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青年は思い出を頼りに敵を葬る
決着と手がかり
しおりを挟む「ちょっと! なんでこんな辺鄙な地にいる人間がその剣を持っているんです!? それって太刀でしょうッ!?」
「たち……?」
『ゴースト』(土地神レベル)は俺の持つ剣を見て太刀と目利きしたが、俺自身この剣が一体どんなものなのか分かっていない。
しかしいつだったか東洋では、この太刀を使い戦っていた民族がいたと聞いたことがある。
まさかこの太刀が、奴らの弱点に成りうるのかと俺は仮説を立てる。一方、『ゴースト』(土地神レベル)はなにかに気づいたのか、俺をその紅い目玉を細めて侮蔑と嘲笑を浮かべていた。
「ああー……でもあなた、呪術についての知識もゼロってことは、きっとこう言った雑学や伝承などもサッパリでしょう? 私たち『ゴースト』は太刀が怖いからと言って、なにが理由なんてのは全く見当などつかない――」
「いや」
そうでもなさそうだ――と一瞬、俺にある考えが閃く。
先程、俺は『ゴースト』は月の光に照らせば可視化できると見立て、実際それは立証出来た。ここから俺はさらに思索し、『ゴースト』は光と言う存在に弱いのではないのかという仮説に辿り着く。
この仮説を立てたのにも、1つの理由がある。
『ゴースト』は光に照らされなければ、視認することが出来ない。これだけならば、奴らにとって直接的な死因に繋がらないが、見えないまま相手を攻撃出来ると言う利点は失われてしまう。
また視認出来た上で爪も防ぐことや反撃する手立てがあれば、本体の目玉も穿つことが可能。つまり、奴らは姿さえ見えてしまえば恐れる必要ないのだ。
後これは俺の幼稚な考えなのだが、光に弱い存在が光に照らされたらどうなるか。それもまた自明。
「光に弱いのなら、そのまま光を反射させてその目玉を抉ってやるよ」
「え?」
これが俺の立てた仮説だ。刀身で光を反射させ、そのまま刺すなり斬って目玉を突いてしまえば、恐らくダメージは爪を切ったところの比ではない。
幸い、刀身は月の光を反射することは叶った。
俺はそのまま月の光を刀身に移しては反射する。そして月の光を纏ったまま、奴の目玉を穿つ。すると今度は紙を突き破った感覚ではなく、どろりと粘着質な感触がした。
「嘘でしょ……ッォ!?」
あれだけ余裕ぶって笑っていたくせに、自身を土地神と称した『ゴースト』は呆気なく一瞬で消滅する。奴にとっては惨めな最期だったが、俺的にはあの究極的なほどまでに口が軽い部分に礼を言わなければならない。
まさか、俺の一族が大事にしていた剣はどうやら太刀の仲間らしく、それがこうして厄災を祓う武具となるなど、この流れはあまりにも出来すぎた話である。
なにせ俺のにとっての最優先事項は『ゴースト』の退治ではなく、マナを探し出すこと。
『ゴースト』の殲滅については、今後マナを探し出す上では避けては通れない道だと、今の戦闘で学んだから重要なのだと思っただけ。
個人的な私怨も理由に含んでいいのなら、俺の気が済まないと言う思いもある。
とにかく俺はマナを見つけ出して、この混沌を生んだ張本人さえどうにか出来ればそれで構わない。
またこれも戦争では前提になるが、なにかが村を壊滅させるとすれば、少なからず指揮が必要になる。この理論をなぞれば、あの『ゴースト』達の親玉は存在するだろう。
あの土地神レベルの『ゴースト』が指揮官であればどれほど楽か――などと柄にもなく深く考えるも堪えは1つ。
『ゴースト』を滅するためには剣が必要だが、マナを探すのであれば最悪この身1つさえあればいい。
であれば持つべきは剣などではなく、ヒロインに相応しい金の靴で十分なのである。
「なら、これは英雄譚ではなくて「しんでれら」的なアレかな」
と、俺は先程から脳内で訴え続ける『ゴースト』とマナの因果関係を都合よく無視していた。
マナはあくまで被害者。結界となにか関係はあるだろうが、それが村を襲った原因になったと今は断定出来ない。
そう脳内に鳴り続ける警鐘を無視し続け、俺は再び洞窟内になにか手がかりはないかと洞窟内を歩いていく。
すると、あの『ゴースト』の目玉があった個所に1枚のパルピスが落ちていたのだ。
俺はパルピスに目を通すと、そこにはこんな一文が書かれていた。
「『彼女は今も棺の中』……? なんだこれ? と言うより……」
“彼女”と“棺”と言う単語がやけに引っ掛かるが、問題はそこではない。
問題は「彼女は今も棺の中」と言う一文の下。その箇所へと目を通せば、マナの失踪の手がかりはそこにあった。
「『彼女は私の元にいます』、『彼女の忠臣であるソフィアの隣に』……だと?」
ソフィア――ありふれた名前ではあるが、俺にはこの名前に聞き覚えがあった。
ソフィア・アールミテ――マナの元学友で、彼女を「女神」と呼んだ少年。
もし、このパルピスに書かれた内容が嘘偽りなどなく、ここに記されたソフィアと言う存在があのソフィア・アールミテだった場合、マナを攫ったのはソフィアと言う可能性が浮上する。
真偽は分からないし、証拠もないが奴ならばやりかねない――と俺は過去のあいつを理解している上でこう見立てた。
もしソフィアがマナを攫うだけでなく、この村に災厄をもたらした張本人であるならば、さらに放っていく理由も慈悲も遠慮も不要だ。
しかし、忠臣と言う言葉がどうにも嫌に引っ掛かる。
だがこれ以上ヒントなどなく、これを深く考えたところで意味はないと俺は引っ掛かる2文字を脳内から切り捨てる。
本来ならこの手がかりを掴んだことを喜ぶべきだろう。
だが、俺はむしろ喜ぶどころか屈辱だけが募って、思わず奥歯を噛み締める。
これは奴からの挑発であり、決してヒントなどではない。
それどころか今の事態を奴が知ったら、胸中で静かに俺を嘲笑するだろう。ゆえに俺は奴の名を反芻する。
脳に、臓腑に、血液に――俺と言う存在に奴の名前を刻みこんでは絶対に忘れるものかと怨嗟を込める。
「返してもらうぞ」
俺の憎悪を嘲笑うかのように、パルピスは砂となって消え失せた。
耳奥にまた金属を擦り合わせる音がザラザラと劈くも、そんな不快感などどうでもいい。
不快感も、憎悪も、なにもかも。
奴に全てそっくりそのまま返してやれば構わない話なのだから。
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