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森の異変03
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昼食後。
さらに進み、アヤメが2羽ほど鳥を落としたところで野営にする。
食事の準備が整う間、アヤメが淹れてくれたお茶を飲みながら、
「すごかったな」
と、アヤメに声を掛けた。
アヤメは先ほど、かなり遠くから鳥系の魔物、おそらく大鷹の魔物を落としている。
私が素直に称賛の言葉を贈ると、アヤメは照れくさそうに、
「…ありがとうございます。でもちょっと外してしまいましたし…」
と言って、少しはにかんだ。
アヤメは謙遜しているが、どう考えても数百メートル離れた、しかも動く鳥の魔物を仕留めるというのはかなりの腕前が必要だ。
私はそう思って、
「もっと自信を持っていい。誰にでもできることじゃないからな。少なくとも私はできん」
と正直なところを伝える。
するとアヤメは少し驚いたような顔をしたので、少し冗談めかして、
「私の場合、もう5発は必要だろうな」
と言うと、アヤメは少し笑って、
「ありがとうございます」
と、嬉しそうな顔をした。
その笑顔を見て、
(私がいなくても大丈夫だったんじゃないか?)
と何となく思いつつ、料理をするサユリや設営をするツバキの方に目を向ける。
サユリは手数で勝負するタイプらしく、動きが軽やかでそつがない。
おそらく刀という武器と自分の特性というものをよく理解しているのだろう。
ツバキの盾は隙が無いし、そこに的確なアヤメの弓が加わればたいていの敵には苦労しないはずだ。
そんなことを思って私は、なんとも言えない微笑ましい気持ちになった。
そんな私に、
「にゃぁ」(今日の飯はなんじゃ?)
とチェルシーがいつものように呑気な質問をしてくる。
私はそれに、
「ははは。そうか、そうか、腹が減ったか。サユリは料理が上手いからきっとなにが出て来ても美味しいぞ」
と、一応、そばにアヤメがいることを思って、そう答えると、チェルシーは、
「にゃぁ」(うむ。それもそうじゃな)
と言って、
「ふみゃぁ…」
と、あくびをした。
やがてサユリが作ってくれたどこか懐かしい味がする「おじや」を食べてまたお茶で一服する。
おそらくそんな懐かしい味のおかげだろう。
みんなもどこかほっとしたような表情を浮かべていた。
私は改めて、
(やはり食事は大切だな…)
と冒険中はついつい簡単になってしまいがちな自分の食生活を少し反省しつつ、みんなと同じようにゆったりとした時間を過ごす。
そして、適当に見張りの順番を決め、私は先に休ませてもらうことになった。
夜明け前。
お茶を飲みながらぼんやり見張りをする。
時々、私の横で丸くなっているチェルシーを撫でてやりながらのんびりお茶を飲んでいると、マユカ殿が起きて来て、私の隣に座った。
「こうして見ておると本当にただの猫よのう」
というマユカ殿に、
「ああ。多少食いしん坊だが、ただの猫だな」
と苦笑で答える。
マユカ殿はその答えを聞いて、
「ふっ」
と笑うと、チェルシーを軽く撫でた。
「…ふみゃぁ…」
とチェルシーが気持ちよさそうな寝言を発する。
すると、またマユカ殿は軽く笑って、
「こんな平和が続けばいいのう…」
と、どこか遠くを見るような目でそう言った。
夜が明け、行動を開始する。
その日も順調に進んだが、午後、急に周りの空気が重たくなり始めた。
「にゃぁ」(向かってきておるな。群れじゃ)
というチェルシーに礼を言う代わりに軽く撫でてやると、私は、
「みんな。なにか向かってきているらしい。地形もいいからここで迎え撃とう。マユカ殿はその木を背にしてみんなはそれを守ってくれ。撃ち漏らしたら対応を頼む」
と声を掛け荷物を降ろしついでにまな板を取り出す。
群れで襲ってくるというなら、ある程度防御が出来た方がいい。
そう思って私は剣とまな板を構えた。
ややあって、空気がさらに重たさを増し、私にも敵が近いことが感じられるようになる。
そして、タタタタタッという音とともに、小型のティラノの群れがやって来た。
(ちっ。厄介な…)
と思いつつ集中力を高め、やや前に出てティラノに相対する。
案の定ヤツらはまず私めがけて次々と集団で襲い掛かってきた。
背後のマユカ殿たちを意識して時々牽制の魔法を放ちつつ、牙や爪をまな板ではじき、剣を振る。
剣を振りながら、
(うーん…、この剣も悪くないが、もう少し魔法を放ちやすい剣が欲しい所だな)
と妙なことを考えつつとにかく動き回って相手の注意をこちらに引き付け、剣を振るい続けた。
やがて、最後の1匹を斬り戦闘が終わる。
「ふぅ…」
と息を吐き、みんなの方を振り返ると、ぽかんとした表情で見つめられた。
「えっと…」
という私の漠然とした問いかけに、まずはツバキが、
「えっと…」
と困惑気味に返してくる。
そこにややあきれ顔のマユカ殿が、
「そちは相変わらず面白い男よのう」
と言って、「ははは」とおかしそうに笑った。
私はわけがわからず「ん?」という表情になる。
すると、サユリが、
「そのまな板、本当に武器だったのですね」
と言って、ややひきつったような苦笑いを浮かべた。
「ああ。そういうことか」
と言って、このまな板が出来た経緯を説明する。
その説明にまたマユカ殿が笑い、サユリたち3人は困ったような笑顔を浮かべた。
「私、まな板に持ち替えようかな」
とツバキが冗談を言ってみんながサユリとアヤメが「あはは…」と笑う。
私も、
「作るならミノタウロスの特異個体の角をルネアの町のドワイトの所に持って行くといい。紹介状くらいならいつでも書くぞ」
と冗談を言うと、みんなと一緒になって笑った。
やがて、いつものように、
「にゃぁ」(腹が減ったぞ)
とチェルシーが呑気なひと言を言って、昼食になる。
その時試しに私のまな板を使ってもらったが、
「けっこう魔力を持っていかれるんですね…」
と言ってサユリが苦笑いをしていた。
そんな平和な昼食を挟んでまた行動を開始する。
どうやら異変が起きている場所まではまだ遠いらしく、私たちは気を引き締めなおして森の奥へと進んで行った。
それから同じように魔物を倒しながら進むこと3日。
マユカ殿曰く、そろそろ近いらしい。
私たちはこれまで以上に気を引き締めて進んでいく。
ここからは何が出て来てもおかしくない。
私たちの周りにはそういう空気が漂っていた。
やがて、いつものようにチェルシーが、
「にゃ」(近いぞ。大きいな)
と言ってそろそろ接敵すると教えてくれる。
私はそれに静かにうなずいて、チェルシーの指し示す方へと歩を進めた。
やがて、大きな痕跡を発見する。
私はそれを見て、
(…サイクロプスか)
と瞬時に判別したが、サユリはピンときていないようで、
「なんだと思いますか?」
と訊ねてきた。
そんなサユリや他の2人に、私は、
「ああ。おそらくサイクロプスだ。ほら。この足跡の形が特徴的だし、周りの木をなぎ倒すような感じで進んで行くのもヤツらの特徴だ」
と教えてやりながら、ついでに、
「あいつらは物理攻撃にはめっぽう強いが、魔法には弱い。ここは任せておいてくれ。ああ、ちなみに、実体があるくせして臭くて食えんから、そっちは期待しないでくれ」
と少し冗談交じりにヤツらの特徴を簡単に教えてやる。
しかし、そんな私の冗談はサユリ達にはあまり効果が無かったらしく、3人の顔が一気に青ざめた。
「心配無い。魔法が使えればそれほど怖い相手じゃないからな。任せておいてくれ」
と再び安心させるようにそう言って、痕跡を追っていく。
私が先頭になって進んで行くと、しばらくして予想通り、サイクロプスの集団がいるのを発見した。
「5匹か…」
と思ったよりも多い数に少しだけ私の緊張感も増す。
しかし、そこは努めて冷静に、
「もし突破された時は、アヤメの魔法で牽制してくれ。ほんの一瞬足止めしてくれればそれでいい。頼んだぞ」
と言って、アヤメに視線を送った。
決死の表情で力強くうなずくアヤメに、少し微笑みながら、
「落ち着いてやれば大丈夫だ」
と声を掛けて荷物を置き、杖を持つ。
そして私はあえて悠々とした足取りでサイクロプスの集団の方へと近づいていった。
さらに進み、アヤメが2羽ほど鳥を落としたところで野営にする。
食事の準備が整う間、アヤメが淹れてくれたお茶を飲みながら、
「すごかったな」
と、アヤメに声を掛けた。
アヤメは先ほど、かなり遠くから鳥系の魔物、おそらく大鷹の魔物を落としている。
私が素直に称賛の言葉を贈ると、アヤメは照れくさそうに、
「…ありがとうございます。でもちょっと外してしまいましたし…」
と言って、少しはにかんだ。
アヤメは謙遜しているが、どう考えても数百メートル離れた、しかも動く鳥の魔物を仕留めるというのはかなりの腕前が必要だ。
私はそう思って、
「もっと自信を持っていい。誰にでもできることじゃないからな。少なくとも私はできん」
と正直なところを伝える。
するとアヤメは少し驚いたような顔をしたので、少し冗談めかして、
「私の場合、もう5発は必要だろうな」
と言うと、アヤメは少し笑って、
「ありがとうございます」
と、嬉しそうな顔をした。
その笑顔を見て、
(私がいなくても大丈夫だったんじゃないか?)
と何となく思いつつ、料理をするサユリや設営をするツバキの方に目を向ける。
サユリは手数で勝負するタイプらしく、動きが軽やかでそつがない。
おそらく刀という武器と自分の特性というものをよく理解しているのだろう。
ツバキの盾は隙が無いし、そこに的確なアヤメの弓が加わればたいていの敵には苦労しないはずだ。
そんなことを思って私は、なんとも言えない微笑ましい気持ちになった。
そんな私に、
「にゃぁ」(今日の飯はなんじゃ?)
とチェルシーがいつものように呑気な質問をしてくる。
私はそれに、
「ははは。そうか、そうか、腹が減ったか。サユリは料理が上手いからきっとなにが出て来ても美味しいぞ」
と、一応、そばにアヤメがいることを思って、そう答えると、チェルシーは、
「にゃぁ」(うむ。それもそうじゃな)
と言って、
「ふみゃぁ…」
と、あくびをした。
やがてサユリが作ってくれたどこか懐かしい味がする「おじや」を食べてまたお茶で一服する。
おそらくそんな懐かしい味のおかげだろう。
みんなもどこかほっとしたような表情を浮かべていた。
私は改めて、
(やはり食事は大切だな…)
と冒険中はついつい簡単になってしまいがちな自分の食生活を少し反省しつつ、みんなと同じようにゆったりとした時間を過ごす。
そして、適当に見張りの順番を決め、私は先に休ませてもらうことになった。
夜明け前。
お茶を飲みながらぼんやり見張りをする。
時々、私の横で丸くなっているチェルシーを撫でてやりながらのんびりお茶を飲んでいると、マユカ殿が起きて来て、私の隣に座った。
「こうして見ておると本当にただの猫よのう」
というマユカ殿に、
「ああ。多少食いしん坊だが、ただの猫だな」
と苦笑で答える。
マユカ殿はその答えを聞いて、
「ふっ」
と笑うと、チェルシーを軽く撫でた。
「…ふみゃぁ…」
とチェルシーが気持ちよさそうな寝言を発する。
すると、またマユカ殿は軽く笑って、
「こんな平和が続けばいいのう…」
と、どこか遠くを見るような目でそう言った。
夜が明け、行動を開始する。
その日も順調に進んだが、午後、急に周りの空気が重たくなり始めた。
「にゃぁ」(向かってきておるな。群れじゃ)
というチェルシーに礼を言う代わりに軽く撫でてやると、私は、
「みんな。なにか向かってきているらしい。地形もいいからここで迎え撃とう。マユカ殿はその木を背にしてみんなはそれを守ってくれ。撃ち漏らしたら対応を頼む」
と声を掛け荷物を降ろしついでにまな板を取り出す。
群れで襲ってくるというなら、ある程度防御が出来た方がいい。
そう思って私は剣とまな板を構えた。
ややあって、空気がさらに重たさを増し、私にも敵が近いことが感じられるようになる。
そして、タタタタタッという音とともに、小型のティラノの群れがやって来た。
(ちっ。厄介な…)
と思いつつ集中力を高め、やや前に出てティラノに相対する。
案の定ヤツらはまず私めがけて次々と集団で襲い掛かってきた。
背後のマユカ殿たちを意識して時々牽制の魔法を放ちつつ、牙や爪をまな板ではじき、剣を振る。
剣を振りながら、
(うーん…、この剣も悪くないが、もう少し魔法を放ちやすい剣が欲しい所だな)
と妙なことを考えつつとにかく動き回って相手の注意をこちらに引き付け、剣を振るい続けた。
やがて、最後の1匹を斬り戦闘が終わる。
「ふぅ…」
と息を吐き、みんなの方を振り返ると、ぽかんとした表情で見つめられた。
「えっと…」
という私の漠然とした問いかけに、まずはツバキが、
「えっと…」
と困惑気味に返してくる。
そこにややあきれ顔のマユカ殿が、
「そちは相変わらず面白い男よのう」
と言って、「ははは」とおかしそうに笑った。
私はわけがわからず「ん?」という表情になる。
すると、サユリが、
「そのまな板、本当に武器だったのですね」
と言って、ややひきつったような苦笑いを浮かべた。
「ああ。そういうことか」
と言って、このまな板が出来た経緯を説明する。
その説明にまたマユカ殿が笑い、サユリたち3人は困ったような笑顔を浮かべた。
「私、まな板に持ち替えようかな」
とツバキが冗談を言ってみんながサユリとアヤメが「あはは…」と笑う。
私も、
「作るならミノタウロスの特異個体の角をルネアの町のドワイトの所に持って行くといい。紹介状くらいならいつでも書くぞ」
と冗談を言うと、みんなと一緒になって笑った。
やがて、いつものように、
「にゃぁ」(腹が減ったぞ)
とチェルシーが呑気なひと言を言って、昼食になる。
その時試しに私のまな板を使ってもらったが、
「けっこう魔力を持っていかれるんですね…」
と言ってサユリが苦笑いをしていた。
そんな平和な昼食を挟んでまた行動を開始する。
どうやら異変が起きている場所まではまだ遠いらしく、私たちは気を引き締めなおして森の奥へと進んで行った。
それから同じように魔物を倒しながら進むこと3日。
マユカ殿曰く、そろそろ近いらしい。
私たちはこれまで以上に気を引き締めて進んでいく。
ここからは何が出て来てもおかしくない。
私たちの周りにはそういう空気が漂っていた。
やがて、いつものようにチェルシーが、
「にゃ」(近いぞ。大きいな)
と言ってそろそろ接敵すると教えてくれる。
私はそれに静かにうなずいて、チェルシーの指し示す方へと歩を進めた。
やがて、大きな痕跡を発見する。
私はそれを見て、
(…サイクロプスか)
と瞬時に判別したが、サユリはピンときていないようで、
「なんだと思いますか?」
と訊ねてきた。
そんなサユリや他の2人に、私は、
「ああ。おそらくサイクロプスだ。ほら。この足跡の形が特徴的だし、周りの木をなぎ倒すような感じで進んで行くのもヤツらの特徴だ」
と教えてやりながら、ついでに、
「あいつらは物理攻撃にはめっぽう強いが、魔法には弱い。ここは任せておいてくれ。ああ、ちなみに、実体があるくせして臭くて食えんから、そっちは期待しないでくれ」
と少し冗談交じりにヤツらの特徴を簡単に教えてやる。
しかし、そんな私の冗談はサユリ達にはあまり効果が無かったらしく、3人の顔が一気に青ざめた。
「心配無い。魔法が使えればそれほど怖い相手じゃないからな。任せておいてくれ」
と再び安心させるようにそう言って、痕跡を追っていく。
私が先頭になって進んで行くと、しばらくして予想通り、サイクロプスの集団がいるのを発見した。
「5匹か…」
と思ったよりも多い数に少しだけ私の緊張感も増す。
しかし、そこは努めて冷静に、
「もし突破された時は、アヤメの魔法で牽制してくれ。ほんの一瞬足止めしてくれればそれでいい。頼んだぞ」
と言って、アヤメに視線を送った。
決死の表情で力強くうなずくアヤメに、少し微笑みながら、
「落ち着いてやれば大丈夫だ」
と声を掛けて荷物を置き、杖を持つ。
そして私はあえて悠々とした足取りでサイクロプスの集団の方へと近づいていった。
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