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第十章~魔法使いと幸せの群島~
0.蜻ェ繧上l縺嶺クサ莠コ蜈ャ
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雨が、降る。
土は泥濘んで歩くのも一苦労であり、ただでさえ荒れていた道が更に悪路へと変わっていく。
降り注ぐ雨は視界を遮り、更に体温まで奪う。雨の音しか聞こえない大雨だ。こんな日に外へ出るやつはいない。
しかし、世の中にはむしろそっちの方が良いという奴もいる。
豪雨の中で車輪が回る音が微かに聞こえる。馬車が軋む音が聞こえるが構わずに突き進む。
それよりも、より遠くに進むことが重要だった。
「は、ハハハ! なんて運がいいんだ! これなら絶対に逃げ切れる!」
馬車の馬はゴーレムで、御者はいらない。馬車の中にいる三人の男と、一人の少女が全員だった。
少女は口にタオルを噛まされていて喋れないし、腕と足も縛られていて逃げることはできない。何も知らない人でも、この現場を見れば直ぐに男達が人攫いである事は分かるだろう。
「貴族を殺して、家財を漁り、その上に娘も攫う。こりゃあ、大犯罪だ。」
「近々、あの街も名も無き組織で滅ぶまではな。国がなくなれば罪だって消える。」
「死ぬのが早いか遅いかの違いだな。むしろ娘を連れて行った事に感謝して欲しいね。俺達のおかげで死なずに済む。」
下衆な笑いが鳴り響く。
どれだけの超人が兵にいたとしても、見つけられなくては意味がない。足跡は雨水が洗い流し、足音は雨音が掻き消す。
この三人を追うのが例えフランであったとしても、この悪天候での追跡は難しかっただろう。
「ま、足がつく前にとっとと売り飛ばして――」
その瞬間に馬車が大きく揺れた。ゴーレムが急停止したのだと気付くのは、馬車が完全に停止した後だった。
事態を把握するためにも男達の一人が、馬車の中から顔を出す。
すると顔を出した男は馬車の前に立つ人を見た。きっと障害物を感知して自動で止まったのだろうとも思い当たった。
「おいテメエ! 馬車の前に出るなんて死にてえのか!」
「……俺も乗せていってくれないか」
怒号に対してそいつの反応は淡白だった。それが妙に男の神経を逆撫で、馬車から直ぐに飛び出る。手にはナイフが握られていた。
「ちょっと待ってろ、直ぐに殺す。」
仲間にそう言って、一人で男は前に出る。きっと腕っぷしに自信があるのだろう。負けるなんて事は全く考えない。
そいつは能天気なのか、目の前の会話が雨で聞こえなかったのか、そこから動かなかった。
「くたばれ、ガキが。」
そいつが逃げる暇もなく素早く体を前に出し、心臓へとナイフを突き立てた。ナイフを抜くと噴水のように血液が心臓から流れ出て、そいつはその場に倒れる。
男は足で男を道の端に転がして、馬車へと踵を返した。
「よし、行くぞ。」
男はそう言って再び馬車に乗り込む。しかし、馬車は動かない。
「おい、どうした。さっさと馬車を――は?」
その馬車の中にいたのは一人の少女と、二匹の豚だった。当然ながら馬車の中に豚なんていなかったし、周辺に豚なんているはずもない。
そもそも中にいた二人の男が、どこに行ったというのか。
「何だよ、豚は嫌いか?」「ま、俺は嫌いなんだけど」「嫌いな奴は嫌いな奴に変えた方が早いしね」
瞬きをする間に、気付けばさっき死んだはずのそいつが馬車の座席に座っていた。
「安心しろよ、死んではいない」「というかわざわざ殺す方がめんどくさい」
「な、何なんだテメエ! 一体何をしてやがるんだ!」
「俺?」「俺は正義の味方かな?」「いやいや、もしかしたらラスボスかもしれないけど」
よくよく見てみれば全てがおかしかった。
この大豪雨でも一切濡れていない上に、加えて声の響き方も常人と違う。ローブのフードを被っているとはいえ、何故かぼやけたように顔の形を認識できない。
その異様さに気付いてもとっくに遅かった。もう既に全てが終わったあと。
「ま、残念ながら君には関係ない事だ」
この世界の混乱に乗じて楽して儲けようと思った浅ましさが、この男達の身を滅ぼした。
馬車の中から男は消える。豚もだ。
雨の音だけがザーザーと響き続けた。残ったのは家のソファにでも座るように堂々としているそいつと、それを啞然と眺める少女だけだった。
「それじゃあ俺は行くから」
そう言って急にそいつは立ち上がり、それと同時に少女を拘束するものが全て消える。
「俺の事は忘れるといい」「ただ実験をしにきただけだ」
そう言って雨の中にその身を曝そうとした時に、右の袖を掴まれる。
そいつは振り返り、不安そうになりながらも確固たる意志を持つ少女の姿を見た。
「連れて、行って。」
「――なるほど」
その言葉は想定外だったようで、そいつは思い悩むような仕草をする。
「ま、いいか」「ついてこいよ」「俺は主人公じゃないけど、こういうのも面白い」
土砂降りの大雨の中、それを意にも介さずそいつは外に出た。
少女は出るのを躊躇うが、遠くなっていくそいつの背を見ていると、本能的にそいつの背を追って外に出た。
――数日後、その馬車は発見された。
人の姿は周辺になく、犯人は終ぞ見つかることもなかった。その事件は一時は話題になるが、時間の経過で風化していった。
今や殆どの人の記憶に残らない、数ある事件の一つとして穏やかに消えていったのだ。
また、それとは全く関係ない話ではあるが、近辺の村落に言語を話すゴブリンが三匹現れたらしい。
土は泥濘んで歩くのも一苦労であり、ただでさえ荒れていた道が更に悪路へと変わっていく。
降り注ぐ雨は視界を遮り、更に体温まで奪う。雨の音しか聞こえない大雨だ。こんな日に外へ出るやつはいない。
しかし、世の中にはむしろそっちの方が良いという奴もいる。
豪雨の中で車輪が回る音が微かに聞こえる。馬車が軋む音が聞こえるが構わずに突き進む。
それよりも、より遠くに進むことが重要だった。
「は、ハハハ! なんて運がいいんだ! これなら絶対に逃げ切れる!」
馬車の馬はゴーレムで、御者はいらない。馬車の中にいる三人の男と、一人の少女が全員だった。
少女は口にタオルを噛まされていて喋れないし、腕と足も縛られていて逃げることはできない。何も知らない人でも、この現場を見れば直ぐに男達が人攫いである事は分かるだろう。
「貴族を殺して、家財を漁り、その上に娘も攫う。こりゃあ、大犯罪だ。」
「近々、あの街も名も無き組織で滅ぶまではな。国がなくなれば罪だって消える。」
「死ぬのが早いか遅いかの違いだな。むしろ娘を連れて行った事に感謝して欲しいね。俺達のおかげで死なずに済む。」
下衆な笑いが鳴り響く。
どれだけの超人が兵にいたとしても、見つけられなくては意味がない。足跡は雨水が洗い流し、足音は雨音が掻き消す。
この三人を追うのが例えフランであったとしても、この悪天候での追跡は難しかっただろう。
「ま、足がつく前にとっとと売り飛ばして――」
その瞬間に馬車が大きく揺れた。ゴーレムが急停止したのだと気付くのは、馬車が完全に停止した後だった。
事態を把握するためにも男達の一人が、馬車の中から顔を出す。
すると顔を出した男は馬車の前に立つ人を見た。きっと障害物を感知して自動で止まったのだろうとも思い当たった。
「おいテメエ! 馬車の前に出るなんて死にてえのか!」
「……俺も乗せていってくれないか」
怒号に対してそいつの反応は淡白だった。それが妙に男の神経を逆撫で、馬車から直ぐに飛び出る。手にはナイフが握られていた。
「ちょっと待ってろ、直ぐに殺す。」
仲間にそう言って、一人で男は前に出る。きっと腕っぷしに自信があるのだろう。負けるなんて事は全く考えない。
そいつは能天気なのか、目の前の会話が雨で聞こえなかったのか、そこから動かなかった。
「くたばれ、ガキが。」
そいつが逃げる暇もなく素早く体を前に出し、心臓へとナイフを突き立てた。ナイフを抜くと噴水のように血液が心臓から流れ出て、そいつはその場に倒れる。
男は足で男を道の端に転がして、馬車へと踵を返した。
「よし、行くぞ。」
男はそう言って再び馬車に乗り込む。しかし、馬車は動かない。
「おい、どうした。さっさと馬車を――は?」
その馬車の中にいたのは一人の少女と、二匹の豚だった。当然ながら馬車の中に豚なんていなかったし、周辺に豚なんているはずもない。
そもそも中にいた二人の男が、どこに行ったというのか。
「何だよ、豚は嫌いか?」「ま、俺は嫌いなんだけど」「嫌いな奴は嫌いな奴に変えた方が早いしね」
瞬きをする間に、気付けばさっき死んだはずのそいつが馬車の座席に座っていた。
「安心しろよ、死んではいない」「というかわざわざ殺す方がめんどくさい」
「な、何なんだテメエ! 一体何をしてやがるんだ!」
「俺?」「俺は正義の味方かな?」「いやいや、もしかしたらラスボスかもしれないけど」
よくよく見てみれば全てがおかしかった。
この大豪雨でも一切濡れていない上に、加えて声の響き方も常人と違う。ローブのフードを被っているとはいえ、何故かぼやけたように顔の形を認識できない。
その異様さに気付いてもとっくに遅かった。もう既に全てが終わったあと。
「ま、残念ながら君には関係ない事だ」
この世界の混乱に乗じて楽して儲けようと思った浅ましさが、この男達の身を滅ぼした。
馬車の中から男は消える。豚もだ。
雨の音だけがザーザーと響き続けた。残ったのは家のソファにでも座るように堂々としているそいつと、それを啞然と眺める少女だけだった。
「それじゃあ俺は行くから」
そう言って急にそいつは立ち上がり、それと同時に少女を拘束するものが全て消える。
「俺の事は忘れるといい」「ただ実験をしにきただけだ」
そう言って雨の中にその身を曝そうとした時に、右の袖を掴まれる。
そいつは振り返り、不安そうになりながらも確固たる意志を持つ少女の姿を見た。
「連れて、行って。」
「――なるほど」
その言葉は想定外だったようで、そいつは思い悩むような仕草をする。
「ま、いいか」「ついてこいよ」「俺は主人公じゃないけど、こういうのも面白い」
土砂降りの大雨の中、それを意にも介さずそいつは外に出た。
少女は出るのを躊躇うが、遠くなっていくそいつの背を見ていると、本能的にそいつの背を追って外に出た。
――数日後、その馬車は発見された。
人の姿は周辺になく、犯人は終ぞ見つかることもなかった。その事件は一時は話題になるが、時間の経過で風化していった。
今や殆どの人の記憶に残らない、数ある事件の一つとして穏やかに消えていったのだ。
また、それとは全く関係ない話ではあるが、近辺の村落に言語を話すゴブリンが三匹現れたらしい。
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