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第十三章〜聖剣の担い手は闇の中でこそ輝く〜
5.彼女の確認
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貴族御用達の店、というのはやはり存在する。それは単に気に入っているという理由もあるが、会談の場所として優れているという理由もある。
聞かれたくない話は貴族にとって多いものだ。人が入り込めない個室があって、信頼できる店となると数はかなり絞られる。
ここはそんなリラーティナ家がよく利用する店の一つである。二人の女性がテーブルを囲い座っていた。無論、部屋の外には護衛がいるが中の情報が漏れる事は決してない。
「――だから安心なさい。誰も貴方のマナーを咎める人はいないわ。」
それを分かっていたとしても、フィルラーナを前にしてはヒカリは緊張せざるをえなかった。
平均よりは上かもしれないが、ヒカリは一般家庭と言える範囲で生まれ育った。ファミレスに行き慣れる事はあっても、高級料理店に慣れることは決してない。加えて相手が貴族だなんて経験を日本で得られるはずもない。
今まではアルスがいたから大丈夫だったが、こうやって二人きりになれば話は別だ。
「は、はい! 頑張ります!」
「……まあ、それでいいわ。それも貴方の良さね。」
フィルラーナからすれば、別にヒカリのテーブルマナーは悪くない。むしろ平民と比べれば良い方だ。
しかしヒカリはそれに自信を持てていない。それこそがフィルラーナの考えと大きく異なる部分であり、フィルラーナがヒカリを気に入る部分でもある。
「それで、何で私はここに連れて来られたんスか?」
「ちょっと聞きたい事があったの。屋敷でも良かったのだけれど、こっちの方が人に聞かれる可能性は低いから。」
リラーティナの屋敷にはこれ程までに遮音性が高い部屋はない。家族にすら聞かれたくない話をするには向いていなかった。
といっても、そんなに重要な情報をヒカリは持っているつもりはないのだが。
「私の予想と擦り合わせておきたいの。何も疑問に思わず、ただ答えてくれればそれで良いわ。」
テーブルの上の食事を口に入れ、飲み込んだ後に再びフィルラーナは口を開く。
「冠位の中に死者はいないと聞いたのだけれど、それは本当かしら?」
「はい。レイさんは封印されたそうッスけど、生きてるらしいッス。それ以外の人も、ほとんどが先輩の戴冠式にいました。」
そう、と一言返して少し考え込む。その後にまたヒカリに尋ねた。
「剣術は順調かしら。もし今、王国騎士と戦ったとして勝てると思う?」
「……聖剣を使っても、多分負けるッス。ただ、勝負にはなると思うッスよ。騎士の人が油断していれば、十回に一回は勝てるかもしれないッス。」
「そう、それだけ言えるなら十分ね。」
この認識はヒカリの感覚によるものだが、フィルラーナはそれを疑わない。ヒカリは性格上、自分の実力を低く見積もる事はあってもその逆はない。それをフィルラーナは理解していた。
そのヒカリが勝負になると言っているのだから、実際にはかなり良い勝負ができるはずだ。フィルラーナはそう推測した。
「聖剣は何本使える?」
「あー……二本ッス。」
何故、複数の聖剣を使える事をフィルラーナが知っているのか。その疑問をヒカリは飲み干した。
最初のフィルラーナの言葉通り、疑問は持たない事にしたのだ。別に知られて困る事ではなかったし、アルスには伝えてある事である。
「緑の聖剣はある?」
「いえ、あるのは白と黒の聖剣だけッス。」
そう言うと露骨に残念そうな顔をして、フィルラーナは軽く溜息を吐いた。
「……他の聖剣は、手に入るのにどれくらい時間がかかる?」
「分からない、ッスね。朧気にあるのは分かるんスけど、それ以上はまだ何も。」
「そう、それならまだ時間はかかりそうなのね。」
別に、何か責められているわけではないが、ヒカリは少し申し訳ない気持ちになった。元より自分が役に立つと思っていたわけではないが、こうも目の前で落胆されては心に響くというものである。
そんなヒカリの心情を知ってか知らずか、フィルラーナは「質問は終わりよ。」と言って話を切り上げた。
「貴方が心配する必要はないわ。不安に思わずとも、絶対に貴方が役に立つ時が来る。それを、どれだけ待ち望んでいなかったとしても。」
「それって、一体――」
「用件はもう終わったのだし、早く食べましょう。折角の料理が冷めてしまうわ。」
あからさまにヒカリの言葉は遮られる。これ以上踏み込むなと、そう言わんばかりに。
諦めてヒカリは料理に手をつける。未だに緊張はしていたが、料理はちゃんと味がした事にヒカリは少しほっとした。
聞かれたくない話は貴族にとって多いものだ。人が入り込めない個室があって、信頼できる店となると数はかなり絞られる。
ここはそんなリラーティナ家がよく利用する店の一つである。二人の女性がテーブルを囲い座っていた。無論、部屋の外には護衛がいるが中の情報が漏れる事は決してない。
「――だから安心なさい。誰も貴方のマナーを咎める人はいないわ。」
それを分かっていたとしても、フィルラーナを前にしてはヒカリは緊張せざるをえなかった。
平均よりは上かもしれないが、ヒカリは一般家庭と言える範囲で生まれ育った。ファミレスに行き慣れる事はあっても、高級料理店に慣れることは決してない。加えて相手が貴族だなんて経験を日本で得られるはずもない。
今まではアルスがいたから大丈夫だったが、こうやって二人きりになれば話は別だ。
「は、はい! 頑張ります!」
「……まあ、それでいいわ。それも貴方の良さね。」
フィルラーナからすれば、別にヒカリのテーブルマナーは悪くない。むしろ平民と比べれば良い方だ。
しかしヒカリはそれに自信を持てていない。それこそがフィルラーナの考えと大きく異なる部分であり、フィルラーナがヒカリを気に入る部分でもある。
「それで、何で私はここに連れて来られたんスか?」
「ちょっと聞きたい事があったの。屋敷でも良かったのだけれど、こっちの方が人に聞かれる可能性は低いから。」
リラーティナの屋敷にはこれ程までに遮音性が高い部屋はない。家族にすら聞かれたくない話をするには向いていなかった。
といっても、そんなに重要な情報をヒカリは持っているつもりはないのだが。
「私の予想と擦り合わせておきたいの。何も疑問に思わず、ただ答えてくれればそれで良いわ。」
テーブルの上の食事を口に入れ、飲み込んだ後に再びフィルラーナは口を開く。
「冠位の中に死者はいないと聞いたのだけれど、それは本当かしら?」
「はい。レイさんは封印されたそうッスけど、生きてるらしいッス。それ以外の人も、ほとんどが先輩の戴冠式にいました。」
そう、と一言返して少し考え込む。その後にまたヒカリに尋ねた。
「剣術は順調かしら。もし今、王国騎士と戦ったとして勝てると思う?」
「……聖剣を使っても、多分負けるッス。ただ、勝負にはなると思うッスよ。騎士の人が油断していれば、十回に一回は勝てるかもしれないッス。」
「そう、それだけ言えるなら十分ね。」
この認識はヒカリの感覚によるものだが、フィルラーナはそれを疑わない。ヒカリは性格上、自分の実力を低く見積もる事はあってもその逆はない。それをフィルラーナは理解していた。
そのヒカリが勝負になると言っているのだから、実際にはかなり良い勝負ができるはずだ。フィルラーナはそう推測した。
「聖剣は何本使える?」
「あー……二本ッス。」
何故、複数の聖剣を使える事をフィルラーナが知っているのか。その疑問をヒカリは飲み干した。
最初のフィルラーナの言葉通り、疑問は持たない事にしたのだ。別に知られて困る事ではなかったし、アルスには伝えてある事である。
「緑の聖剣はある?」
「いえ、あるのは白と黒の聖剣だけッス。」
そう言うと露骨に残念そうな顔をして、フィルラーナは軽く溜息を吐いた。
「……他の聖剣は、手に入るのにどれくらい時間がかかる?」
「分からない、ッスね。朧気にあるのは分かるんスけど、それ以上はまだ何も。」
「そう、それならまだ時間はかかりそうなのね。」
別に、何か責められているわけではないが、ヒカリは少し申し訳ない気持ちになった。元より自分が役に立つと思っていたわけではないが、こうも目の前で落胆されては心に響くというものである。
そんなヒカリの心情を知ってか知らずか、フィルラーナは「質問は終わりよ。」と言って話を切り上げた。
「貴方が心配する必要はないわ。不安に思わずとも、絶対に貴方が役に立つ時が来る。それを、どれだけ待ち望んでいなかったとしても。」
「それって、一体――」
「用件はもう終わったのだし、早く食べましょう。折角の料理が冷めてしまうわ。」
あからさまにヒカリの言葉は遮られる。これ以上踏み込むなと、そう言わんばかりに。
諦めてヒカリは料理に手をつける。未だに緊張はしていたが、料理はちゃんと味がした事にヒカリは少しほっとした。
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