幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第十章~魔法使いと幸せの群島~

19.神を打倒する

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 ――俺にとって、この世界は故郷のようである。

『貴方の中の神は、貴方の体を依り代として生きる神と推測する。存在に依り代を必要とするのは下位の神、異界の独自の法則で生まれたが故にその神は貴方の体を必要としている。』

 あらゆる物が、この世界では沈んでいる。
 無限の彼方にまで広がる大海の中で、人形や食器、携帯、パソコンなど本当に何でもだ。本来なら沈む事がないような部屋やタワーすら沈んでいる。
 思えばこの世界はずっと俺の中にあった。前世からずっと、俺の中にいた世界だ。一種の不思議な安心感を覚えるのも道理だろう。

『しかし魂を持つ生物に神が宿るのは容易ではない。神と貴方の魂がぶつかり合うからこそ、神は貴方の魂を壊す必要がある。神を完全に封じ込め、反抗の一切を封じる事ができれば貴方の目的は果たされる。』

 だが、自分からここに入るのは初めての事だ。入れるとも思っていなかったがな。

『全ての魂にはそれぞれの部屋がある。その部屋はその魂の記録や性格などを管理する中枢、そこを封印する事によって行動の一切は封じられる。本来なら他者の魂の部屋に入る事は不可能。共通の体を使う貴方だからこそできる手段だ。』

 天使王が俺をこの空間に落としてくれた。どうやったかは分からないが、きっと特別な権能か何かだろう。考えるだけ無駄だ。
 そして天使王の言葉が正しければこの世界のどこかに、ツクモの部屋がある。

『封印は当機にも可能だが、それには神の動きを封じる必要がある。それだけは貴方が行わなくてはならない。』

 迷いはしなかった。
 ここまで連れてきてくれたヘルメスや竜神様、お嬢様。鍛えてくれた師匠やアルドール先生。俺へとくれた物を、ここで返す必要があった。

「――見つけた。」

 今日が決着だ。長きに渡る因縁もここまでだ。二度と会うこともないだろう。
 俺はこの広い水の世界の中、一つの部屋へと進んでいく。
 正六面体の白い箱のようなものであるが、ドアがついている事がそれを部屋として認識させる。

 ドアノブに手をかける。開かない。水圧のせいだろうか。
 俺はずっと、この世界はツクモの世界であると考えていた。しかしよくよく考えれば違った。この世界は、あいつと俺の世界だ。あいつの世界はこの部屋の中だけ。
 この水の世界において、俺とあいつは対等だ。

「邪魔する、ぜ!」

 一気に力を込めて、ドアを蹴る。水は俺の想像通りに力を貸してくれた。
 その勢いのまま部屋の中に転がり込む。
 ドアは壊れ床に転がるが、中に水は入り込まない。ここだけが、隔絶された空間である証明だった。

「……最悪な気分だ。」

 部屋の中には何も置いていない。空っぽだ。照明も家具も、何一つありはしない。
 その部屋の真ん中にツクモはいた。服の色から髪、瞳、まつ毛に至るまでが真っ白な中性的な顔立ちの、人型の神がそこにいたのだ。
 顔を見たのは随分と久しぶりだ。もうこれで、二度と見ることもない面でもある。

「私の計画が潰されて、その上に部屋に土足で上がられて、その上にお前如きが私を倒せるという妄想までしている。ここまで悪い気分なのは早々ない。」

 ここで俺が勝っても、負けても、どちらにせよ最後だ。勝者が敗者に情けをかける事は決してない。

「だが、良い機会だ。」

 体が震えた気がした。全身が痺れたような感覚で、今直ぐにも逃げ出したい気持ちだ。
 睨まれただけでこれだ。きっとこれからの戦いも楽なものではあるまい。命を失う可能性だって高いだろう。

「この部屋は私の世界だ。ここならお前を、殺す事ができる。」

 それでも俺が勝つ。ツクモとは背負っているものの数が違う。

「……くだらない前口上はそれで終わりか? それなら始めるぜ。」

 答えは聞かない。既に魔法の準備は終えている。
 天井に一瞬で魔法陣を展開し、そこから瞬時に魔法を放つ。選ぶのは第七階位、瞬時に出せる火力の中でも最高火力。

「『地獄の業火インフェルノ』」

 部屋の中を一気に炎が覆う。生半可な魔法使いなら一瞬で燃え尽きる程の大魔法だ。
 ツクモがこの程度でやられるとは思っていないが、初撃としては十分だろう。

「――領域拡張、武装展開。」

 炎の中から声が聞こえた。その瞬間に、部屋は急激に広がった。天井は遥か遠くに、大地は地平線の彼方まで。
 戦いやすくする為だろう。そう思った瞬間に、炎の中から何かが飛び出るのを知覚する。

「『三重結界トリプル・セイント』」

 振るわれた純白の刀を、結界が防いだ。
 ツクモの姿は変わっていた。歴史の教科書で見たような多重の、それでいて真っ白な着物を身に纏い、右手には剣を、左手には盾を持っている。
 その姿は西洋の神とは違う。天照大神のような、大和の国の女神のようであった。

「お前、本当に何の神なんだよ!」
「言ったはずだ。お前はそれを知っているはずだと。」

 ツクモは剣に力を入れ、結界は割れる。それに合わせて、俺の左手から炎が走った。

「『巨神炎剣レーヴァテイン』」

 剣と剣がぶつかる。強い、しかし勝てない相手ではない。届かない雲の上にはない。
 それなら後は可能性を掴み取るだけ。それなら俺の得意分野だ。今まで何回も、遠い可能性を手繰って勝ってきた――!

「『雷皇戦鎚ミョルニル』」

 空いている右手に魔力を集める。放つは神の雷、北欧神話最強とも言われる雷神の必殺。例え相手が神であっても、防がれる道理はなし。

「『雷皇の一撃トールハンマー』」

 振るわれたウォーハンマーを、ツクモは盾で防ぐ。しかし威力を完全には殺せない。

「ぶっ飛べ。」
「――ッ!?」

 この白い広大な部屋の中、ツクモは何かに弾かれたかのように勢いよく飛んでいった。

「悪いなツクモ、この体はお前にはやれねえよ。」

 戦いは始まった。
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