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第六章〜自分だけの道を〜
24.第四騎士団団長
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「それが、君の中に宿る神の力だよ。」
体中が痛くて立ち上がれない俺に、師匠、レイ・アルカッセルはそう言った。
いつも通り師匠が住む山で、俺は稽古を受けているところの事である。
「師匠、使いこなせる気がしないんだが。」
「ハハハ、そうだろうね。人が使う力じゃない。正確には、人が使う事を想定していない、かな。」
今までのスパルタ指導が嘘みたいに、無理だと、そう告げられた。
2年かけて習得した闘気だって、直ぐにできるようになると言っていた師匠が、だ。
「それでも、使いこなさなきゃね。制御し切れなかった時に、一番後悔するのは君だろう?」
「師匠が止めてくれたりはしないのかよ。」
「一生、僕に助けてもらい続ける人生を送りたいなら、僕もそれでいいぜ。」
そう言われると何も言えない。
性格が悪い師匠に借りを作りたくないし、迷惑もかけたくもない。それに元々弱音を吐くのは、そうしないと落ち着かないからだ。
誰だって文句を言ってもしょうがないと分かっていても、文句を言いたくなる時があるものだろう。
「それじゃあ、引き続きやろうか。」
そう言って師匠は俺へと魔石を投げる。
「まずは第一段階。神の力を物体に、魔力と混ぜて付与できるようにする。神の力なんて僕も扱ったことはないからよく分からないけど……」
妙に自信ありげというか、まあ、いつも通りに言い放つ。
「ま、僕は天才だから半年もあれば習得できるようにさせてみせるさ。」
魔石を投げ込んだ瞬間、師匠との会話が頭をよぎった。
そんな思考の内にも真っすぐと魔石は、結界をガレウに喰われ無防備となったそいつへと伸びる。逆にその間に、俺は体を雷へと変えてガレウの方へ移動した。
「オイ、いいのか。よそ見してて。」
そいつは移動した俺へと視点を移した。俺が投げた魔石を無視してだ。
自分の装甲に自信があるのか知らないが、間違いなくそれは悪手であるとも。やはりただの自動プログラムだ。頭が悪い。
「『■■■■』」
言葉を言うが、ノイズが混じりよく聞こえはしない。俺が未だに、この力を使いこなせていないからだ。
だがそれでも、今だけはそれで十分だとも。
キィィィィィン、と。どこまでも響く、音、正確には雷の衝撃がそいつを襲った。
発生源は懐まで潜り込んだ、俺の魔力を混ぜ込んだ魔石だ。
回路がおかしくなったのか、動きが止まり、眼の焦点も合わなくなる。
だがこうやって動いていない間は数秒もないだろう。だから、俺は入口の方へ立つエルディナへと目線を飛ばした。
首元のアレを壊す余裕はもうない。
「エルディナッ!」
「任せなさい!」
エルディナであれば人ひとり浮かせて、運ぶことぐらい、そう大した労苦でもありはしない。
途中で動き始めても、俺達が撤退するぐらいの余裕はきっとあるはずだ。流石にこの消耗具合でこれ以上戦うには無理があるし、逃げ切れなきゃ終わりだし、そう思い込むしかないのであるが。
「――いや、ここで終わらせる。」
だがガレウは、そこで走り出した。いつの間にか拘束を解除してだ。かなりの魔力消費から俺も咄嗟には体が動かず、むしろエルディナの魔法で距離が遠のく。
間に合うか。いや、間に合うはずがない。多分次に動き始めるのは一秒もない。
止められないのかと、エルディナの方を見るが首を横に振られる。暴食で魔法の干渉を弾いているのだろう。
「……機能回復。要因の特定完了。」
「戻れ、ガレウ!」
必死に俺は叫ぶが、ガレウは止まらない。
「これが僕の覚悟だ!」
ガレウから黒い何かが漏れ出し、口を持つ黒い球体へと姿を変える。合計で三つの黒い球体の後ろから、ガレウはそいつへと接近した。
「自動迎撃再開」
放たれる魔力の弾丸を、その黒い球体で防ぎ切り、ガレウは機械人間の眼前にまで辿り着いた。
しかし狙いである物は首の後ろだ。そこから更に後ろに回り込む必要がある。
更に言うならばこの近距離で攻撃を避けるなんてほぼ不可能。ガレウが当たれば、間違いなく一発で死ぬ。
「ぁぁああああ!!!」
しかし、俺の想像していたような惨状にはならなかった。
放たれる弾丸を、その前に自分の口で食ったのだ。もしも一瞬でも遅れていたら死んでいただろう、殆どが賭けの行動だ。
だがガレウは、賭けに勝った。
「僕の、勝ちだ。」
そして背中へと回り込んだガレウは、その首元へ指先を掠らせた。
ガレウの暴食にはそれで十分だったのであろう。それを証明するようにして、機械人間は、動きを止めた。
「ガレウ!」
その場に倒れ込むガレウへと俺は駆け寄る。
「はは、流石にあの至近距離の魔力弾は喰いきれなかったみたい。」
「なんだって、あんな無茶な事を……」
「無茶はお互い様、だろう?」
言葉に詰まる。確かにそうなのだ。俺の方がいつも無茶をしている。そう言われてしまえば、俺は何も言う事ができない。
「……初めてだったんだ。僕にしかできない、なんてことを思ったのは。」
そう言って寝転がりながら、こっちに遅れて来たエルディナを見た。
「今まで、僕以外の人の方が上手くできると思ってたんだよ。だけど今、できんたんだ。仲間の役に立てたんだ。それだけでもこの痛みでも、お釣りがもらえるぐらいの価値さ。」
どこまでもガレウは優しい。いつだって他人本位で、人に譲りたがる。だけど今日は、ガレウがいつもより大きく、強く見えた。
ガレウの口元を中心に傷が広がり、血が出ている。
暴食の力に関しては俺達よりガレウの方がよく知っているはずだ。こうなる事も心の内では理解していたのだろう。
「エルディナ、治せるか?」
「治せなくはないけど、応急処置程度よ。回復魔法は詳しくないから。」
そう言うと緑色の光がガレウの傷口へ飛び、取り敢えずは少しだけ傷は塞がる。
回復魔法は他の魔法に比べて専門知識を必要とするからな。できなくともしょうがない。
「提案、私ならば処置が可能です。」
「――は?」
思わぬ所から声がかかる。ついさっき機能を停止した機械人間(ヒューマノイド)が、こちらを見て、そう話しかけてきたのだ。
つい反射的に魔法を放ちそうになるが、様子が違う事からなんとか踏みとどまる。
「予想、自動迎撃により当機がつけた傷でしょう。そう仮定するのならば当機が治すべきです。」
「……戦う気は、ないよな?」
「肯定、何らかの妨害を受けていなければ、自動迎撃の機能は基本使われません。謝罪、妨害系統の機器を取り付けられた当機の探知能力の低さが招いた結果です。」
そう言ってしゃがみ込み、ガレウの口元に手を添えると、その傷は瞬く間に消えてなくなった。
「質問、違和感は。」
「ない、ね。しっかり治ってるよ。」
ガレウは立ち上がり、その機械人間の正面に立つ。ボロボロの軍服を着た、表情が一切動かない。いや、というか元が人だったというのが信用できない。
「宣言、自己紹介を行います。確認、よろしいでしょうか?」
「大丈夫だけども……」
俺がそう返すと足を揃え、まるで軍人のように背筋を正して俺達三人をよく見る。
「オルゼイ帝国七大騎士、第四騎士団団長、軍用特殊機械人間03Θ。シータとお呼びください。」
そう無感情に言い放った。
体中が痛くて立ち上がれない俺に、師匠、レイ・アルカッセルはそう言った。
いつも通り師匠が住む山で、俺は稽古を受けているところの事である。
「師匠、使いこなせる気がしないんだが。」
「ハハハ、そうだろうね。人が使う力じゃない。正確には、人が使う事を想定していない、かな。」
今までのスパルタ指導が嘘みたいに、無理だと、そう告げられた。
2年かけて習得した闘気だって、直ぐにできるようになると言っていた師匠が、だ。
「それでも、使いこなさなきゃね。制御し切れなかった時に、一番後悔するのは君だろう?」
「師匠が止めてくれたりはしないのかよ。」
「一生、僕に助けてもらい続ける人生を送りたいなら、僕もそれでいいぜ。」
そう言われると何も言えない。
性格が悪い師匠に借りを作りたくないし、迷惑もかけたくもない。それに元々弱音を吐くのは、そうしないと落ち着かないからだ。
誰だって文句を言ってもしょうがないと分かっていても、文句を言いたくなる時があるものだろう。
「それじゃあ、引き続きやろうか。」
そう言って師匠は俺へと魔石を投げる。
「まずは第一段階。神の力を物体に、魔力と混ぜて付与できるようにする。神の力なんて僕も扱ったことはないからよく分からないけど……」
妙に自信ありげというか、まあ、いつも通りに言い放つ。
「ま、僕は天才だから半年もあれば習得できるようにさせてみせるさ。」
魔石を投げ込んだ瞬間、師匠との会話が頭をよぎった。
そんな思考の内にも真っすぐと魔石は、結界をガレウに喰われ無防備となったそいつへと伸びる。逆にその間に、俺は体を雷へと変えてガレウの方へ移動した。
「オイ、いいのか。よそ見してて。」
そいつは移動した俺へと視点を移した。俺が投げた魔石を無視してだ。
自分の装甲に自信があるのか知らないが、間違いなくそれは悪手であるとも。やはりただの自動プログラムだ。頭が悪い。
「『■■■■』」
言葉を言うが、ノイズが混じりよく聞こえはしない。俺が未だに、この力を使いこなせていないからだ。
だがそれでも、今だけはそれで十分だとも。
キィィィィィン、と。どこまでも響く、音、正確には雷の衝撃がそいつを襲った。
発生源は懐まで潜り込んだ、俺の魔力を混ぜ込んだ魔石だ。
回路がおかしくなったのか、動きが止まり、眼の焦点も合わなくなる。
だがこうやって動いていない間は数秒もないだろう。だから、俺は入口の方へ立つエルディナへと目線を飛ばした。
首元のアレを壊す余裕はもうない。
「エルディナッ!」
「任せなさい!」
エルディナであれば人ひとり浮かせて、運ぶことぐらい、そう大した労苦でもありはしない。
途中で動き始めても、俺達が撤退するぐらいの余裕はきっとあるはずだ。流石にこの消耗具合でこれ以上戦うには無理があるし、逃げ切れなきゃ終わりだし、そう思い込むしかないのであるが。
「――いや、ここで終わらせる。」
だがガレウは、そこで走り出した。いつの間にか拘束を解除してだ。かなりの魔力消費から俺も咄嗟には体が動かず、むしろエルディナの魔法で距離が遠のく。
間に合うか。いや、間に合うはずがない。多分次に動き始めるのは一秒もない。
止められないのかと、エルディナの方を見るが首を横に振られる。暴食で魔法の干渉を弾いているのだろう。
「……機能回復。要因の特定完了。」
「戻れ、ガレウ!」
必死に俺は叫ぶが、ガレウは止まらない。
「これが僕の覚悟だ!」
ガレウから黒い何かが漏れ出し、口を持つ黒い球体へと姿を変える。合計で三つの黒い球体の後ろから、ガレウはそいつへと接近した。
「自動迎撃再開」
放たれる魔力の弾丸を、その黒い球体で防ぎ切り、ガレウは機械人間の眼前にまで辿り着いた。
しかし狙いである物は首の後ろだ。そこから更に後ろに回り込む必要がある。
更に言うならばこの近距離で攻撃を避けるなんてほぼ不可能。ガレウが当たれば、間違いなく一発で死ぬ。
「ぁぁああああ!!!」
しかし、俺の想像していたような惨状にはならなかった。
放たれる弾丸を、その前に自分の口で食ったのだ。もしも一瞬でも遅れていたら死んでいただろう、殆どが賭けの行動だ。
だがガレウは、賭けに勝った。
「僕の、勝ちだ。」
そして背中へと回り込んだガレウは、その首元へ指先を掠らせた。
ガレウの暴食にはそれで十分だったのであろう。それを証明するようにして、機械人間は、動きを止めた。
「ガレウ!」
その場に倒れ込むガレウへと俺は駆け寄る。
「はは、流石にあの至近距離の魔力弾は喰いきれなかったみたい。」
「なんだって、あんな無茶な事を……」
「無茶はお互い様、だろう?」
言葉に詰まる。確かにそうなのだ。俺の方がいつも無茶をしている。そう言われてしまえば、俺は何も言う事ができない。
「……初めてだったんだ。僕にしかできない、なんてことを思ったのは。」
そう言って寝転がりながら、こっちに遅れて来たエルディナを見た。
「今まで、僕以外の人の方が上手くできると思ってたんだよ。だけど今、できんたんだ。仲間の役に立てたんだ。それだけでもこの痛みでも、お釣りがもらえるぐらいの価値さ。」
どこまでもガレウは優しい。いつだって他人本位で、人に譲りたがる。だけど今日は、ガレウがいつもより大きく、強く見えた。
ガレウの口元を中心に傷が広がり、血が出ている。
暴食の力に関しては俺達よりガレウの方がよく知っているはずだ。こうなる事も心の内では理解していたのだろう。
「エルディナ、治せるか?」
「治せなくはないけど、応急処置程度よ。回復魔法は詳しくないから。」
そう言うと緑色の光がガレウの傷口へ飛び、取り敢えずは少しだけ傷は塞がる。
回復魔法は他の魔法に比べて専門知識を必要とするからな。できなくともしょうがない。
「提案、私ならば処置が可能です。」
「――は?」
思わぬ所から声がかかる。ついさっき機能を停止した機械人間(ヒューマノイド)が、こちらを見て、そう話しかけてきたのだ。
つい反射的に魔法を放ちそうになるが、様子が違う事からなんとか踏みとどまる。
「予想、自動迎撃により当機がつけた傷でしょう。そう仮定するのならば当機が治すべきです。」
「……戦う気は、ないよな?」
「肯定、何らかの妨害を受けていなければ、自動迎撃の機能は基本使われません。謝罪、妨害系統の機器を取り付けられた当機の探知能力の低さが招いた結果です。」
そう言ってしゃがみ込み、ガレウの口元に手を添えると、その傷は瞬く間に消えてなくなった。
「質問、違和感は。」
「ない、ね。しっかり治ってるよ。」
ガレウは立ち上がり、その機械人間の正面に立つ。ボロボロの軍服を着た、表情が一切動かない。いや、というか元が人だったというのが信用できない。
「宣言、自己紹介を行います。確認、よろしいでしょうか?」
「大丈夫だけども……」
俺がそう返すと足を揃え、まるで軍人のように背筋を正して俺達三人をよく見る。
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