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王都での休日02

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翌日。
さっそく教会長さんに会いに本部へ赴く。
いつものように受付でおとないを告げるとさっそくメイドのサリーさんが迎えにやって来てくれた。
淡々とした口調で、
「どうぞ」
と言うサリーさんについて、教会長さんの執務室に向かう。
みんなはまだ緊張気味のようだ。
その様子になんとなく苦笑いを浮かべながら歩いていると、あっという間に教会長さんの執務室に到着した。

「失礼します」
と言って扉をくぐる。
「お久しぶりね、聖女ジュリエッタ」
と優しい声で出迎えてくれる教会長さんに、
「ご無沙汰しております」
と型通り挨拶をすると、みんなを促がしてさっそくソファに腰掛けた。
「うふふ。お元気そうでなによりだわ」
という教会長さんに、
「おかげ様で、みんな元気に冒険させてもらっています」
と頭を下げる。
「まぁ、それはよかったわ。みなさんもいつもご苦労かけますね」
という教会長さんの言葉に、
「とんでもないです」
「はい。いつもご配慮いただきありがとうございます」
「…ありがとうございます」
とアイカ、ユナ、ベルも返事をすると、話は本題に入った。

「森の様子はどう?」
とざっくりと聞く教会長さんに、
「淀みは想定以上です。あと、浄化の魔導石の調整も想像していたよりひどい場合もあります」
と簡潔に答える。
すると教会長さんは、悲しそうな顔で、
「悲しいわね…」
とひと言だけ答えた。

そこへ、
「失礼します」
というサリーさんの声がしてお茶が運ばれてくる。
私たちは、それぞれにお茶をひと口飲むと、また話の続きを始めた。

「さすがにワイバーンや象の魔物は想定外だったわ。手紙を読みながらひやひやしたものよ…。武器を渡しておいて良かったわ」
とまるで保護者か学校の教員のように言って来る教会長さんに軽く礼を述べ、私は、
「私たちも想像以上の大物に驚きました。…しかし、この先はそれ以上、というのも考えられます」
と、現実の話をする。
その言葉を聞いて教会長さんはしばらく考え込み、
「作物の状況からある程度地脈の状態が悪いと判断したら、さらに護衛を付けるように手配しましょう。それまでは決して無理はしないでね?」
と心配そうな目を私たちに向けてきてくれた。

私がその言葉に、
「ありがとうございます」
と礼を述べると、教会長さんは、少し微笑んで、
「そうそう。一応、良いお話もあるのよ」
と教会長さんは気を取り直すように言って席を立つ。
そして、ややあって、いくつかの資料を持って戻って来ると、
「まず、こっちが各地の農作物や生産活動の報告書ね。いままで収集していたものよりずっと詳しいものよ」
と言って、そのうちいくつかを私に見せてくれた。
見ると、確かにこれまでの資料よりもより品目ごと、年毎、その品質に至るまで細かく書かれている。
(これなら、細かい変化にも気が付きやすそうね)
と思って見ていると、教会長さんが、
「クレインバッハ侯爵にご協力いただいたのよ」
と嬉しそうな顔でそう言った。
「くっ…」
とユナが、びっくりしたような顔で小さく言葉を発する。
おそらく、いきなり大物貴族の名前が出て来てびっくりしてしまったのだろう。
そんなユナに私は小さく苦笑いを浮かべて、
「実は少し前にお会いして、協力していただけることになったの。安心して、巻き込んだりはしないから」
というと、ユナはやや緊張したような表情で、コクリとうなずいてくれた。

「うふふ。それに、ジュリエッタが良く知っているあの方にもご協力いただいたわ」
と教会長さんがいたずらっぽい視線を私に向けてくる。
おそらく、名前を出すとみんなが余計に委縮してしまうと思ったのだろう。
私は、
「ありがとうございます。くれぐれもよろしくお伝えください」
と、心の中でエリオット殿下の姿を思い出しながら、そう教会長さんに告げた。
教会長さんは、そんな私に、
「うふふ」
と柔らかく微笑む。
そして、
「ええ。あちらは主に薬草関係の収量の低下の観点でのご意見をくださったわね。よく調べていただけました。おかげで、ギルドからの情報も入りやすくなったんですよ」
と嬉しそうな顔でそう報告してくれた。
私は、
(なるほど、そっちの観点もあったわね)
と思いつつ、
「なるほど、それは貴重な意見をいただきました。私も森に入った時は注意するようにいたします」
と答える。
私が軽く頭を下げていると、教会長さんは、また、
「うふふ」
と微笑み、
「ああ、そうそう。また近いうちに遊びに来て欲しいともおっしゃっていましたわ。寂しがってらっしゃるそうよ」
と言って、私に視線を向けてきた。
私はそんな視線に苦笑いを浮かべながら、
「では、今回の王都滞在中に是非一度訪ねさせていただきます」
と答え、リリエラ様の可愛らしい姿を思い出す。
(きっと、いろんな話を聞きたがっているんだろうなぁ)
と思うと、少し胸が温かくなった。

「それと、まだ王都や大都市の近郊だけだけど、浄化の魔導石の調整はこれまでよりも頻繁に行わせることにしたわ。…けっこうな反発があったけど、若手育成のためということで押し切ったの…。大変だったのよ?」
と苦笑いで冗談っぽくいう教会長さんに、
「ありがとうございます」
と頭を下げる。
しかし、その一方で、
(ちゃんと丁寧に村の人達の話を聞いたりできるかしら?)
という不安もあった。
そんな私の不安を見越してだろうか、教会長さんは、
「安心して。調整に行く者には必ず研修を受けさせることにしたの。あと、村の状況もちゃんと調査して報告書にまとめるようにと指示したから、そこまでひどいことにはならないと思うわ。…教会にも一部にはあなたと同じようにこのことを重く受け止めている人間もいるの。まずはそういう人たちに頑張ってもらうわね」
と言って、苦笑いを浮かべる。
私は見透かされたような気がして苦笑いを浮かべつつも、
「ご配慮痛み入ります」
と礼を述べて頭を下げた。
そこからはみんなも交えて冒険の話やチト村での生活の話なんかをして、比較的楽しいお茶会になる。
そして、みんながお茶を飲み終えた頃、私たちは教会長さんの執務室を辞して本部を出た。

「いやぁ…緊張したね」
「ええ。でも前ほどでは無かったわ」
「そうね。教会長様も良い人だし」
と緊張から解放された様子でほっとしながら会話をしているみんなを微笑ましく眺める。
そこで、ふと、
「ねぇ。ここまできたついでに寄りたいところがあるんだけど、ちょっと外していいかな?」
とみんなに聞いてみた。
「いいけど、なんで?」
とユナが不思議そうな顔で聞いてくる。
そのユナに対して私が、
「ほら、さっき私たちに協力してくれた人が侯爵様以外にもいるって話だったでしょ?その人、ほら、例のすっごい料理屋さんで会ったあの人なんだけど…。その人に約束を取り付けに行こうと思って…」
と少し気まずい感じでそう言うと、ユナは、
「じゃぁ、私たちはちょっとお茶でも飲んでから宿に戻るわね。お昼までには済みそう?」
と私の事情を何となく察して、そう言ってくれた。
「ありがとう。ああ、今回こそみんなは巻き込まないから、そこは安心しておいてね」
と言うと私は用事が終わったらみんなと宿で待ち合わせる約束をして、一人王宮の方へと足を向けた。

いつもの小さな門に着き、顔見知りの衛兵さんに用件を告げる。
すると、衛兵さんはすぐに奥に入っていって、しばらくすると、
「明日の昼であればエリオット殿下もお呼びできるとのことでしたから、その時間にお越しください」
と言伝を持ってきてくれた。

「わかりました」
と答えてその場を後にする。
そして、私は、ついでとばかりにあの本屋に立ち寄ると、ユリカちゃんや村の子供たちのために、何冊かの絵物語を買った。
(うふふ『リリトワ』の新作が手に入ったのは大きいわね。きっとユリカちゃんも村の子達も喜ぶわ…)
と思いながら、宿への道を軽い足取りで歩く。
貴族街の綺麗すぎる石畳とは違って、やや凹凸のある石畳の道を踏むと、
(ああ、やっぱり私はこっち側の人間よね)
という変な感慨を覚えた。
足早にみんなの待ついつもの安宿を目指す。
(さて、今日のお昼は何にしようかしら?)
そんなことを思うと、私の足取りはさらに軽くなっていった。
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