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再び「アイビー」と01

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フリエ村を出て6日。
ややのんびりと旅を進め、国境の宿場町ミリスフィアの町に入る。
私たちはさっそく宿をとり銭湯に向かうと、ゆっくりと旅の疲れを流した。
「ふいー…」
「ぬはぁ…」
「はぁ…」
「ふぅ…」
とそれぞれに息を漏らす。
しばらくぼんやりと浴場の天井を見上げると、
「明日、一応ギルドに顔を出しておこうか…。教会への報告書も出したいし、念のため、依頼の状況も見ておきたいし…」
と、みんなに話しかけた。
「…うん」
とアイカもまたぼんやりと呆けたような返事を返してくる。
「いいわね…。なんなら明日も一泊しちゃってもいいかもー…」
とユナも全身の力が抜けたような感じで返事を返してきた。
「いや、いくらなんでもそれはゆっくりし過ぎじゃない?」
とベルは一応異議を申し立ててくるが、その言葉に力はない。
みんなどこかぼんやりとしながら、明日からの予定を話しあった。
その結果。
一応、明日ギルドに顔を出すことまでは決まる。
その後は、依頼の状況次第で何も無ければそのまま発つことになった。

「あー。お腹空いてきちゃったや…」
というアイカの声でなんとかお風呂から上がる。
のんびり身なりを整えて銭湯を出ると、私たちはなんともふわふわした気分で今日の食事場所を探しに町へと繰り出した。

「私はちょっとさっぱりめの気分かな」
「ええ。私もそんな感じかも」
「えー。お肉がいいよ」
「まずはビール。それからあとは気分しだいね」
という会話をしながら、みんなの要望を叶えてくれそうな、少し広めの酒場に入る。
こういう店ならいろんな品が出てくるだろうから、それぞれの気分に合わせられるはずだ。
そんなことを考えながら、店の扉をくぐり適当な席に座った。

「とりあえず、ビール4つ!」
とアイカが元気に注文を出す。
やがてやって来たビールをまだほんのりと温かい体に流し込むと、一気にその刺激が全身を駆け巡った。
「「「「ぷはぁ…」」」」
と全員の声がそろう。
「ああ。このために生きてるのかもしれない…」
とベルが何やら哲学的なようでいてそうじゃないひと言を漏らすと、
「あはは。今日のベルはなんだか呑兵衛さんだね」
と言ってアイカが笑った。
「…いいじゃない。今日はたまたまそういう気分だったのよ」
とベルが照れて、ちょっとだけふてくされる。
「うふふ。なんだかんだでこの中だとベルが一番お酒強いもんね」
とユナが微笑みながらそう言って、楽しそうにジョッキを傾けた。

私も楽しい気分でまたビールをゴクリとひと口飲む。
そして、
「さて、食べ物は何にする?」
とみんなに声を掛けたところで、
「ジルお姉さん!」
という声が聞こえた。
「え?」
と思わず声を上げて、声がした方へ視線を向ける。
するとそこには笑顔で手をふる「アイビー」のリズの姿があった。

「え!?久しぶり!」
とこちらも手を振り返す。
すると、リズの後にいたミリアとマリも嬉しそうな笑顔を浮かべて「アイビー」の3人がこちらへやって来た。
「お久しぶりです、ジルお姉さん!」
とこちらにやって来たリズが元気よく挨拶してくる。
私ももう一度、
「久しぶり。元気だった?」
と挨拶を返した。

「知り合い?」
と横から聞いてくるアイカに、私は、
「ええ。『アイビー』っていってみんなと知り合う前に1度一緒に冒険したことがあるの」
と答えながら、辺りを見回す。
そして、店の真ん中に広めの席が空いているのを見つけると、
「お姉さん!あっちの広い席に移ってもいい?」
と、そばにいた接客係のお姉さんに聞いてみた。
「ええ。どうぞ」
とにこやかに言ってくれるお姉さんに礼を言って、
「とりあえず、飲みながら話しましょう」
と言ってみんなで席を移動する。
私は、アイビーの3人に、
「ビールでいい?」
と聞き、3人がうなずくのをみて、
「お姉さん、ビール3つ」
と、追加でお酒を注文した。

席を移動し、私はまず、
「改めて紹介するわね。この子たちは『アイビー』っていうパーティーでリズ、ミリア、マリっていうの。以前ドルトネス伯爵領のハース村ってところで、一緒に角ウサギの仕事をしたことがあるわ」
と、みんなに「アイビー」のことを簡単に紹介する。
そして、次は「アイビー」の3人に向かって、
「こっちは今私と一緒に行動してる仲間よ。アイカ、ユナ、ベルね。今日も冒険の帰りなの」
と簡単に私たちのことを紹介した。

「よろしくお願いします。リズです!」
「ミリアです」
「マリです」
と「アイビー」の3人が自己紹介し、みんなも、
「アイカだよ!」
「私はユナね」
「ベルよ」
と自己紹介をする。
すると、そこへ追加のビールがやって来たので、
「詳しい話は飲みながらにしましょう」
と言って、私は、
「乾杯!」
と言って、ジョッキを掲げた。
「乾杯!」
とみんなの声がそろう。
そして、急遽楽しい飲み会が始まった。

さっそく適当に料理を頼み、おしゃべりを始める。
まず私が、
「みんなは依頼で?」
と聞くと、リズが、
「はい。狼かオオトカゲに挑戦してみようと思って」
と今回この町に来た理由を教えてくれた。
それを聞いたベルが、
「いいわね。集団戦の練習にはもってこいよ」
とちょっとお姉さんっぽく答え、ユナも、
「ええ。ただ、オオトカゲはかゆみ止めが必須だけどね」
と、ちょっとお茶目な感じで、付け加える。
私も笑顔でうなずきながら、
「ええ。あれは大変だから気を付けてね。あと、お腹の薬も念のため持って行っておくといいわ」
と追加で薬の情報を付け加えてあげた。
するとアイカが、笑って、
「あはは。最近必要無いからすっかり忘れてたよ。ほんとにジル様々だよね」
と冗談っぽく言う。
そんな会話を聞いていたミリアが、
「え?それってどういうことですか?」
と質問してきた。

その質問に、私は、
(ああ、そう言えば)
と思って、
「ああ、ほら。例の聖魔法があるでしょ?あれって魔物の血を消してくれる効果もあるの。だから、私がいると、お洗濯とかゆみ止めいらずってわけ」
と、私たちに薬がいらない理由を教えてあげる。
すると、マリが、
「すごい!…羨ましいです…」
と本当に羨ましそうな顔をした。
そんなマリを見て、リズが、
「あはは。あの時は大変だったもんねぇ」
と苦笑いを浮かべる。
ミリアもやはり困ったような顔をして、
「ええ。何日もかゆみが引かなくて…」
と、おそらく当時を思い出したのだろう、いかにもかゆそうな顔でそう言った。

「うふふ。新人の頃はよくやる失敗ね」
とユナが笑う。
それにつづいて、ベルも、
「ええ。懐かしいわ」
と微笑みながらどこか遠くを見るような目になった。

そんな2人の話を聞いて、リズが、
「そうなんですね。よかった。私たちがドジなだけかと思って少し落ち込んでたんですよ」
と少し嬉しそうな顔になる。
「あはは。みんな通る道ってやつだね」
とアイカが笑うので、私は、
「私以外はね」
と冗談を付け加えてあげた。

「ふふ。そうね」
「ええ。羨ましいわ」
とユナとベルが苦笑いを浮かべる。
そんな楽しい会話をしながら、次々と運ばれてくる料理を食べ、楽しく飲んでその日の食事は終わった。

お腹をさすりながら、店を出たところで、
「明日みんなはギルドに寄るんでしょ?私たちも気になる依頼がないか見に行くことにしてるんだけど、よかったら一緒にどう?」
と明日、ギルドで待ち合わせないかと誘ってみる。
「いいんですか!?」
とリズがちょっと大げさなくらい嬉しそうな顔になり、ミリアとマリもそれぞれに目を輝かせた。
私はみんなの方をチラリとみてから、
「ええ。もちろんよ」
と笑顔で答える。
すると、
「「「ありがとうございます!」」」
と「アイビー」の3人が頭を下げてきた。

「うふふ。じゃぁ決まりね。依頼次第だけど、ちょっとしたコツくらいなら教えてあげられると思うわ」
とユナが微笑んで声を掛ける。
「「「はい。よろしくお願いします!」」」
とまた、頭を下げる「アイビー」の3人に、
「じゃぁ、よろしくね」
と言って、私たちはそれぞれの宿に戻っていった。

宿への帰り道、
「なんだか気持ちのいい子たちだったわね」
というベルに、私は、
「ええ。なんでだか知らないけど応援したくなっちゃう感じなの」
と少し照れながら、自分の正直な気持ちを話す。
その話を聞いて、ユナが、
「うふふ。なんとなくわかるわ」
と言い、アイカも、
「ああいう子達には立派な冒険者になって欲しいよね」
と言ってくれた。
私はなぜかその言葉が嬉しくて、
「ありがとう」
と返す。
「あらあら。すっかりお姉さんね」
とユナが笑い、アイカとベルも、
「あははっ」
「ふふっ」
と笑った。
なんとも言えないほんわかとした気持ちで宿までの道を歩く。
その道は満月の光にふんわりと照らされ、キラキラと輝いているように見えた。
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