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第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜
6.登山は続く
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俺は木によって体の動きを封じられている鬼人の一人へと足を進める。
「流石に、弱過ぎないか。正直言って、半分潰せればマシな方かと思っていたんだが。」
煽りでも何でもなく、俺はそう言った。この程度の戦力ではフラン一人にだって勝てはしない。
それに魔法に対する反応も遅過ぎる。地面からの干渉なのだから、木の上に上れば避けれる事は分かるだろうに。
「アルス、それは違う。鬼人は魔法使いがいないからこそ、近接戦闘を得意としても魔法使いを相手には弱いのだ。特にアルスの魔法は特殊であるから。」
ああ、なるほど。フランの言うことも確かだ。訓練内容にそもそも魔法使い戦を想定したものがないのか。
確かにそれは致命的である。俺だって戦士と魔法使いの戦い方は違う。間合いの取り方、攻撃のやり方、防ぎ方。何より体で慣れていなくては、回避は不可能に近い。
「ねえ、君。君は皇国の兵士って事でいいのかい?」
「……お前らに話すような事などない。」
「いや、その返事だけで十分だ。どうやら中々に自分の仕事に誇りがあるらしい。恐らくは兵士であるというのに間違いはないだろう。」
ヘルメスはそう断言する。
舌戦においてヘルメスに勝つのは難しい。相手を苛立たせ、動揺を誘い、情報を引き出す。生真面目な奴程よく刺さる。
「更に言うなれば仮面で顔を隠しているし、きっと暗部的な組織だろう。だけどその中でも末端、上の判断も聞かずに暴走したって感じかな。」
「……」
「おや、どうやら図星らしい。こんなにも予想が当たったのは久しぶりだね。」
いつもは取り敢えず予想を言ってみて、外れたら笑ってごまかすのがヘルメスのやり方だ。その人を苛立たせる話し方は、口を割らせるのに長けている。
こういう所がヘルメスの長所であるが、同時に胡散臭さが溢れるところでもある。
本当にヘルメスが味方で良かった。敵にいればこれほどまでに恐ろしい奴はいない。強さ以上に、その何でもできるという万能性は厄介だ。
「こりゃあ、余計に竜神様からの依頼が気になってきたね。」
言われてみればそうだ。ヘルメスの予想は、あいつらが言っていた竜神の力を削げれば手柄になるという前提からのものだ。
それはつまり、鬼人と竜神が敵対関係にあることに他ならない。
竜神がどんな存在であるかも俺は知らないが、全く関係のないって事はないだろう。
「取り敢えず、こいつらはここに置いて、少し離れた位置で野営をするとしよう。」
「なっ! 我らをこのままここに置いていくつもりか!」
「本当に魔法について全然知らないんだね。魔石も組み込んでない魔法なんて、数時間もてばいい方さ。その後に僕らを追いかけるかどうかは勝手だけど……まあ、おすすめしないな。」
ヘルメスがそうやって付け加えた後に、俺達は荷物をまとめて山の中を歩いて行った。
それから、数時間は後の事である。既に野営の準備を終えて、アルス達が寝静まった頃の事であった。
「デメテル様、寝ないのですか?」
「見覚えがある魔力が、見えたものでして。いえ、気のせいかもしれませんが、もしかしたら会えるやもしれませんね。」
「誰にですか?」
「それは自分で考えるものです。あまり人の思考に頼り過ぎてはいけません。」
二人の女性が、月光の下に話していた。
一人は先程名前が出た通り、『聖人』デメテル。当代において最高の癒し手の称号を持つ女性。もう一人は赤い髪で片目を僅かに隠す少女、ティルーナ。貴族の位を捨てた以上、ただのティルーナであった。
「……こんな所で、人に会えるとは思いませんが。」
「おや、どうしてです。私たちのようなか弱い女が来れているのですから、その気になれば誰だって来れますよ。」
「その気になる人なんていませんよ。それに、私たちは招かれた人じゃないですか。」
辺りは静かだ。だが、それは何もいないのと同義ではない。地面に転がる巨岩と見間違うような数々の生物、そして微かにある文明の跡。
「この、竜神山に。」
辺りに寝転がるは本物の竜。地上最大級の動物である象をしのぎ、それを遥かに上回る存在だってある。
文明の跡とは言うが、それは人の文明とはサイズからして異なり、竜の為の建造物らしきものがある手度であった。
「一体、誰が来れると言うんですか。」
「……そうですね。確かにそれができるのは、うちのクランでさえ数人でしょう。ですが最近のこの国の動向はおかしい。仮にも竜を統べる神であるのなら、何か手を打っていても、おかしくはありませんよ。」
「失礼かもしれませんが、そういう事をする方のように思えませんでしたが。」
「可能性の話ですよ。それに本当に来てくれた方が、少しはあなたも私も楽になれるというものです。」
ティルーナは首を傾げる。デメテルの多くを語らない癖は前からであったが、なんとなく今までは分かった。しかし、今回は欠片も理解できるものではなかったのだ。
理由を尋ねようと口を開こうとするが、先程それを咎められたばかりで直ぐに口を閉ざしてしまう。
「ディーテの言う事は、本当によく当たりますしね。」
終ぞ、その真意を問う事がティルーナはできなかったのであった。
「流石に、弱過ぎないか。正直言って、半分潰せればマシな方かと思っていたんだが。」
煽りでも何でもなく、俺はそう言った。この程度の戦力ではフラン一人にだって勝てはしない。
それに魔法に対する反応も遅過ぎる。地面からの干渉なのだから、木の上に上れば避けれる事は分かるだろうに。
「アルス、それは違う。鬼人は魔法使いがいないからこそ、近接戦闘を得意としても魔法使いを相手には弱いのだ。特にアルスの魔法は特殊であるから。」
ああ、なるほど。フランの言うことも確かだ。訓練内容にそもそも魔法使い戦を想定したものがないのか。
確かにそれは致命的である。俺だって戦士と魔法使いの戦い方は違う。間合いの取り方、攻撃のやり方、防ぎ方。何より体で慣れていなくては、回避は不可能に近い。
「ねえ、君。君は皇国の兵士って事でいいのかい?」
「……お前らに話すような事などない。」
「いや、その返事だけで十分だ。どうやら中々に自分の仕事に誇りがあるらしい。恐らくは兵士であるというのに間違いはないだろう。」
ヘルメスはそう断言する。
舌戦においてヘルメスに勝つのは難しい。相手を苛立たせ、動揺を誘い、情報を引き出す。生真面目な奴程よく刺さる。
「更に言うなれば仮面で顔を隠しているし、きっと暗部的な組織だろう。だけどその中でも末端、上の判断も聞かずに暴走したって感じかな。」
「……」
「おや、どうやら図星らしい。こんなにも予想が当たったのは久しぶりだね。」
いつもは取り敢えず予想を言ってみて、外れたら笑ってごまかすのがヘルメスのやり方だ。その人を苛立たせる話し方は、口を割らせるのに長けている。
こういう所がヘルメスの長所であるが、同時に胡散臭さが溢れるところでもある。
本当にヘルメスが味方で良かった。敵にいればこれほどまでに恐ろしい奴はいない。強さ以上に、その何でもできるという万能性は厄介だ。
「こりゃあ、余計に竜神様からの依頼が気になってきたね。」
言われてみればそうだ。ヘルメスの予想は、あいつらが言っていた竜神の力を削げれば手柄になるという前提からのものだ。
それはつまり、鬼人と竜神が敵対関係にあることに他ならない。
竜神がどんな存在であるかも俺は知らないが、全く関係のないって事はないだろう。
「取り敢えず、こいつらはここに置いて、少し離れた位置で野営をするとしよう。」
「なっ! 我らをこのままここに置いていくつもりか!」
「本当に魔法について全然知らないんだね。魔石も組み込んでない魔法なんて、数時間もてばいい方さ。その後に僕らを追いかけるかどうかは勝手だけど……まあ、おすすめしないな。」
ヘルメスがそうやって付け加えた後に、俺達は荷物をまとめて山の中を歩いて行った。
それから、数時間は後の事である。既に野営の準備を終えて、アルス達が寝静まった頃の事であった。
「デメテル様、寝ないのですか?」
「見覚えがある魔力が、見えたものでして。いえ、気のせいかもしれませんが、もしかしたら会えるやもしれませんね。」
「誰にですか?」
「それは自分で考えるものです。あまり人の思考に頼り過ぎてはいけません。」
二人の女性が、月光の下に話していた。
一人は先程名前が出た通り、『聖人』デメテル。当代において最高の癒し手の称号を持つ女性。もう一人は赤い髪で片目を僅かに隠す少女、ティルーナ。貴族の位を捨てた以上、ただのティルーナであった。
「……こんな所で、人に会えるとは思いませんが。」
「おや、どうしてです。私たちのようなか弱い女が来れているのですから、その気になれば誰だって来れますよ。」
「その気になる人なんていませんよ。それに、私たちは招かれた人じゃないですか。」
辺りは静かだ。だが、それは何もいないのと同義ではない。地面に転がる巨岩と見間違うような数々の生物、そして微かにある文明の跡。
「この、竜神山に。」
辺りに寝転がるは本物の竜。地上最大級の動物である象をしのぎ、それを遥かに上回る存在だってある。
文明の跡とは言うが、それは人の文明とはサイズからして異なり、竜の為の建造物らしきものがある手度であった。
「一体、誰が来れると言うんですか。」
「……そうですね。確かにそれができるのは、うちのクランでさえ数人でしょう。ですが最近のこの国の動向はおかしい。仮にも竜を統べる神であるのなら、何か手を打っていても、おかしくはありませんよ。」
「失礼かもしれませんが、そういう事をする方のように思えませんでしたが。」
「可能性の話ですよ。それに本当に来てくれた方が、少しはあなたも私も楽になれるというものです。」
ティルーナは首を傾げる。デメテルの多くを語らない癖は前からであったが、なんとなく今までは分かった。しかし、今回は欠片も理解できるものではなかったのだ。
理由を尋ねようと口を開こうとするが、先程それを咎められたばかりで直ぐに口を閉ざしてしまう。
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終ぞ、その真意を問う事がティルーナはできなかったのであった。
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