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女公爵 カトリーナ・ドレーブ
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別室にいた3人がドレーブ公爵の部屋へ入ってきた。
「お父様、屋敷の兵士達を動かしているようですが、どうかなさいましたか。」
白々しく話しかけるアレク。アークとカトリーナは無表情で黙っている。
子供達の顔を見て、ハッと目も見開いたドレーブ公爵。
「お前達、こうなる事を知っていたのか。何故言わなかった。」
怒りをあらわに詰問する公爵にアレクは冷たい声音で淡々と答えた。
「ドレーブ家当主ならこうなる事くらい見越して、対応すると判断しているからです。
そんな事すらできないのなら、貴族社会で公爵家の地位を保っていけませんから。
まさか、何の対応策も準備していなかったわけではないでしょう。していないのだとしたら当主たる器ではありませんね。今回の件への対応はとても簡単。
お爺様の残してくださった権力や他家との繋がり。お父様は公爵という権力に甘え過ぎていたのではないでしょうか。」
ドレーブ公爵の父親は偉大だった。3大公爵家として3番手だった公爵家を2番手のロレーヌ公爵家と同等の立場まで押し上げた人物だ。勿論ドレーブ公爵も必死に努力したが、同じ公爵家子息としてバレット家の公爵子息と常に比べられ、低い評価を受けてきた。
ロレーヌ公爵は別にいい。強い忠誠心と普通の貴族と同じ振る舞いが出来れば特に問題のないとされる家なのだから、ジャンのように酷過ぎる場合は除いて。
だがバレット公爵は違う。
バレット家は、代々高い評価を受け続けている公爵家だ。国内政治に外交、他家への配慮、領内の発展と領民達への還元、バレット家の子息令嬢達への教育等。様々な分野で活躍出来る人間を輩出する家として有名だった。
そんなバレット家の子息と生まれた時から比較され負け続ける。
ドレーブ公爵はなんとしても彼より上の立場が欲しかったのだ。王太子の妻の父親になればそれが手に入るはずだった。夢中になりすぎて自分が冷静な判断を下す事が出来なかった事に気がついたドレーブ公爵。
憑き物が落ちた様な表情になった公爵は自嘲するように笑った。
「そうだな、気付くべき事を気付かずに自分の欲の為に公爵家を貶めてしまった。その弊害がこの後出てくることだろう。
自分の実力以上のものを強引に掴もうとしてしまったな。」
公爵は黙って部屋を出て行くと、城に向かい王への謁見を求めた。
王に会うと、今回の自分の勝手な行動により、男爵家に迷惑をかけた責任を取るとして公爵を辞任して隠居した。公爵家の当主はカトリーナに譲り、カトリーナは婚約者候補を辞退。カトリーナの補佐に長男アレクがつくことになった。
驚いたのはアークとカトリーナだ。長男のアレクが当主になると思っていたのに。驚く2人とは対照的にアレクは笑っている。涙まで流して大笑いしている。
「やるじゃないか、親父。そう来るとは思わなかったよ。なかなか良い考えだと思う。
俺達は結構裏の事もやってきたから。カトリーナなら清廉潔白なイメージがあるし、他家との差別化にもなる。」
アレクは笑いを治めると真面目な顔になりカトリーナに一礼をした。
おめでとうございます。期待していますよ、カトリーナ公爵。これから当家を引っ張って頂くのですから。
まずは学校を卒業してきてください。レティシア嬢はすでに卒業なさったでしょう。
その後は、アークの領主就任です。あそこの土地は野放しにしていたらすぐに犯罪者領になりますからね。明日このふたつを終わらせます。後はカトリーナ様の婿選びですね。」
突然の事についていけないカトリーナと違って、あっさりと態度を変えて自分の新しい立場に対応しているアレク。この人を補佐として使っていかなければならない。当主としてふさわしくないと思えばアレクもアークも容赦なくカトリーナを追い落とすだろう。
カトリーナの表情が引き締まった。
「ありがとうございます。アレクお兄様。
未熟な点も多いと思いますが、よろしくお願いいたします。
明日卒業してまいります。アークお兄様の領主就任は今やってしまいましょう。お父様の引退による手続きなども一緒に。」
カトリーナは笑顔になると宣言した。
「それから、今後当家は薬草や医療に関して力を入れて行きたいと考えています。」
「ええ、それは良い考えだと思いますよ。
医療分野への貢献は、民の支持も高くなりますし、偉大な功績として当家の名前が刻まれますからね。医薬品は騎士団から民間まで幅広くかかわれる分野ですし。
バレット家も医療分野を支援しています。あの家が支援だけで自分達で行わないのは他家への配慮、でしょうね。ここの匙加減を間違えると、当家が批判されて追い落とされます。
ある程度の道筋をつけたら、他の者達に技術を広めて行くことが大切になるでしょう。」
その言葉を聞いてカトリーナは大きく頷いた。
「なるほど、私はまだそこまで考えて行動できません。レティシア様なら、出来るのでしょうけれど。レティシア様は魔力量に関する研究は公表した際、色々な方の研究に利用して役立ってほしいと仰っていました。
訓練ではレティシア様に、色々な戦術を教えて頂いたり沢山のアドバイスを頂きましたわ。」
懐かしそうに喜びの笑顔で語るカトリーナを見て、レティシアがしっかりと他家の令嬢と友好な関係を築いている事を知るアレク達。
「うん、レティシア嬢が凄いのは分かりますよ。先にアークの領主就任をやってしまいましょう。紙一枚で終わりますからね。」
「そうだね、兄さん。書類を持ってくるよ。」
兄達はカトリーナのレティシア話は長くなる事を知っていた。2人ともさっさとカトリーナの話を終わらせ事務手続きを行っていった。
レティシアの婚約話というか愚痴を言う為に、王弟の所に遊びに来ていたハワード。王弟からドレーブ公爵が次期公爵にカトリーナ場を指名した事を聞いて感心していた。
「ほお、初めてあの公爵を有能だと思ったよ。カトリーナ嬢なら不始末の印象を拭いさり、新たなる公爵家の再出発を印象づけるのにぴったりだ。」
「そうだな、良い判断をしたな。ハワードに対抗する事しか考えず公爵としては今一つと言われているイメージしかなかったが。
これで王家がどう出るか。マリー嬢を無理に公爵家の養女にしようとしたことの責任をとり公爵が引退したんだ。元凶の王太子に対して王家も何らかの対応が必要になるだろう。」
ふん、と鼻で笑ったハワード。
「もともと、王太子廃嫡だったんだからそれを公表するだけで終わるんじゃないか。民衆は納得すると思うが、王太子廃嫡は結構ショックだから。
これのせいで結婚を発表するにはタイミングが悪いから、レティシアの結婚が延期になるな。今のうちに家族旅行に行っておきたいな。いや視察旅行にするか。」
嬉しそうなハワードに王弟が釘を刺す。
「お前、顔がにやけてて気持ち悪いぞ。それに家族旅行は無理だろ。暫く忙しくなるからな。メリーナ様とレティシア嬢の母子水入らず旅行になるんじゃないか。」
「そんな、俺だけ置いて行かれるのか。そんなの酷いじゃないか。」
ショックを受けて喚いているハワードを見て、王弟は楽しそうに笑っていた。
王弟やバレット公爵家、国中の貴族やドレーブ公爵家と関係のある家から、カトリーナの公爵就任のお祝いの手紙や品が届く。
カトリーナは、個人的に貰ったレティシアからのお祝いの手紙を大切に保管した。
翌日カトリーナは学校を卒業すると、公爵としての業務が始まった。引退した父親は、アレクが以前話していた遠い領へと引っ越していった。
これからは夫婦でのんびりと暮らしていきたいと。余計な重荷もなくなり若返ったような父親を見て複雑な表情をしている子供達。
父親は別れ際にアレクを抱きしめた。思わず驚いて固まったアレクに耳元で囁く。
自分が王太子を支持するという間違った判断をした為に、引退させるという嫌な役割をさせてすまなかったと。
お前は窮屈な公爵になるよりも、自分のやりたいことを自由に出来る人生を歩むんだ、だた暫くは補佐としてカトリーナを支えて貰わないといけないがな。
最後に子供達の顔を見て微笑むと別れを言って去っていった。
去っていく父親を見ながらアレクは黙っていた。
カトリーナが独り立ちしたら、又第1王女の所で働きたい。公爵家ではなくて国政に関わっていくつもりだと最後に父親に囁いた事を。
帰り道、アレクは呟いた。
「俺の思いを知っていたんだな。ありがとう。」
「お父様、屋敷の兵士達を動かしているようですが、どうかなさいましたか。」
白々しく話しかけるアレク。アークとカトリーナは無表情で黙っている。
子供達の顔を見て、ハッと目も見開いたドレーブ公爵。
「お前達、こうなる事を知っていたのか。何故言わなかった。」
怒りをあらわに詰問する公爵にアレクは冷たい声音で淡々と答えた。
「ドレーブ家当主ならこうなる事くらい見越して、対応すると判断しているからです。
そんな事すらできないのなら、貴族社会で公爵家の地位を保っていけませんから。
まさか、何の対応策も準備していなかったわけではないでしょう。していないのだとしたら当主たる器ではありませんね。今回の件への対応はとても簡単。
お爺様の残してくださった権力や他家との繋がり。お父様は公爵という権力に甘え過ぎていたのではないでしょうか。」
ドレーブ公爵の父親は偉大だった。3大公爵家として3番手だった公爵家を2番手のロレーヌ公爵家と同等の立場まで押し上げた人物だ。勿論ドレーブ公爵も必死に努力したが、同じ公爵家子息としてバレット家の公爵子息と常に比べられ、低い評価を受けてきた。
ロレーヌ公爵は別にいい。強い忠誠心と普通の貴族と同じ振る舞いが出来れば特に問題のないとされる家なのだから、ジャンのように酷過ぎる場合は除いて。
だがバレット公爵は違う。
バレット家は、代々高い評価を受け続けている公爵家だ。国内政治に外交、他家への配慮、領内の発展と領民達への還元、バレット家の子息令嬢達への教育等。様々な分野で活躍出来る人間を輩出する家として有名だった。
そんなバレット家の子息と生まれた時から比較され負け続ける。
ドレーブ公爵はなんとしても彼より上の立場が欲しかったのだ。王太子の妻の父親になればそれが手に入るはずだった。夢中になりすぎて自分が冷静な判断を下す事が出来なかった事に気がついたドレーブ公爵。
憑き物が落ちた様な表情になった公爵は自嘲するように笑った。
「そうだな、気付くべき事を気付かずに自分の欲の為に公爵家を貶めてしまった。その弊害がこの後出てくることだろう。
自分の実力以上のものを強引に掴もうとしてしまったな。」
公爵は黙って部屋を出て行くと、城に向かい王への謁見を求めた。
王に会うと、今回の自分の勝手な行動により、男爵家に迷惑をかけた責任を取るとして公爵を辞任して隠居した。公爵家の当主はカトリーナに譲り、カトリーナは婚約者候補を辞退。カトリーナの補佐に長男アレクがつくことになった。
驚いたのはアークとカトリーナだ。長男のアレクが当主になると思っていたのに。驚く2人とは対照的にアレクは笑っている。涙まで流して大笑いしている。
「やるじゃないか、親父。そう来るとは思わなかったよ。なかなか良い考えだと思う。
俺達は結構裏の事もやってきたから。カトリーナなら清廉潔白なイメージがあるし、他家との差別化にもなる。」
アレクは笑いを治めると真面目な顔になりカトリーナに一礼をした。
おめでとうございます。期待していますよ、カトリーナ公爵。これから当家を引っ張って頂くのですから。
まずは学校を卒業してきてください。レティシア嬢はすでに卒業なさったでしょう。
その後は、アークの領主就任です。あそこの土地は野放しにしていたらすぐに犯罪者領になりますからね。明日このふたつを終わらせます。後はカトリーナ様の婿選びですね。」
突然の事についていけないカトリーナと違って、あっさりと態度を変えて自分の新しい立場に対応しているアレク。この人を補佐として使っていかなければならない。当主としてふさわしくないと思えばアレクもアークも容赦なくカトリーナを追い落とすだろう。
カトリーナの表情が引き締まった。
「ありがとうございます。アレクお兄様。
未熟な点も多いと思いますが、よろしくお願いいたします。
明日卒業してまいります。アークお兄様の領主就任は今やってしまいましょう。お父様の引退による手続きなども一緒に。」
カトリーナは笑顔になると宣言した。
「それから、今後当家は薬草や医療に関して力を入れて行きたいと考えています。」
「ええ、それは良い考えだと思いますよ。
医療分野への貢献は、民の支持も高くなりますし、偉大な功績として当家の名前が刻まれますからね。医薬品は騎士団から民間まで幅広くかかわれる分野ですし。
バレット家も医療分野を支援しています。あの家が支援だけで自分達で行わないのは他家への配慮、でしょうね。ここの匙加減を間違えると、当家が批判されて追い落とされます。
ある程度の道筋をつけたら、他の者達に技術を広めて行くことが大切になるでしょう。」
その言葉を聞いてカトリーナは大きく頷いた。
「なるほど、私はまだそこまで考えて行動できません。レティシア様なら、出来るのでしょうけれど。レティシア様は魔力量に関する研究は公表した際、色々な方の研究に利用して役立ってほしいと仰っていました。
訓練ではレティシア様に、色々な戦術を教えて頂いたり沢山のアドバイスを頂きましたわ。」
懐かしそうに喜びの笑顔で語るカトリーナを見て、レティシアがしっかりと他家の令嬢と友好な関係を築いている事を知るアレク達。
「うん、レティシア嬢が凄いのは分かりますよ。先にアークの領主就任をやってしまいましょう。紙一枚で終わりますからね。」
「そうだね、兄さん。書類を持ってくるよ。」
兄達はカトリーナのレティシア話は長くなる事を知っていた。2人ともさっさとカトリーナの話を終わらせ事務手続きを行っていった。
レティシアの婚約話というか愚痴を言う為に、王弟の所に遊びに来ていたハワード。王弟からドレーブ公爵が次期公爵にカトリーナ場を指名した事を聞いて感心していた。
「ほお、初めてあの公爵を有能だと思ったよ。カトリーナ嬢なら不始末の印象を拭いさり、新たなる公爵家の再出発を印象づけるのにぴったりだ。」
「そうだな、良い判断をしたな。ハワードに対抗する事しか考えず公爵としては今一つと言われているイメージしかなかったが。
これで王家がどう出るか。マリー嬢を無理に公爵家の養女にしようとしたことの責任をとり公爵が引退したんだ。元凶の王太子に対して王家も何らかの対応が必要になるだろう。」
ふん、と鼻で笑ったハワード。
「もともと、王太子廃嫡だったんだからそれを公表するだけで終わるんじゃないか。民衆は納得すると思うが、王太子廃嫡は結構ショックだから。
これのせいで結婚を発表するにはタイミングが悪いから、レティシアの結婚が延期になるな。今のうちに家族旅行に行っておきたいな。いや視察旅行にするか。」
嬉しそうなハワードに王弟が釘を刺す。
「お前、顔がにやけてて気持ち悪いぞ。それに家族旅行は無理だろ。暫く忙しくなるからな。メリーナ様とレティシア嬢の母子水入らず旅行になるんじゃないか。」
「そんな、俺だけ置いて行かれるのか。そんなの酷いじゃないか。」
ショックを受けて喚いているハワードを見て、王弟は楽しそうに笑っていた。
王弟やバレット公爵家、国中の貴族やドレーブ公爵家と関係のある家から、カトリーナの公爵就任のお祝いの手紙や品が届く。
カトリーナは、個人的に貰ったレティシアからのお祝いの手紙を大切に保管した。
翌日カトリーナは学校を卒業すると、公爵としての業務が始まった。引退した父親は、アレクが以前話していた遠い領へと引っ越していった。
これからは夫婦でのんびりと暮らしていきたいと。余計な重荷もなくなり若返ったような父親を見て複雑な表情をしている子供達。
父親は別れ際にアレクを抱きしめた。思わず驚いて固まったアレクに耳元で囁く。
自分が王太子を支持するという間違った判断をした為に、引退させるという嫌な役割をさせてすまなかったと。
お前は窮屈な公爵になるよりも、自分のやりたいことを自由に出来る人生を歩むんだ、だた暫くは補佐としてカトリーナを支えて貰わないといけないがな。
最後に子供達の顔を見て微笑むと別れを言って去っていった。
去っていく父親を見ながらアレクは黙っていた。
カトリーナが独り立ちしたら、又第1王女の所で働きたい。公爵家ではなくて国政に関わっていくつもりだと最後に父親に囁いた事を。
帰り道、アレクは呟いた。
「俺の思いを知っていたんだな。ありがとう。」
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