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地脈の異変02
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私がチト村に帰って来てそろそろ2週間。
『おしゃれ魔女リリトワと小人の国』は案の定ユリカちゃんのお気に入りとなり、毎日ココと一緒に一生懸命読んでは、リリトワちゃんごっこに興じるという日々を送っている。
私も平穏な日々の中、『行脚日記』を読んだり『新・薬草大全』を見ながら、村の周辺で取れる薬草からちょっとした薬を作る毎日を送っていた。
そして、そんな平穏はいつものように教会からの手紙で破られる。
しかし、今度の手紙は分厚い。
(なんだろう?)
と思って見てみると、まず、先日王都で見たあの資料のように各地の作物の状況と周辺の魔物の発生情報が書かれた資料が入っていた。
添えられていた教会長からの手紙を開封する。
その手紙曰く、現在それらしき兆候が書類上から見て取れるのは5地点。
その中でもやはり、最初に挙げられた候補地点、エリストル伯爵領の北にあるエント村が最優先だろうとのこと。
私はその手紙をため息交じりに書類棚に仕舞うと、いつものように指示書に目を通した。
すると、そこには意外なことに、今回は護衛の冒険者を付ける、という旨の記述がある。
(え?いや、いらないわよ、そんなもの)
と思うが、すでに先方には連絡済みとの記載もあるから今更断れない。
私はさらに深いため息を吐くと、いつものように重たい気分でユリカちゃんのもとへと向かった。
その日の晩ご飯。
ちょっと拗ねてるユリカちゃんと一緒にビーフシチューを食べる。
原因は、私が、
エリストル伯爵領エント村までは片道十数日ほどかかる。
おそらく2か月近くは帰って来られないだろう。
と告げたことだ。
それでも、今回はココがいるからほんの少しは寂しさがまぎれるだろうと思って、ココに、
「一緒に寝てあげてね」
と声を掛け、ユリカちゃんを宥めながら、少ししょっぱいビーフシチューを食べた。
翌朝。
手早く朝食を済ませて、さっそくエリーに荷物を積み込む。
また辛い時間がやって来た。
それでも私は努めて笑顔で、ユリカちゃんにしばしの別れを告げる。
寂しそうな顔のユリカちゃんの頭をそっと撫でてあげると、
「なるべく早く帰ってきてね」
という言葉が帰って来た。
「うん。なるべく早く帰ってくるね」
と声を掛けてエリーに跨る。
そして、いつものように後ろ髪を引かれながら、私はアンナさんの家を後にした。
「今回はちょっと長くなるの。おねがいね『駐在さん』」
といつものようにジミーに声を掛け、
「ああ。任せとけ」
という意外にも真面目な返事を聞いて門をくぐる。
もうずいぶんと温かい。
帰って来る頃には畑が緑になっている頃だろう。
そんなことを思いながら私はいつものように裏街道へと向かって行った。
順調に進むこと5日。
補給に立ち寄った町でギルドに顔を出す。
ハース村の件もあって、何か異変につながるような依頼は無いかと思って見ていると、熊の魔物退治の依頼があった。
地図を見ると、この町から半日ほどのリッツ村という小さな村からの依頼らしい。
見ると依頼料が金貨1枚と安いから引き受け手がいないようだ。
1週間ほどそのままになっているように見受けられる。
私はとりあえず状況を聞きにその依頼表を持って受付に向かった。
聞くところによるとそのリッツ村というのは、本当に小さな村で、十数軒の農家が身を寄せ合うようにして暮らしている所らしい。
もはや村というより集落だ。
そんな村からの依頼だから報酬も安い。
この時期から本格的に森の魔物は動き出す。
おそらく近いうちに村の生活に影響が出てくることだろう。
そう思って私は、その依頼を引き受けることにした。
(寄り道になっちゃうけど、仕方ないよね…)
と自分のお人好し加減にため息を吐きながらも、
(民のために働いてこそ聖女ってものよね)
と苦笑いを浮かべる。
そして、
(おそらく、浄化の魔導石も見ておく必要があるんだろうなぁ…)
と何となくの予感を抱きながら、そのリッツ村を目指してさっそく出発した。
夕方。
どうにかそのリッツ村に着く。
村の門というよりもちょっとした柵をくぐり適当な家で村長宅を訪ねた。
熊の依頼を受けた冒険者だと言うとその村人は喜んで村長宅に案内してくれたので、遅い時間に申し訳ないと思いながらもさっそく村長に状況を訪ねる。
すると、状況は思っていたよりもやや深刻で、熊の魔物が出るせいで森に近づけないから、そろそろ薪の備蓄が少なくなってきているそうだ。
また、山菜や果実を取りに森に入れないから、これからの生活に支障が出るかもしれないという。
そんな状況を聞き、その日は村長宅に泊めてもらうと、私は翌朝早くまずは聖女のバッチを見せて、浄化の魔導石のある祠へと案内してもらった。
悪い予感ほどよく当たる。
私が心配していた通り、その浄化の魔導石にも流れ込んでくる魔素の流れが少なくなっていた。
そんな状況を確認し、丹念に調整を行う。
そして、村長に、
「ちょっとした調整だけしておきました。なんの問題もありませんでしたよ」
と方便を使うと、エリーのことを頼みさっそく森の中へと入っていった。
熊の痕跡を追う事2日。
徐々に濃くなる気配に気を配りながら進む。
すると、間もなくして熊の魔物と出くわした。
辺りは村人によって適度に管理されているらしく、木々の間隔がやや広い林。
春のことで、下草の緑が瑞々しくちらほらと白く小さな花も咲いている。
そんな美しい光景の中、私は熊の魔物としばし睨み合った。
熊の魔物は体長2メートルほどだろうか。
唸り声をあげてこちらを威嚇してきている。
どうやら若いオスのようだ。
熊の魔物にしては体が小さく、大きくなれば毒々しい紫色になるはずの体毛もまだどこか薄い色をしていた。
私は油断なく構え、真っ直ぐにその熊の魔物を見つめる。
(目をそらせば一気に襲い掛かってくる。焦れた方が負けだ)
そう思って私は集中力切らさないようにしながら、慎重に間合いを測った。
熊の魔物は普通の熊よりも獰猛だ。
こちらの気迫に押されて逃げるということはまずない。
熊の魔物の唸り声以外は何の音もしない時間がしばし流れる。
果たして、先にしびれを切らしたのは熊の魔物の方だった。
「グオォォ!」
という声とともに、こちらに突っ込んでくる熊に私も真っすぐ突っ込んでいく。
一瞬のためを作り一気に薙刀を突くとヤツは器用にそれをかわした。
私の左側からヤツの前脚が振り下ろされる。
しかし、私はその攻撃に対して下から跳ね上げるようにして薙刀を合わせた。
ヤツの前脚の半ばまで薙刀が食い込む。
「グギャァァ!」
と声がしてヤツが痛がってのけぞった。
私も衝突の衝撃で少し後ろによろめく。
しかし、そこを1歩でこらえて思いっきり踏ん張ると、またヤツに向かって突きを放った。
ヤツの首元に薙刀の刃先が食い込む。
一瞬ヤツが痙攣するようにビクッと動くと、そこで勝負は決まった。
「ふぅ…」
と安堵の息を吐き、残身を解く。
私は薙刀の刃先に軽く拭いを掛けると、革鞘に納め、さっそく解体の作業に取り掛かった。
なるべく丁寧に皮を剥いでいく。
私は解体があまり上手じゃない。
2、3時間かけてようやく皮を剥ぎ終えた。
次に魔石を取りだすと、やっとそこでひと息。
近くに置いてある背嚢を取りに少し戻る。
そして、その中からまずはコンロを取り出すと、まずはお茶を淹れた。
適当な倒木に腰掛けてゆっくりとお茶を飲む。
辺りは夕日に染まり始めているから、今日はここで野営になるだろう。
そんなことを思いながら、お茶を飲み干し、次に携帯型の浄化の魔導石を取り出した。
途中、魔物の居所を調べる時にも思ったが、やはり魔素が濃く淀んでいる。
ハース村と同じだ。
(これって思ったより異常が起きてる地点が多いってことなんじゃ…)
という可能性が頭をよぎった。
もしそうなれば大変なことになる。
(偶然?いや、偶然にしては…)
と、いろいろな可能性に考えを巡らせながらもまずは集中して目の前の異常に対処した。
また2日後の夕方。
村に戻り、村長に熊の魔物を討伐したことを伝え、剥ぎ取った皮を渡す。
旅の途中で荷物になるから村に寄贈するというと、当然遠慮されたが最終的にはなんとか押し付けることができた。
その日は村長宅で久しぶりに安心して床に就く。
私は、こうして屋根の下で横になれることに感謝し、これからこの村の人達もしばらくは安心して暮らせるだろうということを思って目を閉じた。
翌朝。
村の人達に見送られてリッツ村を後にする。
金貨1枚と魔石がおよそ金貨2、3枚。
危険の割に少ない報酬かもしれないが、それでも私は満足していた。
(民のために働いてこそ聖女)
そんな言葉をひとり胸の中で唱える。
これは表立って声高に言う事じゃない。
ただ、全ての聖女が信念として心に持っておかなければならないことだ。
きっとそれがこの世界における聖女の役目なのだろう。
そんなことを感じながら私はまたエリーと一緒に裏街道へと戻っていった。
『おしゃれ魔女リリトワと小人の国』は案の定ユリカちゃんのお気に入りとなり、毎日ココと一緒に一生懸命読んでは、リリトワちゃんごっこに興じるという日々を送っている。
私も平穏な日々の中、『行脚日記』を読んだり『新・薬草大全』を見ながら、村の周辺で取れる薬草からちょっとした薬を作る毎日を送っていた。
そして、そんな平穏はいつものように教会からの手紙で破られる。
しかし、今度の手紙は分厚い。
(なんだろう?)
と思って見てみると、まず、先日王都で見たあの資料のように各地の作物の状況と周辺の魔物の発生情報が書かれた資料が入っていた。
添えられていた教会長からの手紙を開封する。
その手紙曰く、現在それらしき兆候が書類上から見て取れるのは5地点。
その中でもやはり、最初に挙げられた候補地点、エリストル伯爵領の北にあるエント村が最優先だろうとのこと。
私はその手紙をため息交じりに書類棚に仕舞うと、いつものように指示書に目を通した。
すると、そこには意外なことに、今回は護衛の冒険者を付ける、という旨の記述がある。
(え?いや、いらないわよ、そんなもの)
と思うが、すでに先方には連絡済みとの記載もあるから今更断れない。
私はさらに深いため息を吐くと、いつものように重たい気分でユリカちゃんのもとへと向かった。
その日の晩ご飯。
ちょっと拗ねてるユリカちゃんと一緒にビーフシチューを食べる。
原因は、私が、
エリストル伯爵領エント村までは片道十数日ほどかかる。
おそらく2か月近くは帰って来られないだろう。
と告げたことだ。
それでも、今回はココがいるからほんの少しは寂しさがまぎれるだろうと思って、ココに、
「一緒に寝てあげてね」
と声を掛け、ユリカちゃんを宥めながら、少ししょっぱいビーフシチューを食べた。
翌朝。
手早く朝食を済ませて、さっそくエリーに荷物を積み込む。
また辛い時間がやって来た。
それでも私は努めて笑顔で、ユリカちゃんにしばしの別れを告げる。
寂しそうな顔のユリカちゃんの頭をそっと撫でてあげると、
「なるべく早く帰ってきてね」
という言葉が帰って来た。
「うん。なるべく早く帰ってくるね」
と声を掛けてエリーに跨る。
そして、いつものように後ろ髪を引かれながら、私はアンナさんの家を後にした。
「今回はちょっと長くなるの。おねがいね『駐在さん』」
といつものようにジミーに声を掛け、
「ああ。任せとけ」
という意外にも真面目な返事を聞いて門をくぐる。
もうずいぶんと温かい。
帰って来る頃には畑が緑になっている頃だろう。
そんなことを思いながら私はいつものように裏街道へと向かって行った。
順調に進むこと5日。
補給に立ち寄った町でギルドに顔を出す。
ハース村の件もあって、何か異変につながるような依頼は無いかと思って見ていると、熊の魔物退治の依頼があった。
地図を見ると、この町から半日ほどのリッツ村という小さな村からの依頼らしい。
見ると依頼料が金貨1枚と安いから引き受け手がいないようだ。
1週間ほどそのままになっているように見受けられる。
私はとりあえず状況を聞きにその依頼表を持って受付に向かった。
聞くところによるとそのリッツ村というのは、本当に小さな村で、十数軒の農家が身を寄せ合うようにして暮らしている所らしい。
もはや村というより集落だ。
そんな村からの依頼だから報酬も安い。
この時期から本格的に森の魔物は動き出す。
おそらく近いうちに村の生活に影響が出てくることだろう。
そう思って私は、その依頼を引き受けることにした。
(寄り道になっちゃうけど、仕方ないよね…)
と自分のお人好し加減にため息を吐きながらも、
(民のために働いてこそ聖女ってものよね)
と苦笑いを浮かべる。
そして、
(おそらく、浄化の魔導石も見ておく必要があるんだろうなぁ…)
と何となくの予感を抱きながら、そのリッツ村を目指してさっそく出発した。
夕方。
どうにかそのリッツ村に着く。
村の門というよりもちょっとした柵をくぐり適当な家で村長宅を訪ねた。
熊の依頼を受けた冒険者だと言うとその村人は喜んで村長宅に案内してくれたので、遅い時間に申し訳ないと思いながらもさっそく村長に状況を訪ねる。
すると、状況は思っていたよりもやや深刻で、熊の魔物が出るせいで森に近づけないから、そろそろ薪の備蓄が少なくなってきているそうだ。
また、山菜や果実を取りに森に入れないから、これからの生活に支障が出るかもしれないという。
そんな状況を聞き、その日は村長宅に泊めてもらうと、私は翌朝早くまずは聖女のバッチを見せて、浄化の魔導石のある祠へと案内してもらった。
悪い予感ほどよく当たる。
私が心配していた通り、その浄化の魔導石にも流れ込んでくる魔素の流れが少なくなっていた。
そんな状況を確認し、丹念に調整を行う。
そして、村長に、
「ちょっとした調整だけしておきました。なんの問題もありませんでしたよ」
と方便を使うと、エリーのことを頼みさっそく森の中へと入っていった。
熊の痕跡を追う事2日。
徐々に濃くなる気配に気を配りながら進む。
すると、間もなくして熊の魔物と出くわした。
辺りは村人によって適度に管理されているらしく、木々の間隔がやや広い林。
春のことで、下草の緑が瑞々しくちらほらと白く小さな花も咲いている。
そんな美しい光景の中、私は熊の魔物としばし睨み合った。
熊の魔物は体長2メートルほどだろうか。
唸り声をあげてこちらを威嚇してきている。
どうやら若いオスのようだ。
熊の魔物にしては体が小さく、大きくなれば毒々しい紫色になるはずの体毛もまだどこか薄い色をしていた。
私は油断なく構え、真っ直ぐにその熊の魔物を見つめる。
(目をそらせば一気に襲い掛かってくる。焦れた方が負けだ)
そう思って私は集中力切らさないようにしながら、慎重に間合いを測った。
熊の魔物は普通の熊よりも獰猛だ。
こちらの気迫に押されて逃げるということはまずない。
熊の魔物の唸り声以外は何の音もしない時間がしばし流れる。
果たして、先にしびれを切らしたのは熊の魔物の方だった。
「グオォォ!」
という声とともに、こちらに突っ込んでくる熊に私も真っすぐ突っ込んでいく。
一瞬のためを作り一気に薙刀を突くとヤツは器用にそれをかわした。
私の左側からヤツの前脚が振り下ろされる。
しかし、私はその攻撃に対して下から跳ね上げるようにして薙刀を合わせた。
ヤツの前脚の半ばまで薙刀が食い込む。
「グギャァァ!」
と声がしてヤツが痛がってのけぞった。
私も衝突の衝撃で少し後ろによろめく。
しかし、そこを1歩でこらえて思いっきり踏ん張ると、またヤツに向かって突きを放った。
ヤツの首元に薙刀の刃先が食い込む。
一瞬ヤツが痙攣するようにビクッと動くと、そこで勝負は決まった。
「ふぅ…」
と安堵の息を吐き、残身を解く。
私は薙刀の刃先に軽く拭いを掛けると、革鞘に納め、さっそく解体の作業に取り掛かった。
なるべく丁寧に皮を剥いでいく。
私は解体があまり上手じゃない。
2、3時間かけてようやく皮を剥ぎ終えた。
次に魔石を取りだすと、やっとそこでひと息。
近くに置いてある背嚢を取りに少し戻る。
そして、その中からまずはコンロを取り出すと、まずはお茶を淹れた。
適当な倒木に腰掛けてゆっくりとお茶を飲む。
辺りは夕日に染まり始めているから、今日はここで野営になるだろう。
そんなことを思いながら、お茶を飲み干し、次に携帯型の浄化の魔導石を取り出した。
途中、魔物の居所を調べる時にも思ったが、やはり魔素が濃く淀んでいる。
ハース村と同じだ。
(これって思ったより異常が起きてる地点が多いってことなんじゃ…)
という可能性が頭をよぎった。
もしそうなれば大変なことになる。
(偶然?いや、偶然にしては…)
と、いろいろな可能性に考えを巡らせながらもまずは集中して目の前の異常に対処した。
また2日後の夕方。
村に戻り、村長に熊の魔物を討伐したことを伝え、剥ぎ取った皮を渡す。
旅の途中で荷物になるから村に寄贈するというと、当然遠慮されたが最終的にはなんとか押し付けることができた。
その日は村長宅で久しぶりに安心して床に就く。
私は、こうして屋根の下で横になれることに感謝し、これからこの村の人達もしばらくは安心して暮らせるだろうということを思って目を閉じた。
翌朝。
村の人達に見送られてリッツ村を後にする。
金貨1枚と魔石がおよそ金貨2、3枚。
危険の割に少ない報酬かもしれないが、それでも私は満足していた。
(民のために働いてこそ聖女)
そんな言葉をひとり胸の中で唱える。
これは表立って声高に言う事じゃない。
ただ、全ての聖女が信念として心に持っておかなければならないことだ。
きっとそれがこの世界における聖女の役目なのだろう。
そんなことを感じながら私はまたエリーと一緒に裏街道へと戻っていった。
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