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地脈の異変07
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部屋に戻って手早く装備を外し、さっそく風呂に向かう。
すると、風呂の入り口でちょうどサーシャさんと落ち合った。
互いに「お疲れ様」と声を掛け合い、さっそく風呂に入る。
ゆっくりと湯船に浸かりながら、私からサーシャさんに声を掛けた。
「ねぇ。サーシャさん」
「なぁに?」
「いつもあんな感じなの?」
「ん?」
「いや。連携。すごく息が合ってたね」
「あー…。まぁ10年も一緒にやってれば自然とそうなるわね」
「そっか。ねぇ。なんであの2人と組んだの?」
「ん?うーん…。なんていうか流れ?」
「流れ?」
「そう。きっかけは同じ護衛の仕事に参加して会ったことだったけど、なんとなく気が合ってね。それでなんとなく一緒に行動するようになったって感じかな?」
「…そうなんだ」
「なぁに?パーティー組んでみたくなったとか?」
「え?いや…。そういう訳じゃないっていうか…」
「うふふ。楽しいわよ?…まぁ、大変なこともあるけど」
「例えば?」
「主にガンツの酒癖ね」
「あー…」
「ふふっ。いつかジルもそういう仲間に出会えるといいわね」
「…うん」
「うふふ。…さぁ、そろそろ上がりましょうか?」
「ええ」
「きっと今日のビールは美味しいわよ」
「ははは。そうね」
そんな会話を交わし2人して笑顔で風呂を出る。
そして、手早く着替えるとそのまま食堂へと向かって行った。
「お待たせ」
先に席についていた男2人声を掛け、席に着く。
すると間髪入れず、ガンツのおっさんが、
「おう待ってたぜ。姉ちゃん、ビール4つだ!」
と、やや馴れ馴れしく店員のお姉さんに声を掛けた。
ややあって、
「お待ちどうさま!」
という元気な声とともにビールがやって来る。
私たちはすぐさまジョッキを手に取ると、
「「「「乾杯っ!」」」」
と誰からともなく音頭を取って、打ち上げが始まった。
「「「「ぷっはぁ…」」」」
と全員の声がそろう。
そして、みんなで笑い合っていると、
「つまみは適当に頼んどいたぜ」
というガンツのおっさんの言葉通り次々と料理がやってきた。
サラダに始まり、揚げ芋、メンチカツ、手羽先、ラザニア、鹿肉のローストに厚切りチャーシュー。
その全てが人数分のてんこ盛り。
その量を見て、私は、
(ていうか、多くない?しかも、肉ばっかり)
と、やや圧倒されたが、『烈火』の3人は迷わずそれぞれが選んだ肉にかぶりついている。
(うわ。こりゃ負けてられないわ)
と私の中で謎の闘争心に火が着き、私もまずは半熟の目玉焼きが乗った厚切りチャーシューにかぶりついた。
卵の黄身のとろっとした口当たりと分厚いチャーシューの噛み応えがたまらない。
奥からあふれ出てくる肉汁と塩気を感じて一気にビールを流し込む。
次にメンチカツのソースの味でまたビールを流し込むと、私は勢いよく、
「お替りっ!4つね!」
とお姉さんに向かって注文した。
「お。なかなかやるじゃねぇか」
というガンツのおっさんに、私が少しドヤ顔で、
「こう見えて居酒屋育ちなのよ」
と言うと、ガンツのおっさんが、
「ほう。そいつぁなかなかのエリートさんじゃねぇか。よし、今日は勝負だ!」
と言って来る。
しかし、そのガンツのおっさんの頭をサーシャさんがパチンと叩いて、
「今日は、私がいるってことを忘れないでよ」
とジト目を向けた。
ガンツのおっさんが一気にシュンとなる。
「ははは。勝負はお預けね」
と私が笑うと、ガンツのおっさんは、
「ああ。今日の所は見逃してやるよ」
と、苦笑いで吐き捨てた。
その後も笑い声が響き、お酒が進む。
宴席も中盤に差し掛かってきた頃、私は思い切ってアインさんに、
「ねぇ。あの強化魔法ってどうやって覚えたの?」
と聞いてみた。
しかし、アインさんは、
「あー…。あれな。実はサーシャに言われるまで知らなかったんだ。あれが強化魔法だってな」
と、頭を掻きながら申し訳なさそうな顔になる。
「え?どういうこと?」
と聞くと横からサーシャさんが、
「こいつはいわゆる天才ってやつね。理屈じゃなく感覚派って言えばいいのかしら。とにかくこいつのあれは特別ってことね」
と説明してくれて、アインさんも、
「ああ。なんていうか、こう、体の中が、『ぐわぁ』ってなってその熱が剣に移っていくって感じだ」
と、なんとも抽象的な説明をしてくれた。
私が、
(なんじゃそりゃ?)
と思っていると、アインさんは少し慌てて、
「ああ、でも。今回ジルのあの聖魔法を見てちょっと似てるなって思ったぞ。なんていうか、あの地面に走ってたあの線があるだろ?あれが体の中にあって、そこに魔力を流す感じっていうか…。まぁ、イメージはそんな感じだ」
と、なんとなく自分の中の感覚らしきものを言葉にしようとしてくれる。
私はまたぽかんとしてしまったが、ふと、
(え?体の中にも魔素の流れがあって、それを感じてるってこと?)
ということに気が付き、
「ちょ、それ詳しく!」
とやや前のめりでアインさんに詰め寄った。
その後、しどろもどろながらもアインさんが説明してくれた理屈によると、集中しているとあの地脈の流れに似た線が自分の体の中にあるようなイメージがあって、それに沿って魔素を巡らせるように動かしているのだという。
私は、またしても、
(なに、それ?)
と思いつつその話を聞き、そこから、
(要するに自分の中の地脈を整えてやるってことよね?だとしたら、私も習得できる可能性があるんじゃないかしら?)
ということに気が付いた。
「すまん、やっぱり上手く説明できん」
とまた申し訳なさそうな顔をするアインさんに、私は、
「いや。十分よ。参考になったわ。ありがとう」
と素直に礼を述べる。
(とりあえず私の目指すべき所にひとつの道標ができた。魔素の調整なら聖女の専門だもの。もしかしたら、それがいかせるかもしれないってことよね)
と思うと、私は未来へのきっかけが見えたような気がして、嬉しさを感じ、目の前にあったジョッキを大きく傾けた。
翌朝。
少しだけ痛む頭を抱えて朝食の席へ向かう。
そこで、
「今回はいい勉強になったわ」
とアインさん、サーシャさんと握手を交わし、ついでにガンツのおっさんとも握手をしてあげた。
私たちは冒険者らしく手早く朝食を済ませると、それぞれの道を歩む。
私は教会長さんへの手紙を書きに部屋へ戻り、『烈火』の3人は次の冒険へと向かって行った。
今回わかったことは既存の浄化の魔導石だけでは地脈の変化に対応できていないということ。
それが予想以上に深刻で、携帯用の浄化の魔導石では応急処置にしかならなかったこと。
あと、今後、それを解消するのであれば冒険者との協力や新たな浄化の魔導石の設置が欠かせなくなってくるだろうことだ。
私にできることはする。
ただし、私一人で出来ることは限られているから、本部にも動いてもらわなければならない。
聖女の仕事の形骸化は予想以上に深刻だ。
そのことを切々と手紙にしたためた。
(さて、どうなることやら…)
そう思ってペンを置く。
宿の窓から差し込んでくる春の日差しは私がチト村を出た時よりもずいぶんと暖かくなっているように感じられた。
(元気かな)
ユリカちゃんとアンナさんの顔を思い浮かべる。
なんとなくしんみりとするようなほっこりとするような、そんなじんわりとした温かさを胸の中に感じ、私は荷物をまとめ始めた。
昼前。
近所で野菜を分けてもらってエリーのもとへ向かう。
いつものように甘えてくるエリーにたっぷりとニンジンをあげて撫でてやると、少し落ち着いた所で荷物を積ませてもらった。
「さぁ、帰ろうか」
という私の声に、エリーが、
「ひひん!」
と元気よく鳴いて答える。
私は、
(さて、今回のお土産は魚の干物ね。ちょっと遠回りになっちゃうけど、その分喜んでもらえるかな?)
と考えながら、エリーに跨り、前進の合図を出した。
穏やかな春の日差しに照らされ、野の花がそよ風に揺れるあぜ道を進む。
私はただ真っすぐその道の先を見つめてエリーの背に揺られた。
すると、風呂の入り口でちょうどサーシャさんと落ち合った。
互いに「お疲れ様」と声を掛け合い、さっそく風呂に入る。
ゆっくりと湯船に浸かりながら、私からサーシャさんに声を掛けた。
「ねぇ。サーシャさん」
「なぁに?」
「いつもあんな感じなの?」
「ん?」
「いや。連携。すごく息が合ってたね」
「あー…。まぁ10年も一緒にやってれば自然とそうなるわね」
「そっか。ねぇ。なんであの2人と組んだの?」
「ん?うーん…。なんていうか流れ?」
「流れ?」
「そう。きっかけは同じ護衛の仕事に参加して会ったことだったけど、なんとなく気が合ってね。それでなんとなく一緒に行動するようになったって感じかな?」
「…そうなんだ」
「なぁに?パーティー組んでみたくなったとか?」
「え?いや…。そういう訳じゃないっていうか…」
「うふふ。楽しいわよ?…まぁ、大変なこともあるけど」
「例えば?」
「主にガンツの酒癖ね」
「あー…」
「ふふっ。いつかジルもそういう仲間に出会えるといいわね」
「…うん」
「うふふ。…さぁ、そろそろ上がりましょうか?」
「ええ」
「きっと今日のビールは美味しいわよ」
「ははは。そうね」
そんな会話を交わし2人して笑顔で風呂を出る。
そして、手早く着替えるとそのまま食堂へと向かって行った。
「お待たせ」
先に席についていた男2人声を掛け、席に着く。
すると間髪入れず、ガンツのおっさんが、
「おう待ってたぜ。姉ちゃん、ビール4つだ!」
と、やや馴れ馴れしく店員のお姉さんに声を掛けた。
ややあって、
「お待ちどうさま!」
という元気な声とともにビールがやって来る。
私たちはすぐさまジョッキを手に取ると、
「「「「乾杯っ!」」」」
と誰からともなく音頭を取って、打ち上げが始まった。
「「「「ぷっはぁ…」」」」
と全員の声がそろう。
そして、みんなで笑い合っていると、
「つまみは適当に頼んどいたぜ」
というガンツのおっさんの言葉通り次々と料理がやってきた。
サラダに始まり、揚げ芋、メンチカツ、手羽先、ラザニア、鹿肉のローストに厚切りチャーシュー。
その全てが人数分のてんこ盛り。
その量を見て、私は、
(ていうか、多くない?しかも、肉ばっかり)
と、やや圧倒されたが、『烈火』の3人は迷わずそれぞれが選んだ肉にかぶりついている。
(うわ。こりゃ負けてられないわ)
と私の中で謎の闘争心に火が着き、私もまずは半熟の目玉焼きが乗った厚切りチャーシューにかぶりついた。
卵の黄身のとろっとした口当たりと分厚いチャーシューの噛み応えがたまらない。
奥からあふれ出てくる肉汁と塩気を感じて一気にビールを流し込む。
次にメンチカツのソースの味でまたビールを流し込むと、私は勢いよく、
「お替りっ!4つね!」
とお姉さんに向かって注文した。
「お。なかなかやるじゃねぇか」
というガンツのおっさんに、私が少しドヤ顔で、
「こう見えて居酒屋育ちなのよ」
と言うと、ガンツのおっさんが、
「ほう。そいつぁなかなかのエリートさんじゃねぇか。よし、今日は勝負だ!」
と言って来る。
しかし、そのガンツのおっさんの頭をサーシャさんがパチンと叩いて、
「今日は、私がいるってことを忘れないでよ」
とジト目を向けた。
ガンツのおっさんが一気にシュンとなる。
「ははは。勝負はお預けね」
と私が笑うと、ガンツのおっさんは、
「ああ。今日の所は見逃してやるよ」
と、苦笑いで吐き捨てた。
その後も笑い声が響き、お酒が進む。
宴席も中盤に差し掛かってきた頃、私は思い切ってアインさんに、
「ねぇ。あの強化魔法ってどうやって覚えたの?」
と聞いてみた。
しかし、アインさんは、
「あー…。あれな。実はサーシャに言われるまで知らなかったんだ。あれが強化魔法だってな」
と、頭を掻きながら申し訳なさそうな顔になる。
「え?どういうこと?」
と聞くと横からサーシャさんが、
「こいつはいわゆる天才ってやつね。理屈じゃなく感覚派って言えばいいのかしら。とにかくこいつのあれは特別ってことね」
と説明してくれて、アインさんも、
「ああ。なんていうか、こう、体の中が、『ぐわぁ』ってなってその熱が剣に移っていくって感じだ」
と、なんとも抽象的な説明をしてくれた。
私が、
(なんじゃそりゃ?)
と思っていると、アインさんは少し慌てて、
「ああ、でも。今回ジルのあの聖魔法を見てちょっと似てるなって思ったぞ。なんていうか、あの地面に走ってたあの線があるだろ?あれが体の中にあって、そこに魔力を流す感じっていうか…。まぁ、イメージはそんな感じだ」
と、なんとなく自分の中の感覚らしきものを言葉にしようとしてくれる。
私はまたぽかんとしてしまったが、ふと、
(え?体の中にも魔素の流れがあって、それを感じてるってこと?)
ということに気が付き、
「ちょ、それ詳しく!」
とやや前のめりでアインさんに詰め寄った。
その後、しどろもどろながらもアインさんが説明してくれた理屈によると、集中しているとあの地脈の流れに似た線が自分の体の中にあるようなイメージがあって、それに沿って魔素を巡らせるように動かしているのだという。
私は、またしても、
(なに、それ?)
と思いつつその話を聞き、そこから、
(要するに自分の中の地脈を整えてやるってことよね?だとしたら、私も習得できる可能性があるんじゃないかしら?)
ということに気が付いた。
「すまん、やっぱり上手く説明できん」
とまた申し訳なさそうな顔をするアインさんに、私は、
「いや。十分よ。参考になったわ。ありがとう」
と素直に礼を述べる。
(とりあえず私の目指すべき所にひとつの道標ができた。魔素の調整なら聖女の専門だもの。もしかしたら、それがいかせるかもしれないってことよね)
と思うと、私は未来へのきっかけが見えたような気がして、嬉しさを感じ、目の前にあったジョッキを大きく傾けた。
翌朝。
少しだけ痛む頭を抱えて朝食の席へ向かう。
そこで、
「今回はいい勉強になったわ」
とアインさん、サーシャさんと握手を交わし、ついでにガンツのおっさんとも握手をしてあげた。
私たちは冒険者らしく手早く朝食を済ませると、それぞれの道を歩む。
私は教会長さんへの手紙を書きに部屋へ戻り、『烈火』の3人は次の冒険へと向かって行った。
今回わかったことは既存の浄化の魔導石だけでは地脈の変化に対応できていないということ。
それが予想以上に深刻で、携帯用の浄化の魔導石では応急処置にしかならなかったこと。
あと、今後、それを解消するのであれば冒険者との協力や新たな浄化の魔導石の設置が欠かせなくなってくるだろうことだ。
私にできることはする。
ただし、私一人で出来ることは限られているから、本部にも動いてもらわなければならない。
聖女の仕事の形骸化は予想以上に深刻だ。
そのことを切々と手紙にしたためた。
(さて、どうなることやら…)
そう思ってペンを置く。
宿の窓から差し込んでくる春の日差しは私がチト村を出た時よりもずいぶんと暖かくなっているように感じられた。
(元気かな)
ユリカちゃんとアンナさんの顔を思い浮かべる。
なんとなくしんみりとするようなほっこりとするような、そんなじんわりとした温かさを胸の中に感じ、私は荷物をまとめ始めた。
昼前。
近所で野菜を分けてもらってエリーのもとへ向かう。
いつものように甘えてくるエリーにたっぷりとニンジンをあげて撫でてやると、少し落ち着いた所で荷物を積ませてもらった。
「さぁ、帰ろうか」
という私の声に、エリーが、
「ひひん!」
と元気よく鳴いて答える。
私は、
(さて、今回のお土産は魚の干物ね。ちょっと遠回りになっちゃうけど、その分喜んでもらえるかな?)
と考えながら、エリーに跨り、前進の合図を出した。
穏やかな春の日差しに照らされ、野の花がそよ風に揺れるあぜ道を進む。
私はただ真っすぐその道の先を見つめてエリーの背に揺られた。
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