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第十一章〜王子は誇りを胸へ〜
50.王選最終日
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昨日の出来事は未だ記憶に新しい。ニレアの起こした出来事とそれによる被害は、そう簡単に流せるほど小さなものでは決してない。
それでも、王都に人は集まった。
二人の王子、四大公爵家を含めた国中の貴族、数え切れない程のグレゼリオン国民。勿論、俺ことアルス・ウァクラートもだ。
ディーテはもう帰ったが、エルディナとフランは馬車に詰めて連れてきた。怪我も軽度のものであったし、あそこに置いていく方が怖い。
ちなみにエルディナはまだ目覚めていない。王城の一室を与えられて、そのベッドで眠っている。
かなり派手な魔法を使ったし、洗脳されていたせいか極度の疲労状態にあるらしい。やかましいぐらいに寝言を言っていたし、きっと大丈夫だろう。
むしろこうなってくれて良かったかもしれない。今日は王選最終日だ。昨日の事を整理したり、最終演説の準備やらでとにかく忙しい。みんな、昨日の疲労も残っているしな。
アースとスカイは呼び出されて色々な手続きや準備をしているが、対してそれ以外の奴はかなり暇だ。特に俺は護衛の任務を終えたわけだし、やっと気が抜けるわけである。
俺は王城にある自分の部屋にいて、そこには俺と同じように暇な二人がいた。
「本当に、すまなかった。」
その内の一人は地べたに正座して頭を下げている。言わずもがな、さっき目覚めたばかりのフランである。
もう一人はヒカリだ。急に謝り始めたフランと俺を交互に見て、どうすれば良いか迷っているように見える。
「……だから、お前は悪くないって言ってるだろ。」
「いや迷惑をかけた。ここまで事態が大きくなったのは、俺の責任だ。」
いや、確かにフランが洗脳されていなかったらこんなに苦労する事はなかっただろうが、そんなもの気にしても仕方がない。本人がこれだけ反省していれば俺も問い詰める気にはなれないしな。
「もういいだろ、上手くいったんだから。」
「――だが、俺は騎士を何人も殺した。」
……覚えているのか。
「俺には罪はなくともその責任がある。だから、謝らなくて良いという事はない。」
フランは必ず自分の責任や役割から逃げない。自分が友人に剣を向け、そして何人もの人の命を手にかけたという記憶から目を背ける事はしない。
俺にはその苦しみを真に理解できないが、想像するだけで恐ろしいものである。自分の体が自分の意思とは違うように動き続けるのは悪夢のようなものだ。人によっては発狂をしてもおかしくない。フランだからこそ、耐えることができたのだろう。
だからこそ、こうなれば引き下がることもない。
「わかった。いいよ、許す。」
だから渋々、フランの謝罪を受け入れる。
「ヒカリにも迷惑をかけたな。」
「いや、いやいや! むしろ私の方が迷惑をかけてるッスよ!」
「そんな事はない。俺の方が――」
「不毛だからその会話やめてくれ。」
俺はヒカリとフランの会話をぶった切る。どっちの方が迷惑かけたかなんていう会話、暗すぎて気分が悪くなる。折角勝てたのに、こんな会話をしていたら意味がない。
「というか、今日は王選最終日だぞ。こんなめでたい日に嫌な事を思い出しても仕方ない。どうせ明日になったら根掘り葉掘り事情を聞かれるんだから。」
簡易な報告はしたが、今日は王選の準備で忙しい為か詳しくは聞かれなかった。これは俺にとっても幸運である。昨日の事はまだ、あまり思い出したくない。
良い思い出でないのは当然だが、何よりは――
「……どうしたんスか、先輩。顔色が悪いッスよ。」
「ああ、いや、何でもないよ。」
どうやら相当に酷い顔をしていたらしい。つい思い出してしまった。
俺は昨日、初めて人を殺した。自分の意志で、自分の手で直接だ。人を殺すのはあまりにも簡単で、だからこそ俺の脳裏には言い難い不快感が残っていた。
俺の判断は本当に正しかったのかなんて、もうわからない。俺はあの時、ニレアを殺すのが最善だと判断した。今思えば他に選択肢があったような気もする。
……これもまあ、今考えることじゃない。記憶には一度蓋をしておこう。
「アルス、傷は大丈夫なのか?」
フランは少し唐突にそう聞いてきた。傷というのはフランに斬られた腹の傷のことだろう。
「大丈夫だ。スキルのおかげで傷の治りが早いんだよ。」
「あの傷もう治ったんスか? かなり血も出てたと思うんスけど……」
「さっき確認した時にはもう塞がってたな。跡はあったが。」
スキルの地味に嬉しい効果である。俺の体の構造そのものがスキルで変わるらしく、原理は分からないがあらゆる身体能力が向上するのだ。
流石に斬った腕が生えてくる、なんて事はないだろうけど、大抵の傷は勝手に治る。死ぬほど痛いけど。
「そうか、それなら良い。」
フランは立ち上がる。
「どこに行くんだ?」
「スカイに会いに行く。あいつにも謝らなくていけない。」
多分それはあっちも同じだろうし丁度良いだろうな。どれだけ忙しくても、スカイは時間を作るだろう。
「それと、剣だ。」
そう言って俺の部屋を出た。
まだフランの剣をスカイが持っているのか。確かにそれは何よりも大事である。俺との戦いでも剣さえあれば、少なくともあれ程早く決着することはなかっただろう。
「……師匠っていつぐらいまでいるんスかね?」
「俺との戦いの傷もあるし、事情聴取もある。最低でも三日はいると思うぞ。」
「長い間いてくれるといいんですけどね……できれば剣も教えて欲しいッス。」
それはやってくれそう。あいつ、頼まれたら断れないし、嫌がったりとかしない奴だし。
「私、もっと強くなれそうなんスよ。」
「……別に強くならなくてもいいんだぞ。」
「そう言われると俄然やる気が出るッスね! せめて足手まといにならないぐらいには頑張るッス!」
本当に強くならなくてもいいんだけどな。いや、やる気がある事は喜ばしい事ではあるが……難しい話だ。だけどこういうのを考えていられるのは、日常が返ってきた証でもある。
王選がこの先どうなるかはわからない。だけど、どちらが勝っても良い国ができるだろう。心情的にはアースに勝ってほしいが、決めるのは国民だ。
兎に角、俺の仕事は終わりだ。当分はゆっくり過ごすとしよう。
それでも、王都に人は集まった。
二人の王子、四大公爵家を含めた国中の貴族、数え切れない程のグレゼリオン国民。勿論、俺ことアルス・ウァクラートもだ。
ディーテはもう帰ったが、エルディナとフランは馬車に詰めて連れてきた。怪我も軽度のものであったし、あそこに置いていく方が怖い。
ちなみにエルディナはまだ目覚めていない。王城の一室を与えられて、そのベッドで眠っている。
かなり派手な魔法を使ったし、洗脳されていたせいか極度の疲労状態にあるらしい。やかましいぐらいに寝言を言っていたし、きっと大丈夫だろう。
むしろこうなってくれて良かったかもしれない。今日は王選最終日だ。昨日の事を整理したり、最終演説の準備やらでとにかく忙しい。みんな、昨日の疲労も残っているしな。
アースとスカイは呼び出されて色々な手続きや準備をしているが、対してそれ以外の奴はかなり暇だ。特に俺は護衛の任務を終えたわけだし、やっと気が抜けるわけである。
俺は王城にある自分の部屋にいて、そこには俺と同じように暇な二人がいた。
「本当に、すまなかった。」
その内の一人は地べたに正座して頭を下げている。言わずもがな、さっき目覚めたばかりのフランである。
もう一人はヒカリだ。急に謝り始めたフランと俺を交互に見て、どうすれば良いか迷っているように見える。
「……だから、お前は悪くないって言ってるだろ。」
「いや迷惑をかけた。ここまで事態が大きくなったのは、俺の責任だ。」
いや、確かにフランが洗脳されていなかったらこんなに苦労する事はなかっただろうが、そんなもの気にしても仕方がない。本人がこれだけ反省していれば俺も問い詰める気にはなれないしな。
「もういいだろ、上手くいったんだから。」
「――だが、俺は騎士を何人も殺した。」
……覚えているのか。
「俺には罪はなくともその責任がある。だから、謝らなくて良いという事はない。」
フランは必ず自分の責任や役割から逃げない。自分が友人に剣を向け、そして何人もの人の命を手にかけたという記憶から目を背ける事はしない。
俺にはその苦しみを真に理解できないが、想像するだけで恐ろしいものである。自分の体が自分の意思とは違うように動き続けるのは悪夢のようなものだ。人によっては発狂をしてもおかしくない。フランだからこそ、耐えることができたのだろう。
だからこそ、こうなれば引き下がることもない。
「わかった。いいよ、許す。」
だから渋々、フランの謝罪を受け入れる。
「ヒカリにも迷惑をかけたな。」
「いや、いやいや! むしろ私の方が迷惑をかけてるッスよ!」
「そんな事はない。俺の方が――」
「不毛だからその会話やめてくれ。」
俺はヒカリとフランの会話をぶった切る。どっちの方が迷惑かけたかなんていう会話、暗すぎて気分が悪くなる。折角勝てたのに、こんな会話をしていたら意味がない。
「というか、今日は王選最終日だぞ。こんなめでたい日に嫌な事を思い出しても仕方ない。どうせ明日になったら根掘り葉掘り事情を聞かれるんだから。」
簡易な報告はしたが、今日は王選の準備で忙しい為か詳しくは聞かれなかった。これは俺にとっても幸運である。昨日の事はまだ、あまり思い出したくない。
良い思い出でないのは当然だが、何よりは――
「……どうしたんスか、先輩。顔色が悪いッスよ。」
「ああ、いや、何でもないよ。」
どうやら相当に酷い顔をしていたらしい。つい思い出してしまった。
俺は昨日、初めて人を殺した。自分の意志で、自分の手で直接だ。人を殺すのはあまりにも簡単で、だからこそ俺の脳裏には言い難い不快感が残っていた。
俺の判断は本当に正しかったのかなんて、もうわからない。俺はあの時、ニレアを殺すのが最善だと判断した。今思えば他に選択肢があったような気もする。
……これもまあ、今考えることじゃない。記憶には一度蓋をしておこう。
「アルス、傷は大丈夫なのか?」
フランは少し唐突にそう聞いてきた。傷というのはフランに斬られた腹の傷のことだろう。
「大丈夫だ。スキルのおかげで傷の治りが早いんだよ。」
「あの傷もう治ったんスか? かなり血も出てたと思うんスけど……」
「さっき確認した時にはもう塞がってたな。跡はあったが。」
スキルの地味に嬉しい効果である。俺の体の構造そのものがスキルで変わるらしく、原理は分からないがあらゆる身体能力が向上するのだ。
流石に斬った腕が生えてくる、なんて事はないだろうけど、大抵の傷は勝手に治る。死ぬほど痛いけど。
「そうか、それなら良い。」
フランは立ち上がる。
「どこに行くんだ?」
「スカイに会いに行く。あいつにも謝らなくていけない。」
多分それはあっちも同じだろうし丁度良いだろうな。どれだけ忙しくても、スカイは時間を作るだろう。
「それと、剣だ。」
そう言って俺の部屋を出た。
まだフランの剣をスカイが持っているのか。確かにそれは何よりも大事である。俺との戦いでも剣さえあれば、少なくともあれ程早く決着することはなかっただろう。
「……師匠っていつぐらいまでいるんスかね?」
「俺との戦いの傷もあるし、事情聴取もある。最低でも三日はいると思うぞ。」
「長い間いてくれるといいんですけどね……できれば剣も教えて欲しいッス。」
それはやってくれそう。あいつ、頼まれたら断れないし、嫌がったりとかしない奴だし。
「私、もっと強くなれそうなんスよ。」
「……別に強くならなくてもいいんだぞ。」
「そう言われると俄然やる気が出るッスね! せめて足手まといにならないぐらいには頑張るッス!」
本当に強くならなくてもいいんだけどな。いや、やる気がある事は喜ばしい事ではあるが……難しい話だ。だけどこういうのを考えていられるのは、日常が返ってきた証でもある。
王選がこの先どうなるかはわからない。だけど、どちらが勝っても良い国ができるだろう。心情的にはアースに勝ってほしいが、決めるのは国民だ。
兎に角、俺の仕事は終わりだ。当分はゆっくり過ごすとしよう。
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