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第十三章〜聖剣の担い手は闇の中でこそ輝く〜
11.魔界の城主
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暗い荒野を車が走る。かなりの速さで走っているのに一向に景色が変わらない。街道も家も何もなく、とにかく文明の気配を感じることができない。
普通、王といえば国があって民がいるのを想像するものだが、どうやら魔界では違うものらしい。その証拠と言うべきか、遠くにポツンと城だけが聳え立つのを確認できた。
城下町なんてあるわけがなく、当然ながら城に続く街道すらない。荒野というテクスチャの上に真っ白な王城を雑に乗せただけ、まるで不出来なゲームのようであった。
「塀はなくて、城門も開けっ放し。見た目だけの城ね。」
「そりゃあそうさ。魔界において建築物なんて見た目以上の価値がない。」
フィルラーナの感想に、車となって走っているバティンが反応する。
「そもそも悪魔は寝ないし、魔力だけの体だから不調はない。魔力さえあれば生きてられる以上、人に比べれば強欲でもない。だから永遠にダサい荒野の上で暮らしているわけさ。」
俺っちやパイモン様は違うけどね、とバティンは付け足す。
遠くに見えていたはずの城もあっという間に近くまで来て、けたたましいブレーキ音の後に車は止まった。三人が中から降りると、バティンは火の精霊のような姿に戻る。
「ようこそ、パイモン城へ。この魔界に存在するたった2つの城の内の1つだ。」
城の中には照明器具が存在しない。よくよく見てみれば階段があったり、壺が置いてあったりと分かるが人が暮らすのには不便と言える。バティンが指を弾くと火が駆け回り、城の中を瞬く間に照らしていく。そこでやっと、城の内装を確認する事ができた。
――そして、この城の主人の姿も。
それは白いドレスを着た紫の髪の女だった。いや、女のように見える、というのが悪魔に対する言葉として正しい。悪魔には男女という括りは存在しないのだから。
2階へと続く大きな階段から、一段ずつその悪魔は降りてくる。階段を降りる所作は丁寧であり、見た目に拘った城を作ったのも納得できる。彼女がバティンの言うパイモンである事に疑う余地はなかった。
階段から降り終えたパイモンは三人の前にやって来る。
「――やあやあ、ご機嫌よう!」
そして、耳が潰れるんじゃないかというぐらいの大声で話し始めた。
「バティンが連れてきたって事は敵じゃないんだろう? そうなんだろう? それなら良いんだ。この領地にずっと滞在されるのは困るが、一時的な客としてなら歓迎しよう。この序列第九位『戦場の王者』パイモンがね!」
そう言ってギャハハ、とパイモンは笑った。正直言って、ヒカリは話の半分ぐらいがうるさ過ぎて入ってきていなかった。
パイモンはギョロリと目を動かしてそれぞれ三人へと視線を向ける。その眼球はまるで虫のように鋭く動く。よくよく見れば歯も鋭く、口も普通より大きい。このように話せてはいるが、人とは違う要素を確かに彼女は持っている。
「王国の貴族、異邦の勇者、そして流浪の旅人。中々楽しそうな旅じゃないか。私も混ざりたいところだが……今回は遠慮しておこう。」
「……私、貴方に素性を話したかしら。」
「いいや聞いていないよ、フィルラーナ。ただ私には分かるというだけさ。私の目の前に立つという事は、その人生を見通される事だからね。」
素性どころか名前までパイモンは言い当てる。それが悪魔の権能によるものだとフィルラーナは理解したが、その詳細までは分からなかった。パイモンも教える気はなさそうだし、取り敢えずそのことをフィルラーナは頭の中から排除する。
今回の目的はパイモンから許可をもらってこの領地を出て、悪魔王が住む領地へと向かうことだ。それ以外の事は気になるが優先するべき事じゃない。
「それでは、私の目的も分かりますか?」
「ああ、それは構わない。むしろ領地を出て行ってくれないと困る。そうじゃなきゃ私に永遠に服従するか、命をかけた決闘を行うかを選ばせなくてはならないからね。」
俺っちみたいにな、と横からバティンが補足する。パイモンに服従を誓う事がこの領地における絶対のルールだ。王は唯一であるからこそ、王と呼べる。彼女はそうやって数多の悪魔を配下に置いてきた。
「しかしだね、ベレトはともかくアスモデウスの領地を通るのは面倒だよ。助けが来るまでこの城で面倒を見てもいい。幸い、敵意はないようだからね。そうだろう?」
随分と魅力的で、都合の良い言葉だ。ついフィルラーナはそちらに傾きそうになるが踏みとどまる。
この悪魔が信用できるかは分からない。何かこちらを利用しようとする企みがあるかもしれない。面倒を見るとパイモンは言っただけで、何もしないとは明言していないのだから。
それに助けが来るという考えも楽観的だ。もしずっと待って助けが来なかったのなら、見知らぬ地で疲弊した状態で悪魔王の住む地へと進まなくてはならない。それなら早く向かった方が得だ。
「折角だけど断らせてもらうわ。私は自分の最初の選択を信じているの。」
「ふむ――道理だね。いつだってお前はそうやって人生を歩んできた。そして運命に打ち勝ってきた。ちょっと想定外の事が起こった程度で方針を変えるのは勿体ない。」
フィルラーナは分かりやすく不機嫌そうな顔をした。
「しかしお前もまた人の子だ。疲れはあるだろう。ここで一晩休んでから行け。お前の選択は尊重するが、故にこそ早くに倒れる事を私は望まない。一晩に限りお前たちの安全を保障しよう。まあ、ここに昼夜の概念はないが。」
これまた魅力的な言葉である。しかも今度は、ハッキリとこちらの安全を約束してくれた。
休みながらの道のりであったが、かなりの距離を歩いている。疲れているのはパイモンの言う通りだ。体力を温存しておくのも大切な事である。
「……ええ、その通りね。流石に今から野宿は骨が折れそうだわ。」
「そうだろう? バティン、城の中を案内してやれ。私は部屋に戻る。」
「オッケー、パイモン様! さあ、ついて来てくれ!」
バティンを先頭にして三人は城の中を歩き始めた。
城は大きいが造り自体はシンプルで、バティンによる説明は三十分程度で終わった。それにこの城に住んでいるのはパイモンだけらしく、空き部屋が多いのも説明が早く終わった理由であるだろう。
「それじゃ、好きな部屋を好きなように使ってくれ。見た通りどの部屋も綺麗だから。ああ、勿論パイモン様の部屋にだけは近付かないように。」
バティンの言う通り、城の中は使用人がいないというのに清潔であった。ただパイモン程の力のある悪魔であればそう違和感がある話でもないが。
「次に行くのはベレトの領地だからな。目が覚めたら俺っちを呼んでくれ。」
バティンは直ぐに宙を駆けて姿を消した。悪魔に休息は必要ない以上、ここに留まる必要も理由もないのだろう。
三人は少し話した後、それぞれ適当な部屋に入って眠りについた。
普通、王といえば国があって民がいるのを想像するものだが、どうやら魔界では違うものらしい。その証拠と言うべきか、遠くにポツンと城だけが聳え立つのを確認できた。
城下町なんてあるわけがなく、当然ながら城に続く街道すらない。荒野というテクスチャの上に真っ白な王城を雑に乗せただけ、まるで不出来なゲームのようであった。
「塀はなくて、城門も開けっ放し。見た目だけの城ね。」
「そりゃあそうさ。魔界において建築物なんて見た目以上の価値がない。」
フィルラーナの感想に、車となって走っているバティンが反応する。
「そもそも悪魔は寝ないし、魔力だけの体だから不調はない。魔力さえあれば生きてられる以上、人に比べれば強欲でもない。だから永遠にダサい荒野の上で暮らしているわけさ。」
俺っちやパイモン様は違うけどね、とバティンは付け足す。
遠くに見えていたはずの城もあっという間に近くまで来て、けたたましいブレーキ音の後に車は止まった。三人が中から降りると、バティンは火の精霊のような姿に戻る。
「ようこそ、パイモン城へ。この魔界に存在するたった2つの城の内の1つだ。」
城の中には照明器具が存在しない。よくよく見てみれば階段があったり、壺が置いてあったりと分かるが人が暮らすのには不便と言える。バティンが指を弾くと火が駆け回り、城の中を瞬く間に照らしていく。そこでやっと、城の内装を確認する事ができた。
――そして、この城の主人の姿も。
それは白いドレスを着た紫の髪の女だった。いや、女のように見える、というのが悪魔に対する言葉として正しい。悪魔には男女という括りは存在しないのだから。
2階へと続く大きな階段から、一段ずつその悪魔は降りてくる。階段を降りる所作は丁寧であり、見た目に拘った城を作ったのも納得できる。彼女がバティンの言うパイモンである事に疑う余地はなかった。
階段から降り終えたパイモンは三人の前にやって来る。
「――やあやあ、ご機嫌よう!」
そして、耳が潰れるんじゃないかというぐらいの大声で話し始めた。
「バティンが連れてきたって事は敵じゃないんだろう? そうなんだろう? それなら良いんだ。この領地にずっと滞在されるのは困るが、一時的な客としてなら歓迎しよう。この序列第九位『戦場の王者』パイモンがね!」
そう言ってギャハハ、とパイモンは笑った。正直言って、ヒカリは話の半分ぐらいがうるさ過ぎて入ってきていなかった。
パイモンはギョロリと目を動かしてそれぞれ三人へと視線を向ける。その眼球はまるで虫のように鋭く動く。よくよく見れば歯も鋭く、口も普通より大きい。このように話せてはいるが、人とは違う要素を確かに彼女は持っている。
「王国の貴族、異邦の勇者、そして流浪の旅人。中々楽しそうな旅じゃないか。私も混ざりたいところだが……今回は遠慮しておこう。」
「……私、貴方に素性を話したかしら。」
「いいや聞いていないよ、フィルラーナ。ただ私には分かるというだけさ。私の目の前に立つという事は、その人生を見通される事だからね。」
素性どころか名前までパイモンは言い当てる。それが悪魔の権能によるものだとフィルラーナは理解したが、その詳細までは分からなかった。パイモンも教える気はなさそうだし、取り敢えずそのことをフィルラーナは頭の中から排除する。
今回の目的はパイモンから許可をもらってこの領地を出て、悪魔王が住む領地へと向かうことだ。それ以外の事は気になるが優先するべき事じゃない。
「それでは、私の目的も分かりますか?」
「ああ、それは構わない。むしろ領地を出て行ってくれないと困る。そうじゃなきゃ私に永遠に服従するか、命をかけた決闘を行うかを選ばせなくてはならないからね。」
俺っちみたいにな、と横からバティンが補足する。パイモンに服従を誓う事がこの領地における絶対のルールだ。王は唯一であるからこそ、王と呼べる。彼女はそうやって数多の悪魔を配下に置いてきた。
「しかしだね、ベレトはともかくアスモデウスの領地を通るのは面倒だよ。助けが来るまでこの城で面倒を見てもいい。幸い、敵意はないようだからね。そうだろう?」
随分と魅力的で、都合の良い言葉だ。ついフィルラーナはそちらに傾きそうになるが踏みとどまる。
この悪魔が信用できるかは分からない。何かこちらを利用しようとする企みがあるかもしれない。面倒を見るとパイモンは言っただけで、何もしないとは明言していないのだから。
それに助けが来るという考えも楽観的だ。もしずっと待って助けが来なかったのなら、見知らぬ地で疲弊した状態で悪魔王の住む地へと進まなくてはならない。それなら早く向かった方が得だ。
「折角だけど断らせてもらうわ。私は自分の最初の選択を信じているの。」
「ふむ――道理だね。いつだってお前はそうやって人生を歩んできた。そして運命に打ち勝ってきた。ちょっと想定外の事が起こった程度で方針を変えるのは勿体ない。」
フィルラーナは分かりやすく不機嫌そうな顔をした。
「しかしお前もまた人の子だ。疲れはあるだろう。ここで一晩休んでから行け。お前の選択は尊重するが、故にこそ早くに倒れる事を私は望まない。一晩に限りお前たちの安全を保障しよう。まあ、ここに昼夜の概念はないが。」
これまた魅力的な言葉である。しかも今度は、ハッキリとこちらの安全を約束してくれた。
休みながらの道のりであったが、かなりの距離を歩いている。疲れているのはパイモンの言う通りだ。体力を温存しておくのも大切な事である。
「……ええ、その通りね。流石に今から野宿は骨が折れそうだわ。」
「そうだろう? バティン、城の中を案内してやれ。私は部屋に戻る。」
「オッケー、パイモン様! さあ、ついて来てくれ!」
バティンを先頭にして三人は城の中を歩き始めた。
城は大きいが造り自体はシンプルで、バティンによる説明は三十分程度で終わった。それにこの城に住んでいるのはパイモンだけらしく、空き部屋が多いのも説明が早く終わった理由であるだろう。
「それじゃ、好きな部屋を好きなように使ってくれ。見た通りどの部屋も綺麗だから。ああ、勿論パイモン様の部屋にだけは近付かないように。」
バティンの言う通り、城の中は使用人がいないというのに清潔であった。ただパイモン程の力のある悪魔であればそう違和感がある話でもないが。
「次に行くのはベレトの領地だからな。目が覚めたら俺っちを呼んでくれ。」
バティンは直ぐに宙を駆けて姿を消した。悪魔に休息は必要ない以上、ここに留まる必要も理由もないのだろう。
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