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第十二章〜全てを失っても夢想を手に〜
11.生命科本部(後)
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「端的に言おう。俺は異世界を渡る方法を知っている。」
その言葉は、あまりにも俺が待ち望んでいた言葉だった。
もはや推薦状の事なんてどうでも良い。俺の進退なんかより遥かに重要な情報がここにある。冠位になるのがどれだけ遅れても、俺が困るだけなのだから。
「生命科の先々代の冠位がそのような研究をしていた。内容は秘匿されている事だが、まあ、お前に教える分には構わないだろう。」
秘匿されている研究か、道理で調べても見つからないはずである。きっと何かしらの問題があったからこそ秘匿にされたのだろうが、どんな小さな情報でも俺にとっては価値がある。
「これを俺に聞くという事は知っているんだろうが、異世界に渡るには三つの条件を満たす必要がある。一つは莫大なエネルギーの用意、二つ目は異世界の座標の特定、最後は世界間の移動に耐えうるほどの防御手段。これらを満たせば理論上は異世界への転移魔法を使う事ができる。」
一つ目は何とかできる問題だ。問題は二つ目と三つ目で、これがほぼ不可能だからこそ異世界への移動はできないされている。正に机上の空論というわけだ。
それでもこっち側に来る事があるんだから、こっちから送り出す事もできるはずだというのが魔法使い達の論である。どうせ神が関わってるんだから人に再現はできないと言う派閥もいるけど。
「この研究をしていた男は、膨大な魔力を込めた物体を転送し、そして自動的に戻るように設定しておく事によって異世界への転移が可能であると証明しようとした。」
「……しようとした? やらなかったたのか?」
「魔導会がやらせなかったんだ。そいつは人の魂を加工する事によって、異世界を越えようとしたのたがらな。」
俺は言葉に詰まった。そして同時に、納得した。
人の魂は、どれ程小さな赤子であっても街一つを滅ぼせるほどのエネルギーがある。そんな高エネルギーの物質を全て防御に集中させれば、魔力のない地球まで無事に転送できるかもしれない。数百人の犠牲を許容できればの話だが。
道理で秘匿されていたわけだ。人の魂を利用した魔法は禁忌に当たる。如何にその技術が優れていたとしても、あまりにも人道に欠ける魔法だ。
「その男は隠れて一般人数十名を殺害し、その魂の研究を行なっていた。結果、研究は停止となって魔導会から永久追放となったわけだ。」
妥当な措置だろう。魔法使い全体の目標は、魔導の追求により更に人類が発展していくことだ。その為に人の命を犠牲にしては本末転倒である。
しかし一体何故、そんな事をしたのだろうか。こうなる結果なんて目に見えていたはずだ。仮にも冠位にまで上り詰めた魔法使いが、そこまでして異世界の研究をした理由は何なのだろう。
確か先々代と言っていたな。一応、戻ったら調べておこう。
「……どうだ、この知識はお前の満足いくものだったか? 欲しかったら論文の複製をくれてやってもいい。」
「それって、持ってるだけで危険なんじゃないか?」
「見つかればお前は審問にかけられるだろうな。だが、お前がどうなろうと俺には関係のない事だ。」
どうする、とハーヴァーンは目で問うてくる。
正直に言えば欲しい。使うかどうかは別として、間違いなく参考にははずだろう。ただ、流石に禁忌指定されている研究の論文を持つのは怖い。
「――ああ、そうだ。言い忘れていたな。」
俺が悩んでいると、ハーヴァーンは突然そう言った。
「俺はお前に知識を与えた。当然、それに見合った代償をお前から貰うつもりだ。」
「今更そんな事言うのかよ。もう聞いた後だぞ。」
「ああ、だから言い忘れていたと言ったんだ。」
ハーヴァーンはその口元を歪める。その体から微かに魔力が漏れ出た事を俺は察知した。
俺の体全体が警笛を鳴らしている。今まで戦ってきた経験が、目の前の存在から逃げ出せとそう叫んでいる。罠にかけられたのだと理解したのは、その不気味な笑みを見てからの事だった。
「魂を貰おうか、生命科らしくな。」
ハーヴァーンの声が聞こえた直後に、耳を劈くような嘶きが聞こえた。
ここはハーヴァーンの工房。この場所よりハーヴァーンが有利で、強い空間は存在しない。何せ環境全てが俺に仇なすのだから。
「喰い散らかせ。」
飛竜が空を駆ける。主であるハーヴァーンの命に従い、俺へと迫り来る。
迎撃は無駄だ。外ならまだしも、この工房の中では万が一にも俺の勝機はない。取るのは逃げの一択。体を雷に変えて俺も同じく空を駆けた。
しかし逃げた所で、一体どうやってこの工房から脱出できるというのか。
「『巨神炎剣』」
俺はほぼ天井近くまで来て停止し、俺に迫り来る三匹の飛竜を見た。
黒い三匹の竜だ。形状で言えばワイバーンが近いが、鉤爪と羽が一体となっていない。ワイバーンによく似た別種である。
生命科の冠位がわざわざここに置いてある魔物だ。当然、普通の魔物であるはずがない。炎の剣を強く握って油断なく三匹を観察する。
「――速いんだな、随分と。」
背後から、つまり天井の方角から声が聞こえた。反射的に振り返るとそこにはハーヴァーンがいた。俺に向けてその右腕を伸ばしてくる。
俺もその腕に合わせるようにして剣を――
「――」
俺は首を掴まれた。そのまま重力に従って地面へと急降下していく。逃げようにもハーヴァーンの腕は木へと変化し、俺の首に深く根を張っていった。
魔力の動きが乱れる。魔法を維持することができない。恐らくは人体の魔力に干渉する魔法なのだろう。
俺は何も抵抗する事はできずに、地面へとその体を叩きつけられた。
闘気によってダメージを最小限に抑えることはできたが、それでも全身が悲鳴をあげている。当然ながらハーヴァーンには傷一つない。
木は俺の首から全身に広がり、地面と俺を縫い付ける。ハーヴァーンはそれを確認してから木と腕を切り離した。その後に直ぐ新しい腕が生えてくる。どうやら義手だったらしい。
「……俺は昔から、ウァクラートの奴らが嫌いだ。」
木の魔法で適当に椅子を作って、ハーヴァーンはそこに腰を落ち着かせる。
「特にお前の父親は気に入らなかった。俺より幼いにも関わらず傲慢にも冠位の座につき、第3席にまで上り詰めた。いつだって俺が欲しい物を当然な顔をして持っていく。」
木の腕はどうやら俺の魔法を吸って力を増しているようだった。この腕自体が生物なのかもしれない。力付くで剥がそうにも上手くいかない。
「だからお前から連絡を貰った時は良いチャンスだと思った。俺の憂さ晴らしに丁度良い。だが――」
ハーヴァーンは指を鳴らす。すると木は魔力となって消えていき、俺の体は自由に動くようになった。
俺は直ぐに立ち上がってハーヴァーンはから少し距離を取る。
「――心底ガッカリしたぞ。まさか人に魔法を振るうのに躊躇する腑抜けとは思わなかった。」
落胆した表情をハーヴァーンは俺に向けた。
俺は確かに巨神炎剣を振るうのを躊躇した。それは二レアのように、簡単に人を殺してしまうじゃないかと、そんな考えが脳裏をよぎったからだ。
「お前に何があったかなどは毛ほども興味がない。ただ、魔法を恐れるような三流を殺しても俺の気は晴れん。」
ハーヴァーンは空間を歪ませて、そこから筒状に丸めて紐で縛られた紙を取り出して俺の目の前に投げた。
「それを持ってここを立ち去れ。三流魔法使いが。」
言い返したい事はあった。だが、それは今じゃない。
俺はその紙を拾って、逃げ出すようにして工房を後にした。何よりも腹が立ったのは、自分の弱さだった。
その言葉は、あまりにも俺が待ち望んでいた言葉だった。
もはや推薦状の事なんてどうでも良い。俺の進退なんかより遥かに重要な情報がここにある。冠位になるのがどれだけ遅れても、俺が困るだけなのだから。
「生命科の先々代の冠位がそのような研究をしていた。内容は秘匿されている事だが、まあ、お前に教える分には構わないだろう。」
秘匿されている研究か、道理で調べても見つからないはずである。きっと何かしらの問題があったからこそ秘匿にされたのだろうが、どんな小さな情報でも俺にとっては価値がある。
「これを俺に聞くという事は知っているんだろうが、異世界に渡るには三つの条件を満たす必要がある。一つは莫大なエネルギーの用意、二つ目は異世界の座標の特定、最後は世界間の移動に耐えうるほどの防御手段。これらを満たせば理論上は異世界への転移魔法を使う事ができる。」
一つ目は何とかできる問題だ。問題は二つ目と三つ目で、これがほぼ不可能だからこそ異世界への移動はできないされている。正に机上の空論というわけだ。
それでもこっち側に来る事があるんだから、こっちから送り出す事もできるはずだというのが魔法使い達の論である。どうせ神が関わってるんだから人に再現はできないと言う派閥もいるけど。
「この研究をしていた男は、膨大な魔力を込めた物体を転送し、そして自動的に戻るように設定しておく事によって異世界への転移が可能であると証明しようとした。」
「……しようとした? やらなかったたのか?」
「魔導会がやらせなかったんだ。そいつは人の魂を加工する事によって、異世界を越えようとしたのたがらな。」
俺は言葉に詰まった。そして同時に、納得した。
人の魂は、どれ程小さな赤子であっても街一つを滅ぼせるほどのエネルギーがある。そんな高エネルギーの物質を全て防御に集中させれば、魔力のない地球まで無事に転送できるかもしれない。数百人の犠牲を許容できればの話だが。
道理で秘匿されていたわけだ。人の魂を利用した魔法は禁忌に当たる。如何にその技術が優れていたとしても、あまりにも人道に欠ける魔法だ。
「その男は隠れて一般人数十名を殺害し、その魂の研究を行なっていた。結果、研究は停止となって魔導会から永久追放となったわけだ。」
妥当な措置だろう。魔法使い全体の目標は、魔導の追求により更に人類が発展していくことだ。その為に人の命を犠牲にしては本末転倒である。
しかし一体何故、そんな事をしたのだろうか。こうなる結果なんて目に見えていたはずだ。仮にも冠位にまで上り詰めた魔法使いが、そこまでして異世界の研究をした理由は何なのだろう。
確か先々代と言っていたな。一応、戻ったら調べておこう。
「……どうだ、この知識はお前の満足いくものだったか? 欲しかったら論文の複製をくれてやってもいい。」
「それって、持ってるだけで危険なんじゃないか?」
「見つかればお前は審問にかけられるだろうな。だが、お前がどうなろうと俺には関係のない事だ。」
どうする、とハーヴァーンは目で問うてくる。
正直に言えば欲しい。使うかどうかは別として、間違いなく参考にははずだろう。ただ、流石に禁忌指定されている研究の論文を持つのは怖い。
「――ああ、そうだ。言い忘れていたな。」
俺が悩んでいると、ハーヴァーンは突然そう言った。
「俺はお前に知識を与えた。当然、それに見合った代償をお前から貰うつもりだ。」
「今更そんな事言うのかよ。もう聞いた後だぞ。」
「ああ、だから言い忘れていたと言ったんだ。」
ハーヴァーンはその口元を歪める。その体から微かに魔力が漏れ出た事を俺は察知した。
俺の体全体が警笛を鳴らしている。今まで戦ってきた経験が、目の前の存在から逃げ出せとそう叫んでいる。罠にかけられたのだと理解したのは、その不気味な笑みを見てからの事だった。
「魂を貰おうか、生命科らしくな。」
ハーヴァーンの声が聞こえた直後に、耳を劈くような嘶きが聞こえた。
ここはハーヴァーンの工房。この場所よりハーヴァーンが有利で、強い空間は存在しない。何せ環境全てが俺に仇なすのだから。
「喰い散らかせ。」
飛竜が空を駆ける。主であるハーヴァーンの命に従い、俺へと迫り来る。
迎撃は無駄だ。外ならまだしも、この工房の中では万が一にも俺の勝機はない。取るのは逃げの一択。体を雷に変えて俺も同じく空を駆けた。
しかし逃げた所で、一体どうやってこの工房から脱出できるというのか。
「『巨神炎剣』」
俺はほぼ天井近くまで来て停止し、俺に迫り来る三匹の飛竜を見た。
黒い三匹の竜だ。形状で言えばワイバーンが近いが、鉤爪と羽が一体となっていない。ワイバーンによく似た別種である。
生命科の冠位がわざわざここに置いてある魔物だ。当然、普通の魔物であるはずがない。炎の剣を強く握って油断なく三匹を観察する。
「――速いんだな、随分と。」
背後から、つまり天井の方角から声が聞こえた。反射的に振り返るとそこにはハーヴァーンがいた。俺に向けてその右腕を伸ばしてくる。
俺もその腕に合わせるようにして剣を――
「――」
俺は首を掴まれた。そのまま重力に従って地面へと急降下していく。逃げようにもハーヴァーンの腕は木へと変化し、俺の首に深く根を張っていった。
魔力の動きが乱れる。魔法を維持することができない。恐らくは人体の魔力に干渉する魔法なのだろう。
俺は何も抵抗する事はできずに、地面へとその体を叩きつけられた。
闘気によってダメージを最小限に抑えることはできたが、それでも全身が悲鳴をあげている。当然ながらハーヴァーンには傷一つない。
木は俺の首から全身に広がり、地面と俺を縫い付ける。ハーヴァーンはそれを確認してから木と腕を切り離した。その後に直ぐ新しい腕が生えてくる。どうやら義手だったらしい。
「……俺は昔から、ウァクラートの奴らが嫌いだ。」
木の魔法で適当に椅子を作って、ハーヴァーンはそこに腰を落ち着かせる。
「特にお前の父親は気に入らなかった。俺より幼いにも関わらず傲慢にも冠位の座につき、第3席にまで上り詰めた。いつだって俺が欲しい物を当然な顔をして持っていく。」
木の腕はどうやら俺の魔法を吸って力を増しているようだった。この腕自体が生物なのかもしれない。力付くで剥がそうにも上手くいかない。
「だからお前から連絡を貰った時は良いチャンスだと思った。俺の憂さ晴らしに丁度良い。だが――」
ハーヴァーンは指を鳴らす。すると木は魔力となって消えていき、俺の体は自由に動くようになった。
俺は直ぐに立ち上がってハーヴァーンはから少し距離を取る。
「――心底ガッカリしたぞ。まさか人に魔法を振るうのに躊躇する腑抜けとは思わなかった。」
落胆した表情をハーヴァーンは俺に向けた。
俺は確かに巨神炎剣を振るうのを躊躇した。それは二レアのように、簡単に人を殺してしまうじゃないかと、そんな考えが脳裏をよぎったからだ。
「お前に何があったかなどは毛ほども興味がない。ただ、魔法を恐れるような三流を殺しても俺の気は晴れん。」
ハーヴァーンは空間を歪ませて、そこから筒状に丸めて紐で縛られた紙を取り出して俺の目の前に投げた。
「それを持ってここを立ち去れ。三流魔法使いが。」
言い返したい事はあった。だが、それは今じゃない。
俺はその紙を拾って、逃げ出すようにして工房を後にした。何よりも腹が立ったのは、自分の弱さだった。
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