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第十一章〜王子は誇りを胸へ〜
22.呆気ない終幕
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スカイが活動し始めた時間とおおよそ同時刻、北部では学園の教師と騎士が協力して活動を行っていた。
その中でも武術に長ける者は魔物の駆除を優先して行い、魔法に長ける者は救助活動を優先して行っていた。これは想像より魔物が強力であり、魔法での討伐は時間がかかると判断されたからである。
魔法は確かに強力であるが、その強さというのは武器や銃器というよりは爆弾のような強さだ。
下手に発動すれば領民や建築物を破壊してしまうし、何より魔物は普通より頑丈なのだ。爆弾の一つや二つで死んでくれたら苦労はしない。
しかしフランがそうやったように、首を切断できれば殺せる。勝負を決め切る決定打がある事が、何よりの剣のメリットと言えた。
「……妙だな。」
冠位レベルにもなると、それも話が変わってくるが。
アルドールはいつも通りの仏頂面で街道を歩く。付近には既に魔物はいない。全てアルドールに殺された後だ。
「弱過ぎる。これでは死人もほとんど出ない、いや、ほぼゼロに近いか。」
ここまで大規模な強襲である。それにかかる資金も時間もかなりのものだったはずだ。
そんな作戦を何故、よりにもよって五大都市の一つで行ったのか。ここが陥落すれば確かに世界中で話題になる。しかし冠位が二人いて、優秀な騎士や戦士が揃っている上にアルスまで滞在する今、この場所でやる意味が分からない。
この程度の魔物でファルクラムを落とせると思う程の馬鹿は、誰にもバレずにこんな計画は練れないだろう。
考えられる可能性は主に2つ。
1つはこれが陽動である可能性。こうやって街を混乱に陥れ、その隙にアースやウォーロイドなどの要人を暗殺するというものだ。
しかし、いくら緊急時とはいえ王族の側には常に警備がついている。それに今回は護身用の魔道具をアースは多めに持たされている。この状況であれば賢神でさえ殺すのは困難だ。そして時間をかければ、そこにアルドールやオーディン、アルスだって駆けつけられる。
それにそこまでの戦力があるのならわざわざこのタイミングを狙う意味がない。演説中に真っ直ぐ突っ込んで殺した方がまだ意表を突ける分、確率が高いだろう。
2つ目はそもそもこの都市を落とす目的ではない可能性。つまりはこの都市に魔物が来て、それが対処された、という事実が大切な場合である。
こっちの説の方がまだ合理的だが、目的が結局はっきりしない。今のところ、この出来事で得をする人物などほとんどいないはずなのだ。
スカイ・フォン・グレゼリオンただ一人を除いて。
スカイはこの戦いで間違いなく勢い付く。劣勢だった第二王子勢力も対等以上に持ち込めるだろう。
だが、これではまるでスカイを疑えと誘導されているようである。何よりこんな事をスカイが自作自演で行うなど、アルドールの知る人物像とは大きく乖離があった。
だが、スカイの勢力の暴走だったとして、ここまで大掛かりでリスキーな手を使うだろうか?
「――いや、これを考えるのは後だ。」
アルドールは自分の思考を一旦止め、魔物がいる場所へと魔力を追って走り始めた。
どれも後で考えれば良い事である。今は一分一秒でも早く、魔物を掃討する必要があった。
「止まれ、アルドール。」
それを呼び止める声が一つ。幼い少女の声が空から聞こえてきた。
そこにいたのは、『悠久の魔女』オーディン・ウァクラートであった。まるで精霊のように宙に漂っている。
「調整は済んだ。もう何もせんで良い。」
手には木の古びた杖が握られており、鍔の広い三角帽子を頭に被せていた。
アルドールはオーディンの言葉の通り、足を止める。この時点で既に、勝敗は決したからだ。
アルドールが死者が少ないという結論をくだした理由は、この魔女がいるからである。他の全ての人の働きは、オーディンが動くまでの時間稼ぎに過ぎない。
「ならば私は後始末の準備でもしておこう。ウォーロイドとも話したい事がある。」
アルドールは街の中央へと歩き出し、オーディンはそのまま空へと浮かんでいく。
上空にある結界の上では、未だにアルスが魔物と戦っていた。それを一瞬だけオーディンは見て、それから街を見下ろした。
「……折角じゃ、派手にやろうかの。」
オーディンの爪先を中心として、青白い光が走る。それは幾度も交差し、そして一つの形を成していく。
ところで、魔法使いにおける魔法陣は、魔法陣学という学問があるぐらいには突き詰められる一つの分野である。魔法陣とは一種のプログラムのコードのようなもので、そこに書いてある通りに魔法は発動される。
制御が難しかったり、失敗が許されないような大魔法において使われる事が多い魔法の技術の一つだ。その為、遥か昔から改良に改良が重ね続けられている。
その結果こそが、今オーディンが使うような多重相乗魔法陣である。
複数の魔法陣を合わせて一つの巨大な魔法陣とする事で、より最適化され、よりその威力は向上する。
「輝きは空にあり」
そして魔力が乗る詩《うた》が、その口から零れ出る。
「遥か遠く星空よ、無限に広がる黒き海よ、今ここに星辰の理を示さん」
全ての人が空を見た。芸術とまで言える程の美しい魔法陣と、それを実現させる膨大な魔力量、そしてその中心にいる一人の少女。
まるでそれは幻想的な神話の一幕のようで、人の目を釘付けにする。
「『綺羅星』」
そして全ての人が見た。野球ボール程の小さな光の球が、軌跡を残して地上に落ちたこと。
その瞬間に、全ての領内にいる魔物は死に絶えたのだ。大量の魔物が、たった一人の一回の魔法で、寸分の誤差なく。
「ふん、まだなまっておらんようじゃの。」
都市戦はその時、終わりを迎えた。
その中でも武術に長ける者は魔物の駆除を優先して行い、魔法に長ける者は救助活動を優先して行っていた。これは想像より魔物が強力であり、魔法での討伐は時間がかかると判断されたからである。
魔法は確かに強力であるが、その強さというのは武器や銃器というよりは爆弾のような強さだ。
下手に発動すれば領民や建築物を破壊してしまうし、何より魔物は普通より頑丈なのだ。爆弾の一つや二つで死んでくれたら苦労はしない。
しかしフランがそうやったように、首を切断できれば殺せる。勝負を決め切る決定打がある事が、何よりの剣のメリットと言えた。
「……妙だな。」
冠位レベルにもなると、それも話が変わってくるが。
アルドールはいつも通りの仏頂面で街道を歩く。付近には既に魔物はいない。全てアルドールに殺された後だ。
「弱過ぎる。これでは死人もほとんど出ない、いや、ほぼゼロに近いか。」
ここまで大規模な強襲である。それにかかる資金も時間もかなりのものだったはずだ。
そんな作戦を何故、よりにもよって五大都市の一つで行ったのか。ここが陥落すれば確かに世界中で話題になる。しかし冠位が二人いて、優秀な騎士や戦士が揃っている上にアルスまで滞在する今、この場所でやる意味が分からない。
この程度の魔物でファルクラムを落とせると思う程の馬鹿は、誰にもバレずにこんな計画は練れないだろう。
考えられる可能性は主に2つ。
1つはこれが陽動である可能性。こうやって街を混乱に陥れ、その隙にアースやウォーロイドなどの要人を暗殺するというものだ。
しかし、いくら緊急時とはいえ王族の側には常に警備がついている。それに今回は護身用の魔道具をアースは多めに持たされている。この状況であれば賢神でさえ殺すのは困難だ。そして時間をかければ、そこにアルドールやオーディン、アルスだって駆けつけられる。
それにそこまでの戦力があるのならわざわざこのタイミングを狙う意味がない。演説中に真っ直ぐ突っ込んで殺した方がまだ意表を突ける分、確率が高いだろう。
2つ目はそもそもこの都市を落とす目的ではない可能性。つまりはこの都市に魔物が来て、それが対処された、という事実が大切な場合である。
こっちの説の方がまだ合理的だが、目的が結局はっきりしない。今のところ、この出来事で得をする人物などほとんどいないはずなのだ。
スカイ・フォン・グレゼリオンただ一人を除いて。
スカイはこの戦いで間違いなく勢い付く。劣勢だった第二王子勢力も対等以上に持ち込めるだろう。
だが、これではまるでスカイを疑えと誘導されているようである。何よりこんな事をスカイが自作自演で行うなど、アルドールの知る人物像とは大きく乖離があった。
だが、スカイの勢力の暴走だったとして、ここまで大掛かりでリスキーな手を使うだろうか?
「――いや、これを考えるのは後だ。」
アルドールは自分の思考を一旦止め、魔物がいる場所へと魔力を追って走り始めた。
どれも後で考えれば良い事である。今は一分一秒でも早く、魔物を掃討する必要があった。
「止まれ、アルドール。」
それを呼び止める声が一つ。幼い少女の声が空から聞こえてきた。
そこにいたのは、『悠久の魔女』オーディン・ウァクラートであった。まるで精霊のように宙に漂っている。
「調整は済んだ。もう何もせんで良い。」
手には木の古びた杖が握られており、鍔の広い三角帽子を頭に被せていた。
アルドールはオーディンの言葉の通り、足を止める。この時点で既に、勝敗は決したからだ。
アルドールが死者が少ないという結論をくだした理由は、この魔女がいるからである。他の全ての人の働きは、オーディンが動くまでの時間稼ぎに過ぎない。
「ならば私は後始末の準備でもしておこう。ウォーロイドとも話したい事がある。」
アルドールは街の中央へと歩き出し、オーディンはそのまま空へと浮かんでいく。
上空にある結界の上では、未だにアルスが魔物と戦っていた。それを一瞬だけオーディンは見て、それから街を見下ろした。
「……折角じゃ、派手にやろうかの。」
オーディンの爪先を中心として、青白い光が走る。それは幾度も交差し、そして一つの形を成していく。
ところで、魔法使いにおける魔法陣は、魔法陣学という学問があるぐらいには突き詰められる一つの分野である。魔法陣とは一種のプログラムのコードのようなもので、そこに書いてある通りに魔法は発動される。
制御が難しかったり、失敗が許されないような大魔法において使われる事が多い魔法の技術の一つだ。その為、遥か昔から改良に改良が重ね続けられている。
その結果こそが、今オーディンが使うような多重相乗魔法陣である。
複数の魔法陣を合わせて一つの巨大な魔法陣とする事で、より最適化され、よりその威力は向上する。
「輝きは空にあり」
そして魔力が乗る詩《うた》が、その口から零れ出る。
「遥か遠く星空よ、無限に広がる黒き海よ、今ここに星辰の理を示さん」
全ての人が空を見た。芸術とまで言える程の美しい魔法陣と、それを実現させる膨大な魔力量、そしてその中心にいる一人の少女。
まるでそれは幻想的な神話の一幕のようで、人の目を釘付けにする。
「『綺羅星』」
そして全ての人が見た。野球ボール程の小さな光の球が、軌跡を残して地上に落ちたこと。
その瞬間に、全ての領内にいる魔物は死に絶えたのだ。大量の魔物が、たった一人の一回の魔法で、寸分の誤差なく。
「ふん、まだなまっておらんようじゃの。」
都市戦はその時、終わりを迎えた。
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