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第六章〜自分だけの道を〜
17.宿屋にて
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「ま、俺からしたら戦力が増えるのはありがたいな。」
「でしょう?」
「ケラケルウス、頼むからこいつを調子に乗らせないでくれ。」
宿屋にて夜飯を食いながら、そう話している。
エルディナは確かに優秀だが、一度こういうのを許すとどこまでも調子に乗る。ほどほどに褒めておくのがいい。
「それじゃあ折角だ。今後の方針について話し合っておこうか。」
「明日にでも向かうか?」
「できればそうしたい。名も無き組織、って言ったか。その組織は俺を狙っていた。ならあいつ、シータの所にも来る可能性は高い。」
俺の疑問にケラケルウスはそう答えた。
ケラケルウスの処理の為に幹部が呼ばれた。なら、今回もまた、幹部と戦う可能性もある。油断はできないし、したらきっと死ぬ。
「だが流石にあの空路は使えねえ。アルスを休憩させてえし、徒歩と馬車を織り交ぜて北の方へ向かう。」
「それに、防寒着も欲しいところね。更に北に行くなら買っておくべきよ。」
「俺と……アルスは大丈夫そうだが、二人は必要か。そうだな。適当な街で買い足しとこう。」
俺は寒さとか暑さには耐性がある。いや、寒いとか暑いとかは感じるのだが、そう思うだけで済む。体には何のダメージも来ない。
変身魔法の思わぬ利点だな。ずば抜けて強いわけじゃないが、地味に便利な魔法だ。
「アルスに必要ないって、よく分かったね。」
「ガレウ、歴史の授業で習わなかったのか。俺は邪神戦争で前線張ってたんだぞ。アルスの魔法は元々、悪魔の十八番だったんだ。」
「あ、そうか。変身魔法って別に希少属性ってわけじゃないもんね。」
邪神戦争において、邪神はたった一柱で世界と戦ったわけじゃない。いや、戦えたぐらい強かったらしいけど。
部下がいて、それが悪魔だった。
最高位の悪魔達を引き連れ、この世界を滅ぼそうとしたってのが邪神戦争の大筋でもある。
「それはいいんだよ、それは。要は数日ぐらい準備をしながら、北に向かうってだけだ。」
「それじゃあ明日は買い物で、明後日辺りに出発が妥当か。」
「そうだな。ガレウとエルディナも、それで大丈夫そうか?」
ケラケルウスの問いかけに二人は頷く。
「おし、じゃあそういう方針でいくか。」
「私、折角だから街を見て歩きたいわ。ヴァルバーンに来れるなんて滅多にないもの。」
「お前はその前に変装の用意だよ。」
「別に隠さなくたってバレないわよ。私の顔を知っている奴なんていないわ。」
「念には念をだ。声大きいし目立つから。」
エルディナは一応貴族だから作法がやけに綺麗だ。
平民はこんなに綺麗に飯は食わないし、そんなに綺麗に歩かない。せめて髪色だけでも変えておきたい。
「……ちょっとトイレ行ってくる。」
「ちょっと、話の腰を折らないでよ。というか、そっちは宿屋の外よ。」
「宿屋の外のトイレに行くんだ。」
エルディナの静止を振り切り、俺は一度宿屋から出る。
辺り一帯は暗く染まり、人影は見えない。だが一人だけ、宿屋の前に立っている男がいた。
平均的な背丈の、黒い髪と左右で違う目をしている男。いわゆるオッドアイと呼ばれるものだ。
左目は緑で、右目は黒。どこかその特徴に見覚えがあるような気もするが、ギリギリ引っかからず、記憶から引き出すことができない。
顔立ちも特徴的ではなく、くたびれたような、そんな顔しているぐらいだ。
「おやおや、歓談はいいのかい」
それは違いなく、ガレウがグラデリメロス神父に襲われた日。ガレウが襲われると俺に伝えた男だ。
「明らかに怪しい奴を見つければ、気持ちよく話もできないっての。」
「怪しい奴か」「どこにいるんだい?」
「お前だよ、しらばっくれんな。」
「俺はちゃんとアドバイスしたじゃないか」「信用できないかい」
できるわけがない。そもそも何故、そんな事を知っていたのかという疑問が付きまとう。
こいつは何一つ信用できない。いや、してはいけない。例え、こいつの言う事が全て本当だったとしても。俺はこいつを信用してはいけない。
「名も無き組織の人間か、お前は。」
「違うね」「俺はただ、自分のやりたいように行動しているだけさ」
「何故俺に関わろうとする。」
「深い理由はないとも」「俺は優しいから、つい助けたくなっただけだ」
自分で自分のことを優しいなんて言う奴が、優しいわけがない。それは万国共通だ。
「俺だって君とはこんなに関わるつもりはなかった」「こんな風に登場していたら、いつかインパクトが弱くなっちまう」
やれやれと言うように首を振る。
「だから君の前に姿を現すことは当分ないさ」「次会うときは、三つぐらい先かな」
「俺は二度と会いたくないけどな。」
「おいおい、つれないこと言うなよ」「俺は君と会いたくてしょうがないのに」
明らかに胡散臭いし、警戒しなくてはならない相手。だが、俺はこいつを警戒できなかった。だから、こいつは信用できない。
魔力も、闘気も欠片も感じない。強者特有の雰囲気もありはしない。
戦ったら俺が勝つという俺の本能が、こいつから警戒を解いてしまう。警戒ができないというのは、それだけで恐ろしい。
「ま、俺もまだ準備不足さ」「君に並べるように、しっかり場を整えるとも」
男は俺に背を向ける。追いはしない。相手に戦う気がないのに、わざわざ刺激させたくない。
「最後に一つだけ聞かせろ。」
だけど、一つだけ尋ねる。俺はここで、それを聞かなければならない気がした。
「名前は何だ?」
「――なるほど」「呼び名がないと確かに困るか」
男は足を止め、少し悩んだ果てに振り返った。
「パンドラ、パンドラ・エメラルド」「それが俺の名前だ」
そう言ってその場を男、パンドラは去っていく。
名前だけは、記憶しておこう。その名を呼ぶ時がきっと来る。近くはないが、遠くない未来で。
「……戻るか。」
俺は一度、意識を切り替えて宿屋へと戻っていった。
「でしょう?」
「ケラケルウス、頼むからこいつを調子に乗らせないでくれ。」
宿屋にて夜飯を食いながら、そう話している。
エルディナは確かに優秀だが、一度こういうのを許すとどこまでも調子に乗る。ほどほどに褒めておくのがいい。
「それじゃあ折角だ。今後の方針について話し合っておこうか。」
「明日にでも向かうか?」
「できればそうしたい。名も無き組織、って言ったか。その組織は俺を狙っていた。ならあいつ、シータの所にも来る可能性は高い。」
俺の疑問にケラケルウスはそう答えた。
ケラケルウスの処理の為に幹部が呼ばれた。なら、今回もまた、幹部と戦う可能性もある。油断はできないし、したらきっと死ぬ。
「だが流石にあの空路は使えねえ。アルスを休憩させてえし、徒歩と馬車を織り交ぜて北の方へ向かう。」
「それに、防寒着も欲しいところね。更に北に行くなら買っておくべきよ。」
「俺と……アルスは大丈夫そうだが、二人は必要か。そうだな。適当な街で買い足しとこう。」
俺は寒さとか暑さには耐性がある。いや、寒いとか暑いとかは感じるのだが、そう思うだけで済む。体には何のダメージも来ない。
変身魔法の思わぬ利点だな。ずば抜けて強いわけじゃないが、地味に便利な魔法だ。
「アルスに必要ないって、よく分かったね。」
「ガレウ、歴史の授業で習わなかったのか。俺は邪神戦争で前線張ってたんだぞ。アルスの魔法は元々、悪魔の十八番だったんだ。」
「あ、そうか。変身魔法って別に希少属性ってわけじゃないもんね。」
邪神戦争において、邪神はたった一柱で世界と戦ったわけじゃない。いや、戦えたぐらい強かったらしいけど。
部下がいて、それが悪魔だった。
最高位の悪魔達を引き連れ、この世界を滅ぼそうとしたってのが邪神戦争の大筋でもある。
「それはいいんだよ、それは。要は数日ぐらい準備をしながら、北に向かうってだけだ。」
「それじゃあ明日は買い物で、明後日辺りに出発が妥当か。」
「そうだな。ガレウとエルディナも、それで大丈夫そうか?」
ケラケルウスの問いかけに二人は頷く。
「おし、じゃあそういう方針でいくか。」
「私、折角だから街を見て歩きたいわ。ヴァルバーンに来れるなんて滅多にないもの。」
「お前はその前に変装の用意だよ。」
「別に隠さなくたってバレないわよ。私の顔を知っている奴なんていないわ。」
「念には念をだ。声大きいし目立つから。」
エルディナは一応貴族だから作法がやけに綺麗だ。
平民はこんなに綺麗に飯は食わないし、そんなに綺麗に歩かない。せめて髪色だけでも変えておきたい。
「……ちょっとトイレ行ってくる。」
「ちょっと、話の腰を折らないでよ。というか、そっちは宿屋の外よ。」
「宿屋の外のトイレに行くんだ。」
エルディナの静止を振り切り、俺は一度宿屋から出る。
辺り一帯は暗く染まり、人影は見えない。だが一人だけ、宿屋の前に立っている男がいた。
平均的な背丈の、黒い髪と左右で違う目をしている男。いわゆるオッドアイと呼ばれるものだ。
左目は緑で、右目は黒。どこかその特徴に見覚えがあるような気もするが、ギリギリ引っかからず、記憶から引き出すことができない。
顔立ちも特徴的ではなく、くたびれたような、そんな顔しているぐらいだ。
「おやおや、歓談はいいのかい」
それは違いなく、ガレウがグラデリメロス神父に襲われた日。ガレウが襲われると俺に伝えた男だ。
「明らかに怪しい奴を見つければ、気持ちよく話もできないっての。」
「怪しい奴か」「どこにいるんだい?」
「お前だよ、しらばっくれんな。」
「俺はちゃんとアドバイスしたじゃないか」「信用できないかい」
できるわけがない。そもそも何故、そんな事を知っていたのかという疑問が付きまとう。
こいつは何一つ信用できない。いや、してはいけない。例え、こいつの言う事が全て本当だったとしても。俺はこいつを信用してはいけない。
「名も無き組織の人間か、お前は。」
「違うね」「俺はただ、自分のやりたいように行動しているだけさ」
「何故俺に関わろうとする。」
「深い理由はないとも」「俺は優しいから、つい助けたくなっただけだ」
自分で自分のことを優しいなんて言う奴が、優しいわけがない。それは万国共通だ。
「俺だって君とはこんなに関わるつもりはなかった」「こんな風に登場していたら、いつかインパクトが弱くなっちまう」
やれやれと言うように首を振る。
「だから君の前に姿を現すことは当分ないさ」「次会うときは、三つぐらい先かな」
「俺は二度と会いたくないけどな。」
「おいおい、つれないこと言うなよ」「俺は君と会いたくてしょうがないのに」
明らかに胡散臭いし、警戒しなくてはならない相手。だが、俺はこいつを警戒できなかった。だから、こいつは信用できない。
魔力も、闘気も欠片も感じない。強者特有の雰囲気もありはしない。
戦ったら俺が勝つという俺の本能が、こいつから警戒を解いてしまう。警戒ができないというのは、それだけで恐ろしい。
「ま、俺もまだ準備不足さ」「君に並べるように、しっかり場を整えるとも」
男は俺に背を向ける。追いはしない。相手に戦う気がないのに、わざわざ刺激させたくない。
「最後に一つだけ聞かせろ。」
だけど、一つだけ尋ねる。俺はここで、それを聞かなければならない気がした。
「名前は何だ?」
「――なるほど」「呼び名がないと確かに困るか」
男は足を止め、少し悩んだ果てに振り返った。
「パンドラ、パンドラ・エメラルド」「それが俺の名前だ」
そう言ってその場を男、パンドラは去っていく。
名前だけは、記憶しておこう。その名を呼ぶ時がきっと来る。近くはないが、遠くない未来で。
「……戻るか。」
俺は一度、意識を切り替えて宿屋へと戻っていった。
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