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第十一章〜王子は誇りを胸へ〜
41.剣士と魔法使い
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狙い通り、ニレアの周辺の警護の大半はユリウスの所へと向かっていった。当然ながらニレア本人の警護は薄くなっていて、狙うなら正に今だ。ユリウスやディーテの為にも、早く決着をつけなくてはならない。
ニレアのいる広場に合計で五人いた。一人は当然ニレアで、その警護をしているフランと知らない人が二人。そしてスカイの言葉が正しければ、あの布で巻かれている奴がサティアなのだろう。
周辺の敵はユリウスが全て引き受けているからこそ、援軍は来たとしても大分遅れるはずだ。つまりこの時に限り、俺はフランとほぼ一対一で戦うことができる。
勝てるかどうかの保証なんて一切ないわけだが、それでもやるしかないだろう。
広場はかなり開けている。今いる路地裏から一気に広場の中心にいるニレアへ攻撃をするには、あまりにも距離が離れている。一撃でニレアを殺せるかどうかの賭けに出てもいいのだが、フランに隙を晒す事のデメリットとあまり釣り合っていない。
広場を丸ごと爆撃したら人質であるサティアの命の保証がない。生半可な魔法ならきっとニレアを倒すには至らないだろう。
「ま、試してみるか。」
この距離から魔法を撃つ分には、デメリットはないだろう。
人器である無題の魔法書を取り出す。使うのは魔法書に俺が記録した魔法の一つだ。大して強くはないが、突然の不意打ちの威力としては十分なものだろう。
正直言ってこんなんでフランの目をかいくぐれる気はしないが、上手くいったら僥倖ということで。
「『炎鎖烙印』」
俺は一気に飛び出して走り込みながら、魔法を展開させる。広場に一気に魔法陣が十個展開され、そこから炎の鎖が同時に放たれる。石が地面に落ちるような速さで、出来の悪い剣なら直ぐに溶かしてしまうような高温の炎が飛んでいく。
剣士の弱点は、どれだけ足掻いても武器が一つしかない事だ。魔法使いの手数には絶対に剣士は勝てない。
「『絶剣』」
しかしそんな俺の魔法を、たった一振りでフランは覆す。虚空を斬ったはずのフランの剣は、何故か付近にある全ての魔法陣を破壊した。魔法陣から出ていた炎は当然ながら魔力供給が途絶える事により消え、残ったのは俺の身一つだけだ。
ああ、分かっていたとも。どんな不意打ちであってもフランなら返してくると思っていた。俺が知るうる中で最高の剣士だからな。これぐらいはできなきゃおかしい。
「『巨神炎剣』」
「『豪覇』」
真正面から、俺の炎の剣とフランの剣がぶつかり合う。しかし拮抗したのは速度が乗っていた最初の一瞬だけで、体重を乗せて力を入れられると直ぐに力に負けて俺は一歩下がる。
「な、え? どういうこと?」
そこでようやっと、ニレアは状況を把握したようである。そしてニレアを守るようにして付近にいた二人がニレアの前に立つ。
片方は杖を持っていて、もう片方は槍を持っていた。魔法使いと槍使いか。フランの隙を突いてニレアを倒すというのも面倒くさそうだ。
「……ああ、私を殺しに来たのね。エルディナを引きはがして、そして私の護衛を集めて、それで一人で私を殺しに一人でやって来たわけね。」
ニレアの声は冷静だった。この急激に落ち着いて冷静に対処するタイミングがある事が、ニレアの厄介な点だった。
恐らくニレアは自分の弱点を理解している。だからこそ絶対に護衛を連れているし、こうやって不意打ちで倒す事は絶対にできない。
「サティアを運んで。逃げるのよ。」
ニレアは歩いて広場から離れていく、その背中に追撃したくともフランを無視はできない。
槍を持っている男は反対の手で簀巻きにされた女を脇に抱えた。そして魔法使いと槍使いも後ろからついていった。
まずは、俺がフランに勝たなくてはならない。少なくとも俺がフランに負けて殺されれば、今回の作戦は失敗となってしまう。
俺は体を砂に変えて、フランの剣から一度逃れる。だがこの状態からでもフランは俺に追撃ができる。急いで次の魔法を使わなくては防戦一方となる。
「『神話体現』」
切り札は決して温存しない。
雲一つない青空の下に雷が走る。右手にあるのは十束剣、この身に宿すは荒ぶる大海の神。
「建速須佐之男命」
太陽が雲に隠される。風が吹き荒れ、大雨が降り注ぎ、雷が耳を劈くような音と共に落ちる。俺とフランは対面からにらみ合う。
フランとはこうやって全力で戦ったことなんてなかった。それがこんな所で、しかも洗脳された状態で叶うなんて思いもしなかった。できれば、もっと正式な状態と場所で戦いたかったがな。
「『八岐大蛇』」
水が渦を巻きながら八つ首の大蛇の形へと変化し、フランの目の前に立ちふさがる。
フランは即座に剣を振り、蛇の首の内の一つを落とすがその程度でこいつの動きは弱まらない。大地を揺らしながらフランへ迫り、七つの頭が大口を開けて襲いかかる。
「『天幻』」
一言、そう呟くと同時にフランの手元がブレる。その次の瞬間、フランの剣がまるで七つに分裂したように見えて、八岐大蛇はその頭を全て失っていた。
これで決まるとは思っていなかったが、まさか一撃も喰らわないとはな。本当に、規格外にも程がある。
俺は蛇が水となって消える前に、それをそのまま突っ込ませる。フランは近付かせないように再び片手で剣を振るって、今度こそ大蛇は水となって消え去る。
その振り終わった一瞬、構えを元に戻す前に俺が飛び出る。右手に持つ剣は雷を帯び、フランの剣を持つ手首へと伸びる。
だがそれを、反対の手でフランは正面から掴んだ。
「な――」
「『豪覇』」
振り上げられた刃が、容赦なく俺の体へ振るわれる。反射的に身を引いたが、それでも剣先が俺の体を割く。
右肩からその少し下まで斬られ、ドクドクと血が流れ始める。取り敢えずそれを氷魔法を使って止血するが、痛みは取れない。
油断した。真正面からフランとやり合うべきではなかった。俺の強みは単純な力ではなく手数だ。相手の土俵で戦うべきじゃない。
剣を掴んだフランの手は、確かに傷は入ってはいるが深くはなさそうだ。闘気をそこに集めたのだろう。
闘気とは肉体のエネルギーの発露だ。一流の戦士であれば、それを集めるだけで手刀すらも名刀へと転じさせる。体外への放出ができない分、肉体との親和性が高いが故にできる芸当である。
「『剣雨』」
俺はフラン目掛けて、空の雲から無数の剣を降らせる。フランは走ってそれを避けながら、俺へと一気に接近してくる。
「天羽々斬よ! その刀身に神の威を宿せ!」
俺の持つ剣を中心として暴風が起こり、雷が嘶きの音を立てる。
今度は正面から力比べなんてしない。俺は魔法使いなんだから、攻撃を当てるのにわざわざ近付いてやる必要なんてないわけだ。
「『日食』」
雷、水、風の三属性を集めた単純なエネルギーが、文字通りの雷の速さでフランを呑み込む。
水と風で敵を潰して、その上から雷で相手を確実にダメージを与えるというものだ。流石のフランもここからは逃げられない。
「――『絶剣』」
それでもそんな動くすらままならない程の魔法の中でも、フランは剣を振った。魔法はたったそれだけで霧散して、その姿を失っていく。
だが、確かに意味はあった。
「ガ、ゲホッ! ゲホッ!」
フランは口から血を吐いた。
本人から聞いたことがある。『絶剣』は距離や法則を無視して、斬りたいものを斬ることができる。しかし斬る対象が大きいものであればあるほど体で代償を払わなくてはならないのだ。
「……ここからが、本番か。」
たかが血を吐いた程度でフランは止まらない。骨の何本か折ったってこいつはまだ戦える。
俺とフランの戦いは始まったばかりだった。
ニレアのいる広場に合計で五人いた。一人は当然ニレアで、その警護をしているフランと知らない人が二人。そしてスカイの言葉が正しければ、あの布で巻かれている奴がサティアなのだろう。
周辺の敵はユリウスが全て引き受けているからこそ、援軍は来たとしても大分遅れるはずだ。つまりこの時に限り、俺はフランとほぼ一対一で戦うことができる。
勝てるかどうかの保証なんて一切ないわけだが、それでもやるしかないだろう。
広場はかなり開けている。今いる路地裏から一気に広場の中心にいるニレアへ攻撃をするには、あまりにも距離が離れている。一撃でニレアを殺せるかどうかの賭けに出てもいいのだが、フランに隙を晒す事のデメリットとあまり釣り合っていない。
広場を丸ごと爆撃したら人質であるサティアの命の保証がない。生半可な魔法ならきっとニレアを倒すには至らないだろう。
「ま、試してみるか。」
この距離から魔法を撃つ分には、デメリットはないだろう。
人器である無題の魔法書を取り出す。使うのは魔法書に俺が記録した魔法の一つだ。大して強くはないが、突然の不意打ちの威力としては十分なものだろう。
正直言ってこんなんでフランの目をかいくぐれる気はしないが、上手くいったら僥倖ということで。
「『炎鎖烙印』」
俺は一気に飛び出して走り込みながら、魔法を展開させる。広場に一気に魔法陣が十個展開され、そこから炎の鎖が同時に放たれる。石が地面に落ちるような速さで、出来の悪い剣なら直ぐに溶かしてしまうような高温の炎が飛んでいく。
剣士の弱点は、どれだけ足掻いても武器が一つしかない事だ。魔法使いの手数には絶対に剣士は勝てない。
「『絶剣』」
しかしそんな俺の魔法を、たった一振りでフランは覆す。虚空を斬ったはずのフランの剣は、何故か付近にある全ての魔法陣を破壊した。魔法陣から出ていた炎は当然ながら魔力供給が途絶える事により消え、残ったのは俺の身一つだけだ。
ああ、分かっていたとも。どんな不意打ちであってもフランなら返してくると思っていた。俺が知るうる中で最高の剣士だからな。これぐらいはできなきゃおかしい。
「『巨神炎剣』」
「『豪覇』」
真正面から、俺の炎の剣とフランの剣がぶつかり合う。しかし拮抗したのは速度が乗っていた最初の一瞬だけで、体重を乗せて力を入れられると直ぐに力に負けて俺は一歩下がる。
「な、え? どういうこと?」
そこでようやっと、ニレアは状況を把握したようである。そしてニレアを守るようにして付近にいた二人がニレアの前に立つ。
片方は杖を持っていて、もう片方は槍を持っていた。魔法使いと槍使いか。フランの隙を突いてニレアを倒すというのも面倒くさそうだ。
「……ああ、私を殺しに来たのね。エルディナを引きはがして、そして私の護衛を集めて、それで一人で私を殺しに一人でやって来たわけね。」
ニレアの声は冷静だった。この急激に落ち着いて冷静に対処するタイミングがある事が、ニレアの厄介な点だった。
恐らくニレアは自分の弱点を理解している。だからこそ絶対に護衛を連れているし、こうやって不意打ちで倒す事は絶対にできない。
「サティアを運んで。逃げるのよ。」
ニレアは歩いて広場から離れていく、その背中に追撃したくともフランを無視はできない。
槍を持っている男は反対の手で簀巻きにされた女を脇に抱えた。そして魔法使いと槍使いも後ろからついていった。
まずは、俺がフランに勝たなくてはならない。少なくとも俺がフランに負けて殺されれば、今回の作戦は失敗となってしまう。
俺は体を砂に変えて、フランの剣から一度逃れる。だがこの状態からでもフランは俺に追撃ができる。急いで次の魔法を使わなくては防戦一方となる。
「『神話体現』」
切り札は決して温存しない。
雲一つない青空の下に雷が走る。右手にあるのは十束剣、この身に宿すは荒ぶる大海の神。
「建速須佐之男命」
太陽が雲に隠される。風が吹き荒れ、大雨が降り注ぎ、雷が耳を劈くような音と共に落ちる。俺とフランは対面からにらみ合う。
フランとはこうやって全力で戦ったことなんてなかった。それがこんな所で、しかも洗脳された状態で叶うなんて思いもしなかった。できれば、もっと正式な状態と場所で戦いたかったがな。
「『八岐大蛇』」
水が渦を巻きながら八つ首の大蛇の形へと変化し、フランの目の前に立ちふさがる。
フランは即座に剣を振り、蛇の首の内の一つを落とすがその程度でこいつの動きは弱まらない。大地を揺らしながらフランへ迫り、七つの頭が大口を開けて襲いかかる。
「『天幻』」
一言、そう呟くと同時にフランの手元がブレる。その次の瞬間、フランの剣がまるで七つに分裂したように見えて、八岐大蛇はその頭を全て失っていた。
これで決まるとは思っていなかったが、まさか一撃も喰らわないとはな。本当に、規格外にも程がある。
俺は蛇が水となって消える前に、それをそのまま突っ込ませる。フランは近付かせないように再び片手で剣を振るって、今度こそ大蛇は水となって消え去る。
その振り終わった一瞬、構えを元に戻す前に俺が飛び出る。右手に持つ剣は雷を帯び、フランの剣を持つ手首へと伸びる。
だがそれを、反対の手でフランは正面から掴んだ。
「な――」
「『豪覇』」
振り上げられた刃が、容赦なく俺の体へ振るわれる。反射的に身を引いたが、それでも剣先が俺の体を割く。
右肩からその少し下まで斬られ、ドクドクと血が流れ始める。取り敢えずそれを氷魔法を使って止血するが、痛みは取れない。
油断した。真正面からフランとやり合うべきではなかった。俺の強みは単純な力ではなく手数だ。相手の土俵で戦うべきじゃない。
剣を掴んだフランの手は、確かに傷は入ってはいるが深くはなさそうだ。闘気をそこに集めたのだろう。
闘気とは肉体のエネルギーの発露だ。一流の戦士であれば、それを集めるだけで手刀すらも名刀へと転じさせる。体外への放出ができない分、肉体との親和性が高いが故にできる芸当である。
「『剣雨』」
俺はフラン目掛けて、空の雲から無数の剣を降らせる。フランは走ってそれを避けながら、俺へと一気に接近してくる。
「天羽々斬よ! その刀身に神の威を宿せ!」
俺の持つ剣を中心として暴風が起こり、雷が嘶きの音を立てる。
今度は正面から力比べなんてしない。俺は魔法使いなんだから、攻撃を当てるのにわざわざ近付いてやる必要なんてないわけだ。
「『日食』」
雷、水、風の三属性を集めた単純なエネルギーが、文字通りの雷の速さでフランを呑み込む。
水と風で敵を潰して、その上から雷で相手を確実にダメージを与えるというものだ。流石のフランもここからは逃げられない。
「――『絶剣』」
それでもそんな動くすらままならない程の魔法の中でも、フランは剣を振った。魔法はたったそれだけで霧散して、その姿を失っていく。
だが、確かに意味はあった。
「ガ、ゲホッ! ゲホッ!」
フランは口から血を吐いた。
本人から聞いたことがある。『絶剣』は距離や法則を無視して、斬りたいものを斬ることができる。しかし斬る対象が大きいものであればあるほど体で代償を払わなくてはならないのだ。
「……ここからが、本番か。」
たかが血を吐いた程度でフランは止まらない。骨の何本か折ったってこいつはまだ戦える。
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