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第十章~魔法使いと幸せの群島~
29.王城の書斎
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長く続くグレゼリオン王国、その国王を務める人物は例外なく傑物である。
当代国王ロード・フォン・グレゼリオンは国王でありながら賢神に至るほどに魔法へと精通し、そして治世も賢王と言えるほどの実績を残している。グレゼリオン王国の国王に相応しいと、全ての人が思っている。
ロードは執務を行う時、必ず自分の書斎へと移動する。従って国王への直接の報告も当然、その書斎で行われる。
「――報告を頼む。」
ロードは厳かな雰囲気で話を切り出した。
書斎の部屋の奥、机に両肘をつきながら手を組んで椅子に座る男こそがロードだ。アースと同じの金の眼と髪を持ち、少し髭を生やしていた。
対してその前に立つのは、その息子にして第一王子であるアースだった。
「結論から言う。島の長は全員、調査隊が立ち入った時点で死んでいた。恐らくは鎖国を始めた段階、十二年前からだ。」
「それは……上華島もか?」
「ああ。グレゼリオン王国は上華島の長が他の島の長を殺したと思ってきた。しかし、真実は違う。」
アースは名も無き組織の幹部、クリムゾンが現れた時点から予測をしていた。国と名も無き組織が繋がっている事は、決してありえない話ではないと。
そうであれば現在の体勢に一枚噛んでいるのは当然であり、より効率的に搾取しようとする為に自分なら何をするかを考えれば答えは案外シンプルだった。
「とある文官が白状してくれた。どうもその文官は前々から長の座を狙っていたらしく、そこでたまたま名も無き組織と遭遇した。そして政府内に名も無き組織側の人を何人か招き入れ、集まった三人の長を殺害。組織の人間によって証拠隠滅して、それ以降は体調不良を理由として文官達が指揮をとったと。」
「組織の者はどうした。捕らえたか。」
「いや、調査隊がつく寸前にいくつかの住人が消えている。恐らく予兆を感じ取って逃げたんだろう。」
ロードはこめかみを抑えてため息を吐く。
しっかりと形がある敵であれば撃破は容易だ。なにせ、グレゼリオンには究極の矛であるオルグラーがいる。しかし、組織はそうではない。
姿を現したと思えば霞のように消え、証拠を残したと思えばそれは偽物で、どれが本物か偽物なのか分からない。しかもグレゼリオン内での活動が少ない事も、証拠を掴めない事に拍車をかけていた。
「今後の具体的な方策は次回の国際連合の会議で決まり次第教えてくれ。直ぐに動く。」
「ああ、分かっている。」
いくらグレゼリオン王国が国家間のリーダーであったとしても、一つの国をどうこうするのを勝手に決めていいわけがない。
何より他国もそれでは面子が立たない。
「報告は以上だ。他に何か質問はあるか?」
「ない。」
「それなら失礼するぞ。何か問題があれば呼んでくれ。」
そう言ってロードに背を向けて、アースはその場を後にしようとする。
「ちょっと待て、アース。」
それをロードが呼び止めた。
「……そろそろ王選の儀が始まるな。準備はできているのか?」
「当たり前だろ。何年も前から準備はしてきている。」
「いや、スカイが王位には興味がないからな。手を抜いているのではないかと、そう思っただけだ。」
そうかよ、とそっけなくアースは返した。ロードの表情は硬く、何を考えているのかは簡単には読み取れない。
「余はあまり時間を取れていないが、兄弟仲は良いのか? 血縁は王となった後こそ、信頼できる仲間となるぞ。」
「普通だよ。そんな一々気を配る事でもねーと思うが。」
「そうか、それなら良い。優秀な友人もいるようだしな。賢神の友人は得難い。」
部屋の中に沈黙が響く。それが数秒ほど経った頃、アースの方が耐え切れずに口を開いた。
「用件はそれだけか? それなら俺様はもう行くぜ。」
「……ああ、呼び止めてすまなかった。」
アースは部屋から出た。
当代国王ロード・フォン・グレゼリオンは国王でありながら賢神に至るほどに魔法へと精通し、そして治世も賢王と言えるほどの実績を残している。グレゼリオン王国の国王に相応しいと、全ての人が思っている。
ロードは執務を行う時、必ず自分の書斎へと移動する。従って国王への直接の報告も当然、その書斎で行われる。
「――報告を頼む。」
ロードは厳かな雰囲気で話を切り出した。
書斎の部屋の奥、机に両肘をつきながら手を組んで椅子に座る男こそがロードだ。アースと同じの金の眼と髪を持ち、少し髭を生やしていた。
対してその前に立つのは、その息子にして第一王子であるアースだった。
「結論から言う。島の長は全員、調査隊が立ち入った時点で死んでいた。恐らくは鎖国を始めた段階、十二年前からだ。」
「それは……上華島もか?」
「ああ。グレゼリオン王国は上華島の長が他の島の長を殺したと思ってきた。しかし、真実は違う。」
アースは名も無き組織の幹部、クリムゾンが現れた時点から予測をしていた。国と名も無き組織が繋がっている事は、決してありえない話ではないと。
そうであれば現在の体勢に一枚噛んでいるのは当然であり、より効率的に搾取しようとする為に自分なら何をするかを考えれば答えは案外シンプルだった。
「とある文官が白状してくれた。どうもその文官は前々から長の座を狙っていたらしく、そこでたまたま名も無き組織と遭遇した。そして政府内に名も無き組織側の人を何人か招き入れ、集まった三人の長を殺害。組織の人間によって証拠隠滅して、それ以降は体調不良を理由として文官達が指揮をとったと。」
「組織の者はどうした。捕らえたか。」
「いや、調査隊がつく寸前にいくつかの住人が消えている。恐らく予兆を感じ取って逃げたんだろう。」
ロードはこめかみを抑えてため息を吐く。
しっかりと形がある敵であれば撃破は容易だ。なにせ、グレゼリオンには究極の矛であるオルグラーがいる。しかし、組織はそうではない。
姿を現したと思えば霞のように消え、証拠を残したと思えばそれは偽物で、どれが本物か偽物なのか分からない。しかもグレゼリオン内での活動が少ない事も、証拠を掴めない事に拍車をかけていた。
「今後の具体的な方策は次回の国際連合の会議で決まり次第教えてくれ。直ぐに動く。」
「ああ、分かっている。」
いくらグレゼリオン王国が国家間のリーダーであったとしても、一つの国をどうこうするのを勝手に決めていいわけがない。
何より他国もそれでは面子が立たない。
「報告は以上だ。他に何か質問はあるか?」
「ない。」
「それなら失礼するぞ。何か問題があれば呼んでくれ。」
そう言ってロードに背を向けて、アースはその場を後にしようとする。
「ちょっと待て、アース。」
それをロードが呼び止めた。
「……そろそろ王選の儀が始まるな。準備はできているのか?」
「当たり前だろ。何年も前から準備はしてきている。」
「いや、スカイが王位には興味がないからな。手を抜いているのではないかと、そう思っただけだ。」
そうかよ、とそっけなくアースは返した。ロードの表情は硬く、何を考えているのかは簡単には読み取れない。
「余はあまり時間を取れていないが、兄弟仲は良いのか? 血縁は王となった後こそ、信頼できる仲間となるぞ。」
「普通だよ。そんな一々気を配る事でもねーと思うが。」
「そうか、それなら良い。優秀な友人もいるようだしな。賢神の友人は得難い。」
部屋の中に沈黙が響く。それが数秒ほど経った頃、アースの方が耐え切れずに口を開いた。
「用件はそれだけか? それなら俺様はもう行くぜ。」
「……ああ、呼び止めてすまなかった。」
アースは部屋から出た。
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