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幕間〜それぞれの夢想を前に〜

最速の剣士

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 竜の国。それはホルト皇国の別名であり、端的にその国がどんな国であるかを表した言葉である。
 鬼人族と竜族の2種族が主に住まう地であり、竜族が正式に国家に所属するのはホルト皇国のみ。故に竜の国と呼ばれるのだ。

 だが、実際には竜は街におらず、基本的に山岳地帯に集まっている。更に言うならば、竜族の元首であるグランドィアは政に干渉しない為、竜の国とは言うが、街には鬼しかその姿を見せない。

 ならばその肝心な鬼とは、どんな種族なのか。
 端的に言うなら、エルフの逆である。つまりは魔法は殆ど使えないが、人間とは比べ物にならない身体能力があるという事だ。
 従って、武術の発展は他国より進み、武術を修めるものにとっては聖地に近い場所である。

『さて、この試合は本日のメインイベント!』

 であればその武を競う場である闘技場は、発展しない方がおかしな話である。

『迎え撃つは王者チャンピオン! 若くして王者の看板を背負う男! 『剣王』ガロウ!』

 観客が集まる大舞台に、一人の男が足を踏み出す。
 頭に生える一本の角、少し赤い肌、そして背負う両手剣を片手で振り回せるだろう筋肉、剣王の名に恥じない目の闘志。
 どれを取っても王者に相応しい存在であり、誰も異論を唱えようはずもない。

『対するは!』

 しかし、挑戦者もそれには劣らない。
 黒き英雄の髪と目、ガロウには劣るが鍛え抜かれた肉体と無骨な剣。そいつはこの大舞台でも、顔色一つ変えなかった。

『史上最年少の挑戦者チャレンジャー! ここまでの戦歴に一度の負けもなし!』

 学園卒業からおよそ数ヶ月、竜の国で更に磨いた剣術は、もう誰も子供と言える領域ではない。

『『最速』フラン・アルクス!』

 同時に、鞘から剣を抜いた。
 フランは油断なく、剣を相手へと向ける。ガロウもその大剣を両手で構えた。

「強いな、お前。俺の師匠と同じぐらい、隙がない。」
「……お前の師匠は、お前より強いのか?」
「当然さ。俺の師匠は、剣術の師範代だぜ。」
「そうか。」

 フランは表情は変えない。だが、ここにアルスがいたのなら、細かな表情の動きに気がついたろう。
 あれは、落胆の表情だと。

『試合開始!』
「強い奴が、闘技場に来るわけではないのだな。」

 フランは開始と共に距離を詰める。剣が当たる一足一刀の間合いに何の躊躇なく潜り込む。
 当然、それに合わせるようにして大剣がフランへと振るわれる。

「無銘流奥義三ノ型『王壁』」

 しかしその大剣は、フランへは届かない。その剣を利用して、最低限の力で大剣を受け流し、そのまま鋭く剣を振るう。
 相手も手練れである。その剣は空を切ることになった。
 後ろに大きく距離を取ったガロウは、さっきより油断なく、フランを観察する。

「流石は『最速』だ。自分から突っ込んでカウンターを決めるなんざ、人間技じゃねえよ。」
「お前もな。普通は、あの距離から回避はできない。」
「撃つ前から返される気はしてたからなあ。予測していれば、回避できなくはない。」

 確かにガロウは手練れである。培われた戦闘への鋭い嗅覚、長い鍛錬によって織り成される剣術。一流の剣士と言って遜色はない。
 だが、最強ではない。結局は数いる一流の剣士の一人に過ぎない。
 であれば、フランの敵ではなかった

「なら、次だ。」

 今度は下段に剣を構え、フランは再び距離を詰める。そして剣を振るう瞬間に、フランの剣がブレる。
 その斬撃は、刃先から5つの刃に分裂して、5方向から同時にガロウに迫る。

「二ノ型『天幻』」
「なんの!」

 ガロウは大きく剣を振りながら後退し、なんとかその攻撃を防いだ。だが、フランの攻撃の手は休まらない。

「一ノ型『豪覇』」

 上段から、重力の力をそのまま利用し、速く、力強く一撃が放たれる。ガロウも大剣で、それを真正面から受ける。
 受けるが、先の攻撃で体勢が少し崩れた以上、分はフランの方にあった。

「そう簡単に、やられてたまるかっ!」

 だが、不利な体勢であっても、上半身に力を入れ、フランを大きく弾く。
 ――それが罠だと、気づくこともなく。

「三ノ型『王壁』」
「しまっ――」

 大きく弾いた力の流れを、そのまま利用して体を回転させて、逆側からの攻撃。片手剣ならともかく、両手剣なら間に合う事はない。

「終わりだ。」

 その剣は、ガロウの腹の手前で止められた。
 決着が着いたを感じ取ったのか、会場では勝者の名前が響き、歓声があがった。

「すまぬ、場を荒らした。王者チャンピオンなどやるつもりはないと、伝えておいてくれ。」

 呆気に取られたガロウをよそに、フランは会場を後にした。

「……この賞金があれば、皇都に行けるな。」

 通路の中で、フランはそう呟いた。
 フランには金に頓着もないし、旅の途中で金を盗られたり、騙されたりする事が多かった。だからこそ、一番の目的地である皇都に辿り着くのに時間がかかった。

 しかし、その一見無駄に思える旅路も無駄ではなかった。

 旅の途中で、今までに見たことのない戦い方をする戦士にも会ったし、思わぬ強者と戦いを繰り広げる事もあった。
 その全てに勝利したからこそ、フランの成長は著しい。
 フランの剣の才能は並大抵のものではない。もはや、『地方で一番強い』程度ではフランには届かない。

「先に待ってるぞ、アルス。上でな。」

 他の誰よりも、アルスよりもエルディナよりも圧倒的に速く、最速でフランは進んでいた。
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