幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
327 / 474
第十一章〜王子は誇りを胸へ〜

11.ヒカリの友人

しおりを挟む
 俺は大慌てで魔力の感知を広げながら、街の上空を体を雷に変えながら飛ぶ。
 屋敷の中に既にエルディナもヒカリもいなかった。しかしエルディナの魔力の痕跡はあった。長い間見ていなかったが、長い間競い合った好敵手の魔力だ。俺が見間違うはずもない。
 だからこそ、これはエルディナの単独の行為に違いない。それにいくらエルディナとはいえ、ヴェルザード領の外にまでは行かないだろう。

 だからといって、東京の二倍以上の面積であるヴェルザード領からあいつを探し出すのは普通に不可能に近いわけだが。

「落ち着け、アルス・ウァクラート。あいつが好きそうな所を考えろ。五年間も学園で一緒にいたんだ、分かるはず……」

 閉鎖的な空間を好む人ではない。だからこそ、屋内ではなく屋外にいるだろう。しかもヒカリを連れてとなれば行ける場所は限られるはずだ。
 総当たりをすれば百箇所以上を回る羽目になる。エルディナが一箇所に留まるはずがないし、それは避けたい。
 ここが学園のあったファルクラム領なら目処もついたが、ヴェルザード領の地理には俺は詳しくない。さて、どうするべきか。

「……この風、精霊か。」

 気持ちの良いそよ風が吹く。薄緑の光が俺の周りをホタルのように飛び回り始めた。
 精霊は存在できる場所が制限されている。風の精霊であれば、絶えず強い風が吹き続ける場所でなくてはその存在を維持できない。
 確かにここは上空ではあるが、だからといって風の精霊が常駐するとは思えない環境だ。つまり、この風の精霊をここに飛ばした奴がいるわけで。

「エルディナに言われて来たのか?」

 俺が精霊にそう問いかけると、そうだと言わんばかりに光を強める。
 どうやらあっちも俺を探していたらしい。それなら話は早い。さっさと合流してしまうとしよう。

「ありがとう、案内してくれ。」

 精霊は風の中で踊るように、一直線に進んでいく。俺もその後ろから体を風に変えて着いて行った。
 行き先は大聖堂の向かいにあるキュアノス湖のようだった。
 思いの外目立つところにいたようだ。これなら案外虱潰しで探しても見つかったかもしれないな。

「――あ、遅かったわね。」

 場所さえ分かれば辿り着くのは直ぐであった。
 ベンチにはふてぶてしく座るエルディナと、ちょこんと座るヒカリの二人がいる。どうやら楽しく雑談をしていたらしい。それはヒカリの表情が硬くないことから予想できた。
 しかし、そうだったとしてもエルディナに問い詰める権利が俺にはある。

「遅かったわね、じゃねえよエルディナ。勝手にヒカリを連れて飛んで行きやがって。」
「えーいいじゃない。明日には次の街に行くんだから、今日ぐらいはヒカリは私のものよ。」
「それならせめて断りを入れろって言ってるんだよ。」

 万が一の事もある。ほぼ確実にエルディナが連れて行ったという確信はあったが、もし人攫いにる犯行だったらと思うと心配せずにはいられなかった。

「それにヒカリもだ。連絡用の魔道具を持たせてるんだから、俺に一報ぐらい入れてくれ。」
「す、すみません。楽しくてつい……」

 これを良しとしてしまっては問題がある。こういうのが何度も続いて、慣れてしまえば本当の大事が起こった時に対応が遅れるかもしれない。
 特に最近は物騒だ。治安がいいグレゼリオン王国でも何が起こるか分からない。

「で、何でこんな事をしたんだ?」

 そこでやっと気になっていた話に移る。
 いくらエルディナでも初対面の人をこんな風に引っ張って連れ回すなんて中々しないはずだ。だからエルディナを探しながらもずっと何故だろうと思っていた。

「何でって、決まってるじゃない。私は――」
「ちょっと待ってください。二人って知り合いなんスか?」

 エルディナが話そうとした直前、ヒカリが割って入る。

「……エルディナ、そんな事も言わずに連れてきたのか?」
「だってヒカリと友達になるのに重要な話じゃないでしょ。」

 俺は呆れて溜息を吐く。こいつの一言省く癖は相変わらず直らないな。きっと直す気もないのだろう。
 そのくせ、自分では伝えた気で話すからタチが悪い。後々に齟齬ができるからやめておけと、俺やアースが何度言ったことか。

「この馬鹿は俺の友人だ。」
「馬鹿って言うな!」
「学園時代からの付き合いになる。アースとかティルーナと一緒だな。」

 猛犬のように俺を睨み付けるエルディナを無視して話を続ける。

「次期ヴェルザード家当主にして賢神の一人、それこそがエルディナ・フォン・ヴェルザードだ。」
「え゛」

 ギギギ、という擬音が聞こえそうなぐらいヒカリは重く首を回す。当然ながらこいつが次期公爵という事も知らなかったらしい。

「公爵家の、人、だったんです、か?」
「……そうよ。」
「とんだご無礼を! 申し訳ありません!」

 ヒカリは勢い良く頭を下げた。エルディナは慌ててそれを止める。

「やめてやめて! ほら、友達って言ったじゃない!」
「で、でも貴族の人に失礼をしたら首を斬られるって……」
「そんな事しないわよ!」

 千年ぐらい前の話だな、それは。不敬罪なんてものは一部のものを除いてほとんど撤廃されている。

「アルスも説得しなさいよ! 私は堅苦しいのが嫌いだって言ってあげて!」
「ヒカリ、仲良くしてやってくれ。寂しがり屋なんだ。」
「ちーがーう!」

 自業自得だ。いつも苦しめられている分、こういうところで苦しんでもらわなきゃ割に合わない。

「……友達ッスもんね。」
「そうよ、友達。あなたと私、気が合うと思うの。」

 実際、そうだと思う。性格の根本の部分が似ている。
 明るく社交的で、ちょっと抜けている。エルディナの場合はちょっとではなくかなり、だが。大まかに見れば似てると言えるだろう。
 特に異世界に来る前のヒカリはエルディナに近かった。こっちの世界に来てからは、色々と遠慮をしているみたいだしな。

「それじゃあ、あんまり遠慮はしないように、努力するッス。」
「そうこなくちゃ! また暇な時に王城に遊びに行くわね!」

 エルディナはヒカリを抱きしめて上機嫌そうに笑った。いくら公爵でもそんな気軽に登城できないはずなんだがな。またアースの不安の種が増えそうだ。

「じゃあ、屋敷に戻るぞ。」
「あら、見ないで帰るの?」
「見ないって何を……」

 何を見るのだろうと周囲を見渡す。そこで、大聖堂の前に人が集まっているのにやっと気が付いた。
 連鎖的に記憶が蘇る。そう言えば、アースが演説をするのはこの大聖堂の前だった。ここで話していたのは、アースの演説を聞くためだったのか。

「……なるほど。そう言うことか。」

 ベンチにはまだ空きがある。エルディナの隣に俺も座った。
 どちらにせよ護衛の任務があるし、ヒカリを連れて往復するのは手間だ。それならここで待った方が楽に違いない。

「アースがどんな事を話すか気になるの。凄かったって話だけ聞いているから。折角だから裏からじゃなくて、こうやって正面から見てみたくて。」

 演説が始まるまで一時間ほど。待つには長い時間であるが、三人もいれば話題は尽きないだろう。
 大聖堂と湖に囲まれながら、人々が集まっていく。王選は三日目、折り返しが近い所まで既にきていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく
ファンタジー
あらすじ 中世ヨーロッパによく似た国、エルテンシア国… かつてその国で、我が身を犠牲にしながらも国を救った 王女がいた…。 その後…100年、国は王女復活を信じて待ち続ける。 カクヨム、小説家になろうにも同時掲載してます。

処理中です...