幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第十三章〜聖剣の担い手は闇の中でこそ輝く〜

4.無法の地に面影を見る

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 ベルセルクの集落の外れ、俺も行った事のないような場所へ足を伸ばしていた。
 そこには、草木や岩に隠れるようにして穴があった。ベルセルクの巨体も簡単に通るぐらいには大きな穴であるが、長いに覆われているせいかこうやって近付くまでは気付かなかった。
 どうやらこの穴は人工的に作られた洞穴のようなものであるらしい。この洞穴こそが目的地だった。

「この場所に気付いたのはつい最近だ。何もない場所だから、誰も近寄らなかったんだ。」

 そう言いながらベルセルクは洞穴の中へと歩いて下っていく。かなりの傾斜ではあるが、危なげなくベルセルクは奥へ進んでいった。
 対して、俺は入口などをよく見ながら慎重に中へと進んで行く。というのも、この穴の作り方は見たことがある。
 ただ土をどけただけでは崩れる可能性が高い。だから魔法でこういった穴を作る時は同時に補強を行うものだ。その補強独特の土の固め方がここにはある。これはこの洞穴が魔法によって作られたものである事を意味していた。
 加えて崩れないように軽い塗装や物理的な補強を行っている。劣化具合から見てもここ最近に作ったものではないし、長期間使用した後に放棄したのだろう。

「本当に、誰も気付かなかったのか? ここまで大きいとかなり目立つと思うんだけど。」
「だからお前に見せてんだよ。魔族は感覚器が人類種より優れている。魔力への察知能力も高い。それでもここを、持ち主がいなくなるまで見つける事はできなかった。こうなりゃ本職に聞いた方が早いだろうが。」

 本職って言われても、こういうのは専門じゃないんだけどな。

「俺が知りたいのは、この洞穴が俺の集落を脅かさないかどうかだ。」

 中はそこまで広くなく、直ぐに底に辿り着く。そこには半径十数メートル程度の地下空間が広がっていた。
 ベッドとテーブル、そして椅子などの最低限の生活用品とペンや紙などの筆記具が置いてある。もはや魔力的な痕跡は残っておらず、それ以外の物も残っていない。
 壁に書かれていたであろう魔法文字も、もう読み取れないほどに掠れていた。

「どうだ、分かるか?」
「……魔法使いの工房だった、って事は分かる。それ以外はまだ何とも。」

 紙を拾うが、どれも計算式が書いてあるもので大した事は書いていない。ハーヴァーンやアローニアならこの数値から何か予測できるかもしれないが、俺にはサッパリだ。
 恐らくここを出る時に回収して出たのだろう。しかしそれなら、何故埋め立てて行かなかったのだろう。余裕がなかったのだろうか。こんな粗末な工房、大切にするものでもないだろうに。

「取り敢えず、整理するか。」

 魔力を動かして地面に散らばるものをまとめて整理していく。適当に目を通して、よく分からなかった紙を全てまとめていく。中には有用な情報が含まれているのではないか、という微かな期待からだ。
 そのほとんどが計算式ばかりだが、中にはメモ書きのようなものもあった。しかし論文のようなものはなく、研究内容はこれらから想像する他ない。

「災害級の魔物の魔石、竜の皮、神獣の細胞、悪魔の角……何かの材料か、これ。」

 紙に書いてあることはあまりにも端的で、これが何に使われるのか、何故必要なのかも書かれていない。高性能な爆弾でも作るつもりだったのだろうか。
 ただ、これを本気で集めようとしていたのなら、それは余程の馬鹿かもしくは天才だ。その人物に俺は覚えがある。
 俺は雑に整理を終えた紙をそこら辺にまとめて置いておく。あまりちゃんと見ていないから、何か見落としているかもしれないが、それは持ち帰って確認すれば済む話だ。

「……まず第一に、さっきも言った通りここは魔法使いの工房だ。それも優秀な魔法使いの。」

 馬鹿では気付かれずに洞穴を作る事すらできないだろう。それにここの作り方も丁寧だ。少なくとも魔力操作に長けた魔法使いである事は間違いない。

「次にここをその魔法使いが去ったのは、何十年も前の事だ。ここ数年の話じゃない。」

 魔力的痕跡が残っていないのもあるが、注目するべきはペンだ。ここに転がっていたペンはかなり古いもので、既に生産が中止されていたものである。しかも5、6本あるペンの全てがそうだった。
 几帳面に保管して大切に使っていた可能性もあるが、それだったらここには置いて行かないだろう。

「最後に、恐らくこの工房を使っていたのはファズアだ。」

 これは推測になる。しかし、ほぼ間違いないとも言える。
 わざわざ危険なシルード大陸で研究をしなきゃいけない事情を抱えている奴なんて、それこそ追放された奴ぐらいしかいないだろう。ここは法が届かないからな。
 親父だったらわざわざ隠れて研究をするとは思えない。だとしたら、親父が追いかけていたファズアが最も可能性が高いと言えるだろう。

「なるほどな……それじゃあ、もうここは害がねえって事でいいんだな。」
「そうだな。怪しいけど魔力も残ってないし、数十年以上も持続する魔道具があって俺が気づかないわけないだろうし。」
「それじゃあ撤収するぞ。知らねえ魔法使いが俺の領土に居を構えてたのは気に食わねえが、もう大丈夫ならそれでいい。」

 ベルセルクは不満げにしながらも洞穴の中から出て行く。俺も重要そうな紙だけを魔法で収納してここを出た。

 ファズアは人の命を利用する程に研究に熱心だった魔法使いだ。追放されても尚、研究を続けていたのは驚くべき事じゃない。
 しかし、何の研究をしていたのかは気になる。
 もしかしたら名も無き組織の目的までそこから探れるかもしれない。

「それじゃあ、あそこに寄ってから帰るか。俺も久しぶりに行かなきゃいけねえしな。」
「あそこって?」
「墓だ。まさか、墓参りせずには帰らないだろ?」





 集落の辺境部の集合墓地、そこに俺の両親の墓はある。墓の手入れはずっとされているらしく、綺麗なままだった。

 色々と墓の前で話した。今までの事と、これからやろうとしている事。そして俺が転生者である事まで。
 本人には届かないかもしれない。それでも、話さなくちゃいけない事だった。ベルセルクにも後で話すけど、まずは二人に伝えたかった。

「……また来るよ。今度はもっと、立派になって。」

 俺はそう言って立ち上がって、墓地を後にした。出口の方にはベルセルクが立って待っていた。

「話したい事は話せたか?」
「ああ。」
「そうか。ここまで来た戻ってきた甲斐があったな。」
「……そうだな。」

 俺がここに滞在するのは3日程度だ。それ以上はいられない。それでも、ベルセルクの言う通り戻ってきた意味はあった。

「なあ、おっさん。おっさんは死なないでくれよ。」

 虚をつかれたような顔を浮かべて、それからベルセルクは俺の頭を力強く撫でた。

「生意気言うな、クソガキ。俺は死なねえよ。」

 何の証拠も根拠もない言葉。それでも今は、そんな言葉が一番安心できた。
 もう何も失ってたまるものか。その為にここまで強くなったのだから。
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