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第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜
32.天への決戦
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数年、それこそシルード大陸にいた頃から積み重ねてきた経験が、俺の体を考えるより先に動かした。
「『終焉の刃』」
炎は俺へと伸びる鎖へと真正面からぶつかる。
高い金属同士がぶつかったような音が耳が潰れるように響いて、なんとか俺の炎はカリティの初撃を防ぎきった。
しかし初撃で攻撃が止まるなんて絶対にない。当然ながら次の一撃が来る。
「『雛鳥』」
俺の体はいくつもの小さな炎の鳥となって、狭い部屋の中を飛び回る。
いくつかの鳥は鎖によって壊され、火の粉となって散るが、基本的に相手の近くに配置しているのは壊れてもいいダミーだけ。俺へのダメージはない。
「相変わらずお前は鬱陶しいな!」
苛立った声でカリティは乱暴に鎖を振り回す。壁に鎖がぶつかり、抉れるが構う様子はない。
「俺はこんなにもお前に気を遣って、わざわざ戦いのステージに立たせてやってるのに、こんな無駄に足掻くなんて恥ずかしくないの?」
そしてぐちぐちと文句を垂れ始めた。話している間も雑に鎖が振られ続け、この攻撃が片手間である事を理解する。
常人であればそのまま致命傷になりかねない速度と鋭利さを併せ持つそれは、もはや拘束具としての役割を果たしていない。
「俺はいつだって生かしてやってるんだ。流石に可哀想だから、必要以上に殺す事はしてないんだよ。別に痛くもなんともないし。それなのに何度も邪魔をしてきたらさ、殺すしかないじゃないか。」
まるで虫のような扱いだ。いやきっと、こいつにとって俺は虫と大した差はないのだろう。
邪魔だったら殺す。邪魔じゃないなら面倒くさいから殺さない。
俺の攻撃は所詮、虫に刺される行為となんら変わりないのだ。それが一番にムカつく。
「『焔鳥(ほむらのとり)』」
俺は部屋を覆い尽くす程の炎の鳥となって、その嘴をカリティに向けて襲いかかる。
「ふざけるなよ、それは俺のだ。」
しかしそれを無視して、鎖はティルーナの絵に巻き付けられ、カリティの手元へ引きずられた。その炎の陰でそれを持ち去ろうとしていた俺の手は空を切った。
完全に視界は封じていたはずだ。それでもバレたという事は、それ以外の感覚器官があるのは確かである。
「人の物を盗むのは、窃盗って知らない?お前がやってることは犯罪だ。」
「誘拐犯がごちゃごちゃうるせえ!」
勢いのままに炎の鳥を無数の槍へと変えて、カリティに向けて射出する。しかし、刺さらない。
「うるさい、だって。よくも自分の事を棚に上げてそんな事を言えるね。一番うるさいのはお前だ。俺の平穏な生活にこうも邪魔してきて。」
次々と魔法を叩きつける。
体を斬り裂く風の魔法――効かない。
巨大な金属をぶつける魔法――効かない。
雷を落とす魔法――効かない。
銃弾を放つ魔法――効かない。
相手を溺れさせる魔法――効かない。
鞭のような木を叩きつける魔法――効かない。
効かない、効かない、効くはずもない。この程度が効くなら、俺達はこんなに苦労していない。
だからこそ、次の魔法。奥の手を使えばティルーナを回収して逃げれる。
「『ミ――」
――ドクン。
鼓動が鳴る。おかしい、思考がくぐもっているようだ。体が動かない、魔力が回らない。
――ドクン。
体から熱が奪われる。この感覚には覚えがある。俺の中から這い出るようなこの感覚。
――ドクン。
「捕まえた。」
俺の体は鎖で拘束される。一瞬の体の硬直が、戦いの生死を分けた。
『この程度か。まあ、お前から体を乗っ取るのには十分だね。』
ノイズ混じりに脳内で声が聞こえた。
ツクモだ。このタイミングであれば、俺の体が取れると思ったのだろう。前の戦いで拘束が弱まったから、今ここで俺の体を取りに来た。
「あーあ、やっと終わった。」
一度喰らったから知っていた。この鎖は魔力を封じたりする作用がある。普通にやって抜け出す事は不可能だ。
神の力を使えばこの鎖を壊せるかもしれないが、そうすれば確実にツクモに塩を送ってしまう。
「それじゃ、さっさと片を付けるか。今度はちゃんと、息の根を止めとかないとね。」
俺が死んでも最悪だが、ツクモに乗っ取られても同じくらい最悪だ。
どうする、どうすればいい。考えろ、思考を止めるな。何か策があるはずだ。
「さようなら、中々にしぶとい虫だったね。」
何か策が――
「ああ、ほんと!だからやめとけって言ったんだよ!」
カリティに、ヘルメスが斬りかかった。
手に持っているのは奇妙な形の剣で、鎌のように大きく湾曲した両刃のものだった。
「何だ、お前。」
カリティの意識がヘルメスに向いた瞬間に、短距離転移で俺は鎖から解き放たれる。
「アルス、こいつを外に出せ!」
「おうよ、助かった!」
人器シリーズ96『無題の魔法書』。その効果の一つは魔法の保存であり、巨神炎剣も保存された魔法の一つである。
だがしかし、保存された魔法は、親父が俺に託した魔法は一つなんかじゃない。
「越位魔法」
巨神炎剣は魔法攻撃の極地、それに対してこれは魔法というより物理的な側面を強めた魔法だ。
雷が俺の手に集う。北欧神話最強とも謳われる雷神が持ったとされる不壊にして、古ノルド語で「打ち砕くもの」を意味するウォーハンマー。
「『雷皇戦鎚』」
赤を基調とした柄の短い、荒ぶる雷と炎をまとう金槌。
巨神炎剣(レーヴァテイン)との最大の違いは、しっかりとした実体を持つこと。
「『雷皇の一撃』」
ダメージはなくとも、カリティがそこに肉体を持っている以上、地面ごと吹き飛ばせる。
俺の戦鎚はカリティの体を捉え、壁を貫き、屋敷の外にピンボールのように弾け飛んだ。
「カラディラ!」
「気安く呼ばないで!」
青き翼と尾を生やした女が、上空から隕石のように降り立ち、吹き飛ぶカリティの顔を掴んで地面へと叩きつける。
「ここで決着をつけるぞ、アルス。」
決戦の火蓋は大きな音を立てて落とされた。
「『終焉の刃』」
炎は俺へと伸びる鎖へと真正面からぶつかる。
高い金属同士がぶつかったような音が耳が潰れるように響いて、なんとか俺の炎はカリティの初撃を防ぎきった。
しかし初撃で攻撃が止まるなんて絶対にない。当然ながら次の一撃が来る。
「『雛鳥』」
俺の体はいくつもの小さな炎の鳥となって、狭い部屋の中を飛び回る。
いくつかの鳥は鎖によって壊され、火の粉となって散るが、基本的に相手の近くに配置しているのは壊れてもいいダミーだけ。俺へのダメージはない。
「相変わらずお前は鬱陶しいな!」
苛立った声でカリティは乱暴に鎖を振り回す。壁に鎖がぶつかり、抉れるが構う様子はない。
「俺はこんなにもお前に気を遣って、わざわざ戦いのステージに立たせてやってるのに、こんな無駄に足掻くなんて恥ずかしくないの?」
そしてぐちぐちと文句を垂れ始めた。話している間も雑に鎖が振られ続け、この攻撃が片手間である事を理解する。
常人であればそのまま致命傷になりかねない速度と鋭利さを併せ持つそれは、もはや拘束具としての役割を果たしていない。
「俺はいつだって生かしてやってるんだ。流石に可哀想だから、必要以上に殺す事はしてないんだよ。別に痛くもなんともないし。それなのに何度も邪魔をしてきたらさ、殺すしかないじゃないか。」
まるで虫のような扱いだ。いやきっと、こいつにとって俺は虫と大した差はないのだろう。
邪魔だったら殺す。邪魔じゃないなら面倒くさいから殺さない。
俺の攻撃は所詮、虫に刺される行為となんら変わりないのだ。それが一番にムカつく。
「『焔鳥(ほむらのとり)』」
俺は部屋を覆い尽くす程の炎の鳥となって、その嘴をカリティに向けて襲いかかる。
「ふざけるなよ、それは俺のだ。」
しかしそれを無視して、鎖はティルーナの絵に巻き付けられ、カリティの手元へ引きずられた。その炎の陰でそれを持ち去ろうとしていた俺の手は空を切った。
完全に視界は封じていたはずだ。それでもバレたという事は、それ以外の感覚器官があるのは確かである。
「人の物を盗むのは、窃盗って知らない?お前がやってることは犯罪だ。」
「誘拐犯がごちゃごちゃうるせえ!」
勢いのままに炎の鳥を無数の槍へと変えて、カリティに向けて射出する。しかし、刺さらない。
「うるさい、だって。よくも自分の事を棚に上げてそんな事を言えるね。一番うるさいのはお前だ。俺の平穏な生活にこうも邪魔してきて。」
次々と魔法を叩きつける。
体を斬り裂く風の魔法――効かない。
巨大な金属をぶつける魔法――効かない。
雷を落とす魔法――効かない。
銃弾を放つ魔法――効かない。
相手を溺れさせる魔法――効かない。
鞭のような木を叩きつける魔法――効かない。
効かない、効かない、効くはずもない。この程度が効くなら、俺達はこんなに苦労していない。
だからこそ、次の魔法。奥の手を使えばティルーナを回収して逃げれる。
「『ミ――」
――ドクン。
鼓動が鳴る。おかしい、思考がくぐもっているようだ。体が動かない、魔力が回らない。
――ドクン。
体から熱が奪われる。この感覚には覚えがある。俺の中から這い出るようなこの感覚。
――ドクン。
「捕まえた。」
俺の体は鎖で拘束される。一瞬の体の硬直が、戦いの生死を分けた。
『この程度か。まあ、お前から体を乗っ取るのには十分だね。』
ノイズ混じりに脳内で声が聞こえた。
ツクモだ。このタイミングであれば、俺の体が取れると思ったのだろう。前の戦いで拘束が弱まったから、今ここで俺の体を取りに来た。
「あーあ、やっと終わった。」
一度喰らったから知っていた。この鎖は魔力を封じたりする作用がある。普通にやって抜け出す事は不可能だ。
神の力を使えばこの鎖を壊せるかもしれないが、そうすれば確実にツクモに塩を送ってしまう。
「それじゃ、さっさと片を付けるか。今度はちゃんと、息の根を止めとかないとね。」
俺が死んでも最悪だが、ツクモに乗っ取られても同じくらい最悪だ。
どうする、どうすればいい。考えろ、思考を止めるな。何か策があるはずだ。
「さようなら、中々にしぶとい虫だったね。」
何か策が――
「ああ、ほんと!だからやめとけって言ったんだよ!」
カリティに、ヘルメスが斬りかかった。
手に持っているのは奇妙な形の剣で、鎌のように大きく湾曲した両刃のものだった。
「何だ、お前。」
カリティの意識がヘルメスに向いた瞬間に、短距離転移で俺は鎖から解き放たれる。
「アルス、こいつを外に出せ!」
「おうよ、助かった!」
人器シリーズ96『無題の魔法書』。その効果の一つは魔法の保存であり、巨神炎剣も保存された魔法の一つである。
だがしかし、保存された魔法は、親父が俺に託した魔法は一つなんかじゃない。
「越位魔法」
巨神炎剣は魔法攻撃の極地、それに対してこれは魔法というより物理的な側面を強めた魔法だ。
雷が俺の手に集う。北欧神話最強とも謳われる雷神が持ったとされる不壊にして、古ノルド語で「打ち砕くもの」を意味するウォーハンマー。
「『雷皇戦鎚』」
赤を基調とした柄の短い、荒ぶる雷と炎をまとう金槌。
巨神炎剣(レーヴァテイン)との最大の違いは、しっかりとした実体を持つこと。
「『雷皇の一撃』」
ダメージはなくとも、カリティがそこに肉体を持っている以上、地面ごと吹き飛ばせる。
俺の戦鎚はカリティの体を捉え、壁を貫き、屋敷の外にピンボールのように弾け飛んだ。
「カラディラ!」
「気安く呼ばないで!」
青き翼と尾を生やした女が、上空から隕石のように降り立ち、吹き飛ぶカリティの顔を掴んで地面へと叩きつける。
「ここで決着をつけるぞ、アルス。」
決戦の火蓋は大きな音を立てて落とされた。
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