上 下
69 / 137
03

実家へ01

しおりを挟む
オークとの一戦のあと、ベッツ村に帰って来た日の翌日。
ほんの少し寝不足気味で、しかし、なんとも清々しい気持ちで目覚める。
みんなと交わす朝の挨拶もどこか昨日までとは違って感じた。
そんな自分の心の変化をどこか嬉しく、気恥ずかしく思いながら、村長に見送られてベッツ村を発つ。
そして、私たちは私の実家クルツの町を目指して南に進路を取った。

道中、冒険が終わった気楽さもあって、楽しく進む。
世間話をしながら、進む中で、
「ねぇねぇ。ジルってどんな子供だったの?」
と、アイカが聞いてきた。
私はその質問に少し戸惑いながらも、
「どうって…。普通よ?学問所に行くようになってからは、勉強をして、その後、薙刀の稽古をして、夜はお店のお手伝い。そんな感じかな?」
とありのままを答える。
すると、それを聞いたアイカが、
「え?」
と驚いたような顔をした。
私はなんで驚いたのかわからなくて、逆に、
「ん?」
と問い返す。
私とアイカとの間に不思議な間が生まれ、ユナが、
「ぷっ」
と小さく噴き出した。
その後、ユナは、
「あはは。ごめんなさい。なんだか2人の温度差が面白くって…」
と言ってまた笑う。
その笑いに釣られてアイカも笑い出し、
「ジルって子供の頃から真面目だったんだね」
と言って微笑んだ。
私はそんな2人に、
「えー…」
と一応抗議する。
どうやら私は、自分では普通のことだと思っていたが、他人から見ればずいぶんとまじめな子供時代を送っていたらしい。
そのことに気付かされて私はなんだか恥ずかしいような気持ちになってしまった。

「そう言う2人はどんな子供だったのよ?」
と私はアイカとユナに仕返しのつもりで逆に質問する。
しかし、アイカもユナも平然としたもので、
「私は勉強もお手伝いもそっちのけで遊んでたかな?特に上の兄貴たちと遊ぶことが多かったから、やんちゃなものだったと思うよ。良く冒険者ごっことかしてたし」
と、アイカが答え、
「あら。私はちゃんとお手伝いもしてたわよ。でも、たしかにやんちゃだったかしら?小さい頃からおままごとよりもかけっこの方が好きだったから。よくお友達と近所の空き地を走り回ってたわ」
とユナもどこか懐かしそうな目でそう答えた。

私はなんだか一本取られたような気がして、次にベルに話を向ける。
すると、ベルは苦笑いで、
「私はジルと似た感じかもしれないわね」
と答えた。
「へぇ。なんとなく小さい頃から真面目だったんだろうなとは思ってたけど、どんな感じだったの?」
とさらに突っ込んで聞いてみる。
するとベルは、少し照れたような苦笑いを浮かべて、
「うちは実家の隣がギルドだったの」
と言い、続けて、昔のことをぽつりぽつりと語ってくれた。
なんでもジルの実家はギルドの隣にある冒険者向けの雑貨を扱う小さなお店だったらしい。
小さい頃から店やギルドに出入りする冒険者を見ていたベルは自然と将来は冒険者になりたいと思ったのだそうだ。
それで、学問所に通うようになるとすぐにギルドの訓練場に出入りするようになってそこで剣を覚えたという。
その話を聞いて私は、
(なんか似てるなぁ…)
と素直にそう思った。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、その話を聞いたアイカが、
「あはは。なんか2人ともそっくり!」
と言って笑う。
それに続いて、
「うふふ。そうね」
とユナも笑った。
私も、なんだかおかしくなって、
「ははは。そうかもね」
と言って笑う。
そんな私たちを見ていたベルも、
「もう…」
と言って、困ったような顔で笑った。

旅は笑顔のまま楽しく進む。
そして、そろそろ夕日が辺りを染め始めてきた頃、私たちの前にクルツの町の門が見えてきた。
さっそく町に入る。
懐かしい景色、懐かしい匂い。
クルツの町は私がこの町を離れた時と何も変わってはいない。
その景色を見て、
(ああ、帰ってきたんだなぁ…)
という当たり前の感想が心の奥底からじんわりと沁みだしてきた。

まずはみんなのための宿を取る。
うちの実家にはみんなを泊めてあげられるだけの部屋がない。
適当に宿をとると、さっそくみんなそろって銭湯に向かった。

小さい頃通った懐かしの銭湯で、いつものように、
「ふいー…」
とついつい声を出してしまう。
すると、やっぱりみんなから笑われてしまった。
恥ずかしくてついついお湯に顔を半分ほど埋める。
でも、友達とのそんなやり取りは妙に楽しくて、私は心の中でこっそりと微笑んでしまった。

手早くお風呂から上がり、さっそく実家へと向かう。
慣れ親しんだ道を妙に緊張して歩く。
初めて友達を連れて家に帰る。
そのことが私にその妙な緊張感をもたらしていた。
やがて店の前に着く。
「居酒屋 ルピナス」
それが、我が家が営む居酒屋の名前だ。
母さんが一番好きな花がルピナスだからその名前になったらしい。
私はひとつ大きく深呼吸をすると、目の前にある扉を開き、
「ただいま!」
と明るく声を掛けた。

「はい。い…、ジュリエッタ!」
という声とともに母さんが注文そっちのけで飛びついてくる。
すると、その声を聞きつけたのか、少し遅れて厨房の奥から父さんも、
「なにぃ!?」
と言いながら飛び出してきた。
「おぉ…。ジュリエッタ…」
という父さんはすでに涙ぐんでいる。
そして、母さんごとその大きくて太い腕で私を包み込んできた。

「ちょ、父さん暑苦しい…。ていうか、鍋とか平気なの?」
と声を掛ける。
すると、父さんは、
「いけねぇ!」
と言って慌てて奥の厨房へと戻っていった。
「久しぶりね…」
と母さんが私の顔を両手で挟み、優しく微笑みながら、そう声を掛けてくる。
「うん。ごめんね」
と私も無沙汰を謝りつつ、母さんの手に自分の手を添えた。
しばし見つめ合って、お互い照れくさそうに笑う。
すると、後ろから、
「うふふ。感動の対面ね」
というユナの声がした。

私は慌てて、
「そうそう。紹介するわ。最近一緒に冒険している仲間なの」
と言って、母さんにみんなを紹介する。
すると、母さんは少し驚いたような顔をしたあと、ニッコリと微笑んで、
「あらあら…。まぁ…。そうなのね。うちの子がいつもお世話になって…」
と言って軽く頭を下げた。
みんなも、
「アイカです!」
「ユナと申します」
「ララベルです」
とみんながそれぞれに自己紹介をする。
そして、
「あらやだ。私ったら…。店先でごめんなさいね。さぁどうぞ座って、今飲み物…えっと、とりあえずビールでいいのかしら?」
という母さんの声をきっかけに私たちはさっそく適当な席に着いた。

私が席に着くと、方々から、
「あれ?もしかしてジルちゃんかい?懐かしいねぇ」
とか、
「ちょっと見ない間に別嬪さんになったなぁ」
という常連のおっちゃんたちからの声がかかる。
私はそんな声にひとつひとつ答えながらビールの到着を小恥ずかしい気持ちで待った。

やがて、
「はい、お待ちどうさま」
と言って母さんがジョッキを4つ持ってきてくれる。
私たちはさっそく、
「「「「乾杯!」」」」
と声をそろえてビールを一気に流し込んだ。
お風呂上がりの火照った体に良く冷えたビールが沁み渡る。
私たちは思わず、
「「「「ぷはぁ…」」」」
と声をそろえてしまった。
「あはは」
と今度は笑い声がそろう。
そして、楽しい打ち上げが始まった。

やがて、次々と料理が運ばれてくる。
「前もって知らせてくれてりゃもっといい物を作ったんだが、あり合わせですまねぇ。でもまぁ、遠慮なく食ってくれ」
という父さんの言葉にみんなで礼を言ってさっそく料理に手を付ける。
「ん?このサケのフライ、美味しいね。身がほっくほくだよ!」
とアイカが嬉しそうにサケのフライを頬張ると、ユナも根菜と豚肉の黒酢炒めを食べながら、
「まぁ、優しい甘さで美味しいわ」
と言ってくれた。
「この卵焼きとっても甘いのね」
とベルも出汁巻き卵を美味しそうに頬張ってくれている。
私はそれが嬉しくて、
「こっちのギョーザも美味しいよ!餡にたっぷりのハクサイが入っているの」
と、我が家自慢のギョーザを勧めながらそのギョーザを頬張りビールを一気に流し込んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...