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第十章~魔法使いと幸せの群島~
28.冠位へと
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――天界から王国に帰ってから三日ほど経った。やっと報告が済んで上の方針も決まった。これでようやっと俺も一息つけるというものである。
ヘルメスとは戻って直ぐに別れた。こっちも忙しかったからな。落ち着いたし、クランに酒でも持って尋ねに行くのもいいだろう。
今回の旅もヘルメスにかなり助けられた。何でもできる奴だから、どんな状況でも頼りにできる。
ディーテは転移で一緒に戻っていなかったらしく、今何をしているか分からない。
出自や経歴でも驚くことは沢山あったが、俺を助けてくれた人だ。また今度会えたらお礼を言わなければならない。
ついでに菓子でも渡せば喜ぶのだろうか。
お嬢様とは一緒に王城へ行き、アースに直接今回の一件を報告した。情報量の多さに頭を抱えていたが、直ぐに話をまとめてくれた。
主な議題はカコトピア群島の事と、天界に来たクリムゾン、そして持って行った天門の鍵だ。
群島には直ぐに調査隊が派遣されたらしい。どんな結果になるのかは、俺には分からない。どうしようもないと言うのが正しいだろう。
「……終わったのか。」
それでも、俺の中では達成感の方が強かった。長い間、俺を悩ませ続けていたツクモとは決着がついた。
今回の旅の成果はそれだ。ツクモの力まで持っていけるとは思わなかったが、思わぬ副産物と言ったところだろうか。
やっとひと段落がついたし、こうやって自分の部屋で心を落ち着かせられるというものだ。
「ああ、そういやお疲れ。色々ドタバタしてて切り忘れてた。」
俺はそう言って、自分の部屋に置いている人形の機能を止めた。
こいつは魂の小さな欠片みたいなもので、視界こそ共有できるし命令も通るが、それ以外の時は精霊並みの微弱な意志しかない。それこそヒカリを守るっていう単一の命令しかこなせないほどだ。
連絡は来なかったから何もなかった事は分かるが、その間の記憶はこいつに蓄積されてないから、そんなに急いで魂を回収する気にもなれなかった。
「もう魔力は切れてるか。結構高い魔石に魔力込めてたんだけどなあ……燃費は最悪だな。」
しかし、一週間近くもっただけで十分と言えよう。利便性が高い事に違いはない。
俺は人形が消えて残った、握り拳より一回り大きい魔石を掴んでタンスの引き出しにしまった。
「邪魔するわよ。」
「うへっ!?」
いきなりドアが開けられたせいで、思わず変な声が出てしまった。
振り向けばそこには、やはりと言うべきかお嬢様がいた。
「ご苦労様、お茶でも出してくれるかしら?」
お嬢様は迷いなく俺の部屋にズカズカと入り、長椅子に許可なく座った。
俺は一度ため息を吐いて、部屋に置いてあるティーセットで紅茶を作り始める。王城は水道が通ってるから楽で助かる。
「はい、どうぞ。」
机を挟んだ反対側の長椅子に座りながら、俺はいれた紅茶をお嬢様の前に置いた。
お嬢様はカップの取っ手を右手でつまみ、文句一つない動作で紅茶を飲んだ。そしてカップを静かに置いた。
「不味いわね。」
「そりゃそうでしょう。こういうのはティルーナの仕事です。」
一応、ティルーナから紅茶の淹れ方自体は教わっている。ただ一通りの動きを知っているだけで、美味しいわけがない。
「それで、何の用です?」
「今後の動きについて、貴方が知りたいだろうから説明に来たのよ。」
そう言いながらも不味い紅茶をお嬢様は飲む。表情には全く出さないのだから流石だ。
「カコトピアへ調査隊が入ったのは知っているわね。ほぼ確実に魔法植物は発見され、グレゼリオン王国によって建て直しが行われるでしょう。」
「……本当ですか?」
「ええ、本当よ。資金はかかるけども、それは長期的に返してくれれば良いというのがアースの考えね。」
俺はホッと胸を撫で下ろす。ずっと胸につっかえていたのだ。
きっと良い方向に向かうだろう。俺なんかが干渉するよりは、ずっとマシにはなるはずだ。
「けれど、中毒を治すのは直ぐにできる事じゃない。きっと正常になるまでに何年もかかるでしょうね。」
「……」
「例え、治ったとしても後遺症が体には残り続ける。そればかりはどうしようもない事よ。」
そうか。いや、そりゃそうだ。今までの事を全部なかった事にはできない。何の脈絡もなく事態が好転する事はない。
時間が必要だ。何年もかけて、マイナスからゼロに向かわなくてはならない。俺にできる事があるとすれば、その事業に金を払う事ぐらいだろう。
「……人に気をつかうのは良いけれど、大切なのは次よ。貴方がこれからどうするかについて。」
そんな俺の気持ちを振り払わせるように、お嬢様は口を開いた。
「これから次代の国王を決定する王選の儀が行われるわ。まずはそこで、貴方にはアースの護衛をしてもらう。」
「分かりました。と言っても、問題なんか起きないでしょうけど。」
「ええ、だからこそ問題は次。貴方は名も無き組織の幹部を一人倒した実績と、王族の護衛を行なったという実績、それを持ち帰って冠位を得てもらう。実力は、今なら不足はないはずよ。」
ドクンと、心臓が突かれたように震える。
遂に、冠位へと手を伸ばす日が来たのだ。神秘科の冠位に、親父より早くなってやるという夢を叶える時が来た。
「冠位を得る条件は三つ。一つ、冠位三人以上からの推薦を受ける事。二つ、賢神として一定以上の成果を残している事。三つ、研究成果を残す事。」
二つ目はもうクリアした。残りは一つ目と三つ目だが、冠位の知り合いは多いから一つ目もクリアする事は難しくないはずだ。
問題は三つ目。俺は研究なんかやった事がないから、そこがネックになる。
「これから先、アルスにはこれらの条件を満たす為に動いてもらうわ。異論はある?」
だが、乗り越えてみせよう。この程度を越えられないなら、両親に見せる顔がない。
「ありません。完璧にこなしてみせますよ。」
当分の目標は決まった。冠位魔導神秘科になる事だ。
ヘルメスとは戻って直ぐに別れた。こっちも忙しかったからな。落ち着いたし、クランに酒でも持って尋ねに行くのもいいだろう。
今回の旅もヘルメスにかなり助けられた。何でもできる奴だから、どんな状況でも頼りにできる。
ディーテは転移で一緒に戻っていなかったらしく、今何をしているか分からない。
出自や経歴でも驚くことは沢山あったが、俺を助けてくれた人だ。また今度会えたらお礼を言わなければならない。
ついでに菓子でも渡せば喜ぶのだろうか。
お嬢様とは一緒に王城へ行き、アースに直接今回の一件を報告した。情報量の多さに頭を抱えていたが、直ぐに話をまとめてくれた。
主な議題はカコトピア群島の事と、天界に来たクリムゾン、そして持って行った天門の鍵だ。
群島には直ぐに調査隊が派遣されたらしい。どんな結果になるのかは、俺には分からない。どうしようもないと言うのが正しいだろう。
「……終わったのか。」
それでも、俺の中では達成感の方が強かった。長い間、俺を悩ませ続けていたツクモとは決着がついた。
今回の旅の成果はそれだ。ツクモの力まで持っていけるとは思わなかったが、思わぬ副産物と言ったところだろうか。
やっとひと段落がついたし、こうやって自分の部屋で心を落ち着かせられるというものだ。
「ああ、そういやお疲れ。色々ドタバタしてて切り忘れてた。」
俺はそう言って、自分の部屋に置いている人形の機能を止めた。
こいつは魂の小さな欠片みたいなもので、視界こそ共有できるし命令も通るが、それ以外の時は精霊並みの微弱な意志しかない。それこそヒカリを守るっていう単一の命令しかこなせないほどだ。
連絡は来なかったから何もなかった事は分かるが、その間の記憶はこいつに蓄積されてないから、そんなに急いで魂を回収する気にもなれなかった。
「もう魔力は切れてるか。結構高い魔石に魔力込めてたんだけどなあ……燃費は最悪だな。」
しかし、一週間近くもっただけで十分と言えよう。利便性が高い事に違いはない。
俺は人形が消えて残った、握り拳より一回り大きい魔石を掴んでタンスの引き出しにしまった。
「邪魔するわよ。」
「うへっ!?」
いきなりドアが開けられたせいで、思わず変な声が出てしまった。
振り向けばそこには、やはりと言うべきかお嬢様がいた。
「ご苦労様、お茶でも出してくれるかしら?」
お嬢様は迷いなく俺の部屋にズカズカと入り、長椅子に許可なく座った。
俺は一度ため息を吐いて、部屋に置いてあるティーセットで紅茶を作り始める。王城は水道が通ってるから楽で助かる。
「はい、どうぞ。」
机を挟んだ反対側の長椅子に座りながら、俺はいれた紅茶をお嬢様の前に置いた。
お嬢様はカップの取っ手を右手でつまみ、文句一つない動作で紅茶を飲んだ。そしてカップを静かに置いた。
「不味いわね。」
「そりゃそうでしょう。こういうのはティルーナの仕事です。」
一応、ティルーナから紅茶の淹れ方自体は教わっている。ただ一通りの動きを知っているだけで、美味しいわけがない。
「それで、何の用です?」
「今後の動きについて、貴方が知りたいだろうから説明に来たのよ。」
そう言いながらも不味い紅茶をお嬢様は飲む。表情には全く出さないのだから流石だ。
「カコトピアへ調査隊が入ったのは知っているわね。ほぼ確実に魔法植物は発見され、グレゼリオン王国によって建て直しが行われるでしょう。」
「……本当ですか?」
「ええ、本当よ。資金はかかるけども、それは長期的に返してくれれば良いというのがアースの考えね。」
俺はホッと胸を撫で下ろす。ずっと胸につっかえていたのだ。
きっと良い方向に向かうだろう。俺なんかが干渉するよりは、ずっとマシにはなるはずだ。
「けれど、中毒を治すのは直ぐにできる事じゃない。きっと正常になるまでに何年もかかるでしょうね。」
「……」
「例え、治ったとしても後遺症が体には残り続ける。そればかりはどうしようもない事よ。」
そうか。いや、そりゃそうだ。今までの事を全部なかった事にはできない。何の脈絡もなく事態が好転する事はない。
時間が必要だ。何年もかけて、マイナスからゼロに向かわなくてはならない。俺にできる事があるとすれば、その事業に金を払う事ぐらいだろう。
「……人に気をつかうのは良いけれど、大切なのは次よ。貴方がこれからどうするかについて。」
そんな俺の気持ちを振り払わせるように、お嬢様は口を開いた。
「これから次代の国王を決定する王選の儀が行われるわ。まずはそこで、貴方にはアースの護衛をしてもらう。」
「分かりました。と言っても、問題なんか起きないでしょうけど。」
「ええ、だからこそ問題は次。貴方は名も無き組織の幹部を一人倒した実績と、王族の護衛を行なったという実績、それを持ち帰って冠位を得てもらう。実力は、今なら不足はないはずよ。」
ドクンと、心臓が突かれたように震える。
遂に、冠位へと手を伸ばす日が来たのだ。神秘科の冠位に、親父より早くなってやるという夢を叶える時が来た。
「冠位を得る条件は三つ。一つ、冠位三人以上からの推薦を受ける事。二つ、賢神として一定以上の成果を残している事。三つ、研究成果を残す事。」
二つ目はもうクリアした。残りは一つ目と三つ目だが、冠位の知り合いは多いから一つ目もクリアする事は難しくないはずだ。
問題は三つ目。俺は研究なんかやった事がないから、そこがネックになる。
「これから先、アルスにはこれらの条件を満たす為に動いてもらうわ。異論はある?」
だが、乗り越えてみせよう。この程度を越えられないなら、両親に見せる顔がない。
「ありません。完璧にこなしてみせますよ。」
当分の目標は決まった。冠位魔導神秘科になる事だ。
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