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第六章〜自分だけの道を〜

18.連合王国にて買い物を

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 ヴァルバーン連合王国は、イギリスのように複数国家が同一の国としてある国である。
 イギリスでは四つの国が集まり、一人の人間を君主としていたが、ヴァルバーンはそれと形態は異なる。三つの国がそれぞれの君主を持ち、それを同一国としているのだ。
 故にヴァルバーンには君主が三人いるが、全て同じ国の人間である事に違いない。

 その中で比較的、落ち着いていて栄えているのがガラクバーンである。
 ガラクバーンは何か特別な良い所があるわけでもないが、悪い事もない。安定していて、どこか落ち着くような国だ。
 比較的な穏やかな人がここら辺には集まるのもあり、国民性で言うならガラクバーンは世界でも頭一つ抜けている。

「まあ、その分だけ統治者の出来が良いんだろうけど。」

 穏やかな人が多いという事は、穏やかでいられるという事だ。
 街中を歩いていれば警備兵を何度も見かけるし、犯罪に対する対策が整備されているのだろう。穏やかでいられると言うのはそういう事だ。
 善人は必ず利用され、搾取される。世界はそうやって不平等にできているのだから。

「……なんか、気持ちが悪いわ。」

 そうやって呟いたのはエルディナだ。身なりが良さそうな服は庶民らしい服に着替えてもらって、髪は染料で目と同じ青に染めた。
 髪は痛むかもしれないが、最悪回復魔法やらで治してもらえばいい。

「無理言ってついてくるんだから、これくらい聞いてくれ。」
「私だってかなり大変なのよ。一応書き置きは残したけれど、確実に帰ったら怒られるでしょうし。」
「……ちなみに、どんな書き置きだ?」
「友達と遊びに行ってくるって。」
「子供かよ。」
「失敬ね。もう成人済みよ。」

 友達に会いに行く為に、他所の国に密入国する馬鹿がいるだろうか。いや、いない。
 だから俺の目の前にいるのは大馬鹿だ。馬鹿と天才が紙一重とはよく言った話である。

「無駄話してないで店を探してよ。お腹すいたんでしょ?」

 ガレウにそう言われて俺とエルディナは言い合いをやめる。
 買い物を少しして、昼飯時にもなったので店を三人で探していた。ちなみにケラケルウスはお金を少しでも集めるために魔物を狩りに行った。

「それじゃあ、あそこに行きましょうよ。美味しそうな匂いがするわ。」

 そう言ってエルディナは一つの店を指す。
 その店からは確かに肉の匂いがしていて、食欲をそそられた。こういう時にこの世界で米が主流でない事が恨めしい。
 一応この世界の食文化はかなり発展していて、当然のようにお米もある。しかしまあ、本当に残念なことに主流ではないのだ。

「だけど混んでるよ。かなり待たされそうだけど。」
「ま、いいんじゃないか。多少の順番待ちなら別にいいだろ。」

 荷物は少しあるが、まだ数は少ないから重くもない。大して暑くはないから並ぶのも苦ではないだろう。
 俺はいの一番に前に出て、店の前の数人の列の後ろについた。遅れて二人も後ろに並ぶ。

「後は防寒具を買って、それと食料を買い足すぐらいだよね。」
「まだガレウの職探しが終わってないだろ。元々俺達の来た理由はそれなんだからな。」

 七大騎士の封印を解く、なんていう依頼がついてしまったが、同時並行に進められることだ。旅の途中で良さそうな仕事を探しておいた方が良いだろう。

「そうだね。ここまでついてきてもらったのに、本来の目的を果たせなきゃ元も子もないし。」

 列の長さからして、店内に入れるのには数分かかるだろう。少し暇ができることになるが、こればかりはどうしようもない。
 適当に雑談でもしようと、話題を振ろうとしたが、それより先にエルディナが口を開く。

「そう、私二人に聞きたいことがあったの。」
「急にだな。しかも、俺とガレウにか?」
「二人にしか聞けないことがあるのよ。他の人には聞きづらいことが。」

 幼馴染のお嬢様やアースに聞いた方が楽だと思うけどな。あの二人は特に頭がいいし、明確な答えを出してくれるだろう。
 俺があの二人に勝っているのは人生経験ぐらいだし。

「ほら、私って天才じゃない。」
「自分で言うのはどうかと思うぞ。」
「アルスが言ったことよ! 私じゃないわ!」

 慌ててエルディナはそう返した。
 そう言えば、言ったことあるような気もする。実際、エルディナは魔導に関しては天才だ。そこに関しては疑う余地もない。
 しかも感覚派だから、『こう、バーッて魔力を出すの!』って言いながら高階位の魔法を使うのだから恐ろしい。

「だけど、私だって魔法の練習はするじゃない。だから、私より魔法の練習をしてない人に天才って言われても納得がいかないの。」

 エルディナは確かに天才だが、そもそも魔法の練習を毎日欠かさないぐらいには魔法が好きだ。
 祝福眼という強力な力はあるが、結局はエルディナの魔法制御力の上に成り立つものであり、使いこなすにはかなりの練習が必要だっただろう。
 だから決してエルディナは何もせずにあの力を得たわけではないのだ。

「天才ってじゃあ、何なのか。それが聞きたいのよ。」
「……なるほどな。」

 かなり哲学じみた質問だ。言いたいことも分かるけどな。
 世界で活躍しているスポーツ選手やらを調べれば、絶対と言っていいほど、その裏の努力が必ずある。成功というのは努力が伴うのが普通だからだ。
 それでもやはり、天才という言葉は消えてなくならない。
 日常的に使われる才能という言葉ではあるが、その正確な意味を考えずに使う人も実際多いとも思う。

「俺は、自分自身でいられる奴が天才だと思うぜ。」

 その解は決まったものではない。ただ、自分の中での解に迫る事はできる。
 天才は理不尽なものだと、俺は昔そう思っていたけど、今は考え方が変わった。エルディナに敗れたその日に。
 天才とは在り方である。色々な人間を見た結果、次第にそう思うようになってきたのだ。
 理不尽に勝つには、俺が理不尽になるしかない。厄災に打ち勝てるのは厄災だけだ。だからそういう意味では、俺は天才側にいるのかもしれない。

「どんな状況でも自分を損なわず、絶対に自分から外れない。それが天才だと思う。」
「……? そんなの、誰だってできるでしょ?」
「普通はできないから、お前は天才なんだよ。」

 自分を維持できない奴は、どこかで必ず妥協し、やめてしまう。そしてその後悔を包み隠すように生きていく。普通、人間はそんなもんだ。
 それが欠片もない人間こそが、俺は天才な気がする。それに、一片の悔いのない人生を送れた時点で誰が何と言おうと勝ち組に違いない。

「うーん……僕はちょっと違うな。」

 ガレウはそう切り出した。あまり自分の意見を主張する事のないガレウにとっては珍しい事だ。

「この世界って、不平等じゃないか。生まれも環境も、何が得意かも絶対に同一じゃない。そしてその中で勝者を決めれば、必ず敗者ができる。特に大会とかだとね。」

 勝者ができれば敗者ができる。それは当然のようだが、あまり認められない事だ。
 死ぬほど頑張って、同じぐらい頑張った奴がいたとして、その二人が頂点を争えば必ず片方は負ける。両方が報われる結末は待っていない。
 努力は必ず報われる、という言葉のどうしようもない欠陥となる部分だ。

「そんな不平等と理不尽を納得する為の、諦める為の言葉だと思うんだ。だって勝った側の人間が、自分が天才だったから勝ったなんて言わないでしょう?」
「まあ、そうだな。」

 天才側からすれば、できるのが当たり前で、できない方が普通じゃないように見えるのだ。
 自分より優れていない人間を人は、天才とは呼ばない。必ず自分より優れている人間を、俺達は天才と呼ぶのだ。

「だから僕は二人とも天才だと思うし、尊敬してるよ。二人には僕には絶対できない事ができるから。」
「いや――」
「準備ができたんで、店の中へ。」

 その言葉に返そうと、口を開いたところで、俺達は店内へ案内された。
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