幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第十章~魔法使いと幸せの群島~

26.犠牲は二つ

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 スキルというのは、神々が与えた恩寵である。
 俺も書物や人伝にしか聞いたことはなかったが、そのスキルの名前と使い方が、手に入れた途端に頭に入り込むらしい。
 今回、神話体現ロスト・ファンタジーを手に入れた時もそうだった。だからこそいきなりの実戦でも戦えた。
 だが、流石にその性能の全てを引き出すには、鍛錬が必要そうだったけど。

「対象が天界から消失した事を確認、戦闘態勢を解除する。」

 その天使王の一言で、俺はスキルを解く。その直後に、気を失いそうな程の疲労感に襲われるが、なんとか歯を食いしばって立つ。
 ここで寝てしまったら、恐らく俺は二度と起きれない。それはまだ御免だ。
 取り敢えず止血をして、右腕をくっつけなきゃ。腕を失うなんて一度で十分だ。ツクモとの戦いでただでさえ魂を磨耗したのに、腕まで失うわけにはいかない。

「切断面は大分綺麗だな。これなら治すにも問題はあるまい。」

 ディーテは俺の右腕を拾い、切断面に押し当てる。
 思わず声を漏らした。死ぬ程に痛い。なんとか留めた意識を手放してしまいそうなぐらいに痛い。
 しかし何をするんだとか、やめろだとか言う元気も湧いてこなかった。

「"接合しろ"」

 その言葉が響いた瞬間に、まるで俺の体が俺の体じゃないみたいに勝手に動き始めて、言いようのない不快感と痛みが俺を襲う。
 その後に、俺の体には指先の感触が戻っていた。

「神経と肉、血管を無理矢理繋げた。治ったわけじゃないぞ、そこだけは勘違いするな。」

 いや、それは分かる。痛みとかは和らぐ気配はないし、今にも取れそうな気がしてならない。降りた後に医者に診てもらわないといけないだろう。
 しかし応急処置としてはこれ以上ないものだ。十分にありがたい。

「助かるディーテ。悪いな。」
「私は冒険者らしく、依頼に従って行動しただけだ。それにそこの天使王が本調子なら、完全に治療もできた。」

 明らかな嫌味であるが、天使王は眉一つ動かさない。

「問題はない。当機は耐性を作成、獲得した。二度と同じ状況にはならないと約束する。」

 そして、そんな的外れな事を言った。
 この世の始まりから存在するだけはある。価値観だとかが少しズレている。

 俺はここでやっと、心を落ち着かせられた。
 ツクモを倒したら何故かクリムゾンがいて、こんな激戦を繰り広げるとは思わなかった。流石に2連戦はこたえる。
 今まで順調に進んでいた分のぶり返しが来たようだった。お嬢様に傷一つないのは不幸中の幸いだろう。

「なあ、天使王。」

 しかし、何も失うものがないわけじゃなかった。
 俺は疲れているけれど、神殿の入り口の方へと向いて尋ねた。

「天使も、死んだら蘇らないよな。」
「回答する。天使は老衰の概念はないが、死は存在する。冥界に送られた天使を戻すのは不可能だ。」

 そうだよな。あの殺された天使は決して蘇らない。神でさえ死ぬのだから、天使が死なない道理はない。
 この天使とは話したこともない。名前も知らない。それでも、俺は悲しかった。

「当機が万全であっても、長期戦になったと推測する。それ程までにあの個体は強い。死者が一人で済んだのは幸運である。」

 天使王の言葉に驚きつつも納得する自分がいる。
 俺は腕を切断したが、アレはわざと喰らってくれたような気がするのだ。実際、あの後に普通に治していたし。
 カリティと同等と考えるなら、クリムゾンと互角に戦えるのはうちの師匠ぐらいだろう。

「最初の交戦の際、当機は天門の鍵を盗まれた。建造物の修復は容易であるため、問題はそれのみだ。」

 俺は疑問符を浮かべる。理由は単純明快、天門の鍵とやらを知らないからだ。
 お嬢様とヘルメスの顔を見ても心当たりはなさそうで、少なくとも有名なものではない事は分かった。反応したのはディーテだけだ。

「天門の鍵を、だと? それを守るのがお前の使命だったと、私はそう記憶しているが。」
「否定する。天門を守り、ここから先を許可なき限り通さないのが支配神に告げられた職務だ。天門は基本的に神が開けるものであり、あの鍵を使った記録は一度もない。」

 ディーテと天使王の中で勝手に話を進めていて、俺達は置いてけぼりになっている。

「鍵は盗まれても問題はない。どちらにせよ、当機を倒さない限りは天門を抜ける事は不可能だ。」

 その言葉にディーテは納得したのか、口を閉じた。逆にお嬢様が今度は口を開いた。

「天門とは、後ろの門の事でしょうか?」
「肯定する。神の領域、神界へと辿り着く唯一の方法こそが当機の背後に存在する天門であり、これを守ることが当機の与えられた役割である。」

 天使王の説明を受けてようやっと、事態の大きさが飲み込めた。
 問題はないとは言うが、名も無き組織が相手ならその予想が外れることだってあるだろう。十分に警戒をする必要がある。
 ディーテが気にしたのも当然の事だ。

「その鍵は神が作ったのですね。つまりは神器であると。」
「肯定する。支配神が一瞬で作った物と記憶している為、下位に位置するが神器である。」
「その神器は、天門を開ける以外の効果はないのですか?」
「ない。それは断言する。」

 お嬢様は少し考え込む。きっとお嬢様には気になる所があるのだろう。

「……分かりました、それはこちらで調べましょう。確か私にはまだ、何か頼み事を言う権利が残っていましたね?」
「肯定する。」
「であれば、早いうちに聞いておきましょう。」

 まだ言っていなかったのか。というよりは、お嬢様が言う直前にクリムゾンが来たのか。
 後で俺が眠っていた間に何があったのか、具体的に聞いておこう。

「私が知りたいのは、神とは何か、そしてどうやって殺せるかです。」

 お嬢様は決まり切った事を聞くようにそう言った。

「質問する。何故、それを聞く。」
「気になるからです。もしかしたらいつか、必要になるかもしれません。他に理由は必要ですか?」
「……否、不要だ。」

 天使王は詮索をしない。いや、例えしたとしてもお嬢様は答えてくれないだろう。
 お嬢様は俺達とは見てる世界が違う。

「あまりここに長居するわけにもいきません。負傷者もおりますし、今回の一件を早急に報告する必要があります。どうかお早めの回答を。」

 未だ体は休まらないが、これは聞いておかなくてはならない。そんな気がした。
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