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幕間〜刹那に生きる魔法使い〜
王は放浪を続ける
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グレゼリオン王国リラーティナ領、冒険者ギルドが最大クラン『オリュンポス』のクランハウスにて。
会議室には大きな白い円卓と、13の豪華な椅子と1つの玉座が並ぶ。空席の数は6つと多く、玉座すら空いている。しかしこれでも集まりの悪いオリュンポスにしては集まりが良い方と言えた。
逆に言えばそれは、集まらなければならない理由があったという事にもなる。彼らは偶然ではなく集まるべくして集まったのだ。
「クランマスターは呼んでないのかい?」
ヘルメスはアテナの方に視線を向けながらそう尋ねる。
「いえ、今回はクランメンバー全員に声をかけました。ゼウス様とは連絡がついておりません。」
「また、か。」
如何なる緊急時でもゼウスは滅多に姿を現さない。古いメンバーであればあるほど、もはや諦めているような事である。
ただ当然、それに納得できない人もいる。
「何で……何で親父はここに来ねえんだ! 他人事ってか!?」
「……落ち着けよ、アポロン。」
「逆にどうしてヘルメスはそんなに冷静なんだ。あのハデスおじさんが、名も無き組織に寝返ったんだぞ。」
ゼウスの息子であるアポロンの反発は人より大きかった。生まれてからずっとオリュンポスにいるアポロンにとって、クランメンバーは全員家族みたいなものだ。
ハデスだって例外ではない。その家族が何かあって寝返ったのに、顔すら出さずに旅を続けるゼウスの事をアポロンは許すことができなかった。
「脅されたりしてるかもしれないんだ。それなのに、一番強い親父がどこかを歩き回ってるなんて許せねえ。だってこのクランのリーダーなんだろ。先頭に立って皆を引っ張るべきじゃないのか!?」
その言葉を否定する声はない。しょうがないとは思いつつも、心の奥底でそう考えてしまうものだ。ゼウスに欠片の不満も持たない者はこのオリュンポスにはいない。
いつもなら、その空気を断ち切ってまとめ上げるのがハデスなのだが、今では行方も知れない。
「――やかましい、男がピーピー騒いでんじゃねえ。」
だから渋々と、セイドがその役割を担った。アポロンも尊敬するセイドの言葉であるからこそ、大人しく口を閉ざす。
「アポロン、お前の言う事が正しいとか正しくねえとか、そういう話をするつもりはねえ。重要なのは、そうはならなかったって事だ。」
セイドはただ楽しく生きる事を求めている。彼にとって重要なのは、愛する女や家族が近くにいて、嫌なことを考えずに酒が飲めるかどうかだ。
だからこそ、理想主義のゼウスとは違ってセイドは現実主義である。こうであって欲しい、こうあるべきだ、なんて考える事はない。他人に自分を押し付ける事もなく、他人に影響される事も決してない。それこそがイストの生き方だ。
「ゼウスは戻って来なかった、これが現実だ。俺達が考えるべきは、今ここにいる奴らで今後どうして行くかじゃねえのか?」
「……そんな、そんな冷たいことあるかよ。」
「本当に大切な仲間だからこそ冷静になれ。急いで何かをしなきゃいけないって局面でもないんだ。その焦りで、仲間を失うかもしれないんだぜ。」
納得した様子はないが、それでも大人しくアポロンは引き下がる。感情は納得せずとも、理性はセイドの言うことが正しいと判断したからだ。
それを見てセイドは立ち上がり、円卓に座る面々を見渡す。
主力であるゼウスとヘラ、ディオはいないがそれでも戦力としては十分だ。イストも用事があるだけで、頼めば動いてくれるだろう。
「ヘスティア、外部との交渉は全て任せる。いいか?」
「まっかせて! その為にオリュンポスに入ったんですから!」
意気揚々とヘスティアは応える。ヘスティアは戦闘員としては役に立たないが、経理や営業、経営などを一手に担うオリュンポスの柱だ。
今回はハデスが名も無き組織についたという事で、オリュンポスへ責任を追及する声も少なくない。クランを守る為に一人が動かなくてはならない。
「ヘルメス、お前もそろそろ本気出して働け。お前を待っている奴が何人もいるだろうが。」
「……分かってるよ、百も承知さ。」
帽子を目深に被りながらヘルメスはそう返す。
「ディーテはいつも通り各地を回って情報を集めろ。重要な情報が手に入ったと思ったなら、直ぐにアテナに回せ。」
「良い、受けてやる。」
「アポロンは俺について来い。潰して回るついでに修行をつけてやる。」
「――ああ!」
オリュンポスはその知名度に反して在籍人数は僅か13人だ。故にこそ、いざという時の行動力と意思疎通の早さは他を圧倒する。
ゼウスがいなければヘラが、ヘラがいなければセイドやハデスが。その場で最も適した人材が全体を指揮するだけで、彼らは一丸となって戦える。
「今まではゼウスに言われて敵対していただけの名も無き組織が、明確な敵になったんだ。何があったか知らねえが、とにかくぶっ潰してハデスに土下座させねえことには始まらねえ。」
名も無き組織は明確にオリュンポスを敵に回した。無論、今までも争う事はあったが、それは目についたら倒す程度のものだ。これからは積極的に倒して回る。国境を越えて、利益を捨てて、ただ誇りのために。
これはオリュンポスのような冒険者にしかできない動きだ。自由に動き、どこの国にも属さないからこそ組織を追いかける事ができる。
「オリュンポスの恐ろしさを、世間様に教えてやらねえとな。」
方針は決まった。後は戦うだけである。
会議室には大きな白い円卓と、13の豪華な椅子と1つの玉座が並ぶ。空席の数は6つと多く、玉座すら空いている。しかしこれでも集まりの悪いオリュンポスにしては集まりが良い方と言えた。
逆に言えばそれは、集まらなければならない理由があったという事にもなる。彼らは偶然ではなく集まるべくして集まったのだ。
「クランマスターは呼んでないのかい?」
ヘルメスはアテナの方に視線を向けながらそう尋ねる。
「いえ、今回はクランメンバー全員に声をかけました。ゼウス様とは連絡がついておりません。」
「また、か。」
如何なる緊急時でもゼウスは滅多に姿を現さない。古いメンバーであればあるほど、もはや諦めているような事である。
ただ当然、それに納得できない人もいる。
「何で……何で親父はここに来ねえんだ! 他人事ってか!?」
「……落ち着けよ、アポロン。」
「逆にどうしてヘルメスはそんなに冷静なんだ。あのハデスおじさんが、名も無き組織に寝返ったんだぞ。」
ゼウスの息子であるアポロンの反発は人より大きかった。生まれてからずっとオリュンポスにいるアポロンにとって、クランメンバーは全員家族みたいなものだ。
ハデスだって例外ではない。その家族が何かあって寝返ったのに、顔すら出さずに旅を続けるゼウスの事をアポロンは許すことができなかった。
「脅されたりしてるかもしれないんだ。それなのに、一番強い親父がどこかを歩き回ってるなんて許せねえ。だってこのクランのリーダーなんだろ。先頭に立って皆を引っ張るべきじゃないのか!?」
その言葉を否定する声はない。しょうがないとは思いつつも、心の奥底でそう考えてしまうものだ。ゼウスに欠片の不満も持たない者はこのオリュンポスにはいない。
いつもなら、その空気を断ち切ってまとめ上げるのがハデスなのだが、今では行方も知れない。
「――やかましい、男がピーピー騒いでんじゃねえ。」
だから渋々と、セイドがその役割を担った。アポロンも尊敬するセイドの言葉であるからこそ、大人しく口を閉ざす。
「アポロン、お前の言う事が正しいとか正しくねえとか、そういう話をするつもりはねえ。重要なのは、そうはならなかったって事だ。」
セイドはただ楽しく生きる事を求めている。彼にとって重要なのは、愛する女や家族が近くにいて、嫌なことを考えずに酒が飲めるかどうかだ。
だからこそ、理想主義のゼウスとは違ってセイドは現実主義である。こうであって欲しい、こうあるべきだ、なんて考える事はない。他人に自分を押し付ける事もなく、他人に影響される事も決してない。それこそがイストの生き方だ。
「ゼウスは戻って来なかった、これが現実だ。俺達が考えるべきは、今ここにいる奴らで今後どうして行くかじゃねえのか?」
「……そんな、そんな冷たいことあるかよ。」
「本当に大切な仲間だからこそ冷静になれ。急いで何かをしなきゃいけないって局面でもないんだ。その焦りで、仲間を失うかもしれないんだぜ。」
納得した様子はないが、それでも大人しくアポロンは引き下がる。感情は納得せずとも、理性はセイドの言うことが正しいと判断したからだ。
それを見てセイドは立ち上がり、円卓に座る面々を見渡す。
主力であるゼウスとヘラ、ディオはいないがそれでも戦力としては十分だ。イストも用事があるだけで、頼めば動いてくれるだろう。
「ヘスティア、外部との交渉は全て任せる。いいか?」
「まっかせて! その為にオリュンポスに入ったんですから!」
意気揚々とヘスティアは応える。ヘスティアは戦闘員としては役に立たないが、経理や営業、経営などを一手に担うオリュンポスの柱だ。
今回はハデスが名も無き組織についたという事で、オリュンポスへ責任を追及する声も少なくない。クランを守る為に一人が動かなくてはならない。
「ヘルメス、お前もそろそろ本気出して働け。お前を待っている奴が何人もいるだろうが。」
「……分かってるよ、百も承知さ。」
帽子を目深に被りながらヘルメスはそう返す。
「ディーテはいつも通り各地を回って情報を集めろ。重要な情報が手に入ったと思ったなら、直ぐにアテナに回せ。」
「良い、受けてやる。」
「アポロンは俺について来い。潰して回るついでに修行をつけてやる。」
「――ああ!」
オリュンポスはその知名度に反して在籍人数は僅か13人だ。故にこそ、いざという時の行動力と意思疎通の早さは他を圧倒する。
ゼウスがいなければヘラが、ヘラがいなければセイドやハデスが。その場で最も適した人材が全体を指揮するだけで、彼らは一丸となって戦える。
「今まではゼウスに言われて敵対していただけの名も無き組織が、明確な敵になったんだ。何があったか知らねえが、とにかくぶっ潰してハデスに土下座させねえことには始まらねえ。」
名も無き組織は明確にオリュンポスを敵に回した。無論、今までも争う事はあったが、それは目についたら倒す程度のものだ。これからは積極的に倒して回る。国境を越えて、利益を捨てて、ただ誇りのために。
これはオリュンポスのような冒険者にしかできない動きだ。自由に動き、どこの国にも属さないからこそ組織を追いかける事ができる。
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方針は決まった。後は戦うだけである。
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