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王都にて04

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使用人一同からの歓迎のあいさつに、
「ど、どうも…」
となんとも間の抜けた声で返事をする。
すると今度は奥から、
「やぁ、来てくださったかジル殿」
という声がしてなんとクレインバッハ侯爵自らが出迎えにきた。
私は、
(な、なにこの歓待っぷり…)
と思いながらもクレインバッハ侯爵に向かって慌てて礼を取り、
「本日はお招きいただきありがとうございます」
と、なんとか落ち着いてお礼の言葉を述べる。
そんな私にクレインバッハ侯爵は
「さっそくですが、お茶の席を用意してあります。そちらで家族を紹介しましょう」
とにこやかに声を掛けると、
「さぁ」
と言って、私の先を案内するように歩き始めた。

何処をどう通ったのか。
私が、
(貴族様のお屋敷が広いっていうのには防犯の意味もあるのかしら?これだけいくつも部屋があったらどの部屋が何の部屋なのか把握するだけでも一苦労よね…)
と妙なことを考えていると、やがてクレインバッハ侯爵の足が止まる。
そして、一緒についてきていたメイドさんがさっと扉を開くと、そこは春の美しい日差しがふんだんに差し込み、色とりどりの花が飾られた、なんとも温かい雰囲気のサロンだった。

(うわぁ…)
と本日何度目かわからない驚きの言葉にならない言葉を胸の中でつぶやく。
「こちらへ」
とクレインバッハ侯爵に促されて私が気を取り直し、そのサロンに入ると、そこには、この世の物とは思えないほど美しいご婦人とまるでおとぎの国から抜け出してきたお人形のように可愛らしい女の子が立っていた。
「紹介しましょう。妻のアリシアと娘のエリザベータです」
というクレインバッハ侯爵の声に続いて、
「お初にお目にかかります。聖女様。ネイサン・エル・リッヒ・クレインバッハの妻、アリシア・エル・リッヒ・クレインバッハと申します」
とその美しい女性、アリシア様が見事な礼を取る。
そして、その横にいた令嬢エリザベータ様も、
「お初にお目にかかります。聖女様。エリザベータ・エル・リッヒ・クレインバッハと申します。お会いできてとっても嬉しいです」
と、少したどたどしくも可愛らしく礼を取り、私に満面の笑顔を見せてくれた。

「お、お初にお目にかかります。聖女ジュリエッタと申します。本日はお招きいただきありがとうございます」
とこちらもなんとか礼を取り、自己紹介をする。
「ほう。ジュリエッタ殿と申されたか」
と言うクレインバッハ侯爵の言葉にハッとして、
「あ、はい。本名はジュリエッタです。普段は愛称のジルの方を名乗っておりましたので…」
と言い訳をして軽く頭を下げた。
「ああ、お気になさらず。では我々もジル殿とお呼びしてかまいませんかな?」
というクレインバッハ侯爵に、
「ええ。もちろんでございます」
と答えると、エリザベータ様が可愛らしく、
「ジルお姉様ってお呼びしてもいいですか?」
と聞いてきた。
私にその可愛いお願いが断れるはずもなく、私は2つ返事で、
「はい。もちろんでございます」
と答える。
すると、
「やった!お母様やりましたわ!」
とエリザベータ様が子供らしく嬉しそうな声を上げた。
「あらあら。リズったら。お客様の前ですよ?」
とアリシア様が微笑みながらエリザベータ様を窘める。
窘められたエリザベータ様は、一瞬、
「あ」
という顔になると、すぐに、
「ごめんなさい…」
と言って、シュンとした顔になった。
私はそんな光景を微笑ましく思って、少し腰を落としエリザベータ様に目線を合わせると、
「私もお友達が出来たみたいで嬉しいです」
と微笑みを向ける。
すると、またエリザベータ様の顔はぱっと花が咲いたような笑顔になって、
「うん!」
と元気な返事を返してきた。

(あ。侯爵のご令嬢にお友達っていうのは…)
と思って、ご両親を見るが、少なくとも表面上はにこやかにしている。
私がとりあえずほっとして立ち上がると、クレインバッハ侯爵が、
「さぁ、まずはお茶にしましょう」
と声を掛けてくれたので、みんなで席に着き、なんとも豪華なお茶会が始まった。

大人には紅茶、エリザベータ様にはジュースが用意され、目の前には色とりどりのお菓子や軽食が用意されている。
(うわー。これって、アフタヌーンティーってやつよね…。えっと、どれからどう食べるんだったっけ?)
私がそんな風に戸惑っていると、エリザベータ様が、
「ジルお姉様。このクッキーはお母様と私が一緒に焼いたんですよ!」
と嬉しそうに声を掛けてきた。
「まぁ。それは素晴らしいですね。では、さっそくそちらからいただきますね」
と言って、さっそくその可愛らしい色のアイシングクッキーを一つ手に取って口に運ぶ。
(あー。たしか本来は食事っぽいのから先だったような…)
と思いつつも、
「とっても甘くて美味しいです」
と感想を述べてエリザベータ様に視線を向けると、エリザベータ様もクッキーをつまんで、
「はい!とっても上手にできました」
と言い嬉しそうな顔をした。
(まぁ、こういう時はマナーより楽しさ優先よね)
と、勝手な言い訳を自分の中で作りつつ、エリザベータ様の笑顔を見ながら美味しくお茶とお菓子をいただく。
私は心の中でこっそりと、
(こんなに一杯食べ物があるんだったら、カツカレーじゃなくて、普通のカレーにしておけばよかったかなぁ…)
と妙な後悔をしつつ、少しずつお菓子をつまんだ。

和やかな雰囲気でお茶会は進んで行く。
エリザベータ様は嬉々としてケーキを食べ、アリシア様は時々その口元を拭いてあげるという微笑ましい光景を目にしながら、私が、
(うわ。このチョコケーキ美味しい。なにかしら?ねっとりしてて濃厚な甘さなんだけど、全然しつこくないわ。どんどんいけちゃいそう)
と、たまたま口にしたケーキの味に感動していると、クレインバッハ侯爵が、
「そう言えば、ジル殿はエリオット殿下と学院でご学友でしたな。専攻は何を?」
と聞いてきた。
その質問に私が、
「あ、はい。薬学と医学を少し」
と答えると、クレインバッハ侯爵は、
「ほう。それは素晴らしい。たしか、エリオット殿下もそうでしたな」
と感心したようにそう言った。
「ええ。私にはよくわからないことなどをたくさん教えていただきました」
と一応エリオット殿下を持ち上げておく。
「そうでしたか。エリオット殿下も今や宮廷医師団の一員としてご活躍の様子。政治向きのことにはあまり関心を示されないが、実に殿下らしいことだと王も嬉しそうに話されておりましたよ」
とクレインバッハ侯爵は最近のエリオット殿下の近況をさりげなく教えてくれた。
私も、
(まぁ、妹思いのあの人らしい選択よね…)
と思いつつ、
「そうでしたか。エリオット殿下とは少し前、偶然、町の本屋でお会いしましたが、お仕事も順調のようでなによりです」
と答えると、横からエリザベータ様が、
「ジルお姉様はどんなご本をお読みになるのですか?」
と聞いてきた。
「はい。私はもっぱら専門書なんかの難しい本ばかり読んでいます。ああ、でも最近知り合いの子供のために、絵物語を買ってあげたので、それもその子と一緒に読みましたよ」
と答え、
「そういえばエリザベータ様は聖女が出てくる絵物語を読んで聖女のことをお知りになったとききましたが、どんなご本をお読みになったのですか?」
と質問を返す。
すると、エリザベータ様嬉しそうな顔で、
「はい。『わんぱく聖女の大冒険』っていうご本ですの!」
と意外にもお嬢様らしからぬ名前の本を読んだと教えてくれた。

「まぁ。それは楽しそうなご本ですね。どんな内容なんですか?」
と聞く私にエリザベータ様は拙いながらも一生懸命その本の内容を教えてくれる。
どうやら、その本は聖女が聖女として活躍する物語というよりも、ちょっとやんちゃな聖女が繰り広げるドタバタ劇といったものらしい。
そんな様子を見てアリシア様は、
「活発なのはいいですけれど、これ以上やんちゃになってしまったらどうしましょうって思っているんですのよ」
と苦笑いでそう言うが、その目はなんだか嬉しそうにしているから、本当は元気に育ってくれていて嬉しいと思っているのだろう。
私はその光景からそんな心情を読み取った。

それからも、聖女の仕事のことや聖女学校のことなどの質問を受ける。
私がその質問に、
(私『はぐれ』だから普通の聖女の生活ってよくわからないのよねぇ)
と思い、想像も交え何とか答えていると、執事さんがやって来て、
「失礼いたします。聖女ジル様のお召し替えの準備が整いました」
と言ってきた。
クレインバッハ侯爵は、それにひと言、
「そうか」
と答えてうなずく。
そして、私に向かって、
「晩餐までしばしお寛ぎください」
と言い、そのお茶会はちょっとしょんぼりするエリザベータ様を宥めてからお開きとなった。
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