幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
366 / 474
第十一章〜王子は誇りを胸へ〜

50.王選最終日

しおりを挟む
 昨日の出来事は未だ記憶に新しい。ニレアの起こした出来事とそれによる被害は、そう簡単に流せるほど小さなものでは決してない。
 それでも、王都に人は集まった。
 二人の王子、四大公爵家を含めた国中の貴族、数え切れない程のグレゼリオン国民。勿論、俺ことアルス・ウァクラートもだ。
 ディーテはもう帰ったが、エルディナとフランは馬車に詰めて連れてきた。怪我も軽度のものであったし、あそこに置いていく方が怖い。

 ちなみにエルディナはまだ目覚めていない。王城の一室を与えられて、そのベッドで眠っている。
 かなり派手な魔法を使ったし、洗脳されていたせいか極度の疲労状態にあるらしい。やかましいぐらいに寝言を言っていたし、きっと大丈夫だろう。
 むしろこうなってくれて良かったかもしれない。今日は王選最終日だ。昨日の事を整理したり、最終演説の準備やらでとにかく忙しい。みんな、昨日の疲労も残っているしな。

 アースとスカイは呼び出されて色々な手続きや準備をしているが、対してそれ以外の奴はかなり暇だ。特に俺は護衛の任務を終えたわけだし、やっと気が抜けるわけである。
 俺は王城にある自分の部屋にいて、そこには俺と同じように暇な二人がいた。

「本当に、すまなかった。」

 その内の一人は地べたに正座して頭を下げている。言わずもがな、さっき目覚めたばかりのフランである。
 もう一人はヒカリだ。急に謝り始めたフランと俺を交互に見て、どうすれば良いか迷っているように見える。

「……だから、お前は悪くないって言ってるだろ。」
「いや迷惑をかけた。ここまで事態が大きくなったのは、俺の責任だ。」

 いや、確かにフランが洗脳されていなかったらこんなに苦労する事はなかっただろうが、そんなもの気にしても仕方がない。本人がこれだけ反省していれば俺も問い詰める気にはなれないしな。

「もういいだろ、上手くいったんだから。」
「――だが、俺は騎士を何人も殺した。」

 ……覚えているのか。

「俺には罪はなくともその責任がある。だから、謝らなくて良いという事はない。」

 フランは必ず自分の責任や役割から逃げない。自分が友人に剣を向け、そして何人もの人の命を手にかけたという記憶から目を背ける事はしない。
 俺にはその苦しみを真に理解できないが、想像するだけで恐ろしいものである。自分の体が自分の意思とは違うように動き続けるのは悪夢のようなものだ。人によっては発狂をしてもおかしくない。フランだからこそ、耐えることができたのだろう。
 だからこそ、こうなれば引き下がることもない。

「わかった。いいよ、許す。」

 だから渋々、フランの謝罪を受け入れる。

「ヒカリにも迷惑をかけたな。」
「いや、いやいや! むしろ私の方が迷惑をかけてるッスよ!」
「そんな事はない。俺の方が――」
「不毛だからその会話やめてくれ。」

 俺はヒカリとフランの会話をぶった切る。どっちの方が迷惑かけたかなんていう会話、暗すぎて気分が悪くなる。折角勝てたのに、こんな会話をしていたら意味がない。

「というか、今日は王選最終日だぞ。こんなめでたい日に嫌な事を思い出しても仕方ない。どうせ明日になったら根掘り葉掘り事情を聞かれるんだから。」

 簡易な報告はしたが、今日は王選の準備で忙しい為か詳しくは聞かれなかった。これは俺にとっても幸運である。昨日の事はまだ、あまり思い出したくない。
 良い思い出でないのは当然だが、何よりは――

「……どうしたんスか、先輩。顔色が悪いッスよ。」
「ああ、いや、何でもないよ。」

 どうやら相当に酷い顔をしていたらしい。つい思い出してしまった。
 俺は昨日、初めて人を殺した。自分の意志で、自分の手で直接だ。人を殺すのはあまりにも簡単で、だからこそ俺の脳裏には言い難い不快感が残っていた。
 俺の判断は本当に正しかったのかなんて、もうわからない。俺はあの時、ニレアを殺すのが最善だと判断した。今思えば他に選択肢があったような気もする。
 ……これもまあ、今考えることじゃない。記憶には一度蓋をしておこう。

「アルス、傷は大丈夫なのか?」

 フランは少し唐突にそう聞いてきた。傷というのはフランに斬られた腹の傷のことだろう。

「大丈夫だ。スキルのおかげで傷の治りが早いんだよ。」
「あの傷もう治ったんスか? かなり血も出てたと思うんスけど……」
「さっき確認した時にはもう塞がってたな。跡はあったが。」

 スキルの地味に嬉しい効果である。俺の体の構造そのものがスキルで変わるらしく、原理は分からないがあらゆる身体能力が向上するのだ。
 流石に斬った腕が生えてくる、なんて事はないだろうけど、大抵の傷は勝手に治る。死ぬほど痛いけど。

「そうか、それなら良い。」

 フランは立ち上がる。

「どこに行くんだ?」
「スカイに会いに行く。あいつにも謝らなくていけない。」

 多分それはあっちも同じだろうし丁度良いだろうな。どれだけ忙しくても、スカイは時間を作るだろう。

「それと、剣だ。」

 そう言って俺の部屋を出た。
 まだフランの剣をスカイが持っているのか。確かにそれは何よりも大事である。俺との戦いでも剣さえあれば、少なくともあれ程早く決着することはなかっただろう。

「……師匠っていつぐらいまでいるんスかね?」
「俺との戦いの傷もあるし、事情聴取もある。最低でも三日はいると思うぞ。」
「長い間いてくれるといいんですけどね……できれば剣も教えて欲しいッス。」

 それはやってくれそう。あいつ、頼まれたら断れないし、嫌がったりとかしない奴だし。

「私、もっと強くなれそうなんスよ。」
「……別に強くならなくてもいいんだぞ。」
「そう言われると俄然やる気が出るッスね! せめて足手まといにならないぐらいには頑張るッス!」

 本当に強くならなくてもいいんだけどな。いや、やる気がある事は喜ばしい事ではあるが……難しい話だ。だけどこういうのを考えていられるのは、日常が返ってきた証でもある。
 王選がこの先どうなるかはわからない。だけど、どちらが勝っても良い国ができるだろう。心情的にはアースに勝ってほしいが、決めるのは国民だ。
 兎に角、俺の仕事は終わりだ。当分はゆっくり過ごすとしよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

安全第一異世界生活

笑田
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 異世界で出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて 婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の冒険生活目指します!!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...