幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜

14.皇帝への謁見

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 想像以上に厄介だった。皇帝の頭の回転の速さまでは想定内であったが、人の真偽を見抜ける予言師みたいなものがいるとは思わなかった。
 この世で嘘を見抜けるのは精霊や悪魔だけだ。もしくは、それと同程度に至るまで魔力に親しんだ魔法使い。だが後者は魔法を使えない鬼人族のそれとは当てはまらない。
 つまり恐らくは、あの鬼人は精霊使いなのだろう。肝心な精霊は見えないけども。

「……どうした、話さんかい。」

 俺に皇帝は話すように促す。だが嘘がバレるという仮定の下であるとどうしても口が開けない。まさか数の少ない精霊使いと出くわすなんて思っていなかったから、更にだ。

「初めまして、皇帝陛下。俺は賢神の一人であるアルス・ウァクラート、こっちは高名な冒険者のヘルメスだ。」
「それがどうした。お前らの名前や肩書きなんてどうでもええねん。」
「いいや、それが最も重要なんだ皇帝陛下。俺達は共に依頼に対しての守秘義務が存在している。どれもプライバシーを守るためで、俺達からその話が聞きたいなら賢神魔導会か冒険者組合から許可を貰ってからじゃないと話せない。」

 皇帝陛下は隣に立つ精霊使いをチラリと見るが、精霊使いは首を横に振る。

「嘘はついてないようやな。しかし皇帝の命令に逆らう意味を理解して、それを言っとるんやろうな。」
「そっちこそ冒険者を敵に回す覚悟があるのか?」
「末端の冒険者如きにギルドは動かんわ。」

 確かに末端の冒険者であればそうだろう。そこら辺の冒険者の為に国家と争うほど、ギルドは馬鹿じゃない。
 だが、ヘルメスに関しては話が大きく違う。

「ヘルメスがオリュンポスに所属していると知っても、同じことが言えるか。」
「……なんやて?」
「もう一度言うぞ。話させたいなら、ギルドか魔導会を通せ。国家とも称されるオリュンポスと全面戦争でもしたいのか?」

 ここで黙秘を使ったのには2つ理由がある。
 一つ目は竜神様と皇帝陛下の関係性が分からない状況下で、地雷を踏むような事は避けたかったから。二つ目はヘルメスが行った行動に正当性があると主張して、大義をこちら側につける為である。
 王には体裁が必要である。正義なき王に付き従う民はおらず、民がいない王は王と呼ばない。だからこそ、こう言われれば引くしかないはず。

「本当に魔法使いってのは傲慢やなあ。全人類と自分が対等やと思ってる。俺にこんな風な脅しをかけて来た奴は初めてや。」

 皇帝は右手を上げ、それに合わせて騎士が槍を構えて俺達を取り囲む。

「いや、前にもおったな。その時も同じように処理したんやったわ。」

 俺は魔力を練り込む。いつでも魔法を打てる準備をしながら、皇帝を睨みつけた。
 ここまでやっておいて、冗談でしたで済むはずがない。依頼内容を聞かずしてこんなことをするのだから、こいつは相当に竜へ恨みがあるに違いない。

「……なるほどね、竜神様は完全に君にとっては敵らしい。」

 今まで口を噤んでいヘルメスが口を開く。

「俺かて殺す気はなかったわ。やけど不安の芽は摘んでおくのが、俺のやり方や。今更に竜神の使いが活躍されたら困るねん。」
「困る?」
「お前らを正規兵殺害の容疑で拘束をする。裁判は三月後に行い、無罪判決やったら慰謝料でも何でも払おうやないか。」

 裁判はまず勝てないと考えてよい。皇帝の証言を覆せるほどの証拠など、俺達が持ち合わせるはずもない。
 最悪な展開になった。カリティを倒さなくちゃならないのに、こんな所で足止めを喰らうわけにはいかない。

「どっちにせよ、三か月はこの王城にいてもらうで。裁判に前に逃げられる可能性は排除しときたいもんやろ。」
「これがバレたら、大変な事になるんじゃないかい?」
「ありもしない想定をするのは皇帝の仕事ちゃうわ。現実を見るのが皇帝の仕事や。」

 一介の賢神と一国の皇帝のどちらを信じるなど火を見るより明らか。完全にもみ消すなど国家の力をかければそう難しい話ではない。
 しかも一応は正式な手続きを踏もうとしているのがたちが悪い。
 どちらにせよ、あまりにも足止めを食う。避けたくとも、ここで暴れまわって抵抗をすれば俺は国際指名手配を喰らっても仕方ない。裁判でアースからの協力を待つのが現実的な手段になる。

「そいつらを部屋に戻せ。結託できんように全員で部屋を分けて、一人ずつ見張りをつけろ。」

 冷や汗がつたうのを確かに感じ取った。
 ヤバいと思っても、これをどうこうする手段も力も俺にはない。更にこの悪評は冠位へと悪影響になるはずだ。俺の夢が、遠のいてしまう。
 必死に策略を巡らすが、俺の頭では打開する策など一切ない。いっそのこと依頼内容を打ち明けたほうが良かったのだろうか。どれが正しかったのかなどと考えても後の祭りである。

「待て。まだ話は終わってないよ、皇帝陛下。」

 この状況下であっても、大きくヘルメスが声を張り上げる。一つの槍がヘルメスの喉元まで伸びるが、ヘルメスは構わず話し続ける。

「この国においては、竜神様と皇帝陛下の権利は一緒のはずだ。違うかい?」
「……それが?」
「僕は竜神様から直々の命を受けて活動している。つまり国家元首の片方に、表立って敵対したことになる。」
「それはお前らが伝えたら、やろ。生憎と数年は会うことはないわ。」

 ヘルメスは笑った。胡散臭く、底が見えず、そして策を打ち終えた後の笑みだ。

「竜神様は全てを知るが、非常時を除きタダで知識を与えることは決してしない。確かに僕たちが捕らえられたところで、それを竜神様から竜族に伝えることなんてできはしないさ。」

 声が、聞こえた。竜の嘶きだ。甲高く響く、大気を震わせ、魔力を乱し、そこに己が存在を証明する声だ。
 この世の全ての種族における最強種、あらゆる魔物、人類、悪魔すらも生まれながらにして超越した存在。

「僕は心配性でね。こうなっても何とかなるように、事前に協力は願い出ていた。」

 思い出すのはヘルメスが竜神様に出した条件、竜族の全面協力。思い起こせば、どんな風に協力するのかを俺は知らなかった。
 それも全て、抜かりなくヘルメスが準備をしていたのだ。

「契約に従い、参上したわ。」

 天井をぶち破れ、土埃と共に一人の女性が舞い落ちる。ある兵士たちは動揺し、ある兵士は皇帝を守ろうと動く。
 それを事前に予期していたのは、この場においてはヘルメスのみである。

「竜神様の名代、族長の娘カラディラ……鬼人如きが、竜の客に何をしているのかしら?」

 傲慢不遜に見えるその言い方も、竜であるからこそ許される。いや、納得せざるを得ない。生物としての格が違うのだから。

「僕たちは迷惑をかけるつもりはない。見逃してくれないかい?」
「……しょうがないなあ。ええわ、ただ見張りはつけさせてもらう。それでこの場は解決といこうやないか。」
「ありがとう、それじゃあ戻るよ。」

 ヘルメスは向けられる槍を掴み、押しのけて入口の扉へと足を進める。
 カラディラは今一状況が掴めていないようで、俺の方へと説明を求めるように首を傾げてみせた。ただ説明をするには俺も状況が分かっていない。

「え、もう終わり?」
「お疲れ、よく分からないけどもう帰っても大丈夫みたいだぞ。」
「こんなにかっこよく登場したのに!?」

 取り敢えずは、乗り切れたらしい。何事もなくという風ではないけど、あの状況からここまで引っ張ってこれたのだから十分だろう。
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