幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第六章〜自分だけの道を〜

15.空の旅

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 太陽は真上に上り、日差しが肌に刺さるが暑くはない。ここが土地的に北の方であるから寒いというのもあり、服が一枚は寒いぐらいだ。
 既に先生とエルディナは帰りの船に乗っている頃であろうか。
 そう思いつつも、別荘の前で二人揃って立って待っていた。無論ケラケルウスを、である。

「エルディナ、やけにずっと静かだったけど、相当にショックだったのかな。」
「ハブられると機嫌悪くなるのはいつもの事だろ。」
「それでも、いつもはもっと何か言ってきてたと思うんだけどなあ。」

 だがまあ、そこは成長したのだと考えるべきだろう。大きな外交問題になる可能性もあるし、エルディナはアレでも頭はいい。
 自分の感情を優先させるから、理性で抑えきれてないけど。

 そうこう話している内に、遠目で一人の男が歩いて来るのが見えた。背丈からしても、ケラケルウスに違いないだろう。
 右手には布袋を持ち、あの真っ白な斧を持っている様子はない。
 あの斧は神が作り出した、いわゆる神器と呼ばれるものらしい。俺の無銘の魔法書と同じで、いつでも呼び出せるのだろう。

「おし、二人ともいるな。」
「いないと思ってたのかよ。」
「昨日あんな事があったんだから、今日も何かあるかもしれないだろ。」

 否定できないのが悲しい所だ。呪われていると思うほどに、やたらと厄介な事に出くわす。
 命のやり取りなんて好きでも何でもないし、せめて敵が俺より弱い奴ばっかりだったら良いのだが、俺はまだ弱いしな。

「それじゃあ、早速ヴァルバーンへと向かうか。」
「そういやどうやって行くのか聞いてなかったけど、どうやって行くつもりなんだ?」
「陸路で行くつもりだな。リクラブリア王国を通過して向かうのが、安くて済む。」
「……そういや、金がないんだっけか。」

 どうも締まらないな。あんなに強くて、格好良い古代の騎士が、金無しって言うのが滑稽に思えてならない。

「だけど、ケラケルウスぐらい強いんだったら、冒険者として稼げるんじゃないの?」

 ガレウがそう質問すると、ケラケルウスは言い淀み、渋い顔をする。

「ああ……そうだな。いや、まあ、そりゃ多少はそれで金を稼ぐんだがな。ちょっと治安が悪い所に調査に行くと、何故か金がなくなっちまって……」
「盗られてんのかよ、騎士が。」
「騎士なのかは関係ねえだろう!? それに俺の生きてた時代より、スリの技術が巧妙になってやがったんだよ。」

 俺は一応、金がないわけではないが、どちらにせよ陸路以外だったら転移門ぐらいしかない。順番待ちの時間を加味すれば、却ってあちらの方が遅くなるだろう。
 普通だったのなら、俺は陸路でも問題はない。
 だが今の俺には、わざわざ陸路を使う必要がない『とっておき』があった。

「時間的にも早そうだし、陸路でいいんじゃない?」
「いや、いい手段があるぜ、ガレウ。」

 この世界において空路というのは好まれない。そんなにコストがかかるのなら、もうそれは転移門で良いからだ。
 だが逆説的に言うのであれば、コストが転移門よりかからないのなら、空路だって使いようがある。

「歩きながら説明する。取り敢えずは列車で国境の関所まで行こうぜ。」





 空を切り、一つの巨大な鳥のようなものが空を飛ぶ。翼は動かず、揚力を得る為のパーツに過ぎない。風の魔法を纏いながら、それは飛ぶ。
 それが何かと、そう問われるのなら一つ都合の良い答えがある。出来損ないの飛行機だ。

「すげえな、こんな事ができんのかよ。」

 俺の体は飛行機っぽいものとなり、その上にケラケルウスとガレウを乗せている。風魔法で来る風は避けてるし、酸素も回してるから安心安全だ。
 その代わり俺の集中力を物凄く使うが、師匠の修行に比べれば大した事ではない。

「不法滞在になるから関所は通らなくちゃならないけど、それを含めても滅茶苦茶速いね。」
「欠点は空の魔物とたまに出会すのと、アルスが喋れないぐらいだな。」

 前者はケラケルウスが何とかするし、後者はメリットに比べれば大した問題ではない。
 この世界において領空という概念がなくて助かった。それに雲の上を通ってるから天候に左右されないのも大きい。
 流石にずっとは飛んでいられないから、幾度かは降りるけども。

「あ、そうだ。これから会いに行く七大騎士ってどんな人なの?」

 それは俺も気になる。邪神との大戦争の時にオルゼイ帝国は滅び、その時の七大騎士、つまり最後の七大騎士となれば歴史的にも価値のある情報だ。
 ぶっちゃけて言って、こんな雑談みたいな感じで聞くほど軽い話ではないけども。

「そうだな。特にガレウとは昨日あったばっかりだもんな。色々と説明もしなくちゃなんねえ。」
「学園で七大騎士は習ったから、ちょっとは分かるけどね。」
「だけどどうせ、大将の事しかあんまり伝わってねえんだろ。」
「大将?」
「七大騎士筆頭、シンヤ・カンザキのことだよ。」

 そういや歴史の偉人にそんなんいたな。明らかに日本出身だと思うし、異世界転移者であろう。
 詰め込みも詰め込みで覚えたし、必要のない知識は片っ端から忘れていくから、細かい経歴やらは全く覚えてないけど。

「うーん、どうだろう。少なくとも教科書には功績ぐらいしか書いてなかったし、あんまり詳しく書いてなかったかも。」
「……まあ、もう滅びた国だからな。しょうがないか。」

 一瞬落胆した様子を見せたが、直ぐに明るさを取り戻し、さっきと同じように話し始めた。

「それで、確かこれから会いにいく奴の事だな。第四騎士団団長をやってたシータっていう女だ。帝国が開発した機械人間ヒューマノイドの最高傑作だよ。」
「今でも珍しいけどいるね。色々怖い噂を聞くから試す人は少ない印象があったけど。」
「俺の時代でもそんな感じだ。事実、そういう研究はオルゼイ以外はやってなかったからな。」

 魔導機械に関しては詳しくないから、俺には分からない領域が多い。確かゴーレムとかが魔導機械科に属すると聞いたことはある。

「俺達七大騎士の中でも、特に万能性に長けてた。状況に応じて最適な武装を取り出し、発動する。充電に時間がかかるってのを除けば最強に近かった。」
「魔力炉心を体内に搭載してあるから、魔力切れは少ないんじゃないの?」
「それに関しては、シータが消費する魔力量がえげつないのと、魔力炉心の技術は今ほど発達してなかったんだよ。」

 魔力を生み出すのは心臓だと、そう考えられている。なら体を機械に置き換えてしまったら、魔力が抜け出てそのまま死んでしまう。
 それを解決したのが魔力炉心だ。心臓が魔力を生み出すのを再現した、名前の通りの炉心だ。
 機械人間ヒューマノイドはこれが必須であるし、魔力炉心が高いのもあって、機械人間ヒューマノイドはあまり見かけないのかもしれない。

「あいつが他の七大騎士の居場所を全て知っている。だから、俺のこの長い旅も、シータを見つければ終わり。後は七大騎士総がかりで名も無き組織を潰せば終わりってわけだ。」
「へえ、上手くいくといいね。」
「なんとかするとも。今は亡き皇帝陛下の最後の命令だからな。」

 そうやって意味深な言葉をケラケルウスが零すが、俺は喋れないので追及できず、そのまま話は移り変わっていった。
 まだヴァルバーンは遠い。
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