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第十一章〜王子は誇りを胸へ〜
2.第二王子は語る
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もう少しで、王選の儀が始まる。当事者であるスカイは、当然無関心ではいられない。
「知っての通り、僕も王選の儀に出る。辞退はできない仕組みになっているしね。」
王選の儀については、確か事細かに法律に記されているはずだ。学園では魔導関連の法律を主に学んだが、こういう重要なものも教養として教えられた。
と言っても、俺以外はほとんど知っている事だったみたいだけど。
「だけど僕は王になるなんて気はない。兄上の方が適任だ。僕は兄上の補佐でもして、気楽に過ごす方が性に合っている。」
それはアースからもよく聞いていたし、平民の中でも噂として聞く話ではあった。
勿体ない、とも同時に言われてはいるが。
「だから、今度の王選の儀も僕は適当に流す気なんだけど……無事に終わる気がしないんだ。」
「まあ、気持ちは分かるが、考え過ぎじゃないか?」
確かにアースの時の貴族の暴走だとか、闘技場に幹部が出現していたとか、ここ最近のグレゼリオンは何が起こるか分からない。世界でも色々と起きている事からも、そう考えるのは当然だ。
しかし、そんな事グレゼリオン王国も分かっている。
儀式中は俺だけじゃなく、何人もの騎士が同行するし、何より神域のオルグラーが常に目を光らせている。これに勝る警備はないだろう。
「そうだね、兄上もそう言っていたし、僕自身もそう思うんだ。だけど、今まで名も無き組織はその上を来る。」
それは、事実だ。
リクラブリア王国、ヴァルバーン連合王国、そして俺が訪れた群島。名も無き組織は様々な国に関わり資金を集め、小国を既に一つ滅ぼしている。
しかも未だにその本拠地は掴めず、様々な人が略奪行為の被害を受けているのが現状だ。
世界を相手にそこまでの大立ち回りができるのだ。今回の王選の儀にも何らかの形で干渉することは、不可能とは言い切れない。
「――じゃあ、何だ。俺が負けると?」
それは聞き捨てならない。見過ごしてなるものか。
天界では遅れを確かに取った。しかしもうない。ツクモはもう二度と俺を妨げる事はない。スキルの使い方はもう理解した。
過信でも、驕りでも何でもない。互角以上の戦いができると、その自信があった。
「い、いや、そうじゃない。いくら君が強いとはいえ、君は二人いない。相手は組織だ。個人で考えても仕方がないはずだろ?」
少し怯えた表情をスカイは見せていた。どうやら魔力が漏れ出ていたらしい。
しまった。これでは師匠に怒られてしまう。この程度で魔力を乱すなんて、魔法使いとしては二流もいいところだ。
「……すまん、負けず嫌いが出た。お前の言うことは正しい。続けてくれ。」
エルディナと師匠に影響を受けて、どうも簡単に食い下がる事ができなくなってきている。特に今は実力がついた実感があるから、余計にだ。
自信を持つことは大切だが、それはそれとして強者は常に冷静でなくてはいけない。師匠に言われていた事だ。
「グレゼリオン王国はいくつもの対応策を用意している。下級貴族が暗殺されても代わりはいる。上級貴族も、アグラードル家以外なら後継ぎがいるし困らない。ここからグレゼリオンを揺るがすには王族を殺す以外にない。」
「……それで、王城から王子が長期間に渡って外出する王選の儀が狙われると。」
「そうだ。王城はいくつもの魔法的防御と優秀な警備兵が常駐する要塞。ネズミ一匹だって忍び込めないからね。」
騎士がついていくのだから、王選の儀の間も安全性は高い。
しかしカリティのような、クリムゾンのような幹部からすれば、烏合の衆に違いない。ともすれば王城であればあるはずのセキュリティを無視でき、民衆に姿を隠して暗殺に移行できる王選の儀は実に都合が良い。
「父上は大丈夫だ。オルグラーがいる。となると危険なのは僕か兄上となるはずだ。」
アースとスカイ、そのどちらが死んでも王選の儀は延期になるだろう。そうなれば国内は落ち着かないだろう。
それによって生じるであろう隙を、何よりスカイは恐れているようだった。
「そこで本題に入るんだけど、僕の護衛を探して欲しいんだ。冒険者に依頼するには僕は詳しくないし、兄上の友人である君の紹介なら僕も安心できる。」
なるほど。確かに俺であればオリュンポスとも繋がりがあるし、賢神としての知り合いもいる。
加えて、もしも護衛を頼んだのが組織の関係者であれば本末転倒である。俺の知り合いであればその可能性も減るだろう。
「うーん、護衛かぁ……」
しかし、俺にはそこまで伝手があるわけじゃない。オリュンポスの中でも、幹部に対抗できる実力者とは直接連絡が取れない。ヘルメスを通す必要があるし、それじゃあ間に合うか分からない。
クランに常駐しているのはヘスティアさんぐらいだし、そもそもヘルメスだっているか分からない。
連絡先を知っていて、尚且つ俺が信頼できて、幹部とも対抗できる使い手……
「……よし、分かった。任せてくれ。」
「本当かい?」
「1人、信頼できて腕の立つ男がいる。今はこの国にはいないが、王選の儀には間に合うだろ。」
となれば手紙を送らねばなるまい。久しぶりだし、俺も楽しみだ。
「それじゃあ頼むよ。兄上の護衛も、ね。」
「言われなくてもやるよ。」
スカイは椅子から立ち上がる。
きっと忙しいだろうし、ここに長居もできないのだろう。
「ああ、そうだ。最後に確認させてくれ。」
だからそう呼び止めるわけにはいかないのだが、一つだけ聞きたいことがある。王戦に関わる人間としても、ハッキリさせたい。
「本当に、王になるつもりはないんだな。」
つまりは、アースの敵になるか否だ。これによって王戦の様相は大きく異なる事となる。
スカイは優秀だ。戦うのであれば、横線は激しいものとなるだろう。
「――大丈夫さ。僕は王様より、やりたい事があるから。」
スカイはそう言って、俺の部屋を出た。
「……はあ。」
するとヒカリは分かりやすく息を吐き出す。緊張していたのだろう。
俺はもう慣れてしまったが、日本で言うなら天皇の息子に会うような事である。何も考えずに対面する事はできないだろう。
「その調子じゃ、アースと一緒に国を回るのも難しそうだが。」
「アース殿下よりスカイ殿下の方が怖いッスよ。あんなに優しそうな人だと、逆にこっちが遠慮するッス。」
そういうもんか。しかし、スカイよりアースの方が親しみやすいとは珍しい。基本的にアースは第一印象悪いんだけどな。
「ま、それならいいな。」
俺は魔法で棚を開け、中から紙とペンを出す。その紙に俺はペンを走らせていく。
「誰に手紙を出すんスか?」
「お前の師匠だよ。」
「師匠……あ。」
不思議がっていたヒカリも合点がいったような表情を浮かべる。
「フランなら、俺も自信を持って任せられる。」
「知っての通り、僕も王選の儀に出る。辞退はできない仕組みになっているしね。」
王選の儀については、確か事細かに法律に記されているはずだ。学園では魔導関連の法律を主に学んだが、こういう重要なものも教養として教えられた。
と言っても、俺以外はほとんど知っている事だったみたいだけど。
「だけど僕は王になるなんて気はない。兄上の方が適任だ。僕は兄上の補佐でもして、気楽に過ごす方が性に合っている。」
それはアースからもよく聞いていたし、平民の中でも噂として聞く話ではあった。
勿体ない、とも同時に言われてはいるが。
「だから、今度の王選の儀も僕は適当に流す気なんだけど……無事に終わる気がしないんだ。」
「まあ、気持ちは分かるが、考え過ぎじゃないか?」
確かにアースの時の貴族の暴走だとか、闘技場に幹部が出現していたとか、ここ最近のグレゼリオンは何が起こるか分からない。世界でも色々と起きている事からも、そう考えるのは当然だ。
しかし、そんな事グレゼリオン王国も分かっている。
儀式中は俺だけじゃなく、何人もの騎士が同行するし、何より神域のオルグラーが常に目を光らせている。これに勝る警備はないだろう。
「そうだね、兄上もそう言っていたし、僕自身もそう思うんだ。だけど、今まで名も無き組織はその上を来る。」
それは、事実だ。
リクラブリア王国、ヴァルバーン連合王国、そして俺が訪れた群島。名も無き組織は様々な国に関わり資金を集め、小国を既に一つ滅ぼしている。
しかも未だにその本拠地は掴めず、様々な人が略奪行為の被害を受けているのが現状だ。
世界を相手にそこまでの大立ち回りができるのだ。今回の王選の儀にも何らかの形で干渉することは、不可能とは言い切れない。
「――じゃあ、何だ。俺が負けると?」
それは聞き捨てならない。見過ごしてなるものか。
天界では遅れを確かに取った。しかしもうない。ツクモはもう二度と俺を妨げる事はない。スキルの使い方はもう理解した。
過信でも、驕りでも何でもない。互角以上の戦いができると、その自信があった。
「い、いや、そうじゃない。いくら君が強いとはいえ、君は二人いない。相手は組織だ。個人で考えても仕方がないはずだろ?」
少し怯えた表情をスカイは見せていた。どうやら魔力が漏れ出ていたらしい。
しまった。これでは師匠に怒られてしまう。この程度で魔力を乱すなんて、魔法使いとしては二流もいいところだ。
「……すまん、負けず嫌いが出た。お前の言うことは正しい。続けてくれ。」
エルディナと師匠に影響を受けて、どうも簡単に食い下がる事ができなくなってきている。特に今は実力がついた実感があるから、余計にだ。
自信を持つことは大切だが、それはそれとして強者は常に冷静でなくてはいけない。師匠に言われていた事だ。
「グレゼリオン王国はいくつもの対応策を用意している。下級貴族が暗殺されても代わりはいる。上級貴族も、アグラードル家以外なら後継ぎがいるし困らない。ここからグレゼリオンを揺るがすには王族を殺す以外にない。」
「……それで、王城から王子が長期間に渡って外出する王選の儀が狙われると。」
「そうだ。王城はいくつもの魔法的防御と優秀な警備兵が常駐する要塞。ネズミ一匹だって忍び込めないからね。」
騎士がついていくのだから、王選の儀の間も安全性は高い。
しかしカリティのような、クリムゾンのような幹部からすれば、烏合の衆に違いない。ともすれば王城であればあるはずのセキュリティを無視でき、民衆に姿を隠して暗殺に移行できる王選の儀は実に都合が良い。
「父上は大丈夫だ。オルグラーがいる。となると危険なのは僕か兄上となるはずだ。」
アースとスカイ、そのどちらが死んでも王選の儀は延期になるだろう。そうなれば国内は落ち着かないだろう。
それによって生じるであろう隙を、何よりスカイは恐れているようだった。
「そこで本題に入るんだけど、僕の護衛を探して欲しいんだ。冒険者に依頼するには僕は詳しくないし、兄上の友人である君の紹介なら僕も安心できる。」
なるほど。確かに俺であればオリュンポスとも繋がりがあるし、賢神としての知り合いもいる。
加えて、もしも護衛を頼んだのが組織の関係者であれば本末転倒である。俺の知り合いであればその可能性も減るだろう。
「うーん、護衛かぁ……」
しかし、俺にはそこまで伝手があるわけじゃない。オリュンポスの中でも、幹部に対抗できる実力者とは直接連絡が取れない。ヘルメスを通す必要があるし、それじゃあ間に合うか分からない。
クランに常駐しているのはヘスティアさんぐらいだし、そもそもヘルメスだっているか分からない。
連絡先を知っていて、尚且つ俺が信頼できて、幹部とも対抗できる使い手……
「……よし、分かった。任せてくれ。」
「本当かい?」
「1人、信頼できて腕の立つ男がいる。今はこの国にはいないが、王選の儀には間に合うだろ。」
となれば手紙を送らねばなるまい。久しぶりだし、俺も楽しみだ。
「それじゃあ頼むよ。兄上の護衛も、ね。」
「言われなくてもやるよ。」
スカイは椅子から立ち上がる。
きっと忙しいだろうし、ここに長居もできないのだろう。
「ああ、そうだ。最後に確認させてくれ。」
だからそう呼び止めるわけにはいかないのだが、一つだけ聞きたいことがある。王戦に関わる人間としても、ハッキリさせたい。
「本当に、王になるつもりはないんだな。」
つまりは、アースの敵になるか否だ。これによって王戦の様相は大きく異なる事となる。
スカイは優秀だ。戦うのであれば、横線は激しいものとなるだろう。
「――大丈夫さ。僕は王様より、やりたい事があるから。」
スカイはそう言って、俺の部屋を出た。
「……はあ。」
するとヒカリは分かりやすく息を吐き出す。緊張していたのだろう。
俺はもう慣れてしまったが、日本で言うなら天皇の息子に会うような事である。何も考えずに対面する事はできないだろう。
「その調子じゃ、アースと一緒に国を回るのも難しそうだが。」
「アース殿下よりスカイ殿下の方が怖いッスよ。あんなに優しそうな人だと、逆にこっちが遠慮するッス。」
そういうもんか。しかし、スカイよりアースの方が親しみやすいとは珍しい。基本的にアースは第一印象悪いんだけどな。
「ま、それならいいな。」
俺は魔法で棚を開け、中から紙とペンを出す。その紙に俺はペンを走らせていく。
「誰に手紙を出すんスか?」
「お前の師匠だよ。」
「師匠……あ。」
不思議がっていたヒカリも合点がいったような表情を浮かべる。
「フランなら、俺も自信を持って任せられる。」
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