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ハーク国

相談は口パクで

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 ご機嫌のデューンが、嬉しそうにハンセナ夫妻に会いに行った。
「国王様、どうなさったんですか。」
 ドロイから国王と呼ばれて、デューンは思わずニヤリと笑った。
「うん、2人とも魔法を見て意見が変わったみたいだったから、仕事を頼みに来たんだよ。」
「ああ、だってあの魔法は凄かったですよ。皆ドロン国へ早く遊びに行きたいって言ってますよ。」
「そうなんだ。漁は問題ないんだけれど、ドロン国へ行くのはまだ無理かなあ。ドロン国の近くは今までと同じように荒れている状態にしているんだ。いきなり海が穏やかになったりしたら妖精の事がばれるだろう。」
「なるほど、じゃあ皆に言っておかないと。皆がっかりしてしまいますね。」
「そうだなあ、じゃあドロイから言っておいて。日にちを決めて見つからない様に遊びに行ける方法を考えるって私が言っていたと。それでね、依頼っていうのは妖精の世話係になって欲しいんだ。」
「それは構いませんが、私達で良いんですか? 妖精がどうやって暮らしているかなんて知らないですけど。」
「2人の質問には全部答えるように言ってあるから大丈夫。分からなかったら本人に聞いてくれ。
 今日から荷物を移して王宮の離れに妖精と一緒に住んでくれ。兄達の家も近いからね、もし逃げ出そうとしたり何か気が付いたらすぐに私に知らせてくれ。」
「分かりました。じゃあ、皆に話してから移ります。」

 デューンが去ると2人とも口パクで会話をする。
「聞いたか、ドロイだと。呼び捨てになったぞ。」
「それに、トーク様達の見張りをしろですって。何とかこの事をトーク様達に知らせなくちゃ。」
「離れの庭で話せばいい、聞こえてしまったとしても俺達が知らせたわけじゃないんだからな。」
「そうね、妖精の世話係になれてよかったわね。これで出来る限り妖精を守る事が出来るわ。どうしようかと思っていたけれど、向こうから言ってきてくれるなんて運が良いわ。
 でも皆の態度にはがっかりしたわ。
 妖精を隷属させて自分達の為に使う事に罪悪感も持たず喜んでいるのよ。確かに私達は貧しかったけれど誰かを犠牲にしながら裕福になるだなんて、そこまで落ちてないと思ってた。
 たとえ大変でも、移住して努力すればやり直せる道があるのに。
 皆の様子じゃ気を付けて行動しないと、妖精を逃がそうとしていると知られたら皆が敵に回るわ。」
「ああ。話す時は声は出さない様にしよう。すぐ告げ口をされそうだからな。」
 2人は頷くと荷物を纏めて離れに向かった。

 トーク達は家に帰ると直ぐに船作りを始める。
「やっぱり、バイオレットに近づいてきたな。今までは周囲の人間達に抑えられていたから良かったが、父さん達もいなくなったし表立って俺達の味方をする人もいないだろう。
 バイオレット、決して1人で行動してはいけないよ。出来る限り3人で一緒にいよう。新婚の2人には父親と一緒にいるのはきついだろうけれどな。」
 優しく笑いながら話すトークだったが、笑顔が痛々しかった。2人はトークの言葉に賛成すると船を作っていく。もともとすぐに使える状態の木板を貰った為、そんなに時間はかからずにその日の夕方には小舟を3つ完成させた。家に戻るとしばらくして離れが煩い事に気が付いた。

 ハンセナ夫妻の声が聞こえてくる。ちらりと窓の外を見たトーク達は一瞬ハンセナ夫妻と目が合った。
「じゃあデューン様を攻撃しようとしたらあんたがきちんと守るんだね。」
「そう命じられた。」
「ご飯は何を食べるのかな、昨日から何も食べてないだろう。元気もないし静かだね。」
「普通の人間と一緒。疲れているのはまだ小さいのに沢山魔法を使っているから。ずっと魔力を出し続けて疲れている。」
「魔力を出し続けて体は持つのかしら。何日位その状態で耐えられるのかな。」
「分からない。起き上がれなくなったら魔力が尽きてきた状態。何もできなくなる。守る事も。」
「そう、分かったわ。起き上がれなくなったら困るから、そうしたらデューン様に相談に行くわね。起き上がれない状態でデューン様が襲われたら助けられる? 」
「攻撃は防げる。毒とかは無理、飲んでしまったら何もできない。」
「そうか、毒には気を付けないとな。」
 夫妻の話はまだまだ続く。 
「それにしても私達に見張りなんてできるかしら、トーク様達が逃げ出そうとしたら知らせろって話だけれどずっと見ていられないわよ。それにドロン国にいつ遊びに行けるのか聞くの忘れたわ。あなたは知っているの。」
「何も知らない。ドロン国の周囲は強風を吹かせて、海が荒れている様に見せているだけ。海の中は静かで安全、魔物は眠っている。」
「つまり途中までは船で言って海が荒れている所からは潜って泳いでいけばドロン国に無事につけるのか。でも、遊びに行くのに濡れるのはちょっとな。まあ今度聞いてみよう。
 あんたは見張りの方はやらないのか。気配を察知したり行動を監視したりは出来ないのか。」
「そんな事は出来ない、彼らの事を監視する魔力の余裕もないから無理。」
「じゃあ我々で頑張るか。」
「そうね、そろそろご飯にしましょう。疲れているだろうから色々作ったわ。好きな物があると良いんだけれど。明日からはあなたの食べたいものを作るから、何が食べたいか考えておいてね。」

 話を聞き終わったトーク達はお互いに目配せをすると声に出さずに相談し始めた。
「ハンセナ夫妻に感謝しないと。船が出来ていて良かった。音が響いたら気が付くから彼らも報告しないといけないだろうし。」
「はい、船で行けるのは荒れている海の前までですね。後は海の中を泳ぐ、荒れている海がどの位の距離なのか分かると良いんだけれど。」
「そうね、でもいざとなったら泳ぐしかないわよ。デューンが私達の監視を始めたという事は、私達が逃げ出すのを警戒しているのね。ご夫妻が味方でいてくださるのは心強いわ。妖精の事も出来る限り守ろうとして下さるでしょうし。」
「そうだね、情報を得られるのは有難いね。さて、どうやって逃げ出そうか。」
 3人の口パク相談は夜遅くまで続いた。

 デューンの命で魔物を眠らせ島の大地を豊かにする為、妖精は眠らずに魔法を使い続ける。
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