がなんでこんなに強気なのかが分からなかった。だから俺は、もしかしたらこいつらは高い実力を持っているのか?と一瞬思ったが、その考えを捨てた。若い男達を見ても、特に感じるものがなかったからだ。

「お前らはな、もう冒険者試験に落ちてんだよ。だから、お前達を待つ必要など俺達にはない」

冒険者の男が若い男達に対してそう言い切る。そして、俺たちに対して向き合い、謝罪の言葉を口にした。


「皆、止めてすまかったな。気を取り直して、試験をする為にダンジョンに行くぞ」

(へぇ、冒険者の中にも、こういう人はいるんだな。まぁ、ダメなやつはダメ、良い人は良いってことか)

そんな事を考えながら、歩き出した冒険者の男の後を追う。このまま試験に入ってほしいと思っていると、またしても行動を止めるような声が聞こえた。

「お、おい!俺達が試験に落ちたって!?お前如きが、何ほざいてやがる!俺たちはな、既にクランから誘いが来てるんだよ、そんな優秀な俺達を試験に落として良いのかよ?」

若い男の中のリーダーらしき奴がそう喚きだした。

(あーなるほど、だからこいつらは妙に自信があるのか。クランに入るって事は、それなりに良いステータスか、ユニークスキルを持っているってことか?この状況、冒険者の人はどう対処するんだろうか)

そんな事を思っていると、先頭にいた男は、素早く若い男達の元に移動した。

「さっきからごちゃごちゃとうるせーな?お前達は試験に落ちたって言っただろ?それ以上はないんだよ。分かったならさっさと帰りやがれ。クランに入るだがなんだか知らねーが、これ以上邪魔をするようなら容赦しないぞ?」

冒険者の男は若い男達のに、どすの利いた声で圧をかける。この圧には流石に気付いたのか、3人とも少し怯えた顔をした。しかしリーダーの男は、すぐに怒りの表情を浮かべた。

(うわー、本当に面倒くさくなってきたな)

「黙れ!俺はな、選ばれた男なんだよ!お前みたいな底辺冒険者に指図されるいわれはねーぞ!!」

「は?」

冒険者の男が発したより重い圧で、リーダーの男の表情は完全に怯えていたが、自分が底辺の男だと罵った奴に怯えてしまったという事が癪に触ったのか、リーダーの男は懐に手を入れた。そして取り出したのは、刃渡20センチ程のナイフだった。

俺の周りにいる、冒険者志願の人達の間に緊張した雰囲気が流れるが、冒険者達は特段普通と変わりない雰囲気だった。

(まー、たかがナイフにびびってちゃ、魔物なんて相手にできねーよな)

「ッ!くそが!舐めんじゃねーぞ!牙突!」

若い男はナイフ片手に、冒険者に向かってナイフを突き出す。しかし、普通に突き出されたナイフではなく、そのナイフは、風によって強化されているように見えた。

(あの牙突ってのはスキルか?効果は風魔法による突きの強化か何かだろうな)

「危ない!!」

風によって強化された突きが冒険者の男に向かう。その光景を見た、冒険者を志願する受験者の何人かが、悲鳴のような声を上げた。

(まぁでも、あの人なら平気だろう)

俺はステータスが上がったおかげか、ダンジョンに潜って、敵の力をよく観察していたからなのかは分からないが、なんとなくその人の強さが分かるようになっていた。あくまで直感的なものだが、その直感で言うと、試験監督の冒険者は皆、それなりの実力を持っており、その中でも1番強い冒険者が、あの程度の攻撃を避けれないわけがない。

そう思っていた俺は、特に慌てる事なく、ことの成り行きを見守っていた。

(はぁ、早く冒険者試験やらねーかな)

そんな事を考えているその間も事態は進み、リーダーの男が放った突きが、冒険者の男に届くかと言った所で、小さな呟きが聞こえた。

「鉄壁」

ガキン!

冒険者の体に届いた筈のナイフは、体を貫く事なく、甲高い音を鳴らしながら弾かれた。

「なっ!」

「お前、手ぇ出したよな?」

「ぶへぇ!!」

驚くリーダーの男は、驚くあまり口を開いて固まってしまった。そして、その無防備な顔を、冒険者の男は半分ほどの力で殴り飛ばした。半分といっても、リーダーの男にとっては十分以上の威力は出ていそうだった。

「ちっ、また面倒ごとになったな。こりゃ怒られるか?すまんが、俺はこの事態の経緯をギルドに説明してくっから、お前達は待っていてくれ」

冒険者の男は、俺たちに断りを入れると、冒険者ギルドに向かって歩いて行った。その後に残ったものは、殴り飛ばされたことで、顔が腫れ上がるリーダーの男と、その現実が受け止められないのか、口が開いて塞がらない2人の若い男だけだった。

(このくらいの力でもクランに入れるのか)

その間も俺は、自分の思考の中にいた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

外れスキル「ハキ」が覚醒したら世界最強になった件 ~パーティを追放されたけど今は楽しくやってます~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
「カイル、無能のお前を追放する!」 「なっ! ギゼル、考え直してくれ! リリサからも何か言ってくれ! 俺とお前は、同じ村で生まれ育って……。5歳の頃には結婚の約束だって……」 「……気持ち悪い男ね。いつまで昔のことを引きずっているつもりかしら? 『ハキ』スキルなんて、訳の分からない外れスキルを貰ってしまったあなたが悪いんじゃない」  カイルのスキルが覚醒するのは、これから少し後のことである。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~

きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ 追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。 ♢長めあらすじ 100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。 ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。 ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。 主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。 しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。 しかし。その無能スキルは無能スキルではない。 それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。 ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。

ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない

鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン 都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。 今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上 レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。 危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。 そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。 妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……

クラス転移でハズレ職を押し付けられた『ガチャテイマー』、実は異世界最強 〜俺だけ同じ魔物を合成して超進化できる〜

蒼月浩二
ファンタジー
突然高校のクラス丸ごと異世界に召喚され、一人に一つ職業が与えられた。クラス会議の結果、旭川和也はハズレ職である『ガチャテイマー』を押し付けられてしまう。 当初は皆で協力して困難を乗り越えようとしていたクラスだったが、厳しい現実を目の当たりにすると、最弱の和也は裏切られ、捨てられてしまう。 しかし、実は最弱と思われていた『ガチャテイマー』は使役する魔物を《限界突破》することで際限なく強化することのできる最強職だった! 和也は、最強職を駆使して無限に強くなり、いずれ異世界最強に至る。 カクヨム・なろうで クラス転移でハズレ職を押し付けられた『ガチャテイマー』、《限界突破》で異世界最強 〜★1魔物しか召喚できない無能だと思われていたが、実は俺だけ同じ魔物を合成して超進化できる〜 というタイトルで連載しているものです

県立冒険者高等学校のテイマーくん

丸八
ファンタジー
地球各地に突如ダンジョンと呼ばれる魔窟が現れた。 ダンジョンの中には敵性存在が蔓延り、隙あらば地上へと侵攻してくるようになる。 それから半世紀が経ち、各国の対策が功を奏し、当初の混乱は次第に収まりを見せていた。 日本はダンジョンを探索し、敵性存在を駆逐する者を冒険者と呼び対策の一つとしていた。 そして、冒険者の養成をする学校を全国に建てていた。 そんな冒険者高校に通う一人の生徒のお話。

処理中です...