幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第六章〜自分だけの道を〜

26.短い旅の終わり

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 流石に街にその戦闘機?は、着陸するわけにはいかず、一番近くの街の、それから少し離れた所に着陸することになった。

「驚愕、随分と街も発展していますね。」
「数百年も経ったからな。そりゃ変わるさ。」

 ケラケルウスとシータはそう言いながら先を歩いていく。疲労感が蓄積されていたせいか、俺達は特に話すこともなく、街へ歩いていく。
 多分、全員思っていることは一緒だ。さっさと帰ってベットで寝たい、だろう。
 そう言えばエルディナは、これから王国へ戻るのだったな。元々抜け出してきた以上、戻ればどうなるかを想像するのは容易い。

「エルディナ、お前これから帰ったら死ぬほど怒られるだろうな。」
「ああ、思い出させないで。ただでさえ大変だったんだから、嫌な事は思い出したくないわ。」

 想像より大変な旅だったし、戻れば怒られるのだから、エルディナは踏んだり蹴ったりだろうな。

「けど、楽しかったよ。僕は楽しかった。」

 ガレウはそう言った。
 確かに、楽しかった。旅の間は騒がしかったし、色々あったが、それでも間違いなく楽しかったと断言できるとも。
 友人と一緒する旅は楽しいものだ。前世でも友人、神楽坂はいたけれども、あいつ旅行嫌いだったからな。

「私も、楽しかったわ。ガレウのことも今回の旅でよくわかったし。」
「何年も一緒にいたのに、今更かい?」
「数十年経っても、人の事は理解できないものよ。」

 まあ、確かにそうかもな。歳を取れば見方が変わったり、新しい一面が見えてきたりするかもしれない。
 特にお嬢様とか長年一緒にいたけど、全く底が見えなかったからな。

「……エルディナ、ちょっと来い。」
「え、どうしたの?」

 ケラケルウスに呼ばれ、エルディナは前の方に進む。俺とガレウも、そろそろ街が近いだろうし、先に進んだ。
 そこには街があった。しかし、その前には何人かの武装した騎士と、身なりの良い男が立っていた。

「げっ。」

 分かりやすいぐらいのリアクションをエルディナはした。
 そこにいた男とは、ヴェルザード公爵、つまりエルディナの父親で、ここにいる理由など明白である。

「旅、楽しかったぜ。またいつかな。」
「待って! 怒られたくないわ!」
「うるさい! 自業自得だろうが!」

 これに関しては間違いなくエルディナが悪い。
 俺は騒ぎ続けるエルディナの首元の服を掴み、強引に引っ張っていく。公爵令嬢に対する扱いではないが仕方あるまい。こいつが十割十分悪いのだから。

「貴様、エルディナ様に対しなんという事を!」

 近付くと騎士の内の一人がそう言って、俺へ剣を向ける。
 だが生憎と俺は賢神であり、立場としては同等、それに目の前の公爵はこれぐらいは許してくれると知っている。
 俺はエルディナを引っ張って、そのまま公爵の方へと押し出した。

「その人は賢神の方だぁ。君達は下がっていいよぉ。」
「そうなのですか!? ……申し訳ありません! ご無礼をお許しください!」

 剣をしまって、騎士は俺に頭を下げた。そして俺が気にしないと伝えると、その騎士は下がっていった。
 流石公爵家だ。教育が行き届いている。こんな子供に迷わず頭を下げれるのだから。

「ありがとねぇ、アルス君。私の娘を保護しておいてくれてぇ。」
「……これっきりがいいですがね。」
「はーはは、それは同意だともぉ。わざわざヴァルバーンに寄る用事を作らなきゃいけなかったからねぇ。」

 貴族、それも公爵家が公的な用事なくして外国に出るなど基本的には許されない。それが例え娘の捜索であっても、騎士を派遣させれば済む話だ。
 こうやって本人が来れたのは、何か外交的な用事を取り付けたからであろう。
 そうすれば先に娘を向かわせていたと、言い訳も立つ。護衛に俺という賢神をつけたとすれば、反論など簡単にはできまい。

「髪を染めてたのに、何でわかったのよ……」
「その程度で見つけられないなら、犯罪者なんて逃げ放題さぁ。次やるときは魔力も完全に抑えて、顔も魔道具か何かで一時的に変えるといいかもねぇ。」

 エルディナの文句を、ヴェルザード公爵は一蹴する。
 この世界にも、いやこの世界だからこそ探偵というのはいる。監視カメラなんてものが一般的でない以上、国から人探しの依頼が出ることもあるわけなのだから。
 それこそエルディナみたいな個性が強い奴を探すのは簡単だろう。俺もそこまでして隠すつもりもなかったしな。

「それで、後ろの二人の紹介をしてもらってもいいかい?ガレウ君はあったことはあるけども、そこの二人は見覚えがないからねぇ。」

 そう言われて今まで黙っていたケラケルウスが口を開く。

「敬語はあまり得意じゃないのだが、それでもよろしいか?」
「構わないともぉ。私はオーロラ・フォン・ヴェルザードと言う。卿の名前を聞いてもいいかなぁ?」
「かたじけない。私はケラケルウスと言う。恐らくだが、貴国にも伝わっているのでは?」

 そう言われて公爵は眉をひそめる。

「なるほど、ねぇ。となれば騎士の前では話せないかぁ。後ろの女性も、関係者かい?」
「その通りだ。」
「ふむふむ……陛下への土産話が増えたねぇ。できれば国までついてきて欲しいけど、それはどうやら嫌そうだぁ。」
「申し訳ない。先を急ぐ旅なので。」

 公爵は数回頷き、そして街の方を指すように手を向ける。

「今日はもう遅い。私が街で宿を手配する代わりに、少し質問ごとをお願いしてもよろしいかねぇ?」
「承知した。ならばそのようにお願いする。」

 話はまとまったようだ。そうすると次に、公爵は俺とガレウに目を向ける。

「二人の分も手配させるけど、それで大丈夫そうかい?」
「私は大丈夫です。ありがとうございます。」
「なら、ガレウ君はどうだい?」
「……いえ、僕は必要ありません。」

 その返答に驚いて、俺もガレウの方を見る。断る理由もないだろうし、こういうのを断るのは逆に失礼というものだ。

「やりたい事が、見つかったんです。だから、それをします。一秒でもここにいる時間が、惜しいんです。」
「……そうかい。なら、せめてもの返礼はさせてもらうよぉ。君はいらないと言っても、私は立場上何も渡さないわけにはいかないからねぇ。」

 そう言って公爵は一人の騎士を呼び出す。するとその騎士は、一枚のカードを公爵へと手渡した。
 カードの大きさは手で持てる程度、大体クレジットカードぐらいで、片面には緑色で描かれた模様が刻まれている。もう片面はここからでは見えなかった。

「私の関係者である事を証明するカードさぁ。何か困った時に、私が力になるともぉ。」
「いいんですか、こんなもの。」
「構わないさぁ。こんなおてんば娘に付き合ってくれたお礼だからねぇ。」

 そう言われてガレウはそのカードを受け取る。
 その言葉を聞いたエルディナはちょっと不満そうな顔をしているが、公爵が言っているのは正論だと思うので、何も言うつもりはない。

「それじゃあ宿まで案内させてもらうねぇ。私についてきてくれぇ。」

 そう言って公爵は騎士を引き連れ、街の中へ入っていった。ケラケルウスもシータもそれに着いて行くが、ガレウとエルディナはそうじゃなかった。
 そうすると集団に遅れて、俺達三人が残る、といった形になる。

「これから、どこに行くつもりなんだ。」

 俺はポツリと、そう尋ねた。
 やりたいことができたと言っていたが、俺には皆目見当もつかない。それどころかどこに行くのかもだ。

「ここから南東、ポーロル大陸の方へ行くつもりなんだ。」
「ポーロルって、今一番名も無き組織が活性化してるところじゃない。危ないわよ。」
「危ないからだよ。きっと今、この一瞬にでも、命を散らすかもしれない人間がいる。そんな人間はずっと助けを待っていると思うんだ。」

 ガレウの決意は固そうだ。だがまあ、元より俺はガレウの選択を止める気なんて毛頭ない。
 俺の行き先は俺だけが決めれる。ガレウの行き先もガレウ以外には決められない。どれだけ介入したとしても、結局選択したのは本人だ。

「僕はそんな人を助けに行く。ついでに言うなら、あそこら辺は教会が少ないしね。」
「そうか……頑張れよ。応援してるぜ。」

 俺はそう言ってそのまま街へと足を進める。
 何も今生の別れというわけじゃない。別れなんて惜しむ必要もないし、言いたいことは言わずともガレウは分かっているだろう。
 それぐらいの間、一緒に学園でいたんだからな。

「これから当分会えないのに、そんな雑でいいの、アルス!」
「大丈夫だよ。僕とアルスの仲だからね。」

 エルディナはそんな俺を静止するが、逆にガレウはそれで良いと言う。

「そっちこそ頑張ってね、アルス!」

 そしてそんな言葉が飛んできた。俺はそれに、右手を挙げて答える。
 長いようで短かった旅は、ここまでだ。
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