314 / 474
第十章~魔法使いと幸せの群島~
28.冠位へと
しおりを挟む
――天界から王国に帰ってから三日ほど経った。やっと報告が済んで上の方針も決まった。これでようやっと俺も一息つけるというものである。
ヘルメスとは戻って直ぐに別れた。こっちも忙しかったからな。落ち着いたし、クランに酒でも持って尋ねに行くのもいいだろう。
今回の旅もヘルメスにかなり助けられた。何でもできる奴だから、どんな状況でも頼りにできる。
ディーテは転移で一緒に戻っていなかったらしく、今何をしているか分からない。
出自や経歴でも驚くことは沢山あったが、俺を助けてくれた人だ。また今度会えたらお礼を言わなければならない。
ついでに菓子でも渡せば喜ぶのだろうか。
お嬢様とは一緒に王城へ行き、アースに直接今回の一件を報告した。情報量の多さに頭を抱えていたが、直ぐに話をまとめてくれた。
主な議題はカコトピア群島の事と、天界に来たクリムゾン、そして持って行った天門の鍵だ。
群島には直ぐに調査隊が派遣されたらしい。どんな結果になるのかは、俺には分からない。どうしようもないと言うのが正しいだろう。
「……終わったのか。」
それでも、俺の中では達成感の方が強かった。長い間、俺を悩ませ続けていたツクモとは決着がついた。
今回の旅の成果はそれだ。ツクモの力まで持っていけるとは思わなかったが、思わぬ副産物と言ったところだろうか。
やっとひと段落がついたし、こうやって自分の部屋で心を落ち着かせられるというものだ。
「ああ、そういやお疲れ。色々ドタバタしてて切り忘れてた。」
俺はそう言って、自分の部屋に置いている人形の機能を止めた。
こいつは魂の小さな欠片みたいなもので、視界こそ共有できるし命令も通るが、それ以外の時は精霊並みの微弱な意志しかない。それこそヒカリを守るっていう単一の命令しかこなせないほどだ。
連絡は来なかったから何もなかった事は分かるが、その間の記憶はこいつに蓄積されてないから、そんなに急いで魂を回収する気にもなれなかった。
「もう魔力は切れてるか。結構高い魔石に魔力込めてたんだけどなあ……燃費は最悪だな。」
しかし、一週間近くもっただけで十分と言えよう。利便性が高い事に違いはない。
俺は人形が消えて残った、握り拳より一回り大きい魔石を掴んでタンスの引き出しにしまった。
「邪魔するわよ。」
「うへっ!?」
いきなりドアが開けられたせいで、思わず変な声が出てしまった。
振り向けばそこには、やはりと言うべきかお嬢様がいた。
「ご苦労様、お茶でも出してくれるかしら?」
お嬢様は迷いなく俺の部屋にズカズカと入り、長椅子に許可なく座った。
俺は一度ため息を吐いて、部屋に置いてあるティーセットで紅茶を作り始める。王城は水道が通ってるから楽で助かる。
「はい、どうぞ。」
机を挟んだ反対側の長椅子に座りながら、俺はいれた紅茶をお嬢様の前に置いた。
お嬢様はカップの取っ手を右手でつまみ、文句一つない動作で紅茶を飲んだ。そしてカップを静かに置いた。
「不味いわね。」
「そりゃそうでしょう。こういうのはティルーナの仕事です。」
一応、ティルーナから紅茶の淹れ方自体は教わっている。ただ一通りの動きを知っているだけで、美味しいわけがない。
「それで、何の用です?」
「今後の動きについて、貴方が知りたいだろうから説明に来たのよ。」
そう言いながらも不味い紅茶をお嬢様は飲む。表情には全く出さないのだから流石だ。
「カコトピアへ調査隊が入ったのは知っているわね。ほぼ確実に魔法植物は発見され、グレゼリオン王国によって建て直しが行われるでしょう。」
「……本当ですか?」
「ええ、本当よ。資金はかかるけども、それは長期的に返してくれれば良いというのがアースの考えね。」
俺はホッと胸を撫で下ろす。ずっと胸につっかえていたのだ。
きっと良い方向に向かうだろう。俺なんかが干渉するよりは、ずっとマシにはなるはずだ。
「けれど、中毒を治すのは直ぐにできる事じゃない。きっと正常になるまでに何年もかかるでしょうね。」
「……」
「例え、治ったとしても後遺症が体には残り続ける。そればかりはどうしようもない事よ。」
そうか。いや、そりゃそうだ。今までの事を全部なかった事にはできない。何の脈絡もなく事態が好転する事はない。
時間が必要だ。何年もかけて、マイナスからゼロに向かわなくてはならない。俺にできる事があるとすれば、その事業に金を払う事ぐらいだろう。
「……人に気をつかうのは良いけれど、大切なのは次よ。貴方がこれからどうするかについて。」
そんな俺の気持ちを振り払わせるように、お嬢様は口を開いた。
「これから次代の国王を決定する王選の儀が行われるわ。まずはそこで、貴方にはアースの護衛をしてもらう。」
「分かりました。と言っても、問題なんか起きないでしょうけど。」
「ええ、だからこそ問題は次。貴方は名も無き組織の幹部を一人倒した実績と、王族の護衛を行なったという実績、それを持ち帰って冠位を得てもらう。実力は、今なら不足はないはずよ。」
ドクンと、心臓が突かれたように震える。
遂に、冠位へと手を伸ばす日が来たのだ。神秘科の冠位に、親父より早くなってやるという夢を叶える時が来た。
「冠位を得る条件は三つ。一つ、冠位三人以上からの推薦を受ける事。二つ、賢神として一定以上の成果を残している事。三つ、研究成果を残す事。」
二つ目はもうクリアした。残りは一つ目と三つ目だが、冠位の知り合いは多いから一つ目もクリアする事は難しくないはずだ。
問題は三つ目。俺は研究なんかやった事がないから、そこがネックになる。
「これから先、アルスにはこれらの条件を満たす為に動いてもらうわ。異論はある?」
だが、乗り越えてみせよう。この程度を越えられないなら、両親に見せる顔がない。
「ありません。完璧にこなしてみせますよ。」
当分の目標は決まった。冠位魔導神秘科になる事だ。
ヘルメスとは戻って直ぐに別れた。こっちも忙しかったからな。落ち着いたし、クランに酒でも持って尋ねに行くのもいいだろう。
今回の旅もヘルメスにかなり助けられた。何でもできる奴だから、どんな状況でも頼りにできる。
ディーテは転移で一緒に戻っていなかったらしく、今何をしているか分からない。
出自や経歴でも驚くことは沢山あったが、俺を助けてくれた人だ。また今度会えたらお礼を言わなければならない。
ついでに菓子でも渡せば喜ぶのだろうか。
お嬢様とは一緒に王城へ行き、アースに直接今回の一件を報告した。情報量の多さに頭を抱えていたが、直ぐに話をまとめてくれた。
主な議題はカコトピア群島の事と、天界に来たクリムゾン、そして持って行った天門の鍵だ。
群島には直ぐに調査隊が派遣されたらしい。どんな結果になるのかは、俺には分からない。どうしようもないと言うのが正しいだろう。
「……終わったのか。」
それでも、俺の中では達成感の方が強かった。長い間、俺を悩ませ続けていたツクモとは決着がついた。
今回の旅の成果はそれだ。ツクモの力まで持っていけるとは思わなかったが、思わぬ副産物と言ったところだろうか。
やっとひと段落がついたし、こうやって自分の部屋で心を落ち着かせられるというものだ。
「ああ、そういやお疲れ。色々ドタバタしてて切り忘れてた。」
俺はそう言って、自分の部屋に置いている人形の機能を止めた。
こいつは魂の小さな欠片みたいなもので、視界こそ共有できるし命令も通るが、それ以外の時は精霊並みの微弱な意志しかない。それこそヒカリを守るっていう単一の命令しかこなせないほどだ。
連絡は来なかったから何もなかった事は分かるが、その間の記憶はこいつに蓄積されてないから、そんなに急いで魂を回収する気にもなれなかった。
「もう魔力は切れてるか。結構高い魔石に魔力込めてたんだけどなあ……燃費は最悪だな。」
しかし、一週間近くもっただけで十分と言えよう。利便性が高い事に違いはない。
俺は人形が消えて残った、握り拳より一回り大きい魔石を掴んでタンスの引き出しにしまった。
「邪魔するわよ。」
「うへっ!?」
いきなりドアが開けられたせいで、思わず変な声が出てしまった。
振り向けばそこには、やはりと言うべきかお嬢様がいた。
「ご苦労様、お茶でも出してくれるかしら?」
お嬢様は迷いなく俺の部屋にズカズカと入り、長椅子に許可なく座った。
俺は一度ため息を吐いて、部屋に置いてあるティーセットで紅茶を作り始める。王城は水道が通ってるから楽で助かる。
「はい、どうぞ。」
机を挟んだ反対側の長椅子に座りながら、俺はいれた紅茶をお嬢様の前に置いた。
お嬢様はカップの取っ手を右手でつまみ、文句一つない動作で紅茶を飲んだ。そしてカップを静かに置いた。
「不味いわね。」
「そりゃそうでしょう。こういうのはティルーナの仕事です。」
一応、ティルーナから紅茶の淹れ方自体は教わっている。ただ一通りの動きを知っているだけで、美味しいわけがない。
「それで、何の用です?」
「今後の動きについて、貴方が知りたいだろうから説明に来たのよ。」
そう言いながらも不味い紅茶をお嬢様は飲む。表情には全く出さないのだから流石だ。
「カコトピアへ調査隊が入ったのは知っているわね。ほぼ確実に魔法植物は発見され、グレゼリオン王国によって建て直しが行われるでしょう。」
「……本当ですか?」
「ええ、本当よ。資金はかかるけども、それは長期的に返してくれれば良いというのがアースの考えね。」
俺はホッと胸を撫で下ろす。ずっと胸につっかえていたのだ。
きっと良い方向に向かうだろう。俺なんかが干渉するよりは、ずっとマシにはなるはずだ。
「けれど、中毒を治すのは直ぐにできる事じゃない。きっと正常になるまでに何年もかかるでしょうね。」
「……」
「例え、治ったとしても後遺症が体には残り続ける。そればかりはどうしようもない事よ。」
そうか。いや、そりゃそうだ。今までの事を全部なかった事にはできない。何の脈絡もなく事態が好転する事はない。
時間が必要だ。何年もかけて、マイナスからゼロに向かわなくてはならない。俺にできる事があるとすれば、その事業に金を払う事ぐらいだろう。
「……人に気をつかうのは良いけれど、大切なのは次よ。貴方がこれからどうするかについて。」
そんな俺の気持ちを振り払わせるように、お嬢様は口を開いた。
「これから次代の国王を決定する王選の儀が行われるわ。まずはそこで、貴方にはアースの護衛をしてもらう。」
「分かりました。と言っても、問題なんか起きないでしょうけど。」
「ええ、だからこそ問題は次。貴方は名も無き組織の幹部を一人倒した実績と、王族の護衛を行なったという実績、それを持ち帰って冠位を得てもらう。実力は、今なら不足はないはずよ。」
ドクンと、心臓が突かれたように震える。
遂に、冠位へと手を伸ばす日が来たのだ。神秘科の冠位に、親父より早くなってやるという夢を叶える時が来た。
「冠位を得る条件は三つ。一つ、冠位三人以上からの推薦を受ける事。二つ、賢神として一定以上の成果を残している事。三つ、研究成果を残す事。」
二つ目はもうクリアした。残りは一つ目と三つ目だが、冠位の知り合いは多いから一つ目もクリアする事は難しくないはずだ。
問題は三つ目。俺は研究なんかやった事がないから、そこがネックになる。
「これから先、アルスにはこれらの条件を満たす為に動いてもらうわ。異論はある?」
だが、乗り越えてみせよう。この程度を越えられないなら、両親に見せる顔がない。
「ありません。完璧にこなしてみせますよ。」
当分の目標は決まった。冠位魔導神秘科になる事だ。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる