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第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜
12.カリティへの対策
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取り敢えず、俺の中の神のことは忘れておくことにした。今すぐどうにかなるわけじゃなさそうだし、それよりもカリティの事が問題だった。
その名前を忘れられるはずがない。たった一度しか名乗られずとも、俺はその名前を憎むようにして今まで修行をしてきたのだ。
勝つために努力はしてきたし、あの時とは比べ物にならないぐらい強くなった。しかし未だに勝てると言われれば、それに頷くことはできないのが悔しいところではある。
「……なるほど、また厄介な依頼を受けましたね、ヘルメス。」
「大体アルスのせいだと思うけどね。いつも災禍の中心にはアルスがいる。」
デメテルさんの言葉にヘルメスはそう答えた。少し不服だが、最近は本当に否定できなくなってきたので黙っておく。
フランがヒカリに稽古をつけている途中に、それ以外の人は集まっていた。奇しくもあの時の当事者がケラケルウス以外全員いる。
竜神様が作為したことであると疑う俺はおかしくあるまい。
「前見たときのが、変装の魔道具とかを使ってない限り、容姿としては平凡だ。見た目から捜索をするのはまず不可能だし、魔眼は何故か弾ける上に魔力も一般人レベル。こっちから探すのはほぼ不可能だろうね。」
ヘルメスの言ったことに付け加えるのならば、移動能力を有しているという点だ。それはダンジョンの中から、一切の痕跡もなく消えたという事からも違いあるまい。
これが余計に追跡を困難としている。人探し専門の魔法使いか、そういうスキル所持者を探す必要が出てくる。
まあ、追跡がバレたら殺される仕事なんて誰もやりはしない。そういうのを望んでやるのは、俺ぐらいのものである。
「それで、できれば協力を願いたいんだけど、どうだろうか?」
本題をヘルメスはそうやって切り出した。
できれば戦力が欲しいのは確かであるが、流石に無理強いはできない。戦うとするのなら、それは間違いなく殺し合いになる。殺されるかもしれないのだ。
確たる、命を賭す覚悟が必要である。俺もヘルメスも、死んでもおかしくないような相手であるのだ。
「私はクランの方針の都合上、断る事はしません。名も無き組織は積極的に撃退しろ、という風に言われています。」
「まあ、デメテルはそうだうね。アラヴティナ嬢……ああいや、もう違うんだったか。ティルーナちゃんはどうだい?」
そうヘルメスが尋ねたが、ティルーナの性格からして答えは決まっていた。
「私も手伝います。仲間が戦っているのを横で見ているだけなんてできません。」
となれば、参加者はフランも入れれば五人。五対一というのは一見有利に感じるが、一の方が戦車だと考えれば心もとない。
増援が欲しいところではあるが、生憎と俺に頼り先はない。
となれば、と俺はヘルメスの方へと視線を向けた。国家とも称されるクランからであれば、誰が来ても戦力になる。
「アルスが思わん事も想像できるんだけどね……うちのクランは放任主義で、グランハウスに掲示版があるぐらいで連絡を取る手段がないんだ。何故かクランマスターは皆の場所が分かるらしいけど。」
ヘルメスの言葉に俺は肩を落とす。
ヘルメスやデメテルさんは確かに強いが、どちらも専攻するのは戦闘ではない。それこそ『放浪の王』ゼウスがいればこんな事に悩む必要などない。
「……取り敢えず、カリティの能力を整理するか。」
無い物ねだりをしても仕方がないし、そうやって俺は話を切り出した。
「一つ目が鎖。異様な硬度がある上に複数展開できるが、少なくとも前会った時は大して速くなかった。今の俺なら逃げ切れる。だけど当たれば致命傷を負う可能性は高い。」
同時展開をされれば避け切るのが難しいが、だからと言って受ければ体を貫かれる。速度が遅いというデメリットを帳消しにする程の能力だ。
その特性上、多対一をこなしやすいのも厄介な点の一つである。
「二つ目が防御能力。第十階位魔法で可能性があるか否か、みたいなところだ。正直言ってこれが一番に強い。これに比べれば他の能力はおまけだ。」
ただ、これに関しては期待している部分がある。フランの技の一つ、『絶剣』であれば傷を入れられる可能性もなくはない。
何よりこんな理不尽な能力に弱点がないとは考えられない。何かしら隙があると考えるのが妥当である。
「三つ目が召喚能力。前の時は魔物のドラゴンを召喚してきた。危険度8程度まではいきなり出てくる可能性が高い。」
例え魔物自体が脅威でなくとも、魔物を倒しながらカリティを相手取るのは難しい。できれば使わせる隙を与えないのが理想だ。
「最後が移動能力。短距離転移から長距離転移まで、スキルを用いて行ってくる。追い詰めても逃げられる可能性があるから、注意の必要がある。」
正直、一つ持ってるだけでも強い。それを四つ並べてくるからカリティはあの性格で、名も無き組織の幹部にいられるのだろう。
それでもトップに立てないのだから、名も無き組織が如何に恐ろしいかというものである。
「更に言えばまだ隠し札がある可能性は大いにある。魔道具でも何でもいいから、一つずつ対応策を講じていこう。理想は誰も被害を出さずに完封して勝利する事だ。」
幸いにも手札の数で言うなら広いヘルメスと、世界最高位の癒し手であるデメテルさんがいるのだ。取れる戦略の幅は広げやすい。
最悪、無理矢理回復魔法を使っての特攻だって視野に入る。無茶な回復魔法は魂を削るが、時間をかければ治る。この場であいつを倒しておく方が重要であった。
アルス達がカリティに対する策を練っている最中である。竜の里では竜の魔力のせいか竜神のせいか大気に満ちる魔力が大きく、人の魔力の検知が少し難しい。
だから気付かなかった。その会話を隠れて聞いていた二人の事を。
「……俺は、嘘は好まん。だから言う。俺は確かにヒカリに聞かせないようにしてくれと頼まれた。だが、やるとは言っていない。だから案内した。」
フランはヒカリへとそう言った。フランは実直で相手の考えを慮るのには長けない。だが、武人としての心意気はあった。誇りがあった。
だからこそ、剣の初学者であるヒカリ相手であっても、その誇りを欠く真似はできなかった。
「先輩は、私を巻き込みたくないんですかね。」
「だろうな。この中で一番弱いのはお前だ。昔からアルスは、弱きを助け強きを挫く男だった。お前を不安にさせたくはなかったのだろう。」
フランは無遠慮に、ヒカリに弱いという一言を突きつける。それはヒカリの、アルスへの重枷となっているのではないかという不安感を加速させた。
しかしそんな表情をフランは読み取る事はできない。誠実に、本心をぶつける事しかフランにはできなかった。
「これを伝えるのはお前に、心の準備をして欲しかったからだ。」
「心の準備、ですか?」
「いざという時は、その剣で自分の命を守るという覚悟だ。」
ゾクリと、背筋に嫌なものがヒカリに走った。今までになかった気迫が、剣士としての命をかけた覚悟がヒカリにぶつかった。
「いざという時、俺がお前を助けられるとは限らない。だからこそ、お前に教える剣はそれだ。覚悟をしておけ。」
ああ、きっとそれだけでも苦難の道のりだろう。素人がカリティを相手に命を守れるようになる程の剣を、短期間で身につけようとするのだ。
「――いえ、違います。」
例えそれが無茶だとしても、ヒカリは悩まない。それは自分を守り育ててくれた親へ、顔見せできるような自分になれなければ、それは生きている価値などヒカリにはなかった。
「勝つ為の剣を、私に教えてください。」
これは、分水嶺であった。
その名前を忘れられるはずがない。たった一度しか名乗られずとも、俺はその名前を憎むようにして今まで修行をしてきたのだ。
勝つために努力はしてきたし、あの時とは比べ物にならないぐらい強くなった。しかし未だに勝てると言われれば、それに頷くことはできないのが悔しいところではある。
「……なるほど、また厄介な依頼を受けましたね、ヘルメス。」
「大体アルスのせいだと思うけどね。いつも災禍の中心にはアルスがいる。」
デメテルさんの言葉にヘルメスはそう答えた。少し不服だが、最近は本当に否定できなくなってきたので黙っておく。
フランがヒカリに稽古をつけている途中に、それ以外の人は集まっていた。奇しくもあの時の当事者がケラケルウス以外全員いる。
竜神様が作為したことであると疑う俺はおかしくあるまい。
「前見たときのが、変装の魔道具とかを使ってない限り、容姿としては平凡だ。見た目から捜索をするのはまず不可能だし、魔眼は何故か弾ける上に魔力も一般人レベル。こっちから探すのはほぼ不可能だろうね。」
ヘルメスの言ったことに付け加えるのならば、移動能力を有しているという点だ。それはダンジョンの中から、一切の痕跡もなく消えたという事からも違いあるまい。
これが余計に追跡を困難としている。人探し専門の魔法使いか、そういうスキル所持者を探す必要が出てくる。
まあ、追跡がバレたら殺される仕事なんて誰もやりはしない。そういうのを望んでやるのは、俺ぐらいのものである。
「それで、できれば協力を願いたいんだけど、どうだろうか?」
本題をヘルメスはそうやって切り出した。
できれば戦力が欲しいのは確かであるが、流石に無理強いはできない。戦うとするのなら、それは間違いなく殺し合いになる。殺されるかもしれないのだ。
確たる、命を賭す覚悟が必要である。俺もヘルメスも、死んでもおかしくないような相手であるのだ。
「私はクランの方針の都合上、断る事はしません。名も無き組織は積極的に撃退しろ、という風に言われています。」
「まあ、デメテルはそうだうね。アラヴティナ嬢……ああいや、もう違うんだったか。ティルーナちゃんはどうだい?」
そうヘルメスが尋ねたが、ティルーナの性格からして答えは決まっていた。
「私も手伝います。仲間が戦っているのを横で見ているだけなんてできません。」
となれば、参加者はフランも入れれば五人。五対一というのは一見有利に感じるが、一の方が戦車だと考えれば心もとない。
増援が欲しいところではあるが、生憎と俺に頼り先はない。
となれば、と俺はヘルメスの方へと視線を向けた。国家とも称されるクランからであれば、誰が来ても戦力になる。
「アルスが思わん事も想像できるんだけどね……うちのクランは放任主義で、グランハウスに掲示版があるぐらいで連絡を取る手段がないんだ。何故かクランマスターは皆の場所が分かるらしいけど。」
ヘルメスの言葉に俺は肩を落とす。
ヘルメスやデメテルさんは確かに強いが、どちらも専攻するのは戦闘ではない。それこそ『放浪の王』ゼウスがいればこんな事に悩む必要などない。
「……取り敢えず、カリティの能力を整理するか。」
無い物ねだりをしても仕方がないし、そうやって俺は話を切り出した。
「一つ目が鎖。異様な硬度がある上に複数展開できるが、少なくとも前会った時は大して速くなかった。今の俺なら逃げ切れる。だけど当たれば致命傷を負う可能性は高い。」
同時展開をされれば避け切るのが難しいが、だからと言って受ければ体を貫かれる。速度が遅いというデメリットを帳消しにする程の能力だ。
その特性上、多対一をこなしやすいのも厄介な点の一つである。
「二つ目が防御能力。第十階位魔法で可能性があるか否か、みたいなところだ。正直言ってこれが一番に強い。これに比べれば他の能力はおまけだ。」
ただ、これに関しては期待している部分がある。フランの技の一つ、『絶剣』であれば傷を入れられる可能性もなくはない。
何よりこんな理不尽な能力に弱点がないとは考えられない。何かしら隙があると考えるのが妥当である。
「三つ目が召喚能力。前の時は魔物のドラゴンを召喚してきた。危険度8程度まではいきなり出てくる可能性が高い。」
例え魔物自体が脅威でなくとも、魔物を倒しながらカリティを相手取るのは難しい。できれば使わせる隙を与えないのが理想だ。
「最後が移動能力。短距離転移から長距離転移まで、スキルを用いて行ってくる。追い詰めても逃げられる可能性があるから、注意の必要がある。」
正直、一つ持ってるだけでも強い。それを四つ並べてくるからカリティはあの性格で、名も無き組織の幹部にいられるのだろう。
それでもトップに立てないのだから、名も無き組織が如何に恐ろしいかというものである。
「更に言えばまだ隠し札がある可能性は大いにある。魔道具でも何でもいいから、一つずつ対応策を講じていこう。理想は誰も被害を出さずに完封して勝利する事だ。」
幸いにも手札の数で言うなら広いヘルメスと、世界最高位の癒し手であるデメテルさんがいるのだ。取れる戦略の幅は広げやすい。
最悪、無理矢理回復魔法を使っての特攻だって視野に入る。無茶な回復魔法は魂を削るが、時間をかければ治る。この場であいつを倒しておく方が重要であった。
アルス達がカリティに対する策を練っている最中である。竜の里では竜の魔力のせいか竜神のせいか大気に満ちる魔力が大きく、人の魔力の検知が少し難しい。
だから気付かなかった。その会話を隠れて聞いていた二人の事を。
「……俺は、嘘は好まん。だから言う。俺は確かにヒカリに聞かせないようにしてくれと頼まれた。だが、やるとは言っていない。だから案内した。」
フランはヒカリへとそう言った。フランは実直で相手の考えを慮るのには長けない。だが、武人としての心意気はあった。誇りがあった。
だからこそ、剣の初学者であるヒカリ相手であっても、その誇りを欠く真似はできなかった。
「先輩は、私を巻き込みたくないんですかね。」
「だろうな。この中で一番弱いのはお前だ。昔からアルスは、弱きを助け強きを挫く男だった。お前を不安にさせたくはなかったのだろう。」
フランは無遠慮に、ヒカリに弱いという一言を突きつける。それはヒカリの、アルスへの重枷となっているのではないかという不安感を加速させた。
しかしそんな表情をフランは読み取る事はできない。誠実に、本心をぶつける事しかフランにはできなかった。
「これを伝えるのはお前に、心の準備をして欲しかったからだ。」
「心の準備、ですか?」
「いざという時は、その剣で自分の命を守るという覚悟だ。」
ゾクリと、背筋に嫌なものがヒカリに走った。今までになかった気迫が、剣士としての命をかけた覚悟がヒカリにぶつかった。
「いざという時、俺がお前を助けられるとは限らない。だからこそ、お前に教える剣はそれだ。覚悟をしておけ。」
ああ、きっとそれだけでも苦難の道のりだろう。素人がカリティを相手に命を守れるようになる程の剣を、短期間で身につけようとするのだ。
「――いえ、違います。」
例えそれが無茶だとしても、ヒカリは悩まない。それは自分を守り育ててくれた親へ、顔見せできるような自分になれなければ、それは生きている価値などヒカリにはなかった。
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