幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第十章~魔法使いと幸せの群島~

17.天界

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 俺が見た世界は正に絵画のようであった。
 ミケランジェロの「最後の審判」のような、見る者を圧倒する美しさがあった。雲、正確には雲の形をした何かの上に、神聖さを感じる様々な建造物が並んでいた。
 地球人の常識の範囲で考えるなら、雲の上に人が立てるはずもない。しかしここは異世界であり、その中でも更に異界、天界であるのだから常識を改める必要がある。
 実際、俺はたった今、雲の上に立っていた。

「天界は、最初に神によって最下層であるここが作られました。そこからセラフィム様によって上層の世界が作られ、今ではここまで広くなったのです。」

 天使はそうやって俺達に向けて説明をした。

「正面にございますのが、セラフィム様がおられます天界唯一の神殿となります。ここに訪れた勇士はまず、セラフィム様に会う決まりとなっています。どうぞお進みください。」

 そう言って、天使は上の方へと飛び去って行った。
 その時にやっと俺は目の前のそれに気づいた。あまりにも美しい景色であったが故に、目の前にあったはずのそれを見逃していた。

「行くぞ、お前たちの目的である『天使王』セラフィムはそこにいる。」

 ディーテが先陣を切って歩き始める。
 その神殿はかの有名なパルテノン神殿を彷彿とさせた。決定的に違う点は、一つも欠けていない、今なお生きる神殿であるという点だ。

「天使王が入り口の直ぐそこにいるのね。危なくはないのかしら。」

 お嬢様の言葉に反応してディーテは答える。

「何を言う。天使王が負けるのなら、そもそもこの天界は終わりだ。」「……? どういう事でしょうか?」
「天使全員が束になったところで、天使王には傷一つつく事はない。それだけの事だ。」

 ディーテはそれが常識みたいに、サラリとそう言った。
 確かに俺だって、そこらの魔法使いが何人いても負ける気はしない。しかしこの天界にいる天使は、さっきの天使を見る限りはかなりの実力がある。
 一対一なら勝てるかもしれない。けれど十数人を相手にすれば厳しいに違いない。
 それを疑いもなく可能な程に、天使王は強いというのか。

「侵入者を被害なく排除する為に、天使王は入り口の近くにいる。天界の守護者にして神の代弁者こそが、天使王だ。」

 王、とは言うが人の王とは大分違うらしい。
 どの国の王も個人の武力なんてほとんどない。必要ない、と言った方が正しいだろう。
 国を統治するのが王の役目であり、力による統治には人はついてこないものだ。

「……ちょっと待てよ。そろそろ聞いてもいいかい?」

 ヘルメスはディーテに向けてそう言う。

「天界への行き方や、こういう知識を知っているのは、まだ分かる。だけど天使と知り合いなのは何故だい? しかも、あんなに敬われていたじゃないか。」
「……言わねば分からんか。」
「答えたくないなら、それで構わないよ。気になっただけだからね。」

 いや、と言ってディーテは足を止める。それに釣られて全員、その場に立ち止まった。

「隠していたわけではない。確かに自分からは言わないようにはしていたが、聞かれれば答える程度の
 事だ。」

 ディーテは後ろ、つまりは俺達の方へと向き直す。
 別に自分が何か聞いたわけでもないし、自分が何かを告白するわけでもないのに、何故か緊張してきた。
 人の秘められたものを知る時は、何故かこちらも同じくらい気負ってしまうものだ。

「単純明快な話だ。私が、元々はここの天使だったからに他ならない。納得はいったか、ヘルメス。」

 は、と誰かが言った気がした。俺の声かもしれない。
 重要なのは、それがよく分からないほどにその言葉に衝撃を受けていたという事だ。

「いや、いやいや! ちょっと待てよ。天使だとすれば辻褄は合うけど、肝心な翼がないじゃないか!」
「堕天した天使に翼を生やす権利はない。権能たる翼なら出せるが、そんなもの証明にはならんだろう。」

 ヘルメスの慌てぶりに対して、ディーテは落ち着いていた。
 俺とお嬢様は一言も発せなかった。これが如何に異様な事であるかは知っているからだ。
 天使はこの世に降りることはない。加えて堕天使など、伝説の一節に語られるか否かの内容である。
 これをすんなり受け入れられる方がおかしい。

智天使ケルビムの一つ、アフロディーテ。それこそが、自由を求めて翼を捨て去る前の私の名前だ。」

 仮面があるから、ディーテの表情は伺いしれない。どういう心情でそれを口にしているかも分からなかった。
 悲しい何かがあったのか、それともそこに何もなかったのか、俺には分からなかった。

「質問はそれだけだな。お前達の目的は私ではないはずだ。早く行くぞ。」

 再びディーテは歩き始める。一度話を区切られたら、もう聞くことはできない。
 俺達は何も言わず、ディーテについていった。

「……本当に周辺警備もいないのね。」

 お嬢様の言う通り、付近には気配を感じない。ディーテの言うことが真実なら、確かに警備はいらないだろう。

「天使王、聞こえるか! お前に用がある勇士を連れて来たぞ!」

 そして神殿につくなり、大声でディーテはそう言った。
 元天使とは思えない不敬ぶりではあるが、今はそこを気にする余地はない。
 神殿内は特に何も置いていない。ただ、単純に汚れなど一切ない清浄な空間が広がっていた。

「――回答する。」

 荘厳にて力強い声が、空間に響き渡る。
 神殿の奥の奥、そこには巨大な何かがあった。大きな大きな門の前に、巨大な翼を持つ人型の何かが、これまた大きな椅子に座っていた。
 あれが天使王なのだろうか。だが、あの姿はまるで――

「全て聞こえている。故に、当機の近くに来てもらう。」

 グイっと、強い何かに引っ張られる感覚に襲われる。そして俺を含めた四人は、そのまま巨大なそれに引き寄せられた。
 それの目の前にて俺達は速度を緩やかにして静止した。

 それは、機会だった。巨大な機械できた天使だった。
 いくつもの歯車やコードが剥き出しの、機械仕掛けの天使そのものであった。異世界どころか、地球ですら見ることのない物体がそこにあった。

「質問する。何故、目線をそこまで高くする。人のルールでは、目を合わせて会話するのがルールと聞いた。」

 声が響く場所は、低かった大きな椅子に座る天使の前。そこに小さな、と言っても人と同じサイズに女性の天使がいた。
 その天使は大きなそれと同じで、機械である事が直ぐに分かった。
 何かのコードが身体中に繋がっていて、光り輝く青い光輪が頭の上にある。真っ白な髪で、ほぼ裸同然の布だけを羽織ったような服装をした天使だった。

「宣言する。」

 その姿は機械の体でありながらもまるで女神のようで、神秘を感じる存在であった。

「当機は天使を束ねる者にて、唯一の熾天使セラフィムである最上位個体。天使王セラフィムである。」

 6枚の翼は美しくも機械的にそこにあり、彼女を天使と裏付ける何よりの証明である。

「天界の主として、勇士を歓迎する。」
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