幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第十一章〜王子は誇りを胸へ〜

7.ペンドラゴン伯爵

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 右手に少し大きめの片手剣を持ち、左手には胴が丸々隠れるほど大きな盾を持つ。その巨大な武器が似合う程の巨大であり、構え方を見ても持ち慣れている事が分かった。
 ウーゼル・フォン・ペンドラゴンがただの貴族でない事はそれだけで直ぐに分かった。

「……本当にいいのか?」
「当然! 手を抜かれればそれこそ屈辱であります!」

 魔法書も出さず、スキルも発動させていない。むしろ模擬試合で貴族相手にそこまでやれば、いくら賢神でも豚箱行きだろう。

「試合、始めっ!」

 審判を行う騎士が大きな声で開幕を宣言し、それとほぼ同時に盾を構えながら伯爵は俺へと距離を詰める。魔法使いへ行う行動として、まず距離を詰めるのは定石である。
 魔法使いの強みとは基本的には攻撃範囲と射程距離にある。逆に弱みは移動能力の低さと攻撃までの速度だ。
 だからこそ、近付かれれば魔法使いは負けとも言われる。だが賢神クラスの魔法使いが対抗策を用意していないはずがない。

「『焔子鳥ほむらのことり』」

 俺の体を焦がしながら、翼を広げて火の鳥が嘶く。火の翼は俺の体を守るように覆い、周囲の気温すらも狂わす高温を発する。
 伯爵は足を止めない。進むスピードを下げながらも、盾を少し上側に傾けて油断なく状況を観察している。

「『爆発エクスプロード』」

 だからこそ、伯爵の進行方向に魔法を置いておく。
 このまま踏み込めば大怪我は避けられない。だからこそ、万が一不用意に進んできた時のために発動を止められるように調節しながら伯爵の動きを見る。
 これに対してどんな行動を取るかで伯爵の実力が分かる。伯爵の一歩先に魔力が集まっている。そこに立っているだけでも爆風を喰らうだろう。

「――はぁ!」

 そのコンマ数秒の刹那の間に、伯爵は前へと飛び出す事を決断した。
 地面の一部が抉れるほどの強い踏み込みで、魔法の発動地点を一瞬で飛び越える。魔法の発動は止めれるようにしてたのだから、間に合うはずがない。
 爆発を背に、伯爵は飛び込んでくる。距離はもうない。剣は既に振り上げられた。後はおろすだけ。

「チェストォ!!」
「『煉獄剣』」

 だからもう、使い慣れた魔法でしか対抗できない。下手な結界を張れば結界もろとも斬られるだけだ。
 固体の炎が真正面から伯爵の剣とぶつかる。パワーは負けている。元々魔法使いが剣士にパワーで勝てるわけがない。
 だから俺はそのまま、踏ん張ることなく後ろに体を倒した。

「後ろ、気をつけた方がいいぞ。」

 隙だらけの伯爵の背後を、炎の鳥が襲い掛かる。俺に追撃をすれば、その内に必ず背を焼かれる。だからこそ、俺の目論見通り伯爵は半身になって後ろに盾を向けた。
 その僅か一瞬、その一瞬で俺はもう一つ魔法を使える。

「『砂漠創造デザート・クリエイト』」

 俺の体は砂となって溶け、地面の全てを砂が覆い尽くす。
 足場を砂にした理由は二つ。俺の体を隠せられること、そして砂で足を取れるということだ。
 伯爵は強い。その判断力も身体能力も貴族のそれでは決してない。であれば、俺も一つギアを上げなくてはならない。

「『泥の拘束マッドバインド』」

 伯爵の足を、砂が泥となりながらまとわりつく。

「『落星メテオ』」

 そしてそのまま間髪入れずに、上空に巨大な岩石が現れる。それは一瞬で速度を増し、伯爵へと降り注ぐ。
 足が拘束されている上に、拘束を振り切っても砂のせいで一足で逃げ切るのは難しい。
 であれば、伯爵が取れる選択はただ一つ。

「……ァアア!! チェストォ!!」

 その星を、盾を捨て去り真正面から切り裂くのみ。
 両手で剣を握って、雄叫びと共に星へと剣を叩きつける。瞬く間に岩には亀裂が入り、岩石は細かな粒となって消え去る。

「決着!」

 審判役の騎士は、そう言った。
 その隙に俺は炎の剣を、伯爵の背中へと向けていたのだ。俺は魔法使いの中でも移動速度に関しては群を抜いている。こういう手数の勝負をすれば、大魔法を使わずとも大体は勝てる。
 俺は魔法を消し、伯爵も剣をおろした。互いに疲労はあれど怪我はない。

「流石ですな、アルス殿。このウーゼル、鍛錬不足を深く感じました。」
「いや、十分に強かったよ。貴族の業務の傍らで、これ程の強さを身につけるというのは中々できない。正直に言って驚いたぐらいだ。」

 地面の砂や伯爵の足につく泥は、魔力となって消えていく。
 俺が言ったのはお世辞ではなかった。実際、毎日のように武術の鍛錬に励んでいる第二学園の生徒の中にいても違和感がないぐらいに強かった。

「勿体ない言葉ですとも! 私の武術はあくまで護身用、我が領の騎士には遠く及びませぬ!」
「そうか。で、一つ質問があるんだが。」
「何なりとお聞きください! 私の答えられる範囲には限りますが!」

 ここはペンドラゴン伯爵家の近くにある騎士の駐屯地だ。
 元々は伯爵に頼まれて、アースの演説の後にこうやって模擬戦をやる事になったわけだが、何故か思いの外観客が多くなってしまった。
 アースとヒカリがいるのは勿論、何十人もの騎士が取り囲むように俺と伯爵の模擬戦を見ていたのだ。

「何でこんなに俺は見られているんだ?」

 しかも異様なまでに強い視線だ。何か俺が恨みを買ったんじゃないかってぐらいに見られている。
 まさかとは思うが、この試合は勝ってはいけなかったのだろうか。

「ああ、それは――」
「アルス殿! 私とも模擬戦を行ってはいただけないでしょうか!」

 伯爵がその質問に答えるより早く、一人の騎士がそう言った。すると連鎖するように次々に騎士は口を開く。

「いいえ! 先に騎士団長である私から!」
「図々しいぞ団長! いつも団長だろうが一般の騎士だろうが関係ないと、言ってるだろうが!」
「私は魔法も使って戦うので、是非今後の学びのために手合わせを!」
「待て、ここは騎士団の中でも最年長の俺がだなぁ……」

 堰を切ったように騎士達はこっちの方へと来て喋り始める。気付いたら俺は騎士に取り囲まれていた。

「待て! アルス殿は明日も護衛の仕事があるのだぞ!」

 それに対して、伯爵は静止の声を飛ばした。

「伯爵だけズルいですよ! 俺達だってこんな強者と戦う機会は滅多にないんですから!」
「私は雇用主だぞ! それぐらいは構わんだろうが!」
「職権濫用ですよ! そもそも、有事の際に戦うのは伯爵ではなく私達じゃないですか!」

 そうやって今度は伯爵と騎士が言い争いを始めた。一体俺は何を見せられているのだろう。
 俺は助け舟を出して欲しくて、アースの方を見る。するとアースは溜息を吐きながら、こっちへと足を進めた。

「ペンドラゴン伯爵、戻るぞ。」

 アースがそう一言言っただけで、騎士と伯爵は言い争いをやめる。騎士達は潮のように引いていき、伯爵も佇まいを正す。

「すみませぬ! 殿下に無駄な気遣いを回させてしまい!」
「謝罪はいい。今度、暇な時にアルスをここに送ってやる。騎士にはそうやって説明しておけ。」

 え、結局俺はまたここに来るの?

「使用人に案内をさせましょう。私はここに残ります故、屋敷の者にはよろしくお願い致します。」
「分かった。行くぞ、アルス、ヒカリ。」

 俺とヒカリはアースについて行き、駐屯地を背にした。

「よーし! 今日は皆、殿下の護衛御苦労だった! アルス殿と模擬試合はさせてやれぬが、今日はたらふく食って死ぬように飲め! 私の奢りだ!」

 そしてかなり離れた頃に、そんな伯爵の馬鹿でかい声が聞こえた。
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