幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
242 / 474
第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜

1.『竜の国』

しおりを挟む
 ホルト皇国。その始まりはかつて邪神と人類との戦いにより、グレゼリオン王国以外の全ての国家が滅んだ後の事である。
 戦争が終わった後、野心ある者達が人々を集め、再び国を作ろうと決起した。そんな中に鬼人族がいて、他の国に負けない国を作るために竜神グランドィアと契約を交わしたのだ。

 竜が追われる事のない、自由に空を飛べる国を作る代わりに、この国を守ってくれと。

 その結果、ホルト皇国は竜が守り、鬼人が育む国となった。元々鬼も屈強な種族であり、それに数は少ないが絶大な力を持つ竜が加われば、少なくとも攻め込める敵などいようはずもない。
 そしてそれは逆も然り。相手に難癖をつけて、戦争を始めてしまえば必ず勝てる。そうなれば良い土地を独占し、農業や魔法も栄えるというものだ。今でこそ平和主義を謳っているが、それは既に周辺に欲しい土地がなくなったからであり、地盤を完全に固めたからに他ならない。
 竜の国とは単に竜がいるからでなく、竜のように強く恐ろしい国である事を暗に示しているのだ。

 そんな国の港町に、俺とヘルメス、そしてヒカリの三人で訪れていた。

「グレゼリオンでは、あまり見ない光景だな。」

 俺の見る先には普通の、活気ある街が広がっていた。だが、何より違うのは種族の割合である。
 グレゼリオンでも鬼人は街を歩いていたが、割合で見れば人間が一番多かった。ヴァルバーンもリクラブリアも人が治める国であったというのが大きいのだろう。
 ここは鬼と竜を元首とする国だ。鬼が生きやすいようにできている。

「人間は数だけは多いからねえ。こういう他種族主体の国はどっちかと言うと難しい。」

 ヘルメスが横からそう付け足した。
 人間の強みは適応力だ。エルフには劣るが鬼人には勝る魔力、鬼人には劣るがエルフには勝る身体能力、ドワーフには劣るが獣人には勝る手先の器用さ。悪く言えば凡夫、良く言えばその万能さが、ここまで人間を繁栄させるに至った。

「私、ちゃんとした他種族を見るのは初めてかもしれないッスね。」
「いやいやヒカリちゃん、君の隣にいるのは一応エルフの血が混ざった男だぜ。」
「そうなんスか?」
「ほとんど人間だよ。曾祖母がエルフなだけだ。」

 しかし、俺も鬼人をしっかり見るのは初めてだ。日本に伝わるような古風な鬼とは全く違う外見である。
 二本の角が生え、肌は少し赤い。だが真っ赤という程ではなく、ほんのり赤い程度だ。そして特徴的な点は着物を着ているというところだ。いわゆる和服に近く、その点は日本に似ている。
 俺達は街の通りを歩いて進むが、やはり洋服が目立つからか視線が集まっているような気がする。これは後で、和服を買っておいた方が良いのかもしれない。

「それで、目的の竜神様はどこにいるんだ?」

 先頭を歩くヘルメスに俺はそう尋ねた。

「国の中心である皇都の近くに山岳地帯があってね。そこの奥に住んでいるそうだよ。だけどまあ、急ぐものでもない。ゆっくり観光しながら行くとしよう。」
「竜神様からの依頼だとか言ってたくせに、随分と呑気だな。」
「いつまでに来いなんて言われてないからね。それに、世界の始まりからこの世界にいる竜にとって、数日なんて瞬きの間に過ぎ去るものさ。」

 ……まあ、いいか。依頼内容が何かは知らないが、その場合に責められるのはヘルメスだ。当人が良いと言っている以上、これで良いのだろう。
 それにこうやって、依頼への同行なら気も軽い。折角なのだから楽しむこととしよう。

「取り敢えずは竜の国の名物、闘技場を見に行こうじゃないか。僕も一度見たことがあるけど、中々白熱するもんだぜ。」
「それは私も見たいッスね。実際の剣の戦闘がどんなものなのか気になるッス!」

 三人の内の二人が賛成なのだから断れるものでもない。それに俺も少し興味があった。
 俺達はこの街にある闘技場の方へと歩いていく。鬼人は少し戦闘種族のきらいがあり、強いものを貴ぶという文化がある。であれば、当然ながら闘技場が栄えないはずがない。
 国の栄えた街には必ずと言っていいほど円形闘技場が設置されており、人々の娯楽の中心と言っても差し支えなかった。

「ほらほら全員入り! 今日限り入場料は取らへんよ!」

 闘技場に近付くと人の数が増え、それと同時に遠くに聞こえていた声が輪郭を持ち始める。
 どうやら今日は何か特別な日らしい。この人の数も、毎日ではないのだろう。

「何があったんスかね。」
「うーむ、僕の下調べでは今日はむしろ空いてる日のはずだったんだけどなあ。」

 ヘルメスは読みが外れてばつが悪そうな顔をしながらも、適当な人へ話しかける。

「やあ、そこの君。どうして今日はこんなにも混んでいるんだい?」
「どうしてって、お前ら旅のモンか。」

 俺達の身なりを見て、話しかけられた鬼人はそう返す。

「今日は皇国最強の剣闘士を決める戦いやから、こんなに人が集まっとるんや。チャンピオン争奪戦ってやつやな。」
「それなら、何故皇都ではなく港町でやっているんだい?」
「この街の闘技場が、皇国一デカいからや。皇都の闘技場は派手やが狭くてあかん。特に今日は、仕事休んでても来たいやつが多いからなあ。」

 だってさ、という風にヘルメスは俺達の方を見る。
 頂上決戦なら盛り上がるのも当然か。いつもは来ない人も、最強が決まるとなれば来るというものだ。
 それなら、もしかしたらフランも見に来ているかもしれない。流石にこの人混みじゃ見つけるのは難しいが、探すだけ探してみよう。

「親切にありがとう。」
「かまへんかまへん、こんなビッグイベント楽しめんかったら勿体ないわ。」

 そう言ってその鬼人も人混みの中へ消えていった。

「この国の人の発音って、少し変ッスよね。」
「同じレイシア語ではあるんだけどね。昔鬼人族が使っていた言語と混ざった結果、こんな感じになったらしいよ。」
「へえ……方言みたいなもんッスか。」

 ヘルメスが豆知識を披露している内に闘技場の入り口の方へと辿り着いた。
 入り口を抜けるとある程度の広いスペースが広がっていて、観客席へ繋がる道がいくつかと、試合のオッズがでかでかと表示されていた。

「折角だ、アルス。賭けてみないかい?」

 ヘルメスは財布を取り出して、賭け試合の券が売っている所を指差す。

「賭けは好きじゃないんだ。一人で買ってくれ。」
「なんだよつれないなあ。ヒカリちゃんはどうだい?」
「私は……」

 ヒカリは答えあぐねるようにしてこっちをチラリと見た。きっと買いたいが、俺に迷惑をかけたくない気持ちで踏み留まっているのだろう。
 俺はしょうがないと思いながらも、大銀貨数枚をヒカリへと手渡す。

「好きにやりな。俺はやらないが、こういうのも良い経験だろ。」
「……! ありがとうッス、先輩!」

 はしゃいだ状態でヒカリは売り場へと向かう。それにヘルメスと俺は続いた。
 対戦者の名前も、情報も知らない状態なのによくもあんなにはしゃげるものだ。恐らくだが初めてこういう場所に来て気分が舞い上がっているのだろう。
 俺はむしろ賭けられる側だから、買う気は起きない。後で聞いたことだが、学園での俺とエルディナの戦いには相当な金額が動いたらしい。

「片方は、聞いたことがあるね。皇国最強の剣闘士、『天下無双』のジフェニル。世界で見ても、剣士の中では上位に位置する強者だ。」
「へえ、そうかい。相手は?」
「フラン、フラン・アルクスと書いているね。見覚えがある名前だけど、誰だかは出てこないなあ。」

 ……マジで?

「ヘルメス、俺も賭けるぞ。」
「お、名前を聞いて調子が上がってきたか。いくら賭ける?」
「大金貨一枚だ。」
「……大銀貨と言い間違えてないかい?」

 ヘルメスが戸惑うのも無理はない。どれだけ賭けても普通は金貨の内に収まるものだし、金貨10枚分の価値がある大金貨を出すことなんて普通はない。
 だけど勝利の確信があるのなら話は別である。確実に勝つ方が分かるのなら、ちまちま賭ける方が馬鹿らしい。

「間違えてない。俺はフランに大金貨一枚を賭けよう。」

 これは俺の知っている最強の剣士に対する、信頼の値段だ。俺の手持ちの全てを賭ける価値がある。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...