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第七章~何も盗んだことのない怪盗~
34.リクラブリアのその後
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吹き飛び続ける巨体は、その内高度を下げ、減速し、着地へと辿り着く。
着地地点はとある山岳地帯。だが、どう考えても木が衝撃を和らげて、安全に着地できるなど望めない速度である。
「クソがァッ!」
ただ、ディオには関係ないが。
憤怒の罪に相応しく、ディオは怒っていた。あんなに強い奴を、今の今まで知らなかった自分にである。
ディオの交友関係はその性格が故に狭い。それに、強い奴は自由であると考えるディオは、騎士に強者がいるとは思ってなかった。
故に知らなかった。それに、腹を立てていたのだ。
「強い奴が、まだいるじゃねえか。クソ、今すぐにでも戦いてえ! 王城に突っ込むか?」
ディオの行動原理はシンプルな一つだけのことだ。
自分の全力の、全てを出し尽くせる戦い。一瞬でも油断すれば敗北し、相手の一瞬の隙を狙い続ける殺し合い。
強者との戦いだけがディオの快楽であり、ディオの生きる意味そのものであるのだ。
「やめときな。そうすれば、得なんてない事ぐらい分かってるだろ。」
ディオの背後から、一人の男の足音が聞こえた。
白い、いや少し青みがかった白髪に、真っ黒な黒い眼。腰には片手剣が一つと、布袋をぶら下げた男だ。
一目見ただけで、冒険者と分かるような装いだ。荷物は多過ぎず、しかし少な過ぎず。騎士や戦士とも違い、少し背を曲げている。
「……テメエか、ゼウス。」
オリュンポスのクランマスターであり、世界最強と呼ばれる『精霊王』レイ、『神域』オルグラーとも肩を並べる『放浪の王』。
ディオは剣から手を離す。すると剣は炎に包まれ消えてしまった。
「この俺が、慰めに来てやったんだ。感謝しろ。」
「一々上から話しかけてんじゃねえぞ、クソが。」
「上にいるからな。何で俺がお前のために、下に降りなきゃいけないんだよ。」
ゼウスはディオの周辺の、適当な場所に座った。逆にディオは立ったまま、ゼウスを睨みつけている。
しかし妙な事に、ディオがゼウスに襲いかかる事はなかった。どんな敵であろうと、迷わず戦おうとするディオが、だ。
「それに慰めに来たわけじゃねえだろうが。アルスの事を聞きに来たんだろ?」
「おお、成長したな。お前が人の事を慮る事ができるとは……」
「めんどくせえやり取りをすんな!さっさと本題に入れ!テメエは話が長いんだよ!」
そう言われるとつまらなそうに、ゼウスは唇を尖らせた。だが、口元はずっと笑ったままである。
「アルス・ウァクラートは、どんな奴だった?」
「……強くなるだろうぜ。もっと吹っ切れれば、一年も経たずに俺と戦える領域まで来る。」
「そんなんどうでもいいんだよ。どんな異常な性癖を持ってるかとか、どんな酒が好きだとか、そういう話だ。」
「何で俺がそんなん知ってると思ってんだ、ゼウス!」
「知っとけよバーカ! 何の為にお前がそこの護衛に行くように俺が誘導したと思ってんだ!」
心底失望したような目でゼウスはディオを見て、ディオはもはや呆れて、怒りも失せ始めていた。
ゼウスの評価基準は面白いかどうかであり、それの強さ弱さは関係ない。ディオとは価値観がそもそも違うが故に、合わない。
「そんなに気になるんだったら、直接会いに行けばいいだろ。俺はお前の奴隷じゃねえ。」
「それはまだ早い。栄光は冒険の果てに、だ。俺と会うという栄誉を与えるには、まだあいつは冒険が終わってない。」
ゼウスはそう言って豪快に笑う。ディオはそんなゼウスを置いて、山道を歩き始めた。ゼウスに付き合い切れなくなったからだ。
しかしゼウスはそんな事気にも留めない。そしてその黒い眼で、太陽を覗く。
「――行かせるか、アポロンを。」
光源は壁につけられた松明が数本のみで、蜘蛛は巣を貼り、虫は我が物顔で闊歩する。
そんな居心地の悪い、薄暗い地下牢には一つだけ、人の呼吸音があった。
「おやおや、随分と苦しそうじゃないか」「流石贅の限りを尽くした愚王だ」「まだ3日も経ってないぜ」
そう、3日も経っていない。劣悪な環境ではあるが飯も出るしトイレもある。ベットだって置いてあった。
しかしそれを、生き地獄だとストルトスは感じていた。
それを気に入らないのか、牢の外から馬鹿にするように見る『鮟偵>鬮ェ縺ィ蜿ウ逶ョ縲√◎縺励※邱代?蟾ヲ逶ョ繧偵@縺溽塙』がいた。
「……やっとか、組織の者よ。」
疲れ切った表情をしたストルトスは、安堵の表情をする。
体重はこの数日で急激に落ち、豪華絢爛な服も装飾品は取られ、ボロボロになっていた。
だが、傲慢不遜な態度だけは変わりない。
「あれだけの大金を今まで、お前らに払ってきたのだ。ほら、早く出せ。」
「残念ながら、俺は組織の人間じゃない」
「何を巫山戯ている! さっさと余をここから出せ!」
「不老不死なんていう存在しないものを得るために、よくもそこまでの大金を払ったみたいだな」「本当に馬鹿げている」
精神が不安定なストルトスは、牢屋の鉄格子を掴んで――を睨んだ。
「ただこんな俺でも、君を不老不死にするぐらいならできる」
鉄格子の間から手が伸び、ストルトスの頭は掴まれる。徐々にストルトスの体は溶け、ゲル状になった後に再構築されていく。
「な、やめろ!一体何を――」
「たださ、不老不死になるのに人間の形は不都合なんだ」「ちょっと変わってもいいよね」「夢の不老不死の為に何人もの命を犠牲にしたんだ」
ストルトスの目には、目の前のそれが、狂気的で、この世の最も恐ろしきものとして映っていた。
それは恐怖である。容易く理を塗り替えるからだ。
それは化物である。人の形を取っているだけだからだ。
それは天敵である。強き者にとっての、最大の敵である。
ストルトス如きでは、抗えるものではなかった。いや、それが例えどんな強者であっても。
「自分の魂ぐらい、安いさ」
牢屋に残ったのは、液体、いや、液体と固体の中間に位置する粘質の物体であった。
その物体は人の形を取ろうとするが、維持できずに崩れを繰り返し、何をしても死ななかった。
ストルトスは、そこにはいなかった。
着地地点はとある山岳地帯。だが、どう考えても木が衝撃を和らげて、安全に着地できるなど望めない速度である。
「クソがァッ!」
ただ、ディオには関係ないが。
憤怒の罪に相応しく、ディオは怒っていた。あんなに強い奴を、今の今まで知らなかった自分にである。
ディオの交友関係はその性格が故に狭い。それに、強い奴は自由であると考えるディオは、騎士に強者がいるとは思ってなかった。
故に知らなかった。それに、腹を立てていたのだ。
「強い奴が、まだいるじゃねえか。クソ、今すぐにでも戦いてえ! 王城に突っ込むか?」
ディオの行動原理はシンプルな一つだけのことだ。
自分の全力の、全てを出し尽くせる戦い。一瞬でも油断すれば敗北し、相手の一瞬の隙を狙い続ける殺し合い。
強者との戦いだけがディオの快楽であり、ディオの生きる意味そのものであるのだ。
「やめときな。そうすれば、得なんてない事ぐらい分かってるだろ。」
ディオの背後から、一人の男の足音が聞こえた。
白い、いや少し青みがかった白髪に、真っ黒な黒い眼。腰には片手剣が一つと、布袋をぶら下げた男だ。
一目見ただけで、冒険者と分かるような装いだ。荷物は多過ぎず、しかし少な過ぎず。騎士や戦士とも違い、少し背を曲げている。
「……テメエか、ゼウス。」
オリュンポスのクランマスターであり、世界最強と呼ばれる『精霊王』レイ、『神域』オルグラーとも肩を並べる『放浪の王』。
ディオは剣から手を離す。すると剣は炎に包まれ消えてしまった。
「この俺が、慰めに来てやったんだ。感謝しろ。」
「一々上から話しかけてんじゃねえぞ、クソが。」
「上にいるからな。何で俺がお前のために、下に降りなきゃいけないんだよ。」
ゼウスはディオの周辺の、適当な場所に座った。逆にディオは立ったまま、ゼウスを睨みつけている。
しかし妙な事に、ディオがゼウスに襲いかかる事はなかった。どんな敵であろうと、迷わず戦おうとするディオが、だ。
「それに慰めに来たわけじゃねえだろうが。アルスの事を聞きに来たんだろ?」
「おお、成長したな。お前が人の事を慮る事ができるとは……」
「めんどくせえやり取りをすんな!さっさと本題に入れ!テメエは話が長いんだよ!」
そう言われるとつまらなそうに、ゼウスは唇を尖らせた。だが、口元はずっと笑ったままである。
「アルス・ウァクラートは、どんな奴だった?」
「……強くなるだろうぜ。もっと吹っ切れれば、一年も経たずに俺と戦える領域まで来る。」
「そんなんどうでもいいんだよ。どんな異常な性癖を持ってるかとか、どんな酒が好きだとか、そういう話だ。」
「何で俺がそんなん知ってると思ってんだ、ゼウス!」
「知っとけよバーカ! 何の為にお前がそこの護衛に行くように俺が誘導したと思ってんだ!」
心底失望したような目でゼウスはディオを見て、ディオはもはや呆れて、怒りも失せ始めていた。
ゼウスの評価基準は面白いかどうかであり、それの強さ弱さは関係ない。ディオとは価値観がそもそも違うが故に、合わない。
「そんなに気になるんだったら、直接会いに行けばいいだろ。俺はお前の奴隷じゃねえ。」
「それはまだ早い。栄光は冒険の果てに、だ。俺と会うという栄誉を与えるには、まだあいつは冒険が終わってない。」
ゼウスはそう言って豪快に笑う。ディオはそんなゼウスを置いて、山道を歩き始めた。ゼウスに付き合い切れなくなったからだ。
しかしゼウスはそんな事気にも留めない。そしてその黒い眼で、太陽を覗く。
「――行かせるか、アポロンを。」
光源は壁につけられた松明が数本のみで、蜘蛛は巣を貼り、虫は我が物顔で闊歩する。
そんな居心地の悪い、薄暗い地下牢には一つだけ、人の呼吸音があった。
「おやおや、随分と苦しそうじゃないか」「流石贅の限りを尽くした愚王だ」「まだ3日も経ってないぜ」
そう、3日も経っていない。劣悪な環境ではあるが飯も出るしトイレもある。ベットだって置いてあった。
しかしそれを、生き地獄だとストルトスは感じていた。
それを気に入らないのか、牢の外から馬鹿にするように見る『鮟偵>鬮ェ縺ィ蜿ウ逶ョ縲√◎縺励※邱代?蟾ヲ逶ョ繧偵@縺溽塙』がいた。
「……やっとか、組織の者よ。」
疲れ切った表情をしたストルトスは、安堵の表情をする。
体重はこの数日で急激に落ち、豪華絢爛な服も装飾品は取られ、ボロボロになっていた。
だが、傲慢不遜な態度だけは変わりない。
「あれだけの大金を今まで、お前らに払ってきたのだ。ほら、早く出せ。」
「残念ながら、俺は組織の人間じゃない」
「何を巫山戯ている! さっさと余をここから出せ!」
「不老不死なんていう存在しないものを得るために、よくもそこまでの大金を払ったみたいだな」「本当に馬鹿げている」
精神が不安定なストルトスは、牢屋の鉄格子を掴んで――を睨んだ。
「ただこんな俺でも、君を不老不死にするぐらいならできる」
鉄格子の間から手が伸び、ストルトスの頭は掴まれる。徐々にストルトスの体は溶け、ゲル状になった後に再構築されていく。
「な、やめろ!一体何を――」
「たださ、不老不死になるのに人間の形は不都合なんだ」「ちょっと変わってもいいよね」「夢の不老不死の為に何人もの命を犠牲にしたんだ」
ストルトスの目には、目の前のそれが、狂気的で、この世の最も恐ろしきものとして映っていた。
それは恐怖である。容易く理を塗り替えるからだ。
それは化物である。人の形を取っているだけだからだ。
それは天敵である。強き者にとっての、最大の敵である。
ストルトス如きでは、抗えるものではなかった。いや、それが例えどんな強者であっても。
「自分の魂ぐらい、安いさ」
牢屋に残ったのは、液体、いや、液体と固体の中間に位置する粘質の物体であった。
その物体は人の形を取ろうとするが、維持できずに崩れを繰り返し、何をしても死ななかった。
ストルトスは、そこにはいなかった。
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