幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第七章~何も盗んだことのない怪盗~

9.勇者について

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 俺の手元にある勇者の情報は少ない。いるらしい、ということだけと、王城が突然と光ったという出来事がある、という程度だ。

「……勇者、ですか。」
「信頼して話すが、俺はグレゼリオンからそれを調査するようにと言われてここに来た。それを突き止めなくちゃ、帰りたくても帰れない。」

 真実を突き詰めなくてはならない。王城が光ったということについては、恐らくストルトスが関係しているはずだ。
 ただの魔法であっても、何があってそれをしたのかを俺は知らなくてはいけないのだ。例えつまらない事故だったとしても、それが俺の仕事なのだから。

「実は、それは私にもわからないことの方が多いのです。」
「わからない? ずっとこの王城にいるんだから、何か知ってるんじゃないのか。」
「あまり情報も伝わらせないように、お祖父様がしているようですので。」
「心当たりでもなんでもいい。部屋の前の、使用人の噂話でもいい。取り敢えず今は情報が欲しい。」

 だが逆に言えば、これで何一つ出なければあからさまに秘匿したい出来事であるということになる。可能性としては、勇者でなくても、何かしらの厄介なものである場合の方が高くなるわけだ。
 それに誰の口からどんな言葉が出たというだけでも、アースであれば中々精度の高い予測をしてくれるだろう。あいつは天才だから。

「王城が光ったという時、私はここにいました。扉越しからでもわかるぐらいの強い光であるのにも関わらず、場内が騒がしくなることはありませんでした。夜であったのもあるのでしょうが、きっと事前に知らされていたのだと思います。」
「……使用人にも聞く必要がありそうか。」
「いえ、意味はないでしょう。既に全員が王城にいません。一部は奴隷になり、一部は処刑されました。」

 強く、歯を食いしばる。こうでもしなければ、腹が立って、今にもここら辺を魔法で吹き飛ばしたくなる。

「お祖父様はあの王城が光った事件を、使用人の責任とし、貴族の家の者は追い返し、平民の者は犯罪奴隷にして売り払いました。その中でも使用人を監督する立場の者は処刑されたのです。」
「たかが、王城が光っただけだろ。そこまでするのかよ。」
「きっと、隠したい何かがあったのでしょう。ですがそれを知っているのは、お祖父様と、相談役である宰相のみです。」

 どこまで、どこまで人を弄べば気が済むのだ。孫である王女を腕輪で縛り、罪もないだろう使用人を奴隷に落とす。
 あれは本当に人なのか。人であるなら何故、あそこまで人を苦しめられる。良心は痛まないのか。正義感はないのか。家族を大切にしようとは思わないのか。

「私が知っているのはそれだけです。それ以上は、何も知りません。」
「……すまない。」
「何故、謝るのです?」
「のうのうと暮らしてきてすまない。俺はあなたより何倍も自由に暮らしてきた。あれが俺にとっての祖父でもある以上、俺も責任を負わなくてはならないのに。」

 こうなってくれば、前国王の不審死の正体など確定したようなものだ。ストルトスが殺したのだ。自分の兄も、息子すらも。
 俺も確かに色々なことがあった。だが、恵まれている。祖母であるオーディンは俺を助けてくれたし、友人もいた。俺は恵まれているのだ。
 この目の前の、生きることしかできない人に比べれば、ずっと。

「謝罪をする必要はありません。そう思っていただけるだけでも嬉しいです。」
「……そうか。すまない、長居し過ぎた。情報提供感謝する。」

 俺は突然と立ち上がり、軽く頭を下げる。
 これ以上、この人と話していれば、俺は罪悪感から壊れてしまう。そんな気さえしていたからだ。

「最後にこれだけ。城下町の平民から、あなたに渡してくれと言われたものだ。」
「本、ですか?」
「目は通したが呪いの類とかでもないし、安心してくれ。」

 そう言って、かなり足早に部屋を出る。脳の血管が切れそうなぐらいに気持ちが、悪かったからだ。
 正直なことを言うと、できるだけ早くこの王城から抜け出してしまいたい。依頼なんて捨てて、責任など放り捨てて、グレゼリオンに帰りたい。
 だが、俺にそれは許されない。
 俺がここで捨てて逃げたら、一生後悔する。この腐り果てていく国を、ただ見ているだけなど、自己嫌悪で自分を殺したくなる。

 そのために、俺は学園で五年も魔法を学び続け、そして賢神になったのだ。
 理不尽に苦しむような人間が、一人でも減るように。誰もがみんな、幸せになれる、そんな理想郷に一歩でも迫るために。

「おや、こんな所にいらしたのですか。」

 廊下の反対側から、一人の男がこっちに近付いてくる。
 目の下には濃い隈があり、声に覇気も力もない。身だしなみは整えられており、見るからに貴族であろうと、そんな想像ができる青い髪の男だった。

「探していましたよ、アルス殿。私はこの国で宰相をしているラボランテムと申します。お話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 断る理由はなかった。真実に迫るために。





 アルスが去り、一冊の本と一人だけが残る王女の部屋。王女エイリアは窓から外、正確には城下町を見下ろす。
 昼頃であるから、人々は忙しなく動き、働いている。活気はなくとも、仕事はしなくてはならないのだ。
 王女の手にはアルスから渡された本があり、力強く握っている。アルスと話していた時の、張り付いた笑顔は消え、どこか焦ったように、外を見ていた。

「何故、この本を……」

 その言葉の真意は、王女だけが知ることであった。
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