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第十二章〜全てを失っても夢想を手に〜
46.進捗あり
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俺はあのエダフォスと名乗る魔物と戦った時、魔力の核のようなものが見えた。
言葉にはしづらいぐらい感覚的なものだが、その時の俺にとって魔力は体の延長のようで、手に取るように魔力の動きを制御できたのだ。だからこそ今までできなかったような広範囲の並列魔法を使う事ができた。
そしてその核に、俺が探し求めていた答えはあった。
武器属性の魔法は神の力を宿していた。しかしそれは基本属性だって変わりなかったのだ。俺が今まで認識できなかっただけで、普通の魔法にも神の力が宿っている。
俺はその神の力を『神秘』と、そう呼ぶことにした。
希少属性はその神秘を通常の魔法より多く含むのだ。この仮定が正しいのならば、希少属性の使い手の条件は決まってくる。この神秘との回路が希少属性に繋がっている事が条件なのだ。
親父という例外はいるが、基本的に希少属性を持つ人は魔法使いの家系ではない。レーツェルは平民の出だし、俺の弟子のテルムもスラム街出身だ。
希少属性を手に入れる前に基本属性を学んでしまえば、回路の幅が基本属性で埋まってしまう。だから魔法使いの家系から希少属性が出ることは珍しいのだ。
竜に育てられた子供が、竜独自の魔導であるはずの竜法を使えるようになるという逸話も良い例だ。この理論が正しければそれは何ら驚くことではない。回路さえ繋がれば、どんな魔法だって使えるのだから。
「――正直、穴だらけだな。」
俺が考えられたのは、一旦そこまでだ。この仮説には分かりやすい穴がある。
この理論は希少属性が後天的に手に入らない事、希少属性持ちが基本属性を苦手とする両点を抑えている。ただ結局この神秘という仮想要素に対する考察が一切ない。
そもそも魔法は何と繋がって、どこから力を取り出しているのか、それを明らかにしない事には俺の仮説の是非は付け難い。それ以外にもまあ、穴はいくつかある。
ただ取り敢えずの論文としては十分な域まで到達できた。これは未だ似たようなものがない新たな仮説だ。それだけでもきっと価値がある。これを冠位への足がかりとできれば、それだけで僥倖である。
もう少し内容を整えたら直ぐに発表する予定である。もうこの賢者の塔に来てから大体半年だ。気持ちはどうしても焦ってくる。
「よう、アルス! 待たせたな!」
第48階神秘科本部、その大広場のベンチへとレーツェルがやって来る。
実はこの研究はレーツェルと俺の共同研究、という事になっている。俺だけでは足りない知識が多過ぎて、色々悩んだ挙げ句、レーツェルに協力を依頼したのだ。
主導は俺なのだが、細かい部分の訂正と知識を貰っている。その代わりに俺もレーツェルの研究を少し手伝っていた。
「じゃあ早速、論文の原案を見せてくれ。楽しみにしてたんだ。」
俺はさっきまで眺めていた紙の束をレーツェルに手渡す。レーツェルは俺の隣に座ってそれを読み始めた。
顔に出やすい性格だから、レーツェルは読みながら表情が二転三転する。正直、それを見ているだけでも少し面白い。
「いいと思うぜ、俺は。大分まとまったじゃねえか。」
「これだけ時間をかければそりゃあな。」
三か月以上かけてレーツェルと内容を詰めたんだ。これぐらいの完成度はないと、むしろおかしいと言っていい。
「ただ、ちょっと気になる事があるから聞いてもいいか?」
「勿論。」
「この神秘力の定義についてなんだが、これは――」
「――ま、気になるのはこれぐらいだな。そこさえ詰めればもっと良くなるぜ。」
数々の質問をレーツェルはそう言って締めくくった。俺はこれだけでもう頭が痛くなっている。編集者に漫画を見せて駄目だしを喰らった新人漫画家の気分だ。
ちょっと自信があっただけに傷は深い。それなりに形にできたつもりだったんだがなあ。
「しかし、本当によく思いついたな。もしこれが本当なら魔導界に激震が走るぜ。冠位になるのだって夢じゃない。」
「……こんなに穴があるのにか?」
「修正点が思いつかない程度の穴じゃないだろ。それにこれそのものが正しくなくても、これを応用してより正確な理論が生み出されれば、アルスの論文は評価される事になる。自信を持った方がいいぞ。」
そういうものかね。正直言って俺の特殊能力から発想を広げたわけだから、ズルをしているような気分で胸を張れない。
「あ、そうだ。話は変わるんだが、ミステアから伝言がある。」
ミステアから? ここ最近顔すら見ていないが、一体何の用だろうか。てっきりもうどうでも良くなったものだとばかり思っていたが。
「『決闘を申し込む。翌週の水曜、25階に来るように』、だとさ。」
「え、何で?」
何がどうあってそうなったんだ。何で俺が決闘なんかしなきゃいけないんだよ。
「多分、あいつにはあいつなりの考えがあると思う。どうか受けてやってくれねえか?」
レーツェルは手を合わせて俺に頼み込む。
俺、殺される気がするんだけど気のせいだろうか。決闘を口実にして俺を始末する方法を考えているんじゃなかろうか。
「本当に大丈夫か? 俺、殺されたりしない?」
「そこは安心しろ! 立会人にヴィリデニアさんを呼ぶそうだ!」
それなら安心、か? まあ、安心だと思う事にしよう。研究の事もあってレーツェルには恩がある。その頼みなら極力無碍にしたくはない。
「ちなみに何をかけて決闘するんだ?」
「知らん。」
俺は非常に不安ではあるが、決闘を受け入れる事にした。非常に不本意であるが仕方ない。というかレーツェルはもっと細かい話を問い詰めるべきだと思うんだ。
一応、死なないように色々と準備だけしておこう。冠位目前で死ぬなんて笑い話にもならない。
言葉にはしづらいぐらい感覚的なものだが、その時の俺にとって魔力は体の延長のようで、手に取るように魔力の動きを制御できたのだ。だからこそ今までできなかったような広範囲の並列魔法を使う事ができた。
そしてその核に、俺が探し求めていた答えはあった。
武器属性の魔法は神の力を宿していた。しかしそれは基本属性だって変わりなかったのだ。俺が今まで認識できなかっただけで、普通の魔法にも神の力が宿っている。
俺はその神の力を『神秘』と、そう呼ぶことにした。
希少属性はその神秘を通常の魔法より多く含むのだ。この仮定が正しいのならば、希少属性の使い手の条件は決まってくる。この神秘との回路が希少属性に繋がっている事が条件なのだ。
親父という例外はいるが、基本的に希少属性を持つ人は魔法使いの家系ではない。レーツェルは平民の出だし、俺の弟子のテルムもスラム街出身だ。
希少属性を手に入れる前に基本属性を学んでしまえば、回路の幅が基本属性で埋まってしまう。だから魔法使いの家系から希少属性が出ることは珍しいのだ。
竜に育てられた子供が、竜独自の魔導であるはずの竜法を使えるようになるという逸話も良い例だ。この理論が正しければそれは何ら驚くことではない。回路さえ繋がれば、どんな魔法だって使えるのだから。
「――正直、穴だらけだな。」
俺が考えられたのは、一旦そこまでだ。この仮説には分かりやすい穴がある。
この理論は希少属性が後天的に手に入らない事、希少属性持ちが基本属性を苦手とする両点を抑えている。ただ結局この神秘という仮想要素に対する考察が一切ない。
そもそも魔法は何と繋がって、どこから力を取り出しているのか、それを明らかにしない事には俺の仮説の是非は付け難い。それ以外にもまあ、穴はいくつかある。
ただ取り敢えずの論文としては十分な域まで到達できた。これは未だ似たようなものがない新たな仮説だ。それだけでもきっと価値がある。これを冠位への足がかりとできれば、それだけで僥倖である。
もう少し内容を整えたら直ぐに発表する予定である。もうこの賢者の塔に来てから大体半年だ。気持ちはどうしても焦ってくる。
「よう、アルス! 待たせたな!」
第48階神秘科本部、その大広場のベンチへとレーツェルがやって来る。
実はこの研究はレーツェルと俺の共同研究、という事になっている。俺だけでは足りない知識が多過ぎて、色々悩んだ挙げ句、レーツェルに協力を依頼したのだ。
主導は俺なのだが、細かい部分の訂正と知識を貰っている。その代わりに俺もレーツェルの研究を少し手伝っていた。
「じゃあ早速、論文の原案を見せてくれ。楽しみにしてたんだ。」
俺はさっきまで眺めていた紙の束をレーツェルに手渡す。レーツェルは俺の隣に座ってそれを読み始めた。
顔に出やすい性格だから、レーツェルは読みながら表情が二転三転する。正直、それを見ているだけでも少し面白い。
「いいと思うぜ、俺は。大分まとまったじゃねえか。」
「これだけ時間をかければそりゃあな。」
三か月以上かけてレーツェルと内容を詰めたんだ。これぐらいの完成度はないと、むしろおかしいと言っていい。
「ただ、ちょっと気になる事があるから聞いてもいいか?」
「勿論。」
「この神秘力の定義についてなんだが、これは――」
「――ま、気になるのはこれぐらいだな。そこさえ詰めればもっと良くなるぜ。」
数々の質問をレーツェルはそう言って締めくくった。俺はこれだけでもう頭が痛くなっている。編集者に漫画を見せて駄目だしを喰らった新人漫画家の気分だ。
ちょっと自信があっただけに傷は深い。それなりに形にできたつもりだったんだがなあ。
「しかし、本当によく思いついたな。もしこれが本当なら魔導界に激震が走るぜ。冠位になるのだって夢じゃない。」
「……こんなに穴があるのにか?」
「修正点が思いつかない程度の穴じゃないだろ。それにこれそのものが正しくなくても、これを応用してより正確な理論が生み出されれば、アルスの論文は評価される事になる。自信を持った方がいいぞ。」
そういうものかね。正直言って俺の特殊能力から発想を広げたわけだから、ズルをしているような気分で胸を張れない。
「あ、そうだ。話は変わるんだが、ミステアから伝言がある。」
ミステアから? ここ最近顔すら見ていないが、一体何の用だろうか。てっきりもうどうでも良くなったものだとばかり思っていたが。
「『決闘を申し込む。翌週の水曜、25階に来るように』、だとさ。」
「え、何で?」
何がどうあってそうなったんだ。何で俺が決闘なんかしなきゃいけないんだよ。
「多分、あいつにはあいつなりの考えがあると思う。どうか受けてやってくれねえか?」
レーツェルは手を合わせて俺に頼み込む。
俺、殺される気がするんだけど気のせいだろうか。決闘を口実にして俺を始末する方法を考えているんじゃなかろうか。
「本当に大丈夫か? 俺、殺されたりしない?」
「そこは安心しろ! 立会人にヴィリデニアさんを呼ぶそうだ!」
それなら安心、か? まあ、安心だと思う事にしよう。研究の事もあってレーツェルには恩がある。その頼みなら極力無碍にしたくはない。
「ちなみに何をかけて決闘するんだ?」
「知らん。」
俺は非常に不安ではあるが、決闘を受け入れる事にした。非常に不本意であるが仕方ない。というかレーツェルはもっと細かい話を問い詰めるべきだと思うんだ。
一応、死なないように色々と準備だけしておこう。冠位目前で死ぬなんて笑い話にもならない。
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