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第十章~魔法使いと幸せの群島~
8.仇敵をくだす
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森の中を俺とヘルメスは走っていた。
方位磁石を持つヘルメスが先導し、俺はそれに続く形となる。ヘルメスの祝福眼である、神帝の白眼があることも先導する理由である。
全ての魔眼の力を内包するそれを使えば、本人への負担さえ考慮しなければ何でもできると言って過言はない。
こんな来たこともない森の中で、行ったことのない場所を目指すとしても、ヘルメスなら迷わない。
「どうやら、夕暮れ時には着きそうだね。」
ヘルメスは走りながらそう言った。
景色が変わらないから俺の視点では進んでいるような気はしないが、ヘルメスがそう言うんだったら大丈夫だろう。
「――ただ、その前に少ボス戦だ。」
ヘルメスの言葉と同時に、空から獣が墜落するように落ちる。
反射的にそれを避け、折れゆく木々と吹き荒れる風の間からその姿を見た。
鋭く赤い獣の両目と、人なんか掠っただけで死ぬだろう鋭利な鉤爪、そこにある敵を逃さぬ両翼。
獅子の下半身と大鷲の上半身と翼を持つ奇形の魔物、危険度8のグリフォンがそこにいた。
危険度とは人にとっての危険性から決められた十段階の基準であり、実際の戦闘力とは必ずしも同じではない。
しかし、危険度8以降の魔物はそれ未満の魔物とは格が違う。相性による下剋上すらありえない、絶対的な壁がそこにある。
簡単な話だ、危険度8の認定条件とは――
「久しぶりじゃねえか、グリフォン。」
――都市を単騎で滅ぼせることなのだから。
「ヘルメス、手を出すなよ。」
「……なるほど、リベンジマッチっていうわけか。」
あの時は、この国に来て直ぐ後の迷宮的暴走では、文字通り命を賭しても敵わなかった生ける災害。
今なら鮮明に分かる。これを一撃で倒した『天弓』のアルテミスの凄まじさが。
「いいぜ、存分にやりな。」
「ありがとう。」
俺とグリフォンは相対する。
ダンジョンから出てきたグリフォンとは違い、このグリフォンは冷静だった。きっと、この森の主なのだろう。
魔物は本能的に他種族を受け入れない。しかし損得を考える程度の知能はある。街を襲わなかったのも、デメリットの方が大きかったからに違いない。
そして、わざわざ俺達の目の前に現れたのは安全を脅かされたと思ったから。
「つまり俺を、脅威だと思っているわけだ。」
俺を取るに足らない人としてではなく、敵としてみなした。これがあの時との何よりの違いだった。
「邪魔をしないなら殺す気はないが、どうする?」
言葉は理解できないだろう。それでも俺が放出する魔力を感じ取れば、それを脅しと使っていることぐらいは分かるはずだ。
しかし目の前の敵を見て、大人しく引けるほど理性的なら、魔物は人類共通の敵とはされていない。
「……ま、そうだろうな。」
俺の魔力を掻き消すようにグリフォンは叫ぶ。
魔者ではなく魔物と呼ばれる最大の理由がここにある。理性ではなく本能で、奴らは生物を殺そうとする。
魔物は生物を殺して、そこから純度の高い魔力を奪って成長できる。それは生物学的にも理にかなった本能だ。
「『結界』」
俺へと突っ込むグリフォンを、俺は結界で防ぐ。結界に鉤爪が突き立てられるが、壊れることは決してない。
学園での研鑽を五年、賢神としての鍛錬を約二年。俺の魔法は世界でも有数の域に達している。
「一撃で終わらせよう。」
無題の魔法書を出しながら、右の手の中に魔力を集めていく。
「『巨神炎剣』」
決着は呆気なかった。俺の魔法でグリフォンは両断され、その場に倒れた。
あの時にあれ程までに恐れた仇敵も、今ではこうやって倒せる魔物一つに過ぎない。俺は成長している。この感覚から察するに、危険度9までなら余裕を持って倒せるだろう。
ただし危険度10は未だに厳しい気もする。それでも負ける気はしなかった。
「本当に、君は僕を置いてどんどん強くなるね。おかげで肩身が狭いよ。」
「……むしろお前が変わらな過ぎなんだよ。ちゃんと鍛錬してるのか?」
「失敬な。僕は広く浅くがモットーなんだよ。君とは方向性が違うだけさ。」
昔はヘルメスの方が強かったはずだが、気付けば追い越していた。
他の人に比べてもヘルメスの強さは異質である。唯一性という意味では間違いなく強いが、戦闘においてはどうしても出力が足りなくなる。
「それよりも早く行こうぜ。日が沈めばディーテに怒られる。」
そう言ってヘルメスは再び走り始めた。俺もそれに続く。
森の中をひたすらに走っていると、少しずつ木の間隔が広くなってきた。
更に進めば、木より草が生い茂った地面を見ることが増えてきた。魔力が少し薄くなるのを感じながら、足を進める。
そして遂に、辿り着く。
そこは森の奥だというのに、不自然に木が生えていない開けた場所だった。
魔力も魔物が住み着く森にしては異様に薄く、この状態では俺の魔法の効果も半減してしまうだろう。
何より目立つはその真ん中に鎮座する、大きな金色の鐘であった。
土がついていたり、苔が生していたりと綺麗とは程遠かったが、それでも荘厳な雰囲気は健在であった。
夕焼けに照らされて赤く染まる空の下で、この場所だけが空間から切り離されたようだ。
神秘的、としか言いようがない光景がそこに広がっていたのだ。
「やっと来たわね。」
目の前の光景に心を奪われていた俺を、近くにいたお嬢様が出迎えた。
よく見れば鐘の近くに、既にディーテがいる。
「1つ目は手早く終わらせてしまいましょう。」
そう言ってお嬢様も鐘の方へと足を動かした。
方位磁石を持つヘルメスが先導し、俺はそれに続く形となる。ヘルメスの祝福眼である、神帝の白眼があることも先導する理由である。
全ての魔眼の力を内包するそれを使えば、本人への負担さえ考慮しなければ何でもできると言って過言はない。
こんな来たこともない森の中で、行ったことのない場所を目指すとしても、ヘルメスなら迷わない。
「どうやら、夕暮れ時には着きそうだね。」
ヘルメスは走りながらそう言った。
景色が変わらないから俺の視点では進んでいるような気はしないが、ヘルメスがそう言うんだったら大丈夫だろう。
「――ただ、その前に少ボス戦だ。」
ヘルメスの言葉と同時に、空から獣が墜落するように落ちる。
反射的にそれを避け、折れゆく木々と吹き荒れる風の間からその姿を見た。
鋭く赤い獣の両目と、人なんか掠っただけで死ぬだろう鋭利な鉤爪、そこにある敵を逃さぬ両翼。
獅子の下半身と大鷲の上半身と翼を持つ奇形の魔物、危険度8のグリフォンがそこにいた。
危険度とは人にとっての危険性から決められた十段階の基準であり、実際の戦闘力とは必ずしも同じではない。
しかし、危険度8以降の魔物はそれ未満の魔物とは格が違う。相性による下剋上すらありえない、絶対的な壁がそこにある。
簡単な話だ、危険度8の認定条件とは――
「久しぶりじゃねえか、グリフォン。」
――都市を単騎で滅ぼせることなのだから。
「ヘルメス、手を出すなよ。」
「……なるほど、リベンジマッチっていうわけか。」
あの時は、この国に来て直ぐ後の迷宮的暴走では、文字通り命を賭しても敵わなかった生ける災害。
今なら鮮明に分かる。これを一撃で倒した『天弓』のアルテミスの凄まじさが。
「いいぜ、存分にやりな。」
「ありがとう。」
俺とグリフォンは相対する。
ダンジョンから出てきたグリフォンとは違い、このグリフォンは冷静だった。きっと、この森の主なのだろう。
魔物は本能的に他種族を受け入れない。しかし損得を考える程度の知能はある。街を襲わなかったのも、デメリットの方が大きかったからに違いない。
そして、わざわざ俺達の目の前に現れたのは安全を脅かされたと思ったから。
「つまり俺を、脅威だと思っているわけだ。」
俺を取るに足らない人としてではなく、敵としてみなした。これがあの時との何よりの違いだった。
「邪魔をしないなら殺す気はないが、どうする?」
言葉は理解できないだろう。それでも俺が放出する魔力を感じ取れば、それを脅しと使っていることぐらいは分かるはずだ。
しかし目の前の敵を見て、大人しく引けるほど理性的なら、魔物は人類共通の敵とはされていない。
「……ま、そうだろうな。」
俺の魔力を掻き消すようにグリフォンは叫ぶ。
魔者ではなく魔物と呼ばれる最大の理由がここにある。理性ではなく本能で、奴らは生物を殺そうとする。
魔物は生物を殺して、そこから純度の高い魔力を奪って成長できる。それは生物学的にも理にかなった本能だ。
「『結界』」
俺へと突っ込むグリフォンを、俺は結界で防ぐ。結界に鉤爪が突き立てられるが、壊れることは決してない。
学園での研鑽を五年、賢神としての鍛錬を約二年。俺の魔法は世界でも有数の域に達している。
「一撃で終わらせよう。」
無題の魔法書を出しながら、右の手の中に魔力を集めていく。
「『巨神炎剣』」
決着は呆気なかった。俺の魔法でグリフォンは両断され、その場に倒れた。
あの時にあれ程までに恐れた仇敵も、今ではこうやって倒せる魔物一つに過ぎない。俺は成長している。この感覚から察するに、危険度9までなら余裕を持って倒せるだろう。
ただし危険度10は未だに厳しい気もする。それでも負ける気はしなかった。
「本当に、君は僕を置いてどんどん強くなるね。おかげで肩身が狭いよ。」
「……むしろお前が変わらな過ぎなんだよ。ちゃんと鍛錬してるのか?」
「失敬な。僕は広く浅くがモットーなんだよ。君とは方向性が違うだけさ。」
昔はヘルメスの方が強かったはずだが、気付けば追い越していた。
他の人に比べてもヘルメスの強さは異質である。唯一性という意味では間違いなく強いが、戦闘においてはどうしても出力が足りなくなる。
「それよりも早く行こうぜ。日が沈めばディーテに怒られる。」
そう言ってヘルメスは再び走り始めた。俺もそれに続く。
森の中をひたすらに走っていると、少しずつ木の間隔が広くなってきた。
更に進めば、木より草が生い茂った地面を見ることが増えてきた。魔力が少し薄くなるのを感じながら、足を進める。
そして遂に、辿り着く。
そこは森の奥だというのに、不自然に木が生えていない開けた場所だった。
魔力も魔物が住み着く森にしては異様に薄く、この状態では俺の魔法の効果も半減してしまうだろう。
何より目立つはその真ん中に鎮座する、大きな金色の鐘であった。
土がついていたり、苔が生していたりと綺麗とは程遠かったが、それでも荘厳な雰囲気は健在であった。
夕焼けに照らされて赤く染まる空の下で、この場所だけが空間から切り離されたようだ。
神秘的、としか言いようがない光景がそこに広がっていたのだ。
「やっと来たわね。」
目の前の光景に心を奪われていた俺を、近くにいたお嬢様が出迎えた。
よく見れば鐘の近くに、既にディーテがいる。
「1つ目は手早く終わらせてしまいましょう。」
そう言ってお嬢様も鐘の方へと足を動かした。
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