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第十一章〜王子は誇りを胸へ〜
21.最速最強
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スカイは武術に優れている。第二学園こそ出ていないが、ユリウスや王国の騎士から教わっているからこそ、剣の腕に関してはかなりのものであると言える。
しかしだからと言って、王国の中でも上位の騎士には劣るし、皇国で最強を謳われるフランや次代の冠位とも噂されるアルスには遠く及ばない。
だからこそ、旗印となり先頭に立つ。これがスカイの最善手であると言えた。
魔物の数は多い。人が勝る点は数ではなく統率力である。変にバラけてしまえば逆に効率を落とす。降ってきた魔物が並の魔物でない点もそれに拍車をかけている。
だからこそ、互いに協力し合える範囲で陣形を広げ、魔物を確実に、そして広域の探索をしながら撃破するというのが全体の動きだった。
「いやあ、順調だね。ぼかぁあんな勢いのまま出てきたんだからどこかで瓦解するんじゃないかって心配だったよ。」
スカイの隣で馬を走らせるユリウスはそう言った。
実際、スカイ達はやけに順調だった。魔物と何度も遭遇はしているが、特に手間取る事もなく撃破し、こちら側に被害はない。しかも行進速度も落とさずに済んでいる。
これはもはや奇跡と言えた。これだけの人数が、ここまで足並みを揃えられる事は普通ない。
「確かスカイは、第一学園で兵法を学んでいたんだっけ。そのおかげかな?」
「いや、確かにこういう訓練もした事はあるけど……これは僕がどうとかじゃない。誰がやってもこんな風になるよ。」
何故ここまで順調であるか、その理由は明白であった。敵があまりにも弱過ぎるのだ。
空を飛ぶような魔物はいないし、厄介な特性を持つ魔物も、単純に強力な魔物もいない。数こそ多いが、それが群れるわけではないので各個撃破が可能である。
まるで既に狩り尽くされた後のような、そんな感覚があった。
「じゃあ、フランか。」
ユリウスは迷わず、決まり切ったようにそう言った。
フランはこの街に入って、魔物が落ちてから直ぐから別働隊として一人で動いていた。取り敢えず数を少しでも減らしてくれ、とだけ言ったのをスカイは覚えている。
「いや、だけど流石に速すぎないか? 僕らだってかなりの速度で動いているし、数もいるから効率がいい。ちょっと中央に行った間に、それこそ数百単位の魔物を一人で倒したことになるよ。」
スカイは剣が得意だ。単純な剣術の試合を行うならば、王国の中でも上位に位置すると言えるだろう。そんなスカイだからこそ、剣士の限界も当然ながら知っている。
剣は魔法と比べて、一対一にとにかく強い。何より単純に自己強化ができる闘気のおかげで、安定性も高い事が魅力と言える。その代わりに範囲攻撃や殲滅力は遥かに魔法使いへ劣る。どれだけ素早く、そして強くともその速度には限界があるはずなのだ。
だからこそ、スカイはこれに強い違和感があったのだ。
「……できるんだなあ、それが。ぼかぁ確か初日に言ったはずだろ。腕が立つ良い剣士だって。」
スカイは頷く。
「ぼかぁ仮にもアグラードル公爵家の当主。この王国内にぼくより強い剣士なんているかどうかすら分からないレベルだ。」
アグラードル家は最も強い人が家督を継ぎ、当主となって領を統治する。
幼い頃から公爵家という恵まれた環境で、何人もの家族と競い合って研ぎ澄まされた剣は騎士とは比べ物にならない。剣にかけられる金と時間と情熱の量が、そもそも桁違いだからだ。
「そんなぼくが、『良い剣士』なんて言ったんだよ。」
魔法使いには完成形は存在しない。
想像力がそのままに強さと繋がる以上、同じ属性を扱う魔法使いでも戦闘法が大きく異なる。これは魔法使いの手札が多過ぎるが故である。
同じ一流の風の魔法使いでも、エルディナは感知と範囲攻撃を主とするが、アルドールは転移と収納を主体とした近接戦を得意とする。
これはどちらも間違いというわけではない。いわゆる一長一短の関係にある。
しかし剣には完成形があると、フランは考えている。
無論、剣の種類によってそれぞれ完成形は存在する。しかし同じ剣を与えられたのなら、それぞれが別の形で突き詰めたとしても、最終的な終着点は一緒であるだろうと、そう考えていた。
フランにとっての究極の剣とは、無駄な行為、動作の全てを削ぎ落とした果てに残ったモノだ。必要のない動作を削ればより速く、より強く、より完璧な剣へと至ることができる。
そうやってフランは、『最速最強』と、そう呼ばれるに至ったのだ。
「……目ぼしい奴は大体斬ったか。」
なんとなく、強そうだとか厄介そうな奴だけを適当に選んでフランは斬り捨ててきた。強敵を倒しておけば後が楽だろうという考えであり、実際にそれは上手くいっていた。
「こいつを倒したら、一度合流しておこう。」
剣先は微かな揺れもなく、真っ直ぐに敵へと向けられる。それは獰猛な、体を赤い火で燃やす獅子であった。その体は巨大でフランの身長を優に超えており、体から溢れ出る魔力は火へと変換され、そこにいるだけで周囲を焼いていた。
十段階の危険度の内の八、太陽の獅子と呼ばれる魔物であった。冒険者でないフランが、そんな事を知るわけもないが。
この魔物は降り立った魔物の中でも特に強く、そして今日戦った相手の中では一番強い魔物であると、フランはなんとなくそんな気がしていた。
獅子は睨みを効かせ、口から火を溢しながら低い声で唸っていた。それを気にせずにフランは前に出る。
一歩、二歩、三歩。その三歩目で、獅子は大きな声で雄叫びをあげながらフランへと飛びかかる。それと同時に火が、まるで意思を持ったかのように大気を走ってフランへと迫った。
多方向からの同時攻撃である。一方を防げばもう一方が当たってしまう。これはその獅子にとっての戦いの定石であった。
「無銘流奥義三ノ型『王璧』」
しかし定石は安定択であって必勝の手ではない。その炎が届くより早く、逆に前にフランは飛び出てその剣で獅子の鉤爪を受けた。
フランは左手で獅子の首を掴み、空中でそのまま上下を逆転させながら地面へとその体を叩きつけた。獅子は炎を吹き出し、フランを燃やし尽くそうとするが、その時には既にフランはいない。
獅子は背を地面に向けている。立ち上がるにはどうしても一瞬、隙を晒さなくてはならない。その一瞬をフランが逃すわけがないのだ。
「一ノ型『豪覇』」
反射的に立ち上がったその獅子の首を、一太刀で落とす。勝負は一瞬だった。
しかしだからと言って、王国の中でも上位の騎士には劣るし、皇国で最強を謳われるフランや次代の冠位とも噂されるアルスには遠く及ばない。
だからこそ、旗印となり先頭に立つ。これがスカイの最善手であると言えた。
魔物の数は多い。人が勝る点は数ではなく統率力である。変にバラけてしまえば逆に効率を落とす。降ってきた魔物が並の魔物でない点もそれに拍車をかけている。
だからこそ、互いに協力し合える範囲で陣形を広げ、魔物を確実に、そして広域の探索をしながら撃破するというのが全体の動きだった。
「いやあ、順調だね。ぼかぁあんな勢いのまま出てきたんだからどこかで瓦解するんじゃないかって心配だったよ。」
スカイの隣で馬を走らせるユリウスはそう言った。
実際、スカイ達はやけに順調だった。魔物と何度も遭遇はしているが、特に手間取る事もなく撃破し、こちら側に被害はない。しかも行進速度も落とさずに済んでいる。
これはもはや奇跡と言えた。これだけの人数が、ここまで足並みを揃えられる事は普通ない。
「確かスカイは、第一学園で兵法を学んでいたんだっけ。そのおかげかな?」
「いや、確かにこういう訓練もした事はあるけど……これは僕がどうとかじゃない。誰がやってもこんな風になるよ。」
何故ここまで順調であるか、その理由は明白であった。敵があまりにも弱過ぎるのだ。
空を飛ぶような魔物はいないし、厄介な特性を持つ魔物も、単純に強力な魔物もいない。数こそ多いが、それが群れるわけではないので各個撃破が可能である。
まるで既に狩り尽くされた後のような、そんな感覚があった。
「じゃあ、フランか。」
ユリウスは迷わず、決まり切ったようにそう言った。
フランはこの街に入って、魔物が落ちてから直ぐから別働隊として一人で動いていた。取り敢えず数を少しでも減らしてくれ、とだけ言ったのをスカイは覚えている。
「いや、だけど流石に速すぎないか? 僕らだってかなりの速度で動いているし、数もいるから効率がいい。ちょっと中央に行った間に、それこそ数百単位の魔物を一人で倒したことになるよ。」
スカイは剣が得意だ。単純な剣術の試合を行うならば、王国の中でも上位に位置すると言えるだろう。そんなスカイだからこそ、剣士の限界も当然ながら知っている。
剣は魔法と比べて、一対一にとにかく強い。何より単純に自己強化ができる闘気のおかげで、安定性も高い事が魅力と言える。その代わりに範囲攻撃や殲滅力は遥かに魔法使いへ劣る。どれだけ素早く、そして強くともその速度には限界があるはずなのだ。
だからこそ、スカイはこれに強い違和感があったのだ。
「……できるんだなあ、それが。ぼかぁ確か初日に言ったはずだろ。腕が立つ良い剣士だって。」
スカイは頷く。
「ぼかぁ仮にもアグラードル公爵家の当主。この王国内にぼくより強い剣士なんているかどうかすら分からないレベルだ。」
アグラードル家は最も強い人が家督を継ぎ、当主となって領を統治する。
幼い頃から公爵家という恵まれた環境で、何人もの家族と競い合って研ぎ澄まされた剣は騎士とは比べ物にならない。剣にかけられる金と時間と情熱の量が、そもそも桁違いだからだ。
「そんなぼくが、『良い剣士』なんて言ったんだよ。」
魔法使いには完成形は存在しない。
想像力がそのままに強さと繋がる以上、同じ属性を扱う魔法使いでも戦闘法が大きく異なる。これは魔法使いの手札が多過ぎるが故である。
同じ一流の風の魔法使いでも、エルディナは感知と範囲攻撃を主とするが、アルドールは転移と収納を主体とした近接戦を得意とする。
これはどちらも間違いというわけではない。いわゆる一長一短の関係にある。
しかし剣には完成形があると、フランは考えている。
無論、剣の種類によってそれぞれ完成形は存在する。しかし同じ剣を与えられたのなら、それぞれが別の形で突き詰めたとしても、最終的な終着点は一緒であるだろうと、そう考えていた。
フランにとっての究極の剣とは、無駄な行為、動作の全てを削ぎ落とした果てに残ったモノだ。必要のない動作を削ればより速く、より強く、より完璧な剣へと至ることができる。
そうやってフランは、『最速最強』と、そう呼ばれるに至ったのだ。
「……目ぼしい奴は大体斬ったか。」
なんとなく、強そうだとか厄介そうな奴だけを適当に選んでフランは斬り捨ててきた。強敵を倒しておけば後が楽だろうという考えであり、実際にそれは上手くいっていた。
「こいつを倒したら、一度合流しておこう。」
剣先は微かな揺れもなく、真っ直ぐに敵へと向けられる。それは獰猛な、体を赤い火で燃やす獅子であった。その体は巨大でフランの身長を優に超えており、体から溢れ出る魔力は火へと変換され、そこにいるだけで周囲を焼いていた。
十段階の危険度の内の八、太陽の獅子と呼ばれる魔物であった。冒険者でないフランが、そんな事を知るわけもないが。
この魔物は降り立った魔物の中でも特に強く、そして今日戦った相手の中では一番強い魔物であると、フランはなんとなくそんな気がしていた。
獅子は睨みを効かせ、口から火を溢しながら低い声で唸っていた。それを気にせずにフランは前に出る。
一歩、二歩、三歩。その三歩目で、獅子は大きな声で雄叫びをあげながらフランへと飛びかかる。それと同時に火が、まるで意思を持ったかのように大気を走ってフランへと迫った。
多方向からの同時攻撃である。一方を防げばもう一方が当たってしまう。これはその獅子にとっての戦いの定石であった。
「無銘流奥義三ノ型『王璧』」
しかし定石は安定択であって必勝の手ではない。その炎が届くより早く、逆に前にフランは飛び出てその剣で獅子の鉤爪を受けた。
フランは左手で獅子の首を掴み、空中でそのまま上下を逆転させながら地面へとその体を叩きつけた。獅子は炎を吹き出し、フランを燃やし尽くそうとするが、その時には既にフランはいない。
獅子は背を地面に向けている。立ち上がるにはどうしても一瞬、隙を晒さなくてはならない。その一瞬をフランが逃すわけがないのだ。
「一ノ型『豪覇』」
反射的に立ち上がったその獅子の首を、一太刀で落とす。勝負は一瞬だった。
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